トライガンゲイル・オンライン   作:ばうむくうへん

11 / 31
bullet 11 The man who calls a storm (前編)

日の光がろくに届かぬ暗闇で小さな火花が数回散る。オイルの切れかけたライターを点けようとドラムにかかる親指に力を込めるが中々着火しない。そのイラつきを発憤させようと男はグループ内のメンバーに呼びかけた。

 

「おい、本当にいるんだよなぁ!?」

「間違いない、俺は昨日落ちる前に確かに見たんだ。」

「ここに『ヤツ』がいるのか・・・。」

 

ここはGGO内のとある洞窟内。一般的なダンジョンと違い、道は舗装されておらず当然照明具なども設置されていない。入り口も複数個所あり、さらに迷宮のように入り組んだ構造となっており視界の悪さも相まってプレイヤーの間では『地獄洞』と呼ばれていた。

 

そんな危険地帯に6名のグループが身を潜めていた。事の発端はその内の1人のメンバーが昨日この周辺のフィールドエリアを散策している最中に偶然発見した獲物がこの洞窟内に入っていくのを見たと言う。GGO内のフィールドモンスターはその場に留まっているわけではない。プレイヤーと同じく標的を目視すると襲いかかってくるものや一目散に逃げ出す個体もいる。レアなモンスターほどその出現率や遭遇率は極端に低く、また強力でありその姿を捉えただけでも情報共有の掲示板の話題の的になるほどであった。彼らが地獄洞にわざわざ立ち入ったのにはつまりはそういう理由があった。

 

「もし本当に『ヤツ』がいれば俺たちで独占じゃねぇか?」

「ああ、まだ掲示板にも目撃の情報は入ってねぇ。」

 

暗闇の中でうっすらと青白く灯るパネル。そこで自分たち以外にここを訪れている者達がいないことに男たちはパネルの発光により辛うじて確認できたお互いの顔を見合わせると静かに笑みを浮かべる。しかし先程から聞こえるドラムを回す音に不快感を示す。

 

「もうやめとけって。オイル切れてんだよそれ。」

「こんな暗闇じゃ・・!吹かす以外に・・!やることねーだろーがよ!」

 

言葉が切れる度に親指を擦らせながらメンバーの1人は悪戦苦闘していたが、ふいに灯った火にようやくの一服をつけることに成功した。満足そうに煙を上空に走らせ首を下ろすと視線の先ではカチカチと何かがぶつかりあう音が聞こえた。その音が何なのか周りにいるであろうメンバーに声を掛ける。

 

「なぁ、なんかカチカチ音がしねぇ?」

「お・・お前・・!お前の後ろ・・!」

 

その返答で男は音の正体を理解する。それは歯と歯がぶつかり合う音。同時にそれが何を意味するのかも瞬時に理解した。煙草をくわえたまま振り返った男の背後にいたのは二つの大きな光、もとい巨大な目玉であった。

 

日の光も通さぬ暗黒の世界で恐怖の雄叫びが鳴り響くが、程なくして洞窟内はいつもの静寂さを取り戻すのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

シノンとヴァッシュは前回のログアウト地点である都市内広場に降り立っていた。シノンは両の手に力を込めて体を馴染ませる仕草をした。そうして自分が「朝田 詩乃」ではなく「シノン」であることを確認する。しかしここでシノンは自分が再び過ちを犯してしまった事に気づく。そう、周囲を振り返った時にはあの箒頭の男は忽然と姿を消していたのだ。

 

「・・アイツはぁぁッ!!」

 

現実世界では周囲の目もあり相当のストレスを溜めこんでいたシノンはまるで市街戦でも行っているかのように目を鋭くしながらその場を駆けて行った。

 

 

・・・・・・・・・・

 

「~~♪」

 

鼻歌を歌いながらヴァッシュはドーナツを片手に街中を歩いていた。その奇妙な出で立ちも相まって周囲のプレイヤーから奇異の目を向けられているがそんなことなどまるで意に介さないのは神経が図太いのか、無神経なのか。先日の列車暴走事件で少なからず恨みを買っていることも知らずに闊歩しているとこの場に似合わぬ幼い声が聞こえてきた。

 

「あ~!やっぱあの兄ちゃんだよ!ほらぁ!?」

「ホントだ!昨日の人だ!」

 

振り返るとそこには2人の少年がヴァッシュを指さしながら声をあげている。周囲を振り返った後に自分を指さす男に少年たちはうんうんと頷き近寄ってくると、その姿を頭の先から爪の先まで見回していく。

 

「なにかね、キミタチは?」

「なんか思ってたよりパッとしねーなぁ。」

「うん、服もなんかダセーし。」

 

出会い頭に初対面の子供に難癖をつけられる。これもヴァッシュ・ザ・スタンピードの人間性というべきなのだろうか。元いた世界でも旅の途中で訪れた村や街で子供たちと触れ合ってはわずか30分で舎弟にされ、アイスを奢らされる。加えてスリーパーホールドといった絞め技をきめられるなどそれは散々たるものであった。ここでもこんな扱いと悟ったヴァッシュは物を扱うように髪の毛を引っ張り上げられ、持っていたドーナツを奪い取られる。道行く人々は大の男が子供から追いはぎを受けていると不思議な目を寄越していた。その騒ぎを聞きつけたシノンが駆け寄ってくる。

 

「ヴァッシュ!アンタまた勝手にどこか行って・・って何してんのよ?」

「や、やあシノンちゃん。今インディアン・デスロックを絶賛かけられ中・・あだだだ!すいません!ごめんなさい!」

 

天下の往来で何をしているのかと溜息をついたシノンはヴァッシュから子供たちを引き離す。そして子供たちの頭を徐にはたいた。

 

「アンタたち、いくつなの?」

「あ・・えと・・。」

「答えなさい。」

 

腰に掛けたグロックに手をやるシノンに少年達はあっさりと白状した。年齢は互いに15歳未満、それを聞いたシノンはやれやれと首を振った。GGOにはレイティングが設けられている。銃撃等による暴力行為は倫理的な観点からその利用は15歳以上が対象とされている。しかし初期登録において生年月日を偽ることも可能であり、このように対象年齢未満であるプレイヤーも少なくない。大抵このような子供じみた行動や言動によって実年齢が看破されやすくはあるもののそれによる明確な処罰は設けられておらず、実質無法状態にあった。一応の対策としてGGOでは血の描写が人間、魔物含めて一切無い。これにより残酷な表現を幾分か緩和していると運営は公表しているもののその効果は定かではなかった。

 

「アンタたち、自分たちが何やってんのか分かってんの!?」

 

公衆の面前でシノンは2人を叱りつける。あまり他人に干渉しないイメージを彼女に持っていたヴァッシュはその様子を意外そうな目で見つめた。

 

血の描写がないとはいえ銃を向ける、向けられる恐怖はダイレクトに伝わってくる。アニメやドラマのように銃弾を浴びた者が大げさなリアクションを取りながら倒れ伏したりはしない。頭部を撃ち抜かれた者はまるで糸の切れた人形のように首を傾げてこと切れる。その怖さはシノンは誰よりも知っている。そう、誰よりも。仮想世界とはいえそんな経験をして欲しくないと願うのは彼女のエゴなのか、そんな思いを露知らずの少年達は特に反省の意を示さなかった。その様子にシノンは考えがあるのか2人をドームへと引っ張っていく。今度ばかりはヴァッシュもシノンの後を付いてきていた。

 

ドームへと訪れたシノンはそのままの足でシミュレーションルームへと向かっていった。その端末を操作するとシノン、ヴァッシュ、少年2人を含む周囲の風景が変化していく、構成された舞台は岩と砂地の荒野だった。

 

「アンタ達にはこれからシミュレーションバトルをしてもらうわ、1対1でね。」

 

シミュレーションバトルとはその名の通り模擬戦である。決闘と違い、致命傷を受けても死亡扱いにはならない。その為初心者のプレイヤーが感覚を掴むにはもってこいの場ではある。だがシノンの思惑には別の狙いがあった。

 

「アンタ達、今までシミュレーションの経験は?」

「な・・ないけど・・。」

「お、俺も・・。」

 

シノンの問いに怯えた様子で応える2人。それを見たヴァッシュはシノンに振り返るが彼女の瞳から何かを察したのか、開きかけた口を閉ざした。少年の2人は震える手で互いに購入したベレッタを手に取る。その銃口はそれまで射撃場の的にしか向けてこなかった。当然いつかは誰かに向ける日が来ることは分かっていたがそれが旧知の仲同士になるとは思いもよらなかった。シノンの指示で所定の位置についていた2人は互いに目を固く瞑りながらシミュレーション開始のカウントダウンを静かに待つ。心の底でカウントダウンがいつまでも終わらないことを願いながら。しかしその時は突然にやってくる。開始の合図がなされると2人は互いに駆け出していた。それは勇気ではなく恐怖。判断ではなく本能。お互いが「死にたくない」と願えばこその全くの同じ行動であった。シノンによって配置されたフィールドは随所に姿を隠せるほどの小岩が点在している。この為相手が近寄ってくることも察知しづらく2人の少年は常に目配せをしながら周囲を警戒している。それはモニター越しでもはっきりと見て取れた。

 

「シノン、もう十分だ。これ以上は・・」

「黙ってて。あの2人は知らなきゃいけないのよ、銃の怖さをね・・。」

 

ヴァッシュの言葉にそう返すシノン。その彼女の含みのある応えにヴァッシュもまた、このシノンという少女の目から何かを感じていた。その間にもフィールドの少年達は互いの距離を縮めていく。時間が経てば慣れると思っていた。だけども心臓の鼓動は早いまま、むしろより速く刻み続ける。噴き出す汗が目に染みる。相手の位置が分からないことがこんなに怖い事だと知る。そうしてお互いの姿が岩伝いに交差した瞬間、2人は咄嗟に銃を撃ち放った。経験を積んだ者であればしっかりと標的を目視し、狙いを定めた後発砲とするところほぼ条件反射のみで乱射を続ける。当然1発も命中することなくすぐに装弾数は0になりホールドオープンとなるも、2人はお互いに銃を向け合っていた。

 

「なにしてるの、マガジンを再装填しなければ弾は出ないわよ?」

 

落ち着いた声でシノンがモニターから中継する。その声に慌ててマガジンを取り出す少年達であったが手が震えているのか上手く再装填できない。やがて一方の少年が装填に成功するとお互いに姿を見せあっていたので未だに装填を終えていなかった少年は片手に銃をもう片手にマガジンを持ったままワナワナと震えだす。その様子に装填を終えた少年はベレッタをゆっくりと向ける。相手はまだ装填を終えていない。だから撃たれる心配はない。その安堵感からか先程とは打って変わりしっかりと銃を両手に構え、腰を下ろし標的を見据えていた。この距離なら当たる。あれだけ射撃場で練習したのだから。この距離で外すわけがない。

 

「や、やめろ・・!う、撃たないで・・!」

 

銃を向けられた少年はそのまま腰を落とすと降伏の証として両手をあげる。しかし相手はその言葉も姿も目に見えていない。引き金にゆっくりと力が込められる。

 

「そこまでよ。銃を引きなさい。勝負あったわ。」

 

シミュレーションの終了を告げたシノンだったが思わぬ誤算があった。銃を構えた少年は銃を下ろすことなくその引き金を今まさに引こうとしていたのだ。シノンが再度呼びかけるも耳に入っていない。

 

「うわぁぁぁ・・!!」

「やめなさい、駄目!」

 

瞬間シノンはヴァッシュのほうへ振り向いていた。何故この男を見ているのか分からない。だがシノン自身も分からぬその行動にヴァッシュの応えはその右腕が返していた。腰に掛けたホルダーから銃に指が触れる。シノンが認識できたのはそこまで。ヴァッシュの指がホルダーから離れ、コートの裾が静かに靡くとモニターには利き手である右手を押さえる少年の姿があった。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

シノンがシュミレーション終了のプログラムを入力すると荒野と砂地の空間が先程までのモニタールームへと戻る。ヴァッシュとシノンの前にはお互い腰を下ろしたまま動けないでいる少年達の姿があった。シノンは彼らに近づくとゆっくりとその頭を撫でる。

 

「ごめんなさい、怖かったでしょ?」

 

その言葉に少年たちは両目を押さえて泣き始めた。怖かった。死ぬことだけじゃない。相手がどこにいるのか分からない恐怖。どこかで見られているかもしれない恐怖。出会った時の恐怖。撃ちあう恐怖。それは決して教えられるものではない。自分が感じて初めて分かる感情。その為に取った方法としては決して褒められたものではないかもしれないが少年達の様子を見る限りでは大丈夫であろうとヴァッシュは3人の背中を見届けた。それはかつて共に旅をした、他者に厳しく自分には更に厳しくそして子供には溢れんばかりの愛情を捧げた『あの男』のように見えた。シノンが振り返ると何がそんなに嬉しいのかと訝しがられたがヴァッシュは笑って「別に」と応えるだけであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ごめんなさい、お姉ちゃん、お兄ちゃん。」

「アンタ達が15歳になってそれでも興味があったらまた来なさい。いつでも相手になるわ。」

「うん!」

 

少年の2人はヴァッシュとシノンに見届けられながらログアウトしていった。銃への憧れは年頃の子供故に簡単に捨てられるものではないだろうが今日2人は銃を持つことの意味を知った。それだけで十分であるとシノンは語る。

 

「さっきはゴメン。もう少しであの子たちにさせなくていい思いをさせるとこだった。」

 

感謝の言葉を述べるシノンの横で静かに笑みを浮かべるヴァッシュ。その顔にまた借りができてしまったと悔しみつつもシノンであったがその顔は柔らかいものであった。

 

「昨日も聞いたんだけどさ、なんであの時サヨナラなんて言ったのよ?」

 

ふいに昨日ヴァッシュが自分に投げた言葉の意味を問う。今になって思い返したわけではないが少女にとってもあの言葉は座りが悪かったのだ。ヴァッシュも今度ははぐらかすことなく正直に答える。自分はイレギュラーの存在であることを。そしてこのGGOが仮想世界のゲームであるのであれば尚更自分はここに居てはいけないと告げた。

 

「なによ、それ?アンタみたいな凄腕のガンマンにお似合いの場所じゃないの?」

 

だが男からの返事はない。怪訝そうに男の顔を覗くがいつの間に掛けていたのか、サングラス越しからその表情は見えなかった。

 

と、その時街の外れが騒がしいことに気付く。ヴァッシュとシノンがそこへ向かうと左腕を失いながらも命からがら逃げ延びてきたのか男が一人立っていた。

 

「おい、お前どうした!?」

「う・・ああ・・!や、『ヤツ』が出たんだ・・!」

「ヤツってどいつだ、そりゃあ!?」

「じ、地獄洞で出たんだ・・!岩窟龍が・!」

 

そのワードにその場にいたプレイヤーがざわつく。岩窟龍と言えばモンスターリストにそのシルエットが確認されているだけで未だにその姿を現したことはない幻の魔物である。あまりに目撃情報がない為、運営のミスによるデマと思われていた。もちろんこの男のいう事が真実であるとは限らなかったが、男の状態とチーム登録してあった他5名のメンバー全員の死亡が確認されると瞬く間にその報せは掲示板からGGO全プレイヤーに広まっていった。先日の列車暴走事件に続き、激レアモンスターの登場にGGOは連日の熱気に包まれる。逸る群衆の中でシノンの肩に右手が乗る。

 

「・・分かってるわよ・・どうせ行くんでしょ?」

「うん!ってことでバギーの運転頼むね~!」

 

出会って2日目で既に阿吽の呼吸となった2人のガンマンは再び乱恥気の(ストーム)へと身を投じていく。そこでシノンは知ることとなる。ヴァッシュ・ザ・スタンピードという男のその生き様を。

 

 

NEXT bullet

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。