話をしよう。どこかの宇宙、超獣クリーチャーが居る世界を。謎の爆発と文明による戦争から始まったその物語は今なお続き、彼らの魂はデュエル・マスターズのカードに宿っている。
そしてその戦いの歴史を見守る世界がある。観測世界。今回は時を経て、新たな敵と戦う彼らの話を語るとしよう。
「はぁ〜、終わらないなぁ……」
パソコンのキーボードを叩きながら、ため息を漏らす迷彩服の男。観測所『クリスタル・メモリーズ』の最高責任者であるバルトは疲れ切っていた。
「お疲れ様です、バルト所長。コーヒー入りましたよ」
「……おつかれアリスくん」
コーヒーカップを手に持ち所長室へと入ってくる青髪の女性。彼女の名はアリス。エピソード3の世界から観測世界が呼び出したアウトレイジのクリーチャーである。
「今日も歴史修正の事後処理ですか?」
「ああ、お陰様で息付く暇もないよ。なんたって厄介な敵のせいでかなり増えたからね……」
「まぁ、大体のディスペクター達はあの少年とキングマスターが相手をしてくれたんだけどね……。大変なのはそこからなんだよね……」
ディスペクターの騒動は決着はついたものの、切り取られた歴史によって乱された事項を幾度となく修正した為、バルトはその事後処理に追われていたのだった。
「暴走超獣を生み出しているあのフードの男とはまた違うみたいだし、悩みの種は尽きないよ……」
バルトは連日の疲れからか珍しく愚痴をこぼす。そして傍にあるコーヒーへと手をつけようとした時、けたたましい警報音が鳴り響いた。
それを聞いた2人はすぐさまモニタールームへと急ぐ。
「みんなご苦労!状況を教えて欲しい!」
観測室に入るや否や、息を切らしたバルトはすぐさま状況の把握に努める。
「そ、それが観測世界のシステムがハッキングを受けている模様!次々と……ファイアーウォールを突破していきます!」
「何だって!?」
観測世界を守っているセキュリティシステムが攻撃を受けていると聞き、驚くバルト。
観測世界は特性上、見つける事が困難な超獣世界である。その為、この世界が攻撃を受けている事実が、今まで以上に緊急事態である事を表していた。
「私も加勢するわ!!」
ハッキングへと対処する職員を見て、アリスも加勢する事を決める。アリスやオペレーター達はキーボードやパネルを操作し、必死にハッキングへと対抗する。
「だ、ダメです......!システムのハッキングが速すぎる!」
「セキュリティシステム……突破されます!」
しかし、彼女達の健闘も虚しく、セキュリティシステムを突破されてしまう。全ての超獣世界を監視しているモニターが砂嵐に包まれ、その機能を停止してしまう。
「まさか突破されるなんて……」
落胆するアリス。その時、彼女は繋がっていないはずのモニターから僅かではあるが音が出ている事に気づく。
(このモニター、どこかと繋がってる……?)
「キャハハハ!やぁっと見つけた〜!」
砂嵐で覆われた画面から一転。人を嘲る様に笑う声と共に映し出されたのは深紅の瞳を持つ、金髪の少女だった。
「あっ、そっちから見えてる〜?アタシの名前はセツデン。いきなりだけどぉ、観測世界のエラい人とお話したいなぁ〜」
「アンタ、いきなり何をッ……」
突如現れた少女の態度に噛み付こうとするアリスだったが、それをバルトが制止する。そして彼は金髪の少女が映るモニターの前に立つ。
「観測所の所長、バルトだ。単刀直入に聞くが、君がここを狙った目的が知りたいね」
「目的ィ?うーん、簡単に言ったら宣戦布告ってやつ〜?このアタシが超獣世界…いやデュエル・マスターズの歴史そのものを消しちゃおうってね!」
セツデンが放つ言葉にバルトやアリスだけでなく、観測所のオペレーター達も驚く。
「そんな事が出来る訳……!!」
「出来るから言ったんだよ。この新しいディスペクターの
冷ややかに呟く少女は背後に佇む一つの球体を観測所の職員達に見せる。
そこには数体のクリーチャーが混ざり合い、ひしめき合っているおぞましい光景があった。
「そんなっ…!?」
「……ディスペクターは最後の1体を残して全て居なくなったはずだが?」
驚くアリス。一方でバルトは動揺を隠しながら、敵の情報を聞き出そうとする。
「そんなのアタシが
「……ッ!?」
アリスとバルトはディスペクター達と戦った事を思い出す。かつて超獣世界の歴史で世界の再創造を目論んでいたクリーチャー《龍魂珠》《アントマ・タン・ゲンド》。デュエル・マスター候補達の歴史から分岐した世界に現れたジェンドル。
両者はそれぞれの世界でディスペクターを生み出していた。
彼女もそれに近しい存在だと言うのだろうか。
「……おっと、来たみたいね!あらゆる暴走超獣と闘ってきたキミたちの英雄が!」
セツデンの言葉で思考に入り浸っていたアリスとバルトは背後の存在に気付く。
彼らが振り向いた先に彼は居た。
この世界に来た時から変わることのない風貌。そして、暴走超獣への怒りと優しさを秘め、今なお超獣世界を守るために戦い続ける少年・シン。
彼はセツデンの前に立ち塞がる。
「……話は聞かせてもらったぞ、セツデン」
『デュエル・マスターズの歴史を消す。』
セツデンの宣戦布告を聞いたシンはその時から底知れぬ怒りを見せていた。その瞬間から彼にとって金髪の少女は倒すべき存在へと変わっている。
一方で、少年の表情を目の前で見ているセツデンは依然として態度を崩さずにいる。
「キャハハハ!シンくんってばいきなりこわ〜い!なら、アタシを止めてみる〜?」
「ああ、元からそのつもりだ」
「だったらぁ……。
「……叩き潰してあげるから」
セツデンは突如、今までと打って変わって冷ややかな表情で宣言する。そして、モニターは再度砂嵐に包まれた。
「……所長、至急転移プログラムを構築してくれ」
「まさかとは思うが、シン……」
「ああ。奴を止める」
「無茶よ、シン!
シンがセツデンの元へ向かおうとするのを必死に止めるアリス。しかし、彼はアリスの制止に応じることなく、既に準備を始めていた。
「なら、アリス…お前はデュエル・マスターズそのものを消すといわれて見過ごせるのか」
「そんなの見過ごせる訳ないわよ……。ただ、今回に関してはあまりにも相手の情報が少なすぎるの。闇雲に動くのは得策じゃないわ」
「だが、デュエル・マスターズの歴史を消すといった奴の眼と意思は本物だ。少なくとも俺にはそう見えた」
「それに画面に映った
シンが決意を語る度にその表情は固くなってゆく。
そんな彼の肩にバルトは右手をそっと乗せた。
「アリス君、シンを信じよう。」
「ですがっ……!」
「君の言った通り、セツデンに関する情報は限りなく少ない。だけどね……こんな状況だから彼女と王の感情を読み取る事が出来たシンだけが頼りなんだ」
この世界のデュエル・マスターとして数々の暴走超獣の記憶とそこにある感情を見続けていたシン。そんな彼だからこそ、セツデン達の秘めた感情を捉えることが出来たのだろう。
「何より『セツデンを止めたい』という彼の気持ちを無下にはできない。ならば、サポートするのが我々の仕事じゃないかな」
「……!!」
バルトの言葉がアリスの心を動かす。
「だけど、シン。セツデンの所へ行くと言ったけど、向かう場所は分かっているのかい?」
バルトに問いかけにシンは静かに頷く。
「全てが始まったあの夜。フィオナの森に奴はいる」
「了解した。しかし、問題となるのはプログラムの方か……」
バルトは重苦しい表情で観測室の機材へと目を向ける。先程のハッキングでモニターだけでなく周辺機材も被害を受け、まともに動かせるとは言い難い有り様だった。
「……任せて。予備の機材ですぐに転移プログラムを構築してあげるから」
「俺も手伝います!」 「わたしも!」
先程のバルトの言葉でアリスもシンを支えるという決意を固めた。そして、アリスの元に集まったオペレーター達は、彼女の指示で動き始める。集まった人員は予備機材の立ち上げからプログラムの構築までを分担して行っていた。本来ならば数分で組み上がる転移プログラムだが、数倍の時間を要していた。
そして、作業から数時間後。アリスの顔に僅かながら喜びが見える。
「……出来たわ。転移プログラムの構築完了よ」
「アリス、早速起動してくれ」
「分かったわ」
彼を支える決意をしたアリスはプログラムを起動させてゆく。
「デッキ
空間が歪み、シンと共に数々の暴走超獣と戦ってきた相棒とも言えるデッキが出現する。そして彼はそれをデッキケースへとセットした。
「シン、絶対帰ってきてよね」
「ああ。必ず戻ってくるさ」
今までの闘いにおいても幾度と無く交わした約束。今回もソレを守って見せるとシンは誓った。
「転移……開始─!」
転移プログラムの粒子に包まれ、消えるシン。
少年は再び、戦場へと赴く─。
「懐かしいなぁ、基本セット」
セツデンが舞い降りたのは超獣世界での闘い。そして現実におけるデュエル・マスターズにおいても全てが始まった世界。
「ねぇ、あの子……。来ると思うかな」
夜空に輝くオーロラを青い眼で見ながら、彼女は未だ球体の状態にある王へと話しかける。
蠢く鼓動はまるで彼女の言葉を肯定しているかのようだった。
「絶対くるよね。だってデュエル・マスターズはあの子にとって大切なモノ。そして……」
「アタシにとって邪魔なモノなんだから」
世界の中心の大爆発まで残り3時間───。