トライガンゲイル・オンライン   作:ばうむくうへん

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bullet 5 決闘(前編)

人間の闘争本能が野生の獣と等しいものであったならばその歴史は瞬く間に閉じているだろう。だが人間には知恵と共に己を律する理性を備えていた。他者を傷つける行為を愚かであり、悪であると理解できる心を持っていた。

 

しかし己の名誉を、あるいは他者を護るために武器を取る『誇り』を人間は持っている。

 

そして知恵と理性を持って闘争に身を投じる『決闘』が世に生み出されてから随分と久しい・・。

 

 

 

 

「シノンをやる前にまずはテメーから血祭りにあげてやらぁ!!」

 

酔いつぶれ、テーブルに突っ伏している男に向かい細身の男がトリガーの指に力を込める。そこにシノンが割って入る。

 

「待ちなさいよ、こんな酔いどれ相手に銃を向けるなんてガンマンとして恥ずかしくない訳?」

 

高圧的な態度と言葉を相手にぶつけるが、今度は勢いによるものではない。横暴な行為に対して、真摯に否定の言葉を選んだ。あえて「ガンマン」というもっともらしいワードをつけたのは『この後』の挑発の為。

 

GGOの利用者は現実世界においても無類のガンマニアに加えてサバイバルゲームを愛好している者も非常に多い。故に本流から外れた行為をする輩には運営以上に他プレイヤーからの圧力が非常に厳しい。ましてやトッププレイヤーであるシノンに公然とその行いを否定されたとなれば、チンピラの男二人は今後GGOにおいてはみ出し者として扱われるだろう。事実として過去にデマ情報を配信し自分に有利な状況を作り出したプレイヤーに対して徹底したマークが付けられ、戦場エリアに出た瞬間に多人数から襲撃を受けるといった報復が連日続いた。その後、そのプレイヤーがどうなったかは想像に難くない。

 

この場を収めるという意味ではシノンの取った行動は正解だった。酒場の連中はチンピラの取り巻きを含め、シノンの言葉に共感した。男を救う、という目的であれば彼女の願いは達成されたが、まだ一つシノンには果たさなければならない目的があった。丸腰だったとはいえ、こんな低俗の輩に殺されかけ、あの金髪の男に救われたという事実が許せなかったのである。シノンが装備リストを開き武器を選択すると、無の空間からヘカートが彼女の手元に召喚された。それを見て歓喜する酒場の客たち。シノンが公の場で武器を装備することなど滅多にお目にかかれない光景だったからである。シノンは銃身を起こし銃口を男の前に突きつけ言葉を放った。

 

「・・・決闘よ。」

 

その言葉に酒場の客たちのボルテージは最高潮に達した。トッププレイヤーのシノンが『決闘』を申し込んだ。その現場に立ち会えたのだから。一方、細身の男はみるみる顔が青ざめていく。相手は屈指の実力者。かといってここで退けば「臆病者(チキン)」として今後周囲から罵られることになる。視線をしどろもどろさせていると、片割れだった大柄の男が前に出る。

 

「へへへ・・俺が受けてやろうじゃねぇか!?」

「おお、兄弟!」

 

少女は考える。自分を前にしてこの余裕。余程自分の腕に自信があるのか、それとも只の馬鹿か。

 

「なら、こっちも獲物を変えねぇとなぁ!!」

 

意気揚々と叫んだ男はシノンと同じく装備リストを開く。どうやら武器の変更を行うようである。切り替えが済み、男の腰に構えていた銃が消えると、正面に変更された武器が転送されてくる。それを見た観客、そしてシノンは目を見開いた。

 

男が右肩に構えるそれはSMAW、いわゆるロケットランチャーである。このGGO内においての戦闘は基本的に対人、対モンスターが主になっているが一部フィールドでは装甲車を相手取ることもある。その為シノンが持つヘカート然り、数多くの対物兵器が存在している。そのどれもが一般的に店舗で購入するにはあまりにも高価であったり、一部のモンスターを討伐した際に稀にドロップするレアモノとして扱われているのがほとんどであった。男が構えるこの兵装は店舗でも扱いがあるものであるが、その価格は数百時間を金策に費やしてようやく手が届くほどのものであると言えば理解できるだろう。

 

「今日、ようやくコイツを手にしてな。それで祝杯をあげてたって訳よ!」

 

周囲に見せびらかすように高々と掲げて見せる。存在は確認していても実際に装備しているプレイヤーを見るのはシノンも初めてだった。先程の余裕はこの為かと理解した彼女は改めて大柄の男に銃口を突きつけ決闘を宣言する。男は笑みを浮かべながら砲口を突きつけられたヘカートの銃口に重ねた。これがGGOにおける『決闘』の申し込みと受諾であった。酒場内は再び歓喜の声が響き渡り、その声を外から聞きつけたのか通行人のプレイヤーが続々と酒場に入ってくる。メインストリートではない小規模の酒場でおよそ百を超える観客が集う。

 

「それじゃあフィールドは廃墟区にさせてもらうぜぇ!」

「・・・お好きにどうぞ。」

 

『決闘』は申し込まれた側に戦場エリアを選択する権利がある。男が選んだのは高層ビルが立ち並ぶ廃墟区。遮断物が多いため狙撃手であるシノンにとっては不利と思われるが、逆に狙撃ポイントも数多くある為、寧ろ好都合と呼べるステージでもあった。

 

一向は酒場を出ると最寄りのドームへと向かった。ドームとはクエストや探索・討伐に向かう者たちの出発地であり、それぞれ任意のフィールドへと繋がっている。決闘を行う際にはこのドーム内に設置してある決闘専用のサーバーを利用する必要があった。

 

 

次に両者は介添人を選択する。これは一方が劣勢になった際に強制ログアウトを抑止するための運命共同体であったが、しばしば妨害や介添人を交えた乱戦もあるため近々アップデートでこの介添人制度は見直される予定である。

 

「当然俺には兄弟がつくぜ!シノン、おめぇはどうすんだぁ!?」

 

シノンが周囲を見渡し、介添人を探そうとするも観客は皆、その視線を逸らしていた。

介添人に指名された者は決闘者と運命共同体。つまり決闘者が敗れれば当然その介添人も敗北となる。この決闘は死亡か戦闘不能となった時点で決着が付くものであるため、必ず死亡するものではない。しかしシノンの相手が手にするのはゲーム内でも屈指の破壊力を誇るロケットランチャー。身体能力値を任意に振り分けできるこのゲームではあるが、たとえ体力値に最大限振り込んでいたとしても恐らく一撃で死亡することは誰の目にも明らかであった。シノンの敗北=死であると分かっている以上、本日の成果をふいにしたくないと誰も介添人を買って出なかった。

 

「おいおい?介添人が居なくちゃ決闘は始められないぜ?」

「くっ・・・!」

 

大勢の前で啖呵を切った以上、介添人を立てられないで勝負をなしにするのは御免である。少女は必死に誰か介添人を引き受けてくれる人を探すもその反応は薄い。もはやこれまでという時、またもやこの場に不釣り合いな声が響き渡る。

 

「ちょっと~!皆してどっかいっちゃうんだもん!!置いてかないでよ~!!」

 

もはやいわずもがな。金髪と赤のコートの男だった。まだ酔いが抜けていないのか、千鳥足でフラフラしている。その光景にドーム内のプレイヤー達が目を細めていると、シノンが男の前に立ち腕を掴んだ。

 

「あんた、介添人やんなさいよ!元はと言えばあんたのせいなんだからね!?」

「あ、シノンちゃ~ん!なにか面白いことやるの?僕も混ぜてよ~!!」

 

この反応を見る限り、絶対に状況を理解していないであろうことは分かっていたがこの際背に腹は代えられない。金髪の男を介添人に仕立てた少女は決闘用のリングへと戻った。

 

「おいおい!そんな酔いつぶれが介添人で大丈夫かよ!?」

「十分よ。どうせすぐに終わるんだしね。」

「・・ッ!このアマァ・・!!」

 

安い挑発にも関わらず、男は頭に血の気を上げている。どうやら決闘前の舌戦は少女に軍配が上がったようだ。

 

「それではただ今より、両者合意による決闘を開始いたします。」

 

中央のモニターに決闘開始のアナウンスが表示される。そして少女と大柄の男を中心とした世界が切り替わっていく。再び世界が構成されると周囲一面が廃墟と化した市街地に切り替わっていた。

 

乾いた風が吹き抜ける中で少女はゆっくりと目を開く。自分の場所は市街地の外れのようだ。一方相手の男は少女の位置より真向い、距離にして10㎞ほどだろうかの位置にいる。

 

銃の決闘と言っても西部劇のような早撃ちや後ろを向いて5歩歩いたら、などというものではない。広大なフィールドで地形を活かした戦略と戦術の勝負は既に始まっている。少女はすぐにその場から最寄りの廃墟のビルを駆け上がる。スナイパーにとって最大の武器はその射程にあった。男がいかに強力な武器を備えていようとも、接近される前に撃ち抜けば何も問題はない。屋上部まで到達するとすぐさまヘカートを構え腰を下ろす。無策でこのビルを選んだわけではなかった。相手の初期位置を考え、こちらへの進行方向を割出し最短かつ最適の狙撃ポイントを瞬時に計算していた。これがGGOという限られたフィールド内でスナイパーとして培ってきたシノンの経験。そして彼女の強さでもあった。

 

この位置ならどの方向からでも狙撃できる。いつものように右人差し指をクイックさせる。この決闘の過程がどうであれ少女には関係なかった。この時の自分の頭と心にあるのは常に一つのことだけ。必ず相手を殺す、と。

 

とその時、突然轟音が響く。とっさに照準器を覗くとそこには5㎞ほど離れた地点だろうか。廃墟ビルの一角がすさまじい爆音と共に崩れ去って行く光景だった。

 

「まさかアイツ・・!?このフィールドのビルを片っ端から壊していく気!?」

 

そのまさかであった。男の放ったであろうロケットランチャーの威力は20mほどの高さのビルを倒壊させるほどの威力を持っていた。ドミノ倒しのように次々とビルが倒壊していく。

 

それを見る限りではまだ自分の場所が特定されているわけではない。それはあちらも同じ・・ではない。向こうはただ目に付くビルめがけて砲撃をするだけでいいのだ。シノンがスナイパーであるがゆえにビルの屋上から狙撃を試みていることは男にも感づかれているであろうことは分かってはいた。が、まさかこんな強引な方法で来るとは思わなかった。

 

シノンは焦ると同時にあの金髪の男の顔がよぎった。この爆風の中、あの男は無事なのか?まさか巻き込まれているのではないか?

 

そして酒場の時と同じように首を振る。そんなことはどうでもいい。この場を切り抜けることだけを考えろと自分を叱咤する。しかしあの男が爆発に巻き込まれ死亡すれば当然自分も死亡扱いとなる。それだけは勘弁してほしかった。

 

「・・せめてどっかで生きてはいなさいよね・・!」

 

少女なりの最大限のねぎらいの言葉を呟くと再び照準器を覗きこむ。最早、ビルから地上に下りるだけの時間はない。こうなれば爆破の方向から相手の位置を割出し、狙撃するしかない。しかし忍び寄るかつてない破壊の音にこれまで感じたことのない重圧を少女はその身に感じていた。

 

 

一方、廃墟区の外れでは・・・

 

「ZZZ・・もう食べられないよぉ~…うへへへへ~…」

 

図らずも少女の願いは届いていたようである。

 

 

NEXT bullet




次回、そろそろ・・見せます。
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