BoB予選全ブロックの1回戦が間もなく終わりを迎えようとしている頃、ヴァッシュは食い入るように各ブロックの試合中継のモニターに目をやっていた。その目的は無論シノンのへカートⅡを持つあのプレイヤーにあった、ダインやイクスも見たことのないプレイヤーとのことだったが自分に殺意を向けていたことからBoB参加者であることは間違いない、シノンと何かしら関わりがある以上、せめて名前だけでも知っておきたかったのだ。
「ヴァッシュ、1回戦のブロックが始まったら次の試合まで時間がないわよ?少し休んだほうが…」
ゼクシードとの試合を終えてから1時間ほど経過していたがモニターに目をやるヴァッシュはイクスの進言にも耳を貸そうとはしない、闇風やペイルライダーら強者の試合ですら今のヴァッシュの目には映っていなかった。
そしJブロックで行われる最後の1回戦にて遂にそのプレイヤーは姿を現した。不気味とも言えるその姿に会場中がどよめく中髑髏の面をつけたプレイヤーは静かにゲートへと向かう、その道中で自身を見据えるヴァッシュの存在に気付いたのか歩を進めたまま一瞬だけ顔を合わせるとそのままゲートへと消えていった。
その相手として入場する選手に会場が歓声に湧く、キラーオブキラー第2位にしてガトリングガン・M134ミニガンの使い手、名はベヒモス。2mに迫る体躯から荒々しさを放ちつつもその佇まいは至って落ち着いている。自身を鼓舞する声援にも応えることはなく淡々とゲートへと向かっていく、その様子を見たヴァッシュもこの男が並みの力量の持ち主ではないということを感じ取っていた。
「ま、マジかよ…!なんであの野郎が…!?」
彼の姿を見たダインが声を荒げる、かつて
だがそんな身の上話も当然のことながらヴァッシュの耳には届いてはいない、やがて選手紹介がモニターに投影され赤マントのプレイヤー名が表記されると思わずヴァッシュはその名を声に出した。
「
不気味な外見と相まってその響きに背筋が凍るような感覚が走る、逆に他の参加者や観客席からは大袈裟なネーミングとその為に見繕ったアバターの容姿だと失笑を浮かべる者が多く、ベヒモスがどうあしらってくれるのかと期待感を大きくしていった。
そして死銃とベヒモスの両者が試合の舞台となるフィールドに姿を見せる、そこは広大な荒野となっており視界を遮る障害物はほぼ見られない。
ゲートから姿を現したベヒモスが持つのは当然彼をキラーオブキラー2位に押し上げたM134ミニガンであると思われた。毎分3000発という驚異的な発射速度を誇る本銃は対集団戦において脅威といわざるを得ない、しかし本体重量に加えて作動用バッテリーなど総重量100キロを超える為、GGO環境下での使用において過重ペナルティという制約があった。
これにより移動が極めて鈍重になるため過去2回においてもベヒモスが対人戦であるBoBに参戦しない大きな理由となっていたのだがその彼が満を持して今大会に挑んだのはその手に持つ銃が全てを物語っていた。
XM214 マイクロガン、前述したミニガン最大の弱点である重量過多や反動をクリアするために小型・軽量化を目的として試作されたものの結局携行するだけの重量や反動がクリアできずに開発が中止された幻のガトリング銃である。これをGGOでは独自の設定を与えミニガンより発射速度や威力は劣るものの過重ペナルティを受けずに携行可能なガトリング銃としてレア武器の扱いとされていた。
元来ミニガン使いとして名を馳せた彼がこの銃を手に入れたのは必然とも呼ぶべきだろうか、新たな脅威を引き連れて威風堂々とゲートを潜る猛者の姿に割れんばかりの歓声が巻き起こる。
対する死銃はゲート入場前から隠すことなくオープンにしていたへカートⅡを両手に構える。その名の由来はギリシア神話の女神ヘカテーに由来するが、死銃が持つそれは巨大な
死銃がへカートⅡを携える姿を見たヴァッシュは無意識のうちに下唇を噛み締める、かつていた世界において同型の銃を見たことがない彼にとってへカートⅡとはシノンの銃そのものであると捉えており、それをあのような得体の知れぬ輩の手中にあることが我慢ならなかったのだ。
そして試合開始を告げる合図とともに死銃、ベヒモスともに移動を開始する。速射性に特化しているものの射程距離に難のあるベヒモスが対物ライフルを構える死銃に接近せんとする動きは理解が出来る、反して死銃は身を潜め接近してくるベヒモスを初弾の利点を活かし狙撃することがセオリーなのだがその足は真っ直ぐに荒野を駆け抜けていく、姿を隠すつもりなど微塵もいと思えるほどの足取りでみるみるとベヒモスとの距離をつめていくとやがて肉眼で確認できるまで二人は互いに接近しつつあった。
「ありゃ宝の持ち腐れだな、あの死銃って野郎とんだ見掛け倒しだぜ」
その行動をダインが切って捨てる、確かにライフルを持って接近を試みるのであれば身を隠しながら少しずつ距離を縮めていくのが定石である、にも関わらず姿を視認されておらずかつ初弾に限っては
死銃を補足したベヒモスはマイクロガンの射程距離に目標が入ったことを確認すると銃を構える。死銃から見えるは幾層にも重なった
最大秒間で100発もの弾丸を発射するバレルは轟音と共に激しく回転、煎ったポップコーンが弾け飛ぶかの勢いで排莢される様がその発射速度を物語る。精度に欠けるため数m手前で乾いた土を弾きながら襲い掛かる弾幕に死銃はほぼ直角にその身を左に反らす、その身のこなしから中々の敏捷性を備えていることが窺い知れる。
かつてのミニガンであればその重量によって自身の体ごと砲身を目標に向けなければならなかったがその弱点を克服したベヒモスは巨体を揺らしながら死銃に距離を詰めつつもその砲身は常時目標を捉えていた。
いかに精度の悪い銃やプレイヤーの腕が未熟であろうとも
誰もがベヒモスの勝利を確信する、無数の弾丸で撃ち抜かれ無様なダンスを踊る死銃を笑う準備もできていた、だが次の瞬間モニターを覗く者全てが目を疑う。
モニターに中継されていた死銃の姿が突如として消えた、いや跳躍したのである。アクロバットスキルを極めたペイルライダーの最大跳躍が約5mに対して死銃の跳躍は倍の10mにも及ぶ。システム上有り得ない能力を見せた死銃にモニターを覗く面々、そしてベヒモスも只顔を見上げることしか出来ない。
ベヒモスに至ってはその姿に目を釘付けにしていたのは決して見惚れていたからではない、いかに小型・軽量化されたマイクロガンといえどもほぼ直角に等しい距離までに跳躍した死銃には手の出しようがなかった。このまま死銃が降下してくるのを待って迎撃するのが得策とその場に構えたベヒモスであったが直後にその選択が失敗だったことに気付く。
死銃は跳躍した状態でヘカートⅡの砲身を真っ直ぐベヒモスへと向ける、とても空中姿勢とは思えないほど理にかなった射撃姿勢を取ったまま放たれた弾丸は後ずさっていたベヒモスの右太腿に直撃するとそのまま右足ごと体から寸断させる。バランスを崩したベヒモスはそのまま前のめりに倒れこむと受身も取れないままに乾いた土にその身を預けた。
地に倒れ付すと同時に着地した死銃はそのままゆっくりとベヒモスに歩み寄る、それは決着の時がまもなく訪れることを意味していた。BoBにおいて決着の定義は相手を倒す・棄権する・または先のゼクシードのようにプレイヤーの身体的異常が検知された際の強制ログアウトのみである。
既にまともに戦える状態ではないベヒモスであったが死銃が近づいてくるのは好都合であった。踏ん張りの利かないこの姿勢では腕を起こしてマイクロガンを放ったところでまともに命中させることは難しい。だが懐に忍ばせていたプラズマグレネードであれば死銃もろとも巻き込むことが可能であると考えたのだ。死なばもろともという思いではあったがその外見上からも分かるとおり
そうとは知らずに頭上の前に死銃が立ち尽くす、もう動ける力がないと見たのか、両腕に構えていたヘカートⅡを右肩に携えると羽織っていたマントの内側に右腕を忍ばせる、その素振りを好機と見るやベヒモスが死角になるよう隠し持っていたグレネードを握った右腕を振り上げた瞬間、
「…ぐあぁぁぁっ!!」
荒野に響き渡ったのはプラズマグレネードの爆音ではなく野太い男の声、グレネードを放ろうとした右腕があらぬ方向へと曲がり力なく項垂れている。明後日の方向へと転がっていったグレネードはベヒモスの叫びをかき消すように遅れて起爆した。
ベヒモスが起爆スイッチを押してから投擲に入るまでの約3秒の間に死銃は右肩に携えていたヘカートⅡの銃口を横になぎ払うとその勢いのままベヒモスの右腕をへし折ったのだ。それを目の当たりにしたヴァッシュの脳裏にはいつかのシノンの言葉が思い出されていた…
……………
「銃身…に問題はないわね、銃床も…歪みはなし」
「…シノンちゃんって本当にその銃が好きなんだね」
「な、なによ、別にいいじゃない。銃を大事にしちゃいけないっていうの!?」
流行のアクセサリーを愛でるように常日頃ヘカートⅡの整備を入念に行うシノンの表情は真剣ではあるがとても柔らかいものでもあり、その顔を見るのはヴァッシュの密かな楽しみでもあった。決して不純な理由ではなく本来人を傷つけるために存在する銃をここまで大切に扱うことができる彼女であればきっと心健やかに成長していけるだろうという期待を込めていたからである。
「シノンちゃん、顔煤けてるよ」
「え、嘘!?」
……………
その一面を知っているからこそ、死銃がヘカートⅡを粗暴に扱ったことにヴァッシュは怒りを募らせた。
いかに肉体的痛覚が伴わない仮想空間の世界であれ自分の腕が曲がるはずのない方へと曲がっていることに大の男であるベヒモスも声を出さずにはいられない、右手の甲が右ひじを小突く感覚にいっそのこと腕が吹き飛んでくれていれば良かったとさえ思えた。
苦悶する男を見下ろしながら死銃は再びマントの内側に右手を忍ばせる、その手に握られていたのは一丁のハンドガン。グリップ部分に五芒星が施されてはいるものの特別代わり映えのしない銃をなぜここで取り出したのか、それはモニターを見つめる全ての観戦者の疑問であった。
「イクス…あの銃はなんだ?」
「あれは、
イクスがそう返したもののヴァッシュには嫌な予感があった、これみよがしに銃を持ち替えた意図が知れないことに。そしてその予感を示唆するように死銃が左手を十字に切る仕草をした後、静かに右手に持った
「…ッ…やめろ、撃つなァァ!!」
無意識のうちにヴァッシュはモニターに向かって叫んでいた、イクスもダインもその只ならぬ様子に驚く。ヴァッシュ自身なぜそう口にしていたのかは分からなかったが、先の予感も今の言葉もこの後何が「起こる」のか感じ取っていたのかもしれない。
荒野に乾いた音が一つ、それは先程までのマイクロガンの一斉射やヘカートⅡの銃撃、そしてグレネードの爆発音と比較すればとても小さなものであった。右太腿を欠損し、右腕を折られてもハンドガンの一撃で体力が全損することはない。だがベヒモスの頭部が後ろにカクンと下がったと思えばその顔を地面へと垂直に落とすとそのまま動かなくなる。
「おい、ベヒモス!なに死んだ振りしてんだよ!反撃しろぉ!!」
その大袈裟とも取れるリアクションに会場から野次が飛び交う、だが地に伏せていた顔から何かが滲み出してくるのを見た会場は瞬間静寂に包まれる。それは銃社会において本来最も見慣れているはずだが、規制のかけられた仮想空間では決して見ることがなかった。飛沫したその一部が中継カメラに付着すると赤黒い世界のみを会場モニターに投影する、紛れもなくそれは『血』であった。
「…う、うわぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!??」
会場中がその叫び声を挙げるのに時間も合図も必要なかった。ピクリとも動かないベヒモスの頭部を中心にして瞬く間に地面を赤で染め上げた大量の出血は実に今更ではあるが死銃によって頭部を撃たれたことをまざまざと証明したのである。
GGOにおいてプレイヤーが死亡すると倒れたキャラクターの上部に「DEAD」と表示されたのち、光となってその場から消え去るというのが仕様である。だが流れ出る血液の量が時間の経過を知らせながらも一向に姿を消すことのないベヒモスの姿とその上空に表示される「DEAD」というワードがかつてない恐怖をプレイヤー達に与えた。
「な、なんだよあれはぁぁ!!?運営が規制解除したっていうのかよぉぉ!!?」
ダインが声を荒げるが彼だけではない、その惨劇を目の当たりにした面々も一様にショックを隠しきれていない、気分を害したのかログアウトを試みる者が後を絶たず、外見上成人の男性プレイヤーの何人かは人目を憚らず泣いている事から15歳未満であろうプレイヤーも散見される、興奮と歓声に包まれていたドーム会場は瞬く間に恐怖と悲鳴に支配された。
「ベヒモス死亡により勝者、死銃!」
この状況でいつもと変わらぬアナウンスを行う運営の姿勢に非難の声が上がるもその反応はない。やがてゲートを通じ死銃がドームへと帰還するとゲート付近にいた観客は蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ去っていく、会場の反応を窺うように周囲を見渡した死銃がゲートを超え一歩踏み出したその時、死銃が被っていたフードが揺れる。とその後方に死銃がアップで投影されていたモニターが突然の火花を上げて沈黙した。
ゆっくりと死銃が振り返るとそこには
「…何をした…彼に何をしたんだッ!!?」
ベヒモスの死体が投影されるモニターを横目に死銃に問うがその答えは聞かずとも分かってはいた、この死銃は
「シノンも…シノンも撃ったのか!!?」
絞り出すような声で言葉をぶつけると銃口を向けられているにも関わらずヴァッシュの元へと歩み寄る死銃、やがてヴァッシュの目の前に立つと銃口を自身の額に押し当てながら迫る。
「ダッタラ…ドウスル…?…コロスノ…カ?」
まるでヴァッシュが撃たないことを確信しているように挑発するがその読み通りヴァッシュもまた引き金を引くことはしない、そのまま沈黙する二人を諌めるかのようにサイレンランプを灯したガードロボットが周囲を取り囲む。
「警告します!BoB試合フィールド以外での戦闘行為は禁止です!繰り返します…」
「ヴァッシュ、銃を収めて!このままでは失格になってしまうわ!」
「そんなもの関係あるか!」
イクスの制止を聞かずグリップを握る右手に力を込めるヴァッシュであったが、その様子を見て何かを思いついたように死銃はヴァッシュに向き直る。
「シノン…アノオンナガドコニイルカシリタイカ…?ナラバ決勝マデコイ…」
その言葉がブラフである可能性も否めない、だがシノンの無事を確認する手段がない以上乗らざるを得ないヴァッシュはその提案を了承するも1つだけ死銃に釘を刺した。
「もう人を殺すな…!俺を殺したいのなら決勝でトコトンまでやってやる…!」
本音を言えば今この場で死銃を打ちのめしシノンの居場所を吐かせたかった、そうしなかったのは今日という日を迎えるまでに惜しみない協力を注いでくれたイクスとダインに申し訳が立たなかった、さらにここで争えば会場内にいる多数のプレイヤー達を巻き込んでしまう事、そして今この場にいないシノンを始めとしたGGOプレイヤーにメッセージを伝えるまではこのBoBから退くわけにはいかなかった。
ヴァッシュの問いに応えずにその場を後にする死銃、やはりその道の前に立つプレイヤーはいない。つい数分まで隣人の声すらも聞き取れないほどの熱狂に包まれていた会場は死銃が一歩踏み出すブーツの音が小気味よく鳴り響く静寂さに包まれていた。
その後、事態の収束を図るかのように急いで各ブロックの2回戦が開始される。その直前に先の死銃との戦闘において死亡したベヒモスの遺体にシーツを被せて搬送していくガードロボットの手際のよさが却ってプレイヤー達の恐怖を募らせたのか、各ブロックにおいて途中棄権をする者が続出しはじめた。
当然死銃と戦おうとする者は1回戦以降現れず、1人も殺さないというヴァッシュの願いは図らずも守られることになった、大してヴァッシュには未だに懸賞金を狙おうと果敢に挑んでくる者が後を立たず、2回戦以降もBoB参加者で唯一全戦を繰り広げてゆく。その力ゆえに勝利に関して疑うことはなかったイクスとダインも1回戦のような余裕を感じさせないほどの圧倒的な力を見せるヴァッシュに焦りの色を見たのであった。
「…お疲れ様、ヴァッシュ」
「うん、ありがとうイクス」
「次で勝てば予選決勝か、まぁオメェなら楽勝だろうけどな」
試合を終える度に労いの言葉をかける2人の姿勢にヴァッシュもまた緊張を解くように息を吐いた。あの日袂を分かったシノンを危険な目に晒してしまった自分の行いを悔いている暇などない。
過去に幾度も後悔を、懺悔をしてきた。それはヴァッシュにとって許されざる「罪」。だがその痛みを彼女には、シノンには背負わせたくないと願ったのはプラントに導かれこの世界に降り立った自分を迎え入れてくれたから、という単純な理由だけではなかった。それが何なのかはヴァッシュ自身分からないが今この瞬間男の胸中にあるものは只1つ「戦う」ことのみ。
ゲートを抜けた先は夕日が覗く荒野。その光景を美しいと感じたのは物思いに耽っていたためか、静かに歩を進めるヴァッシュ。
「そういえば初めてシノンに会った時もこんな夕日だったっけ」
そんな独り言を呟いていると正面から人の気配を感じたヴァッシュは側にあった岩に身を隠し顔を覗かせる。夕日が陰っておりその姿は正確には見えない、やがてそのシルエットが夕日をバックに映し出されると徐々にその容姿が見えてくる。体型は細身、髪は黒く腰元まで長く伸びている。服装は全体的に黒を基調としており銃らしきものを構えているようには見えない。やがてその顔が鮮明になると流れるように細い眉に美しい曲線を描いた睫、ツヤとハリのある素肌に凛としながらも可憐な雰囲気を纏うそれは紛れも泣く「女性」だった。
シノンとイクスがいる以上、女性プレイヤーがいることはなんら珍しいことではない、この場がBoB予選ブロック決勝である以上は。丸腰のまま歩を進める女性を前に身を隠すなどヴァッシュの美徳が許さなかったのか、女性に甘いこの男は身を前に出すとそのまま女性プレイヤーと対になるように歩を進めていく。
やがて互いの距離がはっきりと確認できるまでに接近するが未だ互いに丸腰の状態、いつ状況が動くか読めない状況で沈黙していたヴァッシュにその女性プレイヤーは意外な言葉をかける。
「はじめましてぇ」
「えっ…は、はじめまして…」
まるで街中で出会ったような挨拶を交わす女性に戸惑うヴァッシュ、その様子からは殺気など微塵も感じられない。
「貴方が私の対戦相手なんですね、私、キリトっていいます。ヨロシクお願いしますね」
「は、はぁ…、僕ヴァッシュっていいます、よ、ヨロシク…」
キリトと名乗る少女は軽く会釈しながら自己紹介をすると返すようにヴァッシュも名乗る。これまでも女性のガンマンとは何度か相対したことがあった彼だがこのようなタイプに接するのは初めてであり、どうにも反応に困っていた。
「えっとぉ、それでは始めますかぁ?」
「ち、ちょっと待って!」
そう言いながら軽く腰を落とし構えたキリトに対し、ヴァッシュが制止する。あまりに戦いの場に相応しくない雰囲気を纏う彼女に戦意が湧くはずもない、もしそれが彼女の罠であったとしてもこのあどけない様子の女性に銃を向けることなど考えられなかった。
「キリト…ちゃんだったね、悪いことは言わない。棄権してもらえないかな?」
「え…なんでですかぁ?」
「君を…傷つけたくない」
歯の浮くような台詞だがヴァッシュは本気だった、元よりこの男の性格からして女、子供に対してまともに戦えるはずもない。それでもシノンを救うために死銃と戦うためにはこの場を勝利にて切り抜けなければならなかったのだ、脅しでも口説き文句でもなく切実な願いだった。
「でもぉ、それだと困ります、私も本戦に出たいんです」
口にしたヴァッシュの想いを軽くいなすように首を傾げながらキリトは応える、ヴァッシュの必死の説得にも頑なな姿勢を崩さない。
「それに私を傷つけるなんて無理ですから安心してください♪」
これ以上の問答は無駄と悟ったヴァッシュは静かにホルダーに手をかけるとキリトもまた腰にかけてあった棒状の武器を手に取った。初めて見る武器ではあるが柄の部分を銃で弾き、もう一方の腰に構えているハンドガンを撃ち落し接近、
一発の銃声に僅かな金属音が走る、キリトの左右を一閃の風が横切るとそのまま両者は沈黙した。その様子をモニターから覗く者達は何が起こったのかまるで理解できていなかった。ヴァッシュがいつの間にか
彼は確かに見た、刹那の速度で放たれた銃弾を彼女が手に持った光の剣で『斬った』ことを、その事実が彼に二射目を放たせなかった。横に払っていた
「ほら、言ったでしょ?私を傷つけるなんて無理だって」
そう言い放ち瞬く間にヴァッシュに接近したキリトは体を押し出しながら右腕を大きく前に突き出す、刀身の倍はあるかと錯覚するほどの突進力で放たれた光の刃がヴァッシュの胸を、貫いた。
NEXT bullet
ヴァッシュに対抗できる相手がどうしても思い浮かばなかったのでキリトちゃんに出てもらいました。。
次回、ただひたすらにバトリまくります。