学院の練習場の人気のない場所で、私、梨里須は学院長と秘密の会談をしています。
このファラフェル女学院の学院長は残念なことに男勝りの女性、こんな人気の無いところに呼び出された私があんなことやこんなことに、なんてことは本当に残念なことに無いのです。
「今日来るのは文科省の下っ端だが、恐らく例の予算削減のための形だけの視察だろう。既に裏で廃艦になることが内々で決まった艦もあると聞いている」
口を開いて1番に飛び出たのは今日来るお偉いさんについての話らしい。この人は本当に女性なのだろうか、社会常識(梨里須基準)というものを教えてやりたいものです。
ちなみに予算削減というのは恐らく文科省が進めている戦車道の世界大会へ向けて人材を有名校に集中させたいが為の大義名分です。
「と言うことはこの視察は名分ですか」
「そうなるだろうな、だが手は打ってある。しかし視察中はできる限り全力でやってくれ、万が一にも可能性がないと思われれば協力を取りやめる連中が出るかもしれないからな」
既に手を打っているのなら態々呼び出す必要もないと思うのですが…あ、丁度やりたいこともありましたし、少しせびって見ますか。
「できる限りのことはします。とは言え、それなりにインパクトのあるものが必要でしょう」
「ふむ、分かった、弾薬、施設等好きなだけ使うといい。掛かった費用は後で生徒会の連中に提出するといい」
「ありがとうございます。ではそろそろ行きましょうか」
「うむ」
あらあら♪ 簡単に承認してくれましたね、学院長の頼み事のついでに翠華ちゃんの副隊長として実力の証明も出来そうです。
いつも遅刻ばかりしているせいか、翠華ちゃんの上級生たちの評価が良くないのは確か。最近は暗に不満を告げてくることも多くなりました。そして上級生のお気に入りの一年生を副隊長にしようという動きもあります。
私も三年ですし来年には高等部に上がる以上、中等部の隊長は副隊長に就いた子が自然に繰り上げられてなるのがこの学院の戦車道の伝統です。
つまるところ翠華ちゃんは私が見出した次の隊長でもあるのですが、翠華ちゃんは副隊長としていままで指揮を執ったことが一度もありません。それを他の上級生たちは問題視しているのでしょう……次代の隊長として相応しくない、と。
今回の視察は渡りに船。翠華ちゃんの実力を示すのには良い機会になりそうです。
ああでも、罰ゲームも兼ねてハンデを付けましょうか、上級生たちを黙らせる為にはちょっとやそっとのことでは効果無いでしょうから。ふふふ、楽しみです♪
3
戦車道の全員の出欠確認をおえた辺りで、梨里須が学院長と恐らく今日の視察するお偉いさんとやらと戻ってきた。お偉いさんは典型的なお役人のようだ。丸眼鏡に整った髪型と一切の信用のおけない真面目そうな顔。それにしても何処の国も役人、というのはどうしてこう怪しい雰囲気や胡散臭い容姿をしているのだろう。
「みんな集まっているようね、それじゃこの後の練習についてなんだけど…チーム対抗戦になったからよろしくね♪」
『『は?』』
「あらあら♪ 何か言いたいことでもあるのかしら……返事は?」
『『は、はい!』』
「良い返事ね♪」
反論の余地はないらしい。
「……ああそうそう今回私は参加しないからよろしくね♪ 今回のチーム対抗戦は各6両ABチームによる対抗戦、ルールは何でもありの殲滅戦ね」
殲滅戦とは戦車道の国際大会では一般的なもので、すべての相手チームの戦車を残らず撃破するというシンプルながら、時間も掛かるものだ。
普段はフラッグ戦でやることが多い。フラッグ車を決めて、先にフラッグ車を撃破したチームが勝つというもので比較的速く終わりやすい。といってもフラッグ車が全力で逃げた場合は殲滅戦と時間差はあまりない。戦力差があるチームでも勝利のチャンスがメリットと言えよう。
「Aチームの隊長は藻舞子ちゃん……Bチームの隊長は副隊長の翠華ちゃんにやって貰います、ちなみにだけど時間制限付き、時間内に倒せなかったらBチームの敗北だからそこのところもよろしくね」
私が隊長? 時間制限、えっ
「えっ?」
「あと翠華ちゃんの車両は四号車のクロムウェルMkⅤに今回は乗って貰うから、四号車の皆よろしくね」
「えっ?」
「じゃよろしくね♪」
『了解!』
「……勝てるかしら貴女なら、なーんてね」
4
どうしてこうなったのか、あの後話はトントン拍子で進んでいき気付けば大型テント内に作戦会議の為にBチームの各車長が集まっていた。長方形の机の誕生日席とも言われる場所に座らせられ全員が真剣な目で見つめ自分の言葉を待っている。
「えっと、まずは……車両編成から」
「相手チームの編成はクロムウェルMkⅠが3両、MkⅢが2両、隊長車はクロムウェルMkⅤになります」
「こちらの編成はセントーMkⅠが2両、クロムウェルMkⅢが3両、こちらの隊長車もクロムウェルMkⅤです」
「足回りの遅いセントーは連携に難がありますが、全体の火力としては相手と対等」
「でも殆ど上級生ばかりですし、実力面で不安です…」
「それは言ってもしょうがない」
少し聞いただけでそれぞれの車長たちから多くの返事が返ってくる。前世の頃を少しばかり思い出す光景だ。幾度か小隊を率いたこともあったがこうやって集まって作戦会議をしたものだ。むさ苦しい男共に対して整った容姿をした少女たちという違いはあるが。
「それで副隊長、作戦はどうしますか?」
「いやいや、この射的場の地形からして中央の凹みで正面切っての撃ち合いでしょう」
「で、でも相手は上級生ばかりですよ、正面から撃ち合ったら勝てませんよう~」
「……万死一生」
「でもそれ以外に打てる手はないでしょ、相手の方が足だって速いのだしどっちにしろ、正面での撃ち合いになる」
「でも待ち伏せされる、結局不利」
まずは地形から把握するべきだろう。射的場は学院校舎の中央から北までのひょうたん型の地形になっている。射的場の中央部のひょうたんの凹みの西側には射的場に向かうときに通った野球部が使うグラウンド、東側は大きな湖になっており挟まれるような形で戦車がギリギリ通れる森林が存在している。
この森林は学生の間ではアルゴンヌの森と呼ばれているが由来は第一次世界大戦の激戦地だ。連合軍正確にはフランス軍が大戦初期に多数の戦力をドイツ軍が待ち受ける森に突入させ甚大な被害を被った森。
チーム対抗戦では大抵がこの森林でにらみ合いになりやすく、先に突っ込んだ方が多くの車両を失い敗北するためにアルゴンヌの森に突入して甚大な被害を被ったフランス軍を例えてアルゴンヌの森と呼ばれるようになった。
アルゴンヌの森の北側はひょうたんの大きいほうであり平地を挟んで丘陵地帯となっている。射的場と言われるのはこの丘陵地帯で砲撃練習をよく見世物として行なうからだ。
対して南側は移動を阻害する障害物や沼地が点在する複雑な地形となっていて操縦の練習には最適な場所となっている。
西に野球部のグランド、東には湖とどうしても中央の森で戦うしかない。
「それに私たちには時間制限だってある、どうしたって正面で撃ち合うしかない」
「そ、そうですけど」
「私たちで言い合ってもしょうがない、判断は副隊長、チームの隊長が決めること」
……でも中央戦うしか本当にないのだろうか。
いや、梨里須は確かこうも言っていた“何でもありの殲滅戦”って
「で、副隊長どうすんの」
「えっと、皆はガザラの戦いって知っているかな」
『『?』』
恐らく、もし解釈が間違っていたとしても結局後でやる仕事は変わらないだろう。
それに……ここまで不利な状況を用意されて、
その上“勝てるかしら貴女なら”だと
そんなことを少女に言われたら、下手な戦いを男が出来るわけがない……
息子はないがな!