トライガンゲイル・オンライン   作:ばうむくうへん

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1ヶ月ぶりでお待たせしました!

BoB決勝戦、開幕です!


bullet 28 over the sonic, over the light

 人は、後悔をする生物である。

 

 何故こうなってしまったのか、あの時ああすれば良かったのかと思案を巡らせる、それは二の轍を踏まないようにと、次の糧にする為に。

 

 しかし忘れてはいけない、ほぞを噛んだところで失ったものは決して戻らないことを。

 

 人が後悔の念に駆られる時には既に何もかもが手遅れなのだ。

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 BoB決勝戦を迎えるにも関わらず会場内は不気味なほど静寂に包まれていた、観客らの視線はモニターに大きく映し出された髑髏の面のプレイヤーに釘付けになる。

 

 第三回BOBにおいて深く大きな影を落としたプレイヤー『死銃(デスガン)』、それまで全くの無名であった彼は否が応にもその名をGGOに知らしめた。そしてこれから行われる決勝戦において恐らく惨劇の続きが行われることを予期しているからこそ閑散となった会場内のプレイヤー達も不必要に罵倒することも煽る気も起きなかったのである。

 

 プレイヤー達の心中には何故VRMMORPGという娯楽に興じていながらこんなにも緊張感に囚われなければならないのだというストレスがあった。BoBという祭典を心待ちにしていながら突然現れた謎のプレイヤー一人に気分を害されてまで何故まだこの場に留まるのか、幾人ものプレイヤー達はいつでもログアウトできるようその人差し指をパネルに向ける準備は出来ていた。

 

 その指を動かさなかったのはもう一方のモニターに写る金髪の箒頭と真紅のコートなどとふざけた出で立ちの男に視線を向けていたから。死銃と同じく突然GGOに姿を見せてから今日まであらゆる時、場所でトラブルを振りまき続けた『人間台風(ヒューマノイドタイフーン)

 

 それは光と闇か、火に油か。相反する二人がどのような戦いを繰り広げるのか、押し寄せる恐怖の中、僅かな期待を胸に固唾を飲んで決勝戦その舞台を見届ける。

 

 

 

 

 ヴァッシュが降り立ったその地は各エリアごとに砂漠、都市、森林とこれまでのフィールドを統合したものとなっていた。必然的にその面積は広く、決勝戦の舞台となるフィールドはそれまでのゆうに5倍強、本来20名の決勝戦参加者を想定しての規模だったのだが6名となった今、限りなく広い戦場といえる。

 

 決勝戦に向かう前にイクスよりレクチャーを受けていた端末を操作すると現在の自分を含めた全プレイヤーの位置が3Dマップとなって表示される。潜伏等による戦闘の遅延を考慮したゲームならではのシステムと呼べるものだが、いつ何時寝首をかかれるか分からぬ状況で随分と便利なものがあるものだと苦笑するヴァッシュは他のプレイヤー名を確認しつつ死銃の位置を探す。

 

 もし死銃が他のプレイヤーに鉢合わせたら間違いなく奴はそのプレイヤーを殺害するだろう。バトル・ロワイアルである以上、一騎打ちは望めない。ヴァッシュはいかに早く死銃と接触できるかと投影されたマップをくまなく探す。だが…

 

「ない…!?奴の名前がない…!?」

 

 見落としたのか、再度見回すがやはり「死銃」というプレイヤー名はどこにも表記されていなかった。システムのバグだろうか?

 

 否、そんなはずはない。考えられるとすればイクスが指摘したプレイヤー位置を確認するために至る所に配置された浮遊カメラの目から逃れられる洞窟などに身を隠すことである。

 

 だがヴァッシュを含めた全プレイヤーがフィールドに降り立ってから僅か1分ほどで瞬時にカメラの目が届かない位置まで移動できるものだろうか。

 

 いずれにせよ、ヴァッシュは死銃に接触することが容易ではなくなった。このままでは死銃と出会う頃には何名かのプレイヤーがその毒牙にかけられているかもしれない。

 

 思考を総動員させながらヴァッシュは間もなく消失するマップを食い入るように見るとやがて一つの答えに辿り着く。同時に一つ大きく溜息を吐いた。

 

 

 ……………

 

 

 

 プレイヤー名『闇風』、彼は退屈だった。

 

 現実世界でサバイバルゲームに興じていた彼は飛び交う銃弾の中を駆け抜け相手を倒すことに美徳を感じていたがどうあがいたところで銃弾の雨を躱しながら接近することは困難を極める、ましてや銃という遠距離射撃が可能な武器を持ちながらの愚行に他参加者から嘲笑を浴びせられた。

 

 そんな中、GGOというVRMMORPGが現れたのは願ってもないことであった。プレオープンと同時にその世界に飛び込んだ彼は限りなく現実に近いシステムに胸躍らせるとここでならば自身が思い描いていた戦闘を体現できると迷うことなく機動力(アジリティ)に特化したスキル振りを行った。極端なまでの能力バランスにより重火器の携行は適わなかったがもとより近接戦を望んでいた彼が選択したのは『キャリコ M100』。そして闇に紛れ風を切るように駆けるようにと己のスタイルを名に冠した。

 

 後に「ランガンの鬼」と評されるまで昇華した彼の戦闘スタイルだが唯一、彼の足跡に陰りを残した事件があった。先の予選一回戦にてヴァッシュと相見えたゼクシード、彼が流布した機動力(アジリティ)最強という情報に踊らされたプレイヤー達が次々とAGIスキルに特化し始めたのだ、それまではよかった。結果は知ってのとおり、根も葉もないデマであると結論づけられると彼のプライドは大いに傷つけられた。

 

 

 違う、そうじゃない、真の機動力はそんなものではない。

 

 

 ゼクシードを擁護する気など毛頭なかった、寧ろ自身のスタイルを己が有利にするための情報操作に利用されたのが悔しかった闇風は第二回BoBでゼクシードとの直接対決を制することで敢えて彼の言葉に偽りなしと証明しようとした。しかしながら機動力(アジリティ)特化に情報操作を行っただけあり、予備対策をしっかりと設けていたゼクシードの前に体力差で時間切れによる敗退。

 

 実力では勝っていたと評されてはいたが事実として敗北を喫した彼はそれでもGGOトップレイヤーという矜持の下にて満たされない日々を過ごしていた、ヴァッシュに出会ったのはそんな時である。

 

 岩窟龍討伐の際に颯爽と現れては自身を含む大多数のプレイヤーを前に飄々と立ち回ってみせたヴァッシュ、またも辛酸を舐めさせられた形となったが闇風はどこか清々しい気持ちになっていた。

 

 偽物ではない、真の強者との出会い。第1回BoB優勝者にてプレイヤーキル現首位である伝説的プレイヤー『サトライザー』、その再来とも感じた。

 

 その後のヴァッシュの活動は度重なるプレイヤーへの悪質な妨害と報じられた、それら一連の行動を表面的に捉えただけでは分からないが、いずれも生還率の極めて低いクエストに単身乗り込んでは誰ひとりとして犠牲を出すことなく場を収拾せしめる技量。ヴァッシュ・ザ・スタンピードに関する報を聞く度に闇風は少年のような高揚感を覚えていた、シノンを始め幾人ものプレイヤーがヴァッシュに魅せられてきたが彼ほどヴァッシュに心酔し尊敬の念を向けたものは恐らくいない。

 

 

 そして今日という日を迎え、直接対決の場でこれ以上相応しい場はないBoB決勝戦。死銃という不確定要素すら今の彼にとっては緊張感を高めるための最高の香辛料(スパイス)に過ぎない。そして最高の1戦を迎えるためには障害となる他プレイヤーを掃除する必要があると3Dマップを広げながら手近な標的を見定める、最も距離が近いプレイヤーに目を付けると姿を潜めていた茂みから一歩前に踏み出した、その時であった。

 

 

 

 フィールド中央部に位置する廃墟と化した都市の上空で爆発音が鳴り響く、黒煙を上げるその景色に早速プレイヤー同士による衝突が起こったのかとそれぞれが必然的に目をやると粉塵が舞い落ちるその下、廃屋ビルの屋上に佇む一つの影があった。その姿を知らぬ者はもはやいない、回転式拳銃(リボルバー)を握り締めた右腕を高々と上げていることから恐らく今の爆発もその者の仕業であることは間違いない。

 

 

「な~はっはっは!な~~はっはっは!!」

 

 

 人を小馬鹿にしたような高らかな笑い声を上げながらその男、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは宣言する。

 

「オラオラァ!BoB決勝戦だっていうのにま~だコソコソと隠れやがってぇ!俺様の首が欲しくないのかこの腰抜け共がぁ!?」

 

 いつかの時と同じように人の神経を逆撫でするような挑発を行うがあの時とはまるで状況が違う、ここは栄誉あるBoBにしてその決勝の舞台。その行動は軽率とも滑稽とすらも形容できない、ただただ『浮いていた』。

 

 モニターを見つめる観客たちも開いた口が塞がらない、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたがここまでの大馬鹿だとは思いも寄らなかったのか。やがて堰を切ったように怒号と罵声の嵐が飛び交い始める。

 

「ふざけんなこらぁぁ!!」

「BoBを何だと思ってやがるんだテメー!!」

 

 先程まで静寂に包まれていた会場のボルテージは瞬く間に高まる、それはBoB本来の純然たる熱気。歓喜も哀愁も怒気もありとあらゆる感情が濃縮されたあるべき姿を見せるとその反応を見ながらイクスはまたしても不器用な方法を取ってしまったヴァッシュに呆れるように首を落とした。

 

「相変わらず損な生き方しかできないんだから…」

 

 長らく行動を共にしていた彼女はヴァッシュの行動の意味を察するのに時間はかからなかった。死銃は勿論のこと、先のキリト戦においても互いの攻撃によるダメージがリアルに伝達する現象が起きたことから決勝戦では最後の1人となるまで殺し合いを演じることになる。ならばとヴァッシュが取ったのは賞金首でもある自分の身を晒すことで各プレイヤーに共通の敵を作り出すことにあった。

 

 死銃を倒し、シノンを救う。それさえ考えていればいいものをこの男が持つ命の天秤はけしてどちらかに傾くことは許さない。

 

 

 

「…クックック…!やっぱり最高だぜ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード…!!」

 

 

 負けじと笑い声を上げた闇風は即座にヴァッシュの元へと駆け出していた、それが罠であるかなどという考えなど微塵も持たずに。ただヴァッシュとの対戦は誰にも譲りたくないという童心にも近い感情が身体を突き動かしていたのだ。

 

 

 と、弾道予測線(バレットライン)が前方より自身に向けられることに気づく、その先には遠目からでも大柄であると分かるプレイヤーがその銃口を向けていた。フェイスガードが施されたヘルメットをかぶるその姿はまるで「イノシシ」、BoBでは過去大会においても上位入賞を果たしている強豪『シシガネ』。両手に構えた短機関銃ヤティを闇風に向けるとその引き金を引く。

 

 斉射された銃弾は幾層もの弾道予測線(バレットライン)となり闇風の前方を覆い尽くす、対する闇風は動かす足取りはそのままに腰を低く落とすと『ギア』をひとつ上げた。

 

 

 瞬間、闇風の背後ではF1のアフターファイヤーと同等の爆発音と爆炎が起こる、それは比喩ではなく実際に起こった現象であった。ヴァッシュとの出会いから極限まで磨き上げた機動力(アジリティ)をさらに練磨した闇風は来るべき決戦に備えてあるレア装備を追い求めていた。

 

 装備者の機動力を爆発的に高めるブーツ『ボルケーノ』、その名の由来となった魔物からドロップできるレア中のレア装備であり、その生息域である火口エリア、ボルケーノ自身の強さもあって入手は極めて困難であると目されていた。だが対ヴァッシュ戦を迎えるために闇風は細心に細心を重ね、幾重にも張り巡らせた罠を使い泥臭さを演じながらも単身でこれを撃破。第三回BoBを迎える2日前のことであった。

 

 元々は重火器装備による荷重ペナルティを緩和するために用意された救済的装備の位置にあったが他を犠牲にしてまで高めに高めた闇風の機動力(アジリティ)と合わせることでその速度は最早音速を越え、光速の領域に達しているといっても過言ではない。

 

 それを証明するかのように闇風は自身に向かっていく銃弾の雨を左右いずれかに旋回することなく正面から『八の字』を描きながら前進する、それはシシガネの持つヤティから放たれた銃弾の初速に匹敵するほどの機動性を肉体に宿していることを意味していた。事実、シシガネは弾道予測円(バレットサークル)に捉えていた闇風の姿が爆発音とともに消え去ったことに気づくまでコンマ1秒の時間を要した。

 

 そのコンマ1秒を迎える頃にはシシガネの四肢は蜂の巣にされ、その背中から200m先にはヴァッシュの元へと駆ける闇風の姿があった。繰り返すがコンマ1秒の間の出来事である。

 

 

 

 プレイヤー名『シシガネ』、彼はGGOにおいて生命力(バイタリティ)に特化した典型的な防御型のスタイルの持ち主でありさらに火力を犠牲にすることで対光学銃防護フィールドと対実弾銃複合アーマーを纏うことで堅牢な防御力を誇っていた。それは急所に命中すればほぼ必殺の世界において驚異的といえる。特にBoBを含めた対人戦において『死ににくい』というのは単純な強みでもあった。

 

 奇しくも闇風とシシガネ、いずれも長所を極めに極めた両者の対決と決着は一瞬にして始まり、そして一瞬にして終わった。

 

 結果のみを語るのであれば闇風の圧勝だが実弾の直撃すら耐えうるシシガネを火力に乏しいキャリコで退けたのは銃弾の雨を掻い潜り、超至近距離まで接近した闇風の「覚悟」によるもの。

 

 機動力(アジリティ)に特化した代償に闇風の生命力(バイタリティ)は初期値のまま、ハンドガンを4,5発その身に受ければ体力値が0になるレベル。闇風が敢えて生命力(バイタリティ)にスキル振りを行わなかったのは自身のスタイルへの絶対的な自信と人は簡単に死ぬという覚悟を持って臨んでいたことにある。ヴァッシュやシノンとは異なるが彼も銃の恐怖を理解していた。

 

 

「俺は…闇風だ…!」

 

 自身を鼓舞するかのごとく名乗りを上げた闇風はヴァッシュの待つ廃墟へとさらに加速した。

 

 

 NEXT bullet




まさかの闇風回…。
次回はペイルライダー回…?

次回もナルハヤで頑張ります!
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