次に目が覚めた時、オレはまた見覚えのない
なにかの台に寝かせられていることに気付いて上体を起こす。
ふと手元を見ると、両腕に白く光るリングが嵌められていることに気づいた。触れてみても外れる様子は無いが、オレを害するプログラムでは無いようだ。
【目が覚めたようだね】
「──!──……!」
ここはどこなのかと周囲を見回していると、突然目の前に通信ウインドウが開いた。
急に現れたそれとそこから聞こえる知らない声に驚き後退る。
大して広くない台の上で後ろに下がれば、当然つこうとした手は空振り。そのまま身体ごと台からずり落ち、床パネルへ後頭部を強かに打ち付けた。
【だ、大丈夫かい……?】
ぶつけたところを両手で押さえ痛みに悶えていると、同じ声がこちらへと問いかけてくる。
そろりと視線をあげれば、通信ウインドウにはこちらを伺うように視線を向ける眼鏡の男性研究員、といった風貌の人間が映っていた。
小さく頷いて答えれば、よかったと息を吐く姿。……始めてみる顔だ。人物的にも、表情の種類的にも。
ぼんやりとその顔を見上げていると、彼はああ、と声を上げてこちらへの説明を始めた。
【ここはニホン科学省。勝手ながらきみを保護して、色々と調べさせてもらったよ。……きみはあの研究所で造られた、コピーナビで間違いないね?】
……あの研究所、というのは、オレがいた
科学省、とは。オレの限られたデータベースでは「ニホンのネットワーク技術の最前線に立つ機関」としか分からない。そんな場所が、なぜオレなんかを保護したのだろうか。
【……きみには、あの研究所で何が行われていたのか、その説明をしてもらいたいんだ。頼めるかな】
そう言って送られてくるのはテキスト表示プログラム。これで筆談をしろ、ということか。
おそるおそる触れてみればウインドウが開かれる。入力は思考変換式のようだ。これなら言語プログラムが未熟でも最低限は伝わるだろう。
再びこくりと頷いて、オレは台へとよじ登る。
【ありがとう。それじゃあ早速……あ、少し待ってくれ。きみのことを知りたがっている者が今そちらへ向かうから】
その言葉と共に、電脳へ転送されてくるネットナビたち。
……その中に自身のオリジナルの姿を認めて、オレはまた台からぶち落ちたのだった。
[オレたちの作られた理由は、“最強のナビを越える”ため]
ポン、とウインドウに文字が現れる。
発声機能を持たないコピーナビは、テキストという形で語り始めた。
「最強って……フォルテのこと?」
[そこまではわからない。だが、そのために製作者が“強いナビ”のデータを集めたのは間違いない。
最初はその“強さ”を継ぎ接ぎして作ろうとしていた。だが、それで作られたのはただの
ただ繋ぐだけでは“強さ”をうまく継ぎ合わせられなかった。]
キメラ、と聞いて脳裏によぎるのは、つい先日見た光景。
あの研究所の制圧に向かった彼らは、そのなれの果て達を目撃していた。
ありえない場所に繋げられた手足、歪に融合した顔、あるべき場所にないパーツたち……
まるで倫理観の無い所業を思い出し、彼らの顔が僅かに曇った。
[どうすればうまく繋がるか。考えて、思いついたのは]
一瞬、テキストが途切れる。ぐ、と僅かに眉根を寄せて、続きが打ち込まれていく。
[足りない技術を、オカルトで補うこと。それが“蠱毒”だった。]
『蠱毒って?』
[古い“まじない”の一種らしい。毒を持った生き物をひとつの入れ物に詰めて、喰らい合わせる。そのうちに最後の一匹が、とても強い毒を持つようになるとか。]
「……まさか」
[オレたちは、そのために作られた。様々な“強さ”を持つコピーを戦わせて、データを喰らい合わせる。最後のひとりになるまで。
そうすればそれは、“すべての強いナビデータ”を持つものになるはずだから。]
……ただそれだけのため。“強者”の素材とする為だけに、犯罪行為を犯してまでデータを集め、人形を生み出しては殺し合わせる。
それが正しい結果を生み出すと信じて、彼の製作者はこの狂気的な“作り方”を繰り返していたのか。
「……馬鹿げている」
[でも製作者は、それを信じた。
一度目は、コピーに自我を持たせたから戦うことを拒否して、すべて処分された。それ以降は、自我を持たせず戦うことだけを目的とさせた。
二度目は、誰も残らず全滅した。
そしてオレは三度目。
結果は、見ての通り。]
「二度目以降は自我を持たせなかったと言うが、ならば何故お前はそれを持っている?」
[それはわからない。気づいたらオレがあったから]
コピーナビの視線がふらりと泳ぐ。
何かを誤魔化そうとしていると言うよりは、本当に分からずなんと言えばいいのかを探しているようなそれ。
【おそらくは、彼の身体を構成するバグが何かしらの相互干渉を起こして疑似人格プログラムのようなものが形成されたと推測されるけれど……非常に稀な現象と言えるだろうね】
「そ、そんなに……」
「それで、サーチマン……えっと、コピーの方の」
[違う。]
「え?」
[オレはサーチマンじゃない。その名はオリジナルのものだから、オレなんかをそう呼ばないでほしい。]
「……ならば、なんと呼べばいい。識別名は必要だろう」
……数拍、間が開く。
[製作者は、オレたちを“
データを詰め込む、空の入れ物だと。だから“ホロウ”でいい。]
「……そうか」
「それじゃあ、ホロウ。キミは、これからどうするの?」
唐突に問われ、ことりと首を傾げる。
どうする、とは、どういうことだろうか。
【……現状、色々と複雑な状況ではあるかな。今回のような案件だと、定型プログラムのように“個”を持たないものであれば基本は
……一個人のナビであればまだしも、サーチマンは軍に所属するもの。その所有権はシャーロ軍にある。
構築データこそギリギリ機密に触れる範囲を外してはいたが、その外見は看過できないということか。
【……一応、軍の方からこいつの処分はオレたちへ一任すると指示を受けている。……サーチマン、お前の意見を聞かせろ】
一気に集まる視線。それを受け流しながら、サーチマンは
──我々の姿を写したコピーナビの存在を知った時、最初に感じたのは“怒り”だった。
──そのコピーナビと対峙し、ただ人形のように武器を振るうそれらへ抱いたのは“気味の悪さ”。
──戦場で彼を見つけた時にはこんなコピーもいるのかと“驚き”を覚えた。
──そして、その彼が語ったコピーナビの在り方は“憐れ”だと思った。
……それらを総合し、今、自身が彼に対し抱く感情は。
「私はライカ様の指示に従います。……ですが、ただ……私自身の意思としては、彼を……庇護すべきもの、と認識しています」
ぼんやりと焦点の合わない瞳がぱちり、と瞬いた。
意外な発言に僅かにざわつく中、彼のオペレーターはそうか、とだけ答え、電脳内への通信が切られる。
……どうやら、
「……それじゃあ、彼の譲渡処理について話をしようか」
「はい……失礼、通信が。……ライカだ、どうした。………何? …………そうか……わかった」
「何かあったのかな」
「……お恥ずかしながら、少々軍で問題が起きたようで。……彼の姿が利用されかねない状況ゆえ、引き取りが難しくなりました」
「うぅん……早速問題が発生しそうに……となると、どうしたものかな……」
「……オフィシャルも、その姿の引き取りは厳しいかと」
「となると……最終的には
「お願いします。扱いに関しては後日改めて……オレは少々帰国を急ぐ必要が出てきたので」
現状でわざわざ音声つける意味あるかぁ?となったのでテキスト説明に変更。
多分この後正式に保護になったあとでつけてもらったやつです。