Side 梨里須
チーム対抗戦の流れを見ることが出来る高台に学院長、文科省の役人、渡鳥姉妹の五人とともに観戦のため来ています。
学院長と役人は、学院長が指先で場所を指しながら射的場の解説しているようです。役人は話半分といった感じで適当に頷くだけ、興味はないということでしょう。
「梨里須先輩、質問って良いですか」
「あらあら?ミィちゃんから質問って珍しい、対抗戦のことかしら」
渡鳥姉妹の姉でしっかり者でもある三輪、ミィちゃんと私は呼ぶ彼女。自身の灰銀の髪先をいじりながらあまり落ち着きがないように見える。
「その、どうして翠華をBチームの隊長にして、あんなハンデまで付けたのか」
「あら、不満でもあるの、それとも翠華ちゃんが心配なのかしら」
恐らくは心配の方でしょうけど
「いえ、不満とか心配じゃなくて副隊長に任命してからずっと砲手のままにしていたのに唐突だったので、翠華は未熟だから指揮を執らせてないのだと思っていました」
「う~ん、そうねえずっと砲手のままにしていた理由としてはまあ、翠華ちゃんの実力を正当に評価して貰えなさそうだったからかしら、だって翠華ちゃん遅刻癖もそうだけど普段の行動から周りからの信頼は得られそうになかったもの」
実際上級生からの評価は悪い、砲手としての実力は一流でもそれ以外での能力はダメという周りの印象が普段の行動から勝手に思われてしまっています。恐らくAチームの上級生たちは翠華のことを侮っているでしょう。
「でもそろそろ良いかなって思いまして♪」
一度ミィちゃんから視線を翠華ちゃんのチームに移す。予想通りにこちらの言葉を汲み取ってくれたようです。
「あのどうして……」
ミィちゃんの言葉を手で静止する。
「乱は治に生じ、怯は勇に生じ、弱は強に生ず。地方大会で勝った私の代の上級生たちはこの言葉道理の存在です。大体有名校でもない弱小の学校がたかが地方大会を勝ったレベルで浮かれるような上級生には翠華ちゃんの実力を見極めることはもとより無理難題でしょう。ですから徹底的に圧倒的な勝利で翠華ちゃんには上級生を潰して貰う必要があるということです……それに調子に乗る人間を叩きのめして心とプライドが折られて絶望する顔とか最高じゃないですか♪」
「う、うわぁ……絶対最後の奴が本命だ」
あらあらミィちゃんったら人をまるで危険人物みたいに見る目が冷たいですね。結構傷つきます、マウスのようなガラスのハートに突き刺さります。
Side 藻舞子
私はファラフェル女学院一年の藻舞子、今日は何故かチーム対抗戦のAチームのリーダーをやることになりました。突然の任命に困惑しかありません。同じチームになった上級生に代わって貰えないか聞いたら、貴女が相応しい、謙遜しなくていいから、と言われ結局隊長の任をすることになったわけです。
作戦会議中は、はいと頷くを繰り返すだけのロボットになって隊長なのに口を挟むことも出来ませんでした。とはいっても上級生の先輩たちの方がこの射的場?(演習場のこと)の地形に詳しいですし下手に口を挟むより任せるほうが良いのでしょう。
ただマジノ女学園の強固な防御戦よりイギリス戦車の機動力を活かしやすい一撃離脱や分散配置といった柔軟性のある攻防一体の方が良さそうな気がします。
まあ先輩たちの方が経験はあるそうですし、ここは学ばせてもらいましょうか。
「目標地点に到着しました、作戦通り配置に着いてください」
『了解』
中央の森林まで何の問題もなく移動することができました。こちらの方が戦車の全体の平均速度では上です。もし相手チームがこの中央の森にこちらと同じタイミングで来るには、足の遅いセントーを置いてクロムウェルだけで先行するしかありません。
もしそうだった場合は数の有利な内に各個撃破出来たでしょうが、さすがに相手チームの方はそれを避けたのでしょう。
ですがこちらはその隙に有利な地点に布陣できます。背後や側面を突かれない限り正面突破はできないはずです。
ハッチから顔を僅かに出して上手くいっていることに安心して深呼吸をします。まだ勝った訳では無いのですがずっと気を張っていたので少しだけ緊張をほぐすためです。
息を吸って吐いて、吸って吐くそうして車内に戻った瞬間正面から発砲炎が見えます。
急いで身構えると至近距離に砲弾が飛来。幸い命中弾はなく、至近弾ですみました。
『正面から連中仕掛けてきたぞ、やっぱりあんなちびっ子に隊長なんてありえんって』
『梨里須隊長にどう取り入ったかっは知らないけど、無様な戦いをしたって恥をさらしてやる』
上級生たちは全車で発砲してきた相手に向かって撃ち返します。
「おかしい、全車両で来ているのでしょうか、なんだか攻撃してきているのは2両程度のように思えます」
「いやいや、それはないってわざわざ戦力を小出しにする理由はないし、どうせびびって出てこないだけだって」
本当にそうなのでしょうか、この違和感は一体。
私にはどうしても違和感が拭えない、少し確認しましょうハッチから上半身を出して周囲を見渡して見ましょう。
「おい、危ないぞ」
「大丈夫ですそうそう当たりませんから」
「ったく」
違和感の正体を探すように右左と見渡して全体を確認していきます、しかしその正体を掴むことは出来ません。
「ほら見渡したって何もないだろ、早く中へ」
「もう少しだけまってください」
前でも側面でもないなら、誰もが想像もしない場所……背後
振り返った私の視界にはいつの間に移動したのだろうか、私の乗る同じ戦車と同じ砲身を持つ戦車、クロムウェルMkⅤ、相手チームの隊長車。砲塔ハッチから上半身を出した華奢で同性でも見惚れてしまう容姿をした彼女、副隊長の白鳥翠華
「……か、回避行動、前進してさ」
気付くのが遅すぎました。強力な衝撃が振り回されてしまい、どこかぶつけたのでしょう。最後に意識を失う前に見たのは私の乗っている戦車に撃破されたことを告げる白旗が揚がったことでした。