仮に今、文明が滅亡したとして、新たに地球が生まれ、新たに命が生まれるとする。そして再び『人間』という個体が生まれた時、果たして以前と変化があるだろうか?恐らく人間は再び同じ歩みを進めていくだろう。生物として刻まれた闘争という本能がある限り・・・・。
獣は知っている。獲物を狩るときに必要なものは攻撃性や俊敏性ではないということを。確実に獲物を仕留めるうえで最も重要な事は『待つ』ことであるということをその遺伝子に刻まれていた。故に捕食者が生まれ淘汰される者が生まれる。その構図は食物連鎖となって指標され、強き者が生き、弱き者は死ぬという絶対的なルールが形成されていった。
「・・・ふぅ・・・ふぅ・・・。」
自分の呼吸や心拍音を鋭敏に感じながら
やがて標的は肩にかけた銃を下ろすと、両手に構える。悟られたのか、いやそうではない。それは警戒のための態勢であった。周囲を見渡した標的は危険がないことを確認すると瓦礫となった建屋に身を潜める。どうやら所持品のリストをチェックしているようだ。ここに来るまでにレアモノを入手したのだろうか?逸る表情が
「・・・丸見えよ。ここからならね。」
そして少女はゆっくりとトリガーに指をかけ
放たれた弾丸は寸分の狂いもなく男の後頭部の正中線を撃ち抜く。標的を定めてからここまで15分ほど。銃口から放たれてから着弾までコンマ1秒にも満たない。まさに一瞬の決着。
「・・今日のノルマ達成・・と」
そう小さく呟き少女は笑みを浮かべる。自分の身の丈の倍近い銃器『PGM ヘカートⅡ』を構えるその姿は荒れ果てた荒野と硝煙が混じる世界において神々しさと見紛うものであった。
今日の狩りはここまで・・少女がその場を後にしようとすると、夕日がかかる荒野に一筋の影が現れた。
「・・・ッ!敵ッ!?」
すかさず少女は身を深く落とし、構える。彼女の持つ銃器『PGM ヘカートⅡ』は狙撃用の大型ライフル。その精度は折り紙つきであるが敵に接近を許してしまうとその大きさが仇となる。故に接近はおろか、その姿を視認されることだけでも致命的であった。
もし先程の射線軸を把握されていたらこの高台から逃げ場所はない。やり過ごすのではなく、仕留めることを目標に少女は
「・・なにやってるの・・あれ・・?」
思わず声にして呟く。やがて夕日が陰り、幾分か逆光が弱くなったことで人物像が徐々に鮮明となってきた。顔は丸型のサングラスをかけているので不明だが体格からして恐らく性別は男だろう。真っ赤な派手なロングコートに・・髪は金髪。そしてその髪は真っ直ぐに逆立っていた。
「なんなの・・?あの変なアバター・・!?それより・・」
男の奇妙な出で立ちよりも気になったのはその行動。両の手を小刻みに揺らしながら腰をくねらせ左右の足を交互にクロスさせながら歩を進めている。その姿はまるで・・。いやまさか、そんなはずはないと左右に首を振った少女は気を取り直して再び
「・・・ッ!!アイツ・・ふざけて・・ッ!」
怒りを露わにした少女は照準を定める。許せなかったのだ。自分の心血を注いできたこの戦場をあのような真似で汚されたことに。先程までの冷静さを欠いてはいたがいつものルーティンワークをこなすことで徐々に落ち着きを取り戻したその眼光は真っ直ぐに男を捉えていた。激しく体を動かしている為、頭部への狙撃は困難を極める。脳天を撃ち抜きたいという本心を奥に潜めた少女は男の胸に照準を合わせる。一撃で仕留めるつもりはない。まずは動きを止め、動かなくなったところに渾身の一撃を脳天にお見舞いする。頭は冷静でも心は煮えたぎっていた少女はトリガーを引く。そして男が動けなくなった時を狙いすぐさま次弾の装填を開始する。
「これでトドメ・・・ッ!?なんで・・!?」
少女は驚く。装填を終え、再び
少女は下唇を噛む。隙だらけの標的相手の狙撃に失敗・・これ以上ない屈辱であった。次は外さない。その決意を胸に再び照準を男の胸に合わせるとトリガーを迷わず引いた。だが即座に次弾の装填はしなかった。悪い予感があったからだ。狙撃の瞬間、男は体を右に大きくくねらせていた。まさかそんなことがあるはずが・・。その不安があった少女は肉眼でハッキリと見た。男が未だに健在であることを。
「まさか・・躱されたの・・!?」
一度ならず二度までも標的を外したことはこれまでに一度たりともなかった少女は目の前で起きたことが信じられなかった。恐らく第一射も先程と同じように外れたのだろう。しかし一度目はあっても狙撃に特化したヘカートⅡで二度も外すことは自分の腕が否定していた。そんなことは有り得ないと。意を決した少女はその場から勢いよく立ち上がり、ヘカートⅡを携行しながら高台を駆け下りていく。狙撃において有利である高所を捨て自分は何をしているのか?それは少女自身にも分からなかった。あの男だけは必ず撃ち抜く、その思いが少女の体を動かしていたのかもしれない。
やがて男との距離が数百mまで縮まった地点で少女は銃を構える。確実に標的を撃ち抜くために。だが解せないことが一つ。お互い肉眼で把握できるまでの位置にいるにも関わらず男の足は止まっていなかった。それどころか未だにその動きは小刻みに動いている。
「・・どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのよ・・あんたはぁぁ・・!」
今度と言う今度は怒りを隠すことなく、少女は銃を放つ。その目標は男の足元手前にある配管。着弾の衝撃で破損した個所から大量の水が噴き出る。その光景を見た男は遂にその足をとめた。そして、耳にかけていたイヤホンを外すと、サングラスをゆっくりと額に上げる。その視線の先には銃を構える少女の姿。
「どう?これで無視できなくなったでしょ?」
「・・・・・・・・。」
遂にこの男の目を自分に向けさせた。本来であれば誰にも気づかれることなく獲物を仕留めるのが狙撃手の本懐であるにも関わらず少女には不思議な嬉々があった。
一方、男はサングラスを上げた右手はそのままにその場に立ち尽くす。静かな荒野によほどの大音量だったのか、イヤホンからドラムの音が響いてくる。
少女は一時も油断はしていなかった。もし先程の狙撃を二射とも『躱されていた』のであれば脅威と言わざるを得ない。その証拠に銃を構える自分を前にして男は逃げようともしなければ銃を抜こうともしなかったのである。
「・・どこまで余裕のつもりなの・・!?」
「・・・・・・・・・。」
業を煮やした少女はトリガーに力を込める。そして銃弾が放たれようとしたその瞬間、
「ぎゃあああぁぁっ!!?う、撃たれるぅぅぅっ!!?あ、あわわ・・!あ、足がすくんで動けないィィッ!?」
「・・・は?」
突如として男は惨めと言う他ない叫び声をあげた。その姿に少女も思わず口を開けたままになる。
「お、お助けくださぁぁいっ!?ヘルプ!ヘルプミー!ぁぁぁあ!!」
「い、一体なんなの・・!?この男・・!?」
それが「男」と「女」の出会いであった。
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ひとまずプロローグ終了というところです。
ヴァッシュの射撃は次回以降で。