トライガンゲイル・オンライン   作:ばうむくうへん

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UA30000を突破しました。まだまだ通過点なのに感謝感激ッス!


bullet 23 Fight for Flight③

「落ち着いて、カノン!よく的を見て!」

「は、はいぃぃぃっ!!」

 

着弾予測円(バレットサークル)が目まぐるしく動く。カノンが構える銃は飛び回る羽虫の如く動き回り、射撃練習用の人型パネルにすらまともに捉えられずにいた。恐怖心というよりも極度の緊張により、まるで大波に揺れる船上から構えているかのように全身をふらつかせている。終いにはトリガーに指をかけたままバランスを崩して尻餅をつく始末。射撃場は特殊フィールド扱いとなっており的以外への誤射の心配はないものの、シノンは手に預かっていたコルトガバメントのマガジンを握りながら弾を込めていなくて助かったと安堵とも呆れたとも取れる溜息をつく。

 

「ふえぇ、シノンさん、ごめんなさぁぁい!」

「全く、銃もろくに構えられないで一体誰を倒すって言うのよ?ほら」

 

地面に座り込んだままのカノンにシノンが手を差し伸べながら問う。相手の力量を見た目で判断することは浅薄であることは重々承知しているもののどうにも目の前の少女がこのGGOという銃の世界で生き残れるのかとシノンは不安を覚える。

 

「あ、あの!上手く撃つコツなんてあるんですか?」

「コツ?そんなのないわよ、銃を構えたら目標に向かって撃つ、それだけよ」

 

そう言いながらカノンの手から銃を取り、マガジンを装填、スライドを引くとゆっくりと的へ構える。着弾予測円(バレットサークル)は微塵もぶれずに頭部の位置でぴたりと止まっている。引き金を1回、2回、3回と引く。低く乾いた音がテンポ良くリズムを刻むように鳴り響くと『ただ一つ』の弾痕を的の頭部へと残す。

 

その鮮やかで精錬された射撃にカノンは言葉が見つからずに長い溜息を深く吐く。

 

「す、すごいです!今の全部同じ場所に当たったんですよね!?」

「大したことじゃないわよ、距離もないし的は動いていないんだから」

 

謙遜ではない、シノンにとってはこの程度の技量などまるで自慢にはならなかった。あの男なら、時速200kmで迫る列車に超長距離から回転式拳銃(リボルバー)で直径20cmの的を『6発全弾』で射抜いたヴァッシュとは比較にすらならない。なまじ腕を上げてきたばかりにその差をより深く感じるようになっていた。

 

「あ、あのシノン…さん?」

「…ごめんなさい、何でもないわ。さぁ続きよ」

 

カノンに銃を教えていることはBoBまでの息抜きと思っていたものの、あまりに手がかかる不出来な弟子にいつの間にか指導に熱が入っていたことは彼女自身気づかなかったが、カノンを通じてシノンもまた己がGGOを始めたばかりのころを思い出す。

 

 

 

………

 

「…すごいよ、シノン!初めての射撃で的に命中するなんて!」

「あ、ありがとう。でも当たったって言っても右肩だし…」

 

初めてGGOの世界で銃を構えたのはドームの射撃練習場。現実世界では触れることはおろか見ることさえも出来なかった銃をこうして見て触れることが出来る、それだけで胸が高鳴るのを感じた。着弾予測円(バレットサークル)がぶれていたのは緊張よりも寧ろ高揚によるものが大きかったが指南するシュピーゲルにとってはシノンの才覚を垣間見た瞬間でもあった。

 

「どう?初めて銃を撃ってみた感想は?思ってたのと違ったでしょ?」

「え、ええ…。そう…だね」

 

 

図書館で銃に関する書物を読んでいたことをきっかけに新川少年に誘ってもらったGGOというオンラインゲーム、シュピーゲルとしてはこの世界のスタートラインに立った門出の言葉であった。おそらく現実世界でサバイバルゲームを日常的に嗜んでいる者でも耳を抜けるような銃声、鼻に纏わりつくような硝煙の匂い、宙を舞う薬莢、爪の先から頭の芯まで響く反動を感じることはないだろう。

 

だがシノンにとってはそれはひどく『懐かしい』ものだった。5年前に感じたあの時と同じ感覚、強いて言えばゲームシステムと自身の体が成長した為か発砲時の衝撃で腕がかち上げられることも肩を外すこともなかった。

 

朝田 詩乃にとって忌むべき存在の銃もこの世界なら、シノンならば大丈夫だと安堵を覚えると同時に何か物足りなさも感じていた。それは実際に他プレイヤーと対峙したときに顕著に現れた。

 

きっかけは些細な事、GGOの世界にも慣れ始め、シュピーゲルこと新川恭二が多忙だったこともありシノンは単身でのクエストをこなすようになっていた。その日は採取クエストで依頼人から指定の鉱石を指定数納品するというもの。とりわけ危険なエリアでもなく出現するモンスターも雑魚ばかり。フィールドに馴染む意味もかねていたのだがそこでシノンは初めての対人戦を繰り広げることになる。

 

「うあぁぁぁ!!」

「待って、撃たないで!私は別に…!」

 

二人の出会いがまずかった。シノンは採掘エリアを散策していると丁度袋小路にいるプレイヤーと鉢合わせてしまったのだ。同じクエストを受注していたのであろう初心者と思われるプレイヤーは後をつけられていたと誤解するとシノンの制止を聞かず銃を向けてきた。その距離わずか2m、目と鼻の先である。不意をつかれたシノンは咄嗟に受身を取るが一向に着弾の様子は見られない。顔を上げると自分を狙う弾道予測線(バレットライン)が全くあさっての方向を指しているのが見えた。これは当然プレイヤーの心拍が乱れているためであるがそれでもこの近距離で十数発も連射して一発も命中しないというのはありえない。それは自分が、朝田 詩乃が何よりも理解していた。

 

あの時、強盗犯の男を撃った時は今とは比にならないほどの恐怖を肌に感じていた。周りの悲鳴も自分の呼吸音すらも遠く聞こえる、それでも腕は動いた、右人差し指を引き金にかけていた、腕は震えていても撃った弾はすべて男の右肩を頭部を撃ち抜いた。

 

どんなに恐怖に怯えていても銃弾が曲がるわけもなければ威力が弱まることなどない。シノンは震える手で腰にあったグロックをホルダーから抜くと、自身の右を左を次々と通り過ぎていく弾幕の中、スライドをゆっくり引くと銃身をカタカタと震わせながらプレイヤーに向かって撃った。

 

弾丸は頭部中心よりやや左の眼球部に着弾する。グロックの口径、相手との距離からすれば急所でないとはいえ即死に等しいはずだったがひるんだ様子もなくプレイヤーは引き金を引き続ける。

 

その様子にシノンは寒気を覚えた。なぜ死なないのか、少なくとも左目を潰されたのだ、地面を転げまわってもおかしくはないはずなのに。

 

あまりにも現実と違うその反応に恐怖を覚えると同時に酷く冷めていく実感、手の震えは止まらなかったが再び銃を構えると今度はフルオートで確実に息の根を止めた。シノンのプレイヤーキル数1を達成した瞬間である。

 

光の粒子となって消えていくプレイヤーの最期の演出もしかり、GGOという世界の一端を見たシノンは一言呟く。

 

「…所詮ゲームか…」

 

 

………

 

 

だからこそカノンの銃に対する反応・適応は寧ろ当たり前だと言える。VRMMORPGならではの『限りなくリアルに近い』演出を物足りないと感じる者などまずいないのだから。

 

今更ながらシノンはGGOを始めて半年足らずでトッププレイヤーとして名を馳せている自分に納得した。自分は人殺しの経験があるから人より上手く人を撃てるんだと。人殺しの経験があるからプレイヤーを屠った時の高揚感がないのだと。

 

そんな思いを巡らさせていると一発の銃弾が響く音にはっとするシノン、音の方向には嬉しそうに跳ね回るカノンの姿があった。

 

「やった、やりましたよ!シノンさん、私!撃てました!」

「…引き金を引くなら誰にでも出来るわよ。的に当たってないじゃない?」

「え、えぇぇ、そんなぁ…!」

「まぁ最初のころに比べたら良くやったほうなんじゃないの?」

「ほ、本当ですか!?」

 

一発、ほんの一発銃を撃っただけで一喜一憂する。本来GGOとはこのように楽しむ娯楽ゲームなのかもしれない、ヴァッシュが掲げる銃を持つことの怖さや覚悟など気にするべくもなくただ単純にGGOというVRMMORPGを楽しむ、カノンの純真無垢な笑顔を見てシノンは意固地とも取れたヴァッシュへの敵愾心も己の目指す強さへの拘りを心の中心からほんの少しずらすことができたような気分だった。

 

「今日はここまでにしましょう。続きはまた今度ね」

「は、はいっ!ありがとうございました!そ、それで…あの…」

「…どうかしたの?」

「外にあるクレープ食べに行きませんか…?一人だと行きづらくて…その」

「…ふふっ、いいよ。あたしも行きたいと思ってたの」

 

歳相応の女子が歳相応の嗜みについて語る、その会話はGGOという殺伐とした世界において不思議で、しかし確かにここにある幸せというものでもあった。

 

ただ1つ、シノンが見落としていたのは先ほど自身が撃ち抜いたはずの的にほんの数ミリ『ずれた弾痕』があったことにある。ただそれはこれからウインドウショッピングに出かける少女たちにとっては何ら意味のないことではある、そう意味のない。

 

「でもおかしいなぁ…シノンさんが撃った穴を狙ってみたんですけど…」

「そんなの10年早いわよ」

 

……………

 

 

「シノンさんは何にしますか?」

「う~ん…」

 

銃火器や備品以外でここまで迷う、GGOではもちろん現実世界でも街頭でクレープを買ったことなどなかったシノンにとってそれは縁のないというよりも必要のないことだった。

 

上京する前も後も人との交流は極力避けてきた、いつどこで自分の素性が知れてしまうか分からなかったのだから無理もない。先ほど歳相応と述べたがシノン、朝田 詩乃の青春は彼女が11歳の頃より止まったままである。

 

「私、バナナカスタードにします!」

「じ、じゃああたしは…あずきストロベリークリームで」

 

自分が注文したクレープは変なチョイスではなかっただろうかと心配するシノンをよそにカノンは嬉しそうに2つのクレープを受け取る、無用の長物と思われていたクレープを手に街を歩く日がやってくるとは思わなかったとシノンは苦笑する。

 

あのシノンがクレープを片手に街を歩いているとその物珍しい光景に多くのプレイヤーがシノンたちに集まる。いつもならそれを煩わしいと思うが今日ばかりはそんな視線が心地よく感じながら街を歩いていると随分と聞きなれた声が後ろから聞こえてくる。

 

「…シノン!」

「シュピーゲル!どうしたの、最近忙しいって…」

「…たまには息抜きしないとね。っと、こちらの人は…」

「今日知り合ったの、私の…ううん、カノンよ」

「あのっ!初めまして!私、カノンっていいます!シノンさんの弟子です!」

「で、弟子っ!?へ、へぇ、それはまた…」

「なによ、文句あるの?」

 

日中あれほど鬼気迫る表情だった彼女が意外にもリラックスしていたことに驚きと安心の表情を浮かべるシュピーゲルであったが、シノンもまた彼に対して不遜な態度を取っていたことを謝罪すると彼もまた快くそれを受け入れる。

 

「あ、あのお二人は付き合ってるんですか!?」

「はぁっ!?ち、違うわよ!そうよね、しんか…シュピーゲル!?」

「う、うん…でもそんなに全力で否定しなくても…」

 

シノンとシュピーゲルの親しげな様子にカノンが問うたがまた別の溝を作り出してしまったことは彼女の本意ではない。だが心残りであったシュピーゲルこと新川恭二少年との邂逅のきっかけをこうも容易く作ってしまったカノンの人間性にシノンは深く深く感謝した。

 

 

 

……………

 

BoB予選当日。

 

 

その日を迎えた頃、ドームの外れの岩場にて構えるは一人の男、いかにもカウボーイのその風貌でドームを恨めしそうに目をやる。

 

「はぁ~、酒場にいきてぇよ~」

「何言ってんのよ、アンタも私ももう連中に目つけられてるんだからね、迂闊な行動は控えなさいよダイン?」

 

ダインと呼ぶその声は数少ないGGO女性プレイヤーの一人、銃士X(マスケティア イクス)。ダインをいさめた彼女は岩場の奥に目をやる。

 

「私たちが出来ることはやったわ。後は貴方次第ね」

「お前たちに付き合わされて俺までお尋ね者扱いじゃねぇかよ!ったくとんだ疫病神と関わっちまったぜ…!」

「ぼやくんじゃないよ!私とこの人がいなかったらとっくに死んでたんだからね?」

 

やがて奥から姿を現した男に恨み節を吐くダインはまたもイクスに窘められる、その様子を奥から苦笑いを浮かべながらその男は姿を見せる。今となってはGGOで知らぬ者はいない、右を向けど左を向けど周りは敵だらけ。それでも前に進むことを決意した男が銃の嵐(ガンゲイル)を高笑いをあげながら闊歩する。

 

キラーオブキラーを始めとしたプレイヤーらに名づけられた異名は偶然か、必然か。

 

人間台風(ヒューマノイドタイフーン) ヴァッシュ・ザ・スタンピード』 今日もゆく。

 

 

「いくぞ…シノン…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

だがこの時誰一人として知ることはなかった。

 

 

BoB大会予選の締切日を迎えるまでに、

 

 

シノンという名のプレイヤーの大会登録が一切なかったことに。

 

 

 

 

NEXT bullet




ここ暫く続けてきましたシリーズですが一旦ストップです。
そして次回からいよいよBoB 開催です!
1話の後書きがようやく実現できます,ご期待ください 
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