遅刻どころから大遅刻、午前中の練習のほとんどをサボってしまい、いったいどんな罰がくるのかと白鳥翠華は戦々恐々としていた。梨里須に課せられた過去の罰は、思い出すだけで憂鬱になる。そんな気分ダダ下がりといった内心で、学校の校門をくぐる一歩が重く感じる。
ファラフェル女学院と名前が書かれたアーチを一歩進みくぐる。朝食前までは余裕綽々といった脳裏でも既にレッドアラートが鳴り響いている。学校へ向かう道中にスマホのメッセージを確認していたのだが、気づいていなかっただけで何回も通知が来ていてからだ。
メッセージの中にはふるぼっこのボコボコにされた、怒ったくま(ボコというらしい)のスタンプがあり、渡鳥姉妹も相当お怒りらしい(スタンプのせいで困惑するが)
戦車が置かれている車庫に向かうため校舎の裏側にある練習場へと進む。車庫は練習場の先にある
そして練習場の入口にはクロムウェル巡航戦車と爽やかな笑顔で梨里須が大遅刻したその戦車の砲手を出迎える。自分が学校に着いたことは事情を知っている誰かが連絡していたのだろう。圧迫面接官もかくやといったプレッシャーぶつけてくる。
「……おはようございます」
「おはよう~♪ 翠華ちゃん……早速だけど乗って貰えるかしら」
「はい、よろこんで」
「ふふ、蛇に睨まれたカエルみたいに震えなくてもいいのよ?別に取って食ったりはしないから」
「あはは……」
絶対そんなわけがない、この笑顔の裏に感じるプレッシャーは相当のお怒りのはずだろう。もしそうでないならば自分にとって恐ろしい何かを企んでいるだろう。どっちにしろ絶対碌なことではない。
一体何が自分の身に起こるのか、嫌な予感を肌でひしひしと感じながら砲塔のキューポラから梨里須より先に入る。入ったクロムウェル巡航戦車の車内では待っていましたと言わんばかりの渡鳥姉妹がそれぞれの定位置からこちらを見ていた。
「おはよう翠華、大遅刻じゃん」
「うっ、おはよう虎実…」
「おはよう、まあいつものことだけど、遅刻癖直らないよね」
「あはは……うん、おはよう三輪」
痛いとても痛い、姉妹の言葉は徹甲榴弾の如く自身の心を貫いてきっちりダメージを入れてくる。さすがは姉妹、的確に連携して自分の精神を軽く抉ってきた。
「はいはい、二人ともそれは今に始まったことではないでしょう。それより今日はお偉いさんたちが練習の見学に来るらしいから、急いで射的場に向かいましょう…」
「りょうかい~、遅れた分急いで行くけどいい?」
「うふふ、いいわ♪ いつも以上に飛ばしてちゃって、いっそ野球部のグランドも突き進んでも良いわよ…後でたっぷり修繕してもらうから、ね翠華ちゃん♪」
「あはは……」
「ま、自業自得だよね」
大遅刻の代償はなかなかにデカいものを払わされそうだ。せめて被害が軽いものになることを祈るしかない。
自身に伝わるエンジンの振動に揺られながら、照準器を覗いてそう思うのだった。
2
実に5分も満たない移動時間ではあったが、それは莫大な犠牲あってのものだ。障害物という障害を破壊して突き進んだクロムウェル巡航戦車は見事お偉いさんの到着時刻より前に射的場に着くことができた。
照準器からその一部始終を見ていた自分の内心は後始末の被害のデカさと恐ろしさに打ち震えている。今すぐ過去に戻って自分を殴り倒して起こしたくなる程だ。
だが起きてしまったことは仕方ない、兎に角これ以上の仕事が増えないよう全力を尽くさねばならないだろう。
「さて、他のメンバーたちも揃って居るみたいだから、私たちも降りていきましょうか、翠華ちゃん副隊長として、出欠の確認お願いね、あの子たちは良い子だから心配はいらないでしょうけど…私は学院長と話しを少ししてくるわね」
「う、了解です……」
「まあ、副隊長以外は皆、遅刻はしたことないけどね~」
「こら虎実、翠華だって頑張って遅刻はまだ全体の二割ぐらいだし、初等部の頃よりは大分マシになったんだから、あまり言わないの」
「はーい、ほどほどにします~」
「あんた、いっつもそんな態度で人の話をちゃんと聞いてるの!?」
「まあまあ……」
どうしてかこの姉妹はすぐに揉めてしまうのだろうか、頼むから人の過去を大声で叫ばないで欲しい、徹甲弾の如く心に突き刺さるから、チハたんのような心の装甲が砕けてしまう。