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『勝者』と『敗者』、両者の関係は唯一つ。その字の如く勝ったか敗れたか。それは言葉を換えればどのような事象にも当てはまる。
子供同士の張り合いでもいいだろう、互いに励み合い切磋琢磨しあうための試合でもいいだろう。
人の生には常に勝負が付きまとう、当人が望もうが望むまいが。
勝者は賞賛され、敗者は蔑まされる。それが世の常だ、ならば勝負の延長に『死』があったとしてもその概念は変わらないのだろう。
いつの世も勝者が正義であり、敗者が悪と歴史には刻まれている。その裏に真実が隠されていたとしても我々は決して気づくことはない。
勝者である生者が語る舌を持つのに対し、敗者である死者は語るべき舌を持たないのだから――――。
……………
人体を模した的の中心を一発の銃弾が射抜く。動かぬ的とは言え発砲距離にして50m強、極めて正確な射撃と言える。
それほどの腕を持ったガンマンは驕ることなく冷静に次弾に備えて射撃体勢に入る――のだが。
「見てください!シノンさん!真ん中!ど真ん中ですよ!」
まるでテーマパークの射的ゲームに挑んだかのようにカノンが射抜いた的を指差し飛び跳ねる。その視線の向かう先には銃の師にして友人でもあるシノンの顔があった。
「一発当たったぐらいで浮かれないで、カノン。それにトリガーに指をかけたままはしゃがない!」
不出来な弟子に喝を入れるとカノンは慌てるように再び射撃体勢へと入る。その姿にやれやれと溜息を吐いたシノンだったが、内心は晴れやかである。
出会った当初こそコルトガバメントに振り回されるような危なかしさを纏っていたカノンであったがシノンが指導についてから一週間にしてこの成果は目覚しいものがあった。勿論指導者であるシノンが優秀なガンマンであり的確なアドバイスを送っていたこともあるが真綿が水を吸収するように一挙手一投足が様になっていくカノンの才はそれまでシノンが知ることのなかった教え伝える喜びを与えた。
我流で射撃を覚えなかったことも幸いしてカノンには特段癖もなく、またシノンを慕う素直さから傍目には厳しい指導と受け取れる訓練も至上の喜びとして臨んでいった。
「――はい、今日のノルマはおしまい」
「えぇ?まだ私出来ますよ~!?」
「調子に乗らない、実戦ではたった一発で勝負が決まることなんてザラなんだから。数をこなせば上達するなんて素人の考えよ」
自転車に乗ることを覚えたばかりの子供を嗜めるようにシノンはカノンに諭す。何事も覚え始めの頃が肝心、という世間一般の常識を持ち出したわけではない。銃撃戦において一発の弾丸は敵を殺すためのものであると同時に己の身を守る盾にもなる。正確な銃撃を身につけ始めたカノンだからこそ目標に対する意識が高くなる反面、守勢に回る意識が低下していると捉えたシノンは必要以上の射撃を許さなかった。
「む~~!!」
「はいはい、続きはまた明日。……今日は何食べよっか?」
頬を膨らませあからさまに不機嫌を示すカノンに対し、小さく溜息を吐いたシノン『いつも』の言葉を告げる。射撃訓練を終えたあとに恒例となっていた出店廻り、カノンと出会った初日にクレープを食べてからというもののシノン自身、密かな楽しみであった。それを射撃訓練後の息抜きというもっともらしい理由をつけているのがなんともいじらしい。
「そうですねぇ……、じゃあ今日はドーナツ食べましょ!レンタルバギーのすぐ近くにあって……ってシノンさん、どうかしたんですか?」
「う、ううん!何でもない!……出来ればドーナツ以外がいいかな、なんて」
喜々としてドーナツショップへと誘ったカノンだったがシノンの表情が明るくないことに気づく、対するシノンは平静を装いつつもドーナツショップへ行くことを渋った。
……………
(シノンちゃ~ん!ドーナツ買ってってもいいでしょ?)
(そんな時間ないわよ!早く出発しないと出遅れちゃうでしょ!?)
GGOにログインする度にヴァッシュは行きつけのドーナツショップへの寄り道をシノンに求めたが、毎々トラブルを巻き起こしてきたこの男の為に人目を忍んだ場所でのログインを余儀なくされてからはわざわざドーム中心部へと赴く時間が惜しかったシノンは駄々をこねるヴァッシュの首根っこを掴み引き摺りながらフィールドへと向かう、それが二人の日常であった。
……………
――今となっては随分と久しい。そこに行けばもしかしたらと考えたシノンだったがこの数ヶ月ですっかりお尋ね者扱いとなったヴァッシュがドーナツを買うためにわざわざ侵入してくることもないと首を振る。
それならとカノンが指差した先に見えたのはメインストリートにある小さなオープンカフェ。4つほど丸テーブルと椅子が置かれている程度だが中々に小洒落た雰囲気でもあったのでシノンも賛同するとカノンと肩を並べる形でメインストリートを歩く。
BoBまで2週間を切り、殺伐とした雰囲気が漂うメインストリートを女性プレイヤーが連れ立って歩く。そのうちの一人がGGOトッププレイヤーともあれば否が応にも周囲の視線を集めた。
「シ、シノンさん……、なんかあちこちから視線を感じるんですけどぉ……」
「いちいち気にしてもしょうがないわ、皆BoBが近いんで殺気立ってるのよ」
シノンの背中に隠れるように縮こまるカノンに対し、シノンは至って平常心、むしろリラックスさえしている。つい3日前までは周囲の連中と同じように触れるもの全てを切りつけるような鋭い目をしていたとはおよそ想像がつかないほどに。
「私はアールグレイにします、シノンさんは?」
「そうね……、カモミールにしようかな」
カノンが最初にメニューを決めたあとにシノンが続く、これも恒例となっていた。シノンは相変わらず自分の選んだ品がおかしなものではないかカノンの顔色を窺うように目を泳がせる。カノンはこの時だけは自分に主導権があることに優越感を得ると同時にシノンの初々しい反応を楽しんでいた。
「――それで昨日見た番組がとても面白くて!」
「へぇ、そんなに面白かったんだ?」
手元のカップから漂う紅茶の香りを楽しみながら二人は何気ない会話を楽しむ。二人が座るテーブル席から右手5m先の通りにはいかつい男達がそれぞれの銃を腰に下げ闊歩している様は傍から見ても奇妙なものである。二人の横を通り過ぎる度に道行くプレイヤーが不思議そうに視線をよこす。
それまでGGOに数少ない女性プレイヤーというだけで軟派な輩から邪な視線を集めてきた、加えてトッププレイヤーとして名を挙げた頃には嫉妬や敵意のある視線も集めてきた。いずれも不愉快極まりなかったが今この時において自分に向けられる視線は寧ろ心地よくさえある。オープンカフェでティーカップを片手にGGOとは無縁の話題で盛り上がる、その姿は『シノン』ではなく『朝田 詩乃』そのものであった。
「ところでカノン、気になってたんだけどその首のマフラー……」
「あ、分かります?シノンさんの真似てみたんですけど」
はにかみながらカノンは首元のマフラーを手に取る、シノンと同じく腰まで伸びるそれは彼女がいかにシノンを慕っているかの表れでもある。ただ一つシノンが気に留めたのは自身と同じく白いマフラーではなく相反する黒であるという点。
「趣味悪くない、それ?」
「え~!?でも、黒って格好良くないですか?ほら、SAOやALOで有名な黒の剣士だって全身黒づくめって噂ですし!」
ファタジー要素の強いSAO、ALOには興味のなかったシノンでも『黒の剣士』の噂くらいは耳にしている。もっともGGOの世界に生きる自分にとっては関係ないとメインストリートに顔を向けたシノンはその先から手を振るプレイヤーに気づいた。
「シノン!カノン!」
二人の名を呼びながら近づいてきたのはシュピーゲルだ。シノンとカノンが出会った日に偶然ログインしていたこともあり親交のあったシュピーゲルは当然のように二人の隣に席につく。
「こんにちわ!シュピーゲルさん」
「こんにちわ、今日も元気だね、カノン。シノンもご機嫌そうだね」
「……そんなに浮かれた顔してた、私?」
「うん、遠くからでもすぐにわかったよ」
シュピーゲルこと新川恭二 少年は喧騒とは無縁のこの時間がとても気に入っていた。
くわえて女性プレイヤー二人を脇に両手に花という状況に他プレイヤーから寄せられる嫉妬の視線が堪らない快感を彼に与えていた。それは思春期の少年であれば至極当然の感情であり、シュピーゲルの独占欲が邪なものであったとしてもそれは健全なものである。
「おいおい、いつからGGOは恋愛ゲームになったんだ?」
その言葉を持って、シュピーゲルのひと時は唐突に終りを告げる。声の先には大男と小男の二人組がシノン達の前に立つ、その二人組に覚えがあったシノンは隠すことなく不快感を顕にした。いつかの酒場で絡まれたあの二人組に懲りもせずよくもと思いながら深い溜息と一緒に苛立ちを吐き出す。
「どこかでお会いしたかしら、お二人さん?」
「あぁ”!?」
シノンにとって言葉を和らげたつもりだがいつぞやと同じく二人の逆鱗に触れたのか、両者の間で再びの火花が散る。だがシノンにはそんな暇はなかった、否惜しかった。この安らぎの時間を奪われることに。
「……いえ、悪かったわ。今は争うつもりはないの」
シノンの口から謝罪の言葉が出たことに一瞬毒気を抜かれた男等であったが、驚嘆はすぐに嘲笑へと変わる。
「聞いたか、兄弟?あのシノンが謝りやがったぜ!?」
「冥界の女神も落ちたもんだなぁ!?」
下卑た笑い声が通りに響く、シノンは言葉を返さなかった。血の気が引けば男たちもここを去るだろう、自分が耐えればカノンやシュピーゲルにも迷惑をかけることもない。震える両手の拳を握り締めながらシノンはすっと瞳を閉じた――その時。
「何なんですか、貴方たちは!?黙って聞いていればさっきから!!」
声を荒らげたのはカノンだった。大人しそうな外見からは想像もできないほどの怒声にシノンやシュピーゲルも含め、その場にいた4人が思わず肩を震わせる。
「なんだ、テメェ!誰に向かって……」
「貴方みたいな、いかにもヤラレ役みたいな人なんて知るもんですか!!」
息巻く男らをも飲み込むカノンの剣幕は凄まじいものがあった、相手の言葉を聞き入れる前にその2倍、3倍の言葉を持って
「――こうなったら決闘しかないですね!!シノンさん!?」
「え……?ちょ、ちょっと待ってよ……!」
互いの応酬が一段落したところで、呼吸を整えたカノンが放った一言はシノンが願った顛末の真逆をゆく喧騒へと誘うことになる。シノンは溜息を吐きつついつぞやの時と同じ懐かしさを覚えながら、これが終わったら改めてカノンやシュピーゲルと何かを食べに行こうと考えていた。
――タッグ戦を行うためにドームへ向かうシノンには知るべくもない。
気分は開放的な季節へと突入ですが、話はドンドンと鬱々としたものに。。
次回は丁度本作品投稿開始から1年を迎えている頃だと思います。
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