トライガンゲイル・オンライン   作:ばうむくうへん

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こっからが本番です


bullet 14 100億クレジットの男

人の命は金では買えないと何処かの誰かが言った。

 

それは大変すばらしい志だ。だがしかし実際に人の命は金で買える。古来より闇市場では臓器の売買が行われており、医療の現場においても腕の立つ医者や設備には多額の費用が必要になる。

 

貧しい者はやせ細り富める者は肥え太っていくのは太陽が東から昇り西に沈んでいくというほど当然の縮図。

 

それでも人の命より重いモノなどないと言う声は上がる。なるほど、一つの考え方ではある。

ではたとえ話を一つだけ。

 

凶悪な殺人事件が発生した時に犯人像への協力を民間に依頼した時、さっぱりと情報が入ってこない。幼子を含む多くの犠牲者を出したというのに。

ところが有力な情報提供者に多額の懸賞金をかけると問い合わせ窓口への連絡が殺到した。つまりはそういう事である。

 

高度な文明、知識、技術を備えていても人間は単純な生物である。目に映らぬ、触れぬものに美徳を見出すのも結構、しかし実の所人間を幸福に導けるのは何時の時も目に映る、触れるものでしかないのだ。

 

 

『9月×日午前3時 VRMMORPG Gun Gale Online(ガンゲイルオンライン)アップデート完了』

 

 

 

 

鉄製の階段を足早に駆ける音が響く。今日は真っ直ぐに帰宅した詩乃は急いで自宅の扉を開いた。そこには既に身支度を整えているヴァッシュの姿が。

 

「おかえり、シノンちゃん。今日は早かったね。」

 

さも当たり前のようにしているがまたしても拘束から抜け出していたことに苛つきながらも少女は自身の身支度を整える。昨日は不測の事態により欠かさなかったGGOへのログインが出来なかった。加えて本日はアップデート後初のプレイ。その表情には並々ならぬ覇気があった。そんな詩乃の様子を今朝方より感じていたヴァッシュもまた寄り道をせずに待っていた次第である。アミュスフィアをかけた詩乃は早速ダイブを行った。

 

 

「リンク・スタート」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

2人が降りたつ地は都市部よりやや離れた山中、昨日逃げ惑うヴァッシュをようやく探し当てたシノンは夜も更けていたこともあってその場でログアウトをしていた。その為再開地点はこんな所になった訳なのだが張本人であるヴァッシュは髪に絡みついたクモの巣に悪戦苦闘し、早くここから出ようと言う始末。

 

シノンはパネルをオープンするとアップデートに関する内容を検索するが該当しない。これもGGOが他のVRMMRORPGと異なるゲームである一つの特徴である。アップデートに関する内容はHPやメールでも実施時間のみ告知され、肝心の更新内容については一切非公開である。ネットワークの情報掲示板もアップデートの要項に触れるワードには強力なプロテクトが掛けられており、確認方法としては都市のみで閲覧できる総合情報掲示板で確認するか、第三者から教えてもらうなどだ。後者の方は情報提供料をせがまれる場合があるのでシノンもその方法は考えてはいない。

 

「ここにいても仕方ないからひとまず街にいくわよ。」

 

やはり自分の目で直接確認する他はないとシノンはヴァッシュを引っ張り街を目指す。

 

そこで待ち受けるものなど何も知らずに。

 

 

・・・・・

 

 

都市部の一角ではあるグループが集っていた。その手には共通した内容が記されたある紙切れを手にしていた。

 

「こ、コレ・・マジなんだよな?」

 

1人の男が信じられないと声を震わせながら紙切れに目をやっていた。その手も心無しか震えている。

 

「間違いねぇよ。俺は昨日のアップデートが終わった直後に混雑してた回線から一抜けして総合掲示板に来たんだ。そしたら『コレ』が張り出されてた。」

「ほ、他にも張り出されてたのか?」

「いや、他の都市にいる連中にも聞いてみたがどうやらここだけらしい。確認できるのは今手元にある『コイツ』だけだぜ。」

「・・てことはよ・・・・。」

 

一しきりの会話を終えると男たちは顔を見合せて不気味な笑い声をあげる。街の外れで高笑いするその集団に近づこうとする者など1人もいない。それらを見つめる一つの影を除いては・・・。

 

 

・・・・・

 

徒歩で向かっていた為、シノンとヴァッシュが街に到着するには30分ほど要していた。喉が渇いたと早速単独行動を図るヴァッシュに睨みを聞かせつつシノンは総合掲示板のあるエリアへと向かっていく。途中昨日の岩窟龍討伐の件でヴァッシュを追っていた輩に絡まれたものの、シノンが取り成してくれたおかげもあり何とか無事に掲示板の前まで辿り着くことができた。

 

「え・・と、アップデートの内容は・・」

 

大型のパネルに投影されている情報を右人差し指でなぞりながら読み進めていく。やはり介添人制度は廃止になったようだ。その代わりにタッグによる決闘が新たに設定されている。隣人を疑うこの世界においてパートナーとの連携が試される機会があまり無かった為にコンピを組むプレイヤーには概ね受けがいいようだ。シノンも今度ヴァッシュとコンビを組んで参加してみようかと考える。他に提示されている内容はフィールドのモンスターレベルの調整や新たな資源リストの追加とこれまで行われてきたものとさしたる差はない。と、ある項目を前に人だかりができていたので何かとシノンも目をやる。そこにはこう表記されていた。

 

『第3回 Bullet Of Bullets 近日開催決定!』

 

シノンも含めて多くのプレイヤーが固唾を飲む。その様子に気づいたヴァッシュはひょこっと顔を出すと何かの催事があるのかシノンに聞いてみる。

 

「バレットオブバレッツ・・。簡単に言えば最強のガンマンを決定する大会よ。」

「なーんだ、そんなんかぁ。つまんないの。」

 

そのヴァッシュの発言に周囲のプレイヤーがバッと振り返る。その眼光はとても鋭い。もちろんそこにはシノンも含まれていた。バレットオブバレッツ。通称BoB。それは今しがたシノンが発言した通りGGOにおいて最強のガンマンを決定する大会である。予選を勝ち抜いた上位者同士のバトルロワイアルを経て優勝者が決定される、一対一にも多対一にも臨機応変に対応しなければこれに勝ち抜くことは敵わず、GGOプレイヤーにとって史上最大のイベントといっても決して過言ではない。過去2回開催されているがいずれも白熱した戦いを繰り広げ大会を終える度に新規加入プレイヤーが殺到するなどその影響力が窺える。そんな祭典をつまらないと口にしたヴァッシュに敵意の目を向けるのも至極当然と言えるだろう。失言だったと気づいたヴァッシュは両手で口を塞ぎながら後退していく。

 

シノンも今のヴァッシュの発言には失望した。あの超人的な腕前を持つからこその余裕のつもりか何か知らないが、自身が心血を注いできたGGOの集大成であるBoBを馬鹿にされたような気分になっていた。もちろんヴァッシュの事だから余計な争い事は好まないということから口に出した言葉なのだろう。その事に理解を示す自分がいると分かりつつも、『強さ』に拘る自分を隠すことが出来なかった。

 

掲示板のある広場の前にプレイヤーが集う中でヴァッシュに視線を向ける輩がいたのは丁度その頃であった。先のようにヴァッシュを見つけてはすぐに突っかかってきたプレイヤーとは違う、獲物を仕留める目である。虎視眈々と男が一人になるのを待っていると、やがて暇を持て余したのかフラフラと広場から離れていく。シノンはというと数々の学習をまたも活かすことができずにパネルに目をやっている。否、彼女自身ヴァッシュの行動には常に気を張っていた。だが先の件で虫の居所が悪い事もあったのであえて顔を合わせずにいたのだ。

 

やがて広場から完全に抜け出たヴァッシュは一人路地を歩く。アップデートの内容を見ようと広場にプレイヤーが集中しているために普段は賑わう通りが今日は一際静かである。通りを中ほどまで歩いたヴァッシュはふと足を止めると誰にともなく話しかけた。

 

「ねぇ、キミたちさ・・男のストーキングって楽しい?」

 

 

その言葉に四方八方から姿を見せたのはいずれも銃を構えた男たち、その数15人。配置を見る限り行き当たりではない。ヴァッシュがこの通りに来るまで密かに待ち構えていたのだろう。これは敵わないと両の手を高く上げる。

 

「お前、ヴァッシュ・ザ・スタンピードだな?」

 

銃を構えた男が一人確認をする。わざとらしく周囲を振り返るヴァッシュであったが足元に威嚇射撃を受けるとこくこくと頷く。

 

「あの~、僕に何かご用でしょうか?あいにくと忙しいもので手短にお願いしたいんですけどぉ。」

「安心しな・・5秒で終わる。」

 

男が合図を出すと銃を構えた男たちが一斉に銃弾を放つ。咄嗟に横に飛ぶヴァッシュ、元いた地点には銃弾の雨が降り注ぎ背後のガラス窓は派手な音ともに砕け散る。受け身を取ったヴァッシュはそのまま手近の建屋に身を隠すが銃弾の雨はなおも降り注ぐ。逃げ込んだ建屋は幸いにして無人だったがそれ故に遠慮はなかった。僅か数秒でハチの巣と化した建屋では物音一つしない。銃を構えたまま数名の男が建屋に向かう。立ち込めた煙で視界が遮られた中で戸を開けゆっくりと建屋の中に入っていく。それを見つめる男たちであったが数秒後に建屋から叫び声が上がる。今しがた中に入っていった男たちの声である。急いで後を追って建屋に入った男たちが目にしたのは気絶し倒れている仲間達の姿であった。ある1人の顔に貼られていた紙を手に取るとそこにはデフォルメされた自画像と英語でこう書き殴られていた。

 

『Good bye!』

 

その紙をぐしゃぐしゃと丸めると男が逃げ去ったであろう派手に開けられた穴を通り反対道路へと駆け抜けていく男たち。暫くして辛うじて原型を留めていたクローゼットからひょっこり顔を出したヴァッシュは何食わぬ顔で建屋の戸を開いて表へと出て行った。

 

 

・・・・・

 

 

突然鳴り響いた銃声に広場に集っていたプレイヤー達が音の方向に振り向く。シノンはハッと周囲を見渡したが時既に遅し。そこには箒頭の男の影も形もなかった。その時点であの銃声の原因はアイツにあると直感したシノンはやはり今度から首に縄でもかけようと改めて決心しながら銃声のあった方向へと駆け出していった。

 

 

 

溜息を大きく吐きながら路地裏を歩く。何の因果か異世界に迷い込みやってきたのは相変わらずの銃がモノを言う世界。案の定イザコザに巻き込まれ、もとい飛び込んではあらぬ恨みを買う始末。相変わらず損な生き方をしてしまう自分に嫌気が指す。まだ元の世界に戻る手がかりも何もない中でトラブルばかりがいつも先立つこの男に安らぎという文字は決して訪れることなどないのだろう。死神と厄病神に愛された男、それがヴァッシュ・ザ・スタンピードである。

 

やがて路地裏にいたところを発見されると路地裏を駆け抜ける。敢えて狭い路地裏を渡るのは大通りにいる他のプレイヤーを巻き込まない為。それを無意識の内に実践してしまうのがこの男の性分だった。自身の生まれた星の下を呪いながらも死神も厄病神の肩すら抱く男、それがヴァッシュ・ザ・スタンピードである。

 

「もう勘弁してぇぇぇ!!」

 

もっともそれら全てが自分に跳ね返るのは致し方なし。飛び交う銃弾の雨を涙ながらに駆け続ける。すると路地裏の角を曲がってすぐに自分の腕を掴んだ手に引き寄せられた。勢い余って思い切り壁に顔を打ちつけたヴァッシュは床を転げまわる。その様子に心配そうな声が聞こえる。

 

「あ、あの・・あなた大丈夫?」

 

それが女性の声だと分かると勢いよく立ち上がったヴァッシュは声の主の顔を確認する。そこにいたのは腰まで伸びる銀髪が美しく、スレンダーなボディを隠すことなく大胆に露わにした大人の雰囲気を纏う女性であった。

 

瞬間、目を輝かせたヴァッシュは両手で女性の手を握ると自己紹介を始める。

 

「貴女が助けてくれたんですね、わたくしブワァッシュ・ザ・スタンピードと申します。美しいお嬢さん、貴女のお名前をお聞かせいただけますでしょうか?」

 

途端にキザな口調に変わった男に顔をひきつらせた女性であったが気を取り直して自身の名を告げる。

 

「私の名前は銃士X(マスケティア イクス)。イクスと呼んでくれていいわ。」

「イクスさん・・素敵なお名前だぁ。そして名前に劣らず美しい。」

 

未だにメルヘンな口調の男であったがここに長居は危険だとイクスが話すと部屋に隠されていた通路から逃げるよう案内される。暗がりの道をイクスの持つ小さなたいまつが照らしながら進んでいくとやがてそこはいつかの酒場の一室へと繋がっていた。

 

「ここなら大丈夫よ。この部屋は私のプライベートルームなの。」

 

そう言いながら棚にあるワインとグラスを手に取りながらイクスはテーブルに掛ける。プライベートルームとはプレイヤー個人に与えられたいわばマイホームのようなものである。居住施設とは別にこのような娯楽施設の一室にも限りはあるものの設けることは可能である。ただしそれには一般的なものより遥かに高価なものであり並のプレイヤーでは手を出すことすら叶わない。ヴァッシュは知る由もないが彼女もまたGGOにおいてシノンと同じく珍しい女性プレイヤーであり、トッププレイヤーとして名を馳せる1人であった。

 

テーブルについたヴァッシュはイクスの注ぐワインを手に取るとお互いのグラスを交わしながら「君の瞳に乾杯」といかにも安っぽい台詞を吐くがそれを艶やかな笑みでイクスは応えた。

 

「聞いていいかな?どうして僕を助けてくれたんだい?」

「さっきの通りで貴方が大勢の男に襲われているのを見てつい・・迷惑だったかしら?」

「とんでもない。やはり君は素敵な女性だ。僕の目に狂いはなかった。」

 

暫しの一時を過ごすと早くもワインボトルは空になっていた。ヴァッシュの顔は赤く染まり、イクスもまた桃色になった顔を覗かせる。棚より新たにワインボトルを取り出しながらイクスはヴァッシュに妖艶な声で語りかけた。

 

「ねぇ、ヴァッシュ。私貴方にあげたいものがあるの。受け取ってくれるかしら?」

「キミがくれるものなら何でも喜んで頂くさ。」

「嬉しい・・。それじゃあ少しの間だけ目を閉じてくれるかしら?」

 

言われたままに目を閉じたヴァッシュ。何か布が擦れる音がすることに若干の興奮を覚える。まだかいと声をかけると甘い声でまだと話すイクスの声に胸が高鳴る。

 

「ねぇ、イクス。もう目をあけてもいいかな?」

「・・ええ、いいわよ、ヴァッシュ・・。」

 

そっと目を開くと優しく笑みを向けるイクスの姿があった。だが額にゴリッとした固いものが当たるのを感じたヴァッシュは視線を上へと向ける。それは・・

 

「さようなら・・ヴァッシュ・ザ・スタンピード。」

 

そして狭い一室の部屋で銃弾の音が鳴り響いた。

 

 

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