トライガンゲイル・オンライン   作:ばうむくうへん

18 / 31
bullet 18 over kill

砂漠の捕食者2体が滑るように砂丘を駆け下りてくる。シノンとの距離まで約1㎞といったところだろうか。シノンはヘカートを構えると一方の影に標準を定める。敵は2人に対してこちらは手負いで動けないヴァッシュを庇いながらの1人。接近を許す前に仕留めたかった。真っ直ぐこちらに直進してくる目標に対して照準を合わせたシノンはその引き金を引く、瞬間影が大きく旋回すると放たれた銃弾は砂地を派手に巻き上げた。

 

「しまった!?」

 

シノンは今しがた放った狙撃を悔やむ。舞い上がった砂は砂上を泳ぐ影の行方を眩ませてしまったのだ。周囲を探るシノンではあるがその姿は確認できない。ヘカートの威力が逆に窮地を招いた結果となってしまった。

 

彼女自身そのことに全く考えが及ばない訳ではなかった。過ぎたる力は使いどころを誤れば己が身に返ってくることはこれまで幾つもの戦場を駆け抜けてきた経験で理解していたはず。だが実の所シノンはかつてないほどに冷静さを欠いていた。

 

それは先の狙撃によるものではなく、そもそも2対1という不利な状況に自ら飛び込んでしまった事にある。もし彼女が冷静に行動を取ることができたならヴァッシュの治療が済み次第、姿を顰めやり過ごすかヴァッシュの回復を待って迎撃するかいずれかの行動を取っていたはずである。にも関わらず単独で迎え撃つという愚行に走ったのはやはり己の責でヴァッシュが負傷してしまった事にあった。理屈は不明だがヴァッシュはGGOというゲーム空間内にも関わらず銃撃を受けたことによる出血と傷を負った、それはともすれば自分を庇って命を落としていたかもしれない。シノンはヴァッシュに傷を負わせた相手を許せず、またそんな傷を負わせてしまった自分を許せなかった、それ故の行動であったのだが状況は彼女にとって完全に不利なものとなっている。

 

と、2本の輝線が自分の身体に照射されているのに気付いたシノンはすぐに身を横に振る。間一髪でアサルトライフルの銃撃から逃れたシノンであったが未だに敵の姿を捉える事が出来ない。ましてや彼女は既に『初撃』を外すという痛恨のミスを犯しているのだ。

 

以前にも述べたが狙撃手は敵に視認されていない状況での初撃は弾道予測線(バレットライン)が目標に表示されないという最大のメリットを持っている。しかし初撃を外しかつ姿を視認された以上、次弾以降は弾道予測線(バレットライン)が表示されてしまう。暗殺が主体のライフルで敵の眼前に姿を晒してしまっていた時点でシノンは後手に回されていたのだ。やがてライフルがシノンを捉え始める、防護フィールドを張りながら凌いではいるもののフィールドによる防護は気休め程度のもの。みるみる内に体力ゲージが減っていく。

 

このままではまずいと銃弾の雨を駆け抜けるシノンであったが思わぬ位置に銃撃を受けるとそのまま砂丘を転げ落ちていく。数十mは滑り落ちたであろうシノンはむせりながらも起き上がろうとするが今しがた受けた銃弾の位置を目にした途端に体が硬直するのを感じた。

 

それは先程ヴァッシュが被弾したところと同じ右脇腹。もちろん仮想体である彼女には被弾による肉体的な痛みやそれに伴う行動の支障などはない。しかしその被弾を示す光の痕跡を見て、銃弾が己の肉をねじ切りめり込んでいく錯覚に襲われた彼女は右脇腹を押さえてその場に倒れてしまう。

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

動悸が激しくなり呼吸が大きくなる。アミュスフィアが身体的異常を知らせるアラームを眼前に表示させるが一向に収まる気配がない。やがて彼女を追ってきた2つの影は旋回するようにシノンを取り囲みながら赤い輝線を彼女の頭部に向ける。シノンは感じた、死が訪れるとはこういうものなのかと。あの時額を撃ち抜いた男もこうやって死を感じていたのだろうか。その身を預ける様に静かに瞳を閉じたシノンは心の声で一言呟いた。

 

 

(ゴメン・・ヴァッシュ。)

 

 

だがしかして彼女の祈りか偶然か、彼女はまたもや窮地を脱する。先程のように自分を抱え上げる腕。目を開かずともそれが誰だかは分かっていた。そして自分を抱き上げている主は先と同じく一言「ゴメン」と呟く、そこでようやく目を開けながらシノンは「遅い」と返した。

 

好機を逃したと悟るやいなや2体の影は間合いを取るように後退していく。その様は地形の利を活かしただけではない熟練のプレイヤーであることを窺わせた。シノンを下ろしたヴァッシュは腰から銃を抜くと彼女の眼前に翳して見せる。

 

ヘカートの銃身を起こしたシノンはそれをヴァッシュの翳すリボルバーにカツンと音を立てて打ち鳴らすとその音に合わせるように2体の影が動き出した。一体どれほどの研鑽と練磨を重ねてきたのだろうか。2つの影はまるで演舞のごとき動きで2人に迫る。

 

「シノン、左を頼む!」

「了解!」

 

ヴァッシュの指示にシノンはヘカートを一方の影に向ける。ここまでは先と同じ、ヴァッシュが加わったとは言えこの敵に対する術が見つかった訳ではない、ましてやたった今合流した2人がその術について話し合う時間など元よりない。だがシノンには確信があった、ヴァッシュならば出来る。ヴァッシュもまた確信があった、シノンならば出来ると。シノンのヘカートが見据えていたのは目標の手前の岩場。そこに放った銃弾は岩を砕き前方に弾け飛ばすとその先の影に襲いかかる。しかし影はその間を縫うように躱していく。だがシノンが次弾で放った衝撃を右に受けると大きくその身を左に逸らした。

 

ヴァッシュもまた極めて精密な射撃を持ってして一方の影を右に誘導していく。そして互いの身が迫っていると知らずに接近した2体の影は鈍い音を立てるとその場に沈黙する。強制ログアウトになっていない以上気絶はしていないがどうやら相当に苦しんでいるのだろう。それまで物言わぬ影だったものが低い呻き声をあげながら砂地を小さく震わせていた。

 

その様子に影に近づいたシノンは砂地が盛り上がった部分に手を当てるとその手に触れた布地を引っ張り上げた。そこから姿を現したのは身の丈が1m20cmほどの小柄な少年。もう一方の影から姿を表した少年も同じく小柄であった。

 

「・・この子たちレーティング未満のプレイヤーね。」

 

シノンは溜息を吐きながら手に取った布を目にする、何のことはない砂地と同色のただの布である。少年達の胴体には湿地帯などの踏破に使用されるホバークラフトが取り付けられている。本来部位に適合しない装備は不可能なのだが機能を働かせること自体は可能だった為にホバークラフトに跨る状態でまるでクモのように砂地を這っていたようだ。よくもこんな悪知恵が働いたものだと呆れた顔でシノンは頭を押さえながら蹲る少年たちに目をやった。

 

「アンタ達、自分がなにやったか分かってんでしょうね!?」

 

子供相手とはいえ、いや子供だからこそシノンは許せなかった。敵は年端もいかないプレイヤーとは言えキラーオブキラー12位と13位に位置するツーマンセルの戦いを得意とすることで有名なスパイダーズ、片割れをアインス、もう一方をツヴァイスと名乗る。

 

「だってさ~、このおじちゃん倒せば100億クレジットなんでしょ!?」

「100億クレジットなんてあったらメチャクチャ強くなれるじゃん!!」

 

この辺りは子供らしさを覗かせているがシノンはこんな子供にヴァッシュが手傷を負わされたことが我慢ならなかった。反省のないその態度に腰のグロックに手をやりそうになるがその手をヴァッシュが制する。その顔を見たシノンは軽く横に首を振るヴァッシュの意図を組むとその手を下ろした。

 

「アンタ達、いつもこうして砂漠を通るプレイヤー達を狩ってたの?」

「まぁね!皆砂漠はすぐ抜けようとするから全然周り警戒してないし!」

「僕達にかかれば余裕で殺せちゃうもんね~。」

 

殺す・・もちろんこの子供たちはゲームでモンスターを『殺す』程度にしかその言葉を使っていないのだろう。しかし実際にこの子供たちが放った銃弾でヴァッシュが生死を彷徨ったのは事実。それでも許すのかとヴァッシュに問い詰めたシノンだったがそこから返ってきた返事は意外なものだった。

 

「・・寝てただけぇ!?」

「うん、まだ熱で当てられてしんどかったしね、それにシノンちゃんが結構重くても~う疲れちゃってさぁ・・!」

「・・今なんて言ったの?」

「あ・・・!」

 

シノンが静かにグロックを抜くとすかさずヴァッシュが背中を向けて逃げ出す。捕縛されていた少年たちは百戦錬磨のコンビだった自分たちを出し抜いたコンビがどれほど息が合っているのか期待を寄せていたが目の前で繰り広げられている光景にその期待は儚くも裏切られることになった。

 

 

「ところでこの子たちどうする気なの?」

「・・見逃してあげようよ、ね?」

 

右の頬を真っ赤に腫らしながらヴァッシュはシノンに乞う。低姿勢ではあるがいざとなったらこの男は力尽くでも止めるのだろうと悟ったシノンは小さく頷く。それを見たヴァッシュは意気揚々と子供たちを後ろ手に縛っていた縄を解いていく。

 

「おじさん、強いんだね!?」

「おじさんじゃない!おにーさんと呼べ!」

「え~っ!?おっさんじゃんか!?」

 

これもこの男の人間性なのか、子供とは言え先程まで死合っていた敵に対して友好的な態度で迎える。いつの間にか子供たちに説教を垂れはじめたヴァッシュは命の尊さなどという聖人君子のような戯言を大げさなアクションを取りながら語っていく。正座させられながら延々と続く説教にげんなりしている子供たちとそうとは知らずに熱血教師ぶりを発揮している勘違い男を横目にシノンは溜息を吐く。

 

「・・であるからしてだな!世界には愛と平和が全てなわけなんだよ!?分かるか、お前達!?」

「・・は~い。」

「よーし!!では一緒に唱えろぉ!いくぞ~・・」

 

そしてヴァッシュが子供達に背を向けたまま右人差し指と中指を交差させた不思議なポーズを取りながら唱える。

 

「ラ~~ヴ!ア~~ンド!ピ~~・・・!」

 

その合言葉と共に振り返ろうとしたヴァッシュは瞬間鳴り響いた2発の銃声を耳にした。

 

「~~ス・・・・」

 

その呪文の最後は抜けるような声だった。そこでヴァッシュが目にしたのは頭部を撃ち抜かれて突っ伏している2人の子供達の変わり果てた姿であった。倒れる子供たちの前にはグロックから硝煙を立ち上げながら静かに構えるシノンの姿が見える。

 

「シ・・ノン・・・!?」

「危なかったわねヴァッシュ。もう少しでアンタ撃たれるところだったわよ?」

 

少年達の手には懐に隠せるほどのデリンジャーが握られていた。隠し武器だったのだろう。だがそれよりも何よりも子供2人を撃ち殺したシノンがさも当然の事をしたような顔で自分に話しかけていることがヴァッシュには理解できなかった。

 

「シノン!!お前・・なんて事を!!」

「ちょっ・・!何よ、痛いじゃない!!」

 

ヴァッシュは徐にシノンの両肩を力強く掴む。それをシノンはいつもの悪ふざけが始まったと軽くあしらうような態度を見せる。シノンはヴァッシュが何故そこまで執拗に怒りを見せるのか分からなかった。確かに見逃すと言う約束を取り付けた以上、何もなければそのまま逃がす気でいた。しかしヴァッシュが背中を見せた時に隠し持っていたデリンジャーを構えた時には考えるよりも先に体が動いていた。

 

先程から二度もヴァッシュから命を救ってもらっていたシノンには一つ借りを返せた気分だった。感謝の一言でもあっていいとすら少女は思っていたのだ。

 

「シノン・・!?お前・・本当に何も思ってないのか!?子供を撃ち殺して!?」

「自分の心配しなさいよ?あの子達は実際に死んでないけどアンタの場合、本当に死んでるかも知れなかったのよ?」

 

 

「そういう事をいってるんじゃないっ!!!」

 

 

それまで聞いたことの無いヴァッシュの表情と声にシノンは肩を竦める。その彼女の眼を見たヴァッシュは不覚にも気づいてしまう。かつて自分を殺そうと解き放たれた『人外の集団(キリングマシーン)』と同じ瞳を持つ少女に。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

その様子をモニター越しに見つめた男は手に持っていたコーヒーを啜ると一言口にした。

 

「・・・中々いい感じじゃないか?シノン・・いや・・朝田 詩乃・・。」

 

 

NEXT bullet

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。