広大な草原、起伏豊かな大地、しかしてそれを覆う真っ白な絨毯。つまりは雪景色。なので一歩歩けば足首まで沈む。
私は比較的軽い方なので、この程度で済むが視線を横に向けると膝下まで埋まってしまった虎美とそれを殆ど沈んでいない三輪が笑っていた。可哀想に、二人とも。
そんでもって時期は夏の少し前にも関わらずまるで真冬のようだ。漏れる息は白く
試合じゃなければあまり来たくない所だ。
「寒いし、嫌だし、勝てる気しないので、帰っていいですか」
高そうなカップの淹れたて紅茶をのほほんと味わっている横にいる梨里須に割とガチで本気で思っている本音を言った。
「そうかしら?逆に勝てるかもしれないわよ、一応数は互角に揃えたもの、新しい戦車も手に入れたじゃない♪」
わぁ、手本にしたくないぐらい上手い見事な作り笑い。言われて、後ろに振り返るとずらり並ぶ戦車達、ただ練習の時より様変わりしていた。何だが大半がかわいくてちっちゃく見える。きっと体調が悪いのだろう、なので帰っていいですか。
「確か名前はテトラークって言ったかしら初等部用に買ったらしいけど、何とか説得して譲ってもらったのよ?けどそんなに帰りたいなんて、もしかして一日中私と一緒に遊びたいってこと、あらあらまあまあ!!そんなに私を悦ばせたいのかしら♪」
あっ不味い、と気づいた時には遅く。梨里須の鼻先が触れそうなほどの距離まで接近される。どうも不機嫌だったりまぁ月のモノだったりの時は普段より理性のラインが低くなるのか、私のちょっとした態度の何かが琴線に触れると距離感がおかしくなる。大抵の場合、私の男としてのメンタリティ部分が削れていくような目に遭う。
「......ねぇ、やっぱり———「ヤ、確カニ勝テソウダナー、ナノデガンバリマス」
「あら、そう残念だわ」
適当な返しをして後ろに二、三歩下がると梨里須の手が虚しく空をきる。ギリギリだった。
「でも相手はあの有名校のプラウダで使用するだろう戦車は快速戦車BT7M、T34-57、KV-1E、etc...それに対してこっちはテトラークが8両にクロムウェルMkⅦとMkⅤが各一両ずつ。せめて例のやつが直ってたら......」
KV1EやT34-57の相手戦車の分厚い装甲に対して有効な火力を持つのはクロムウェルの75mm砲だけ、しかも正面を貫くことはKV1Eには難しい。
「いまさら無いものねだりをしても仕方ないわ。出来ることを最大限に尽くす。それを考えなさいな」
言うは易し。紅茶を飲みながら言う梨里須に言いたい事はまだあるが、確かにいまさら言ったって仕方ないのだろう。試合は直ぐにに始まるのだから。
***
少し遡って夏休み前の放課後、私と梨里須は理事長室に呼びだされていた。
「まったく困ったものだわ、長期休暇の直前に急に呼び出すなんて非常識よね」
「深夜までグラウンド整備をさせた人に言われても......」
「あら?でも代わりに遅刻を無かったことにしてあげたでしょう♪」
「うぐっ、そ、それは......むむむぅ」
思わず口から出た雑な発言では勝てない。普段の行いのせいでこうして手痛いカウンターを食らうのだ。
「さぁ、着いたわよ。ここからしっかりしてね?戦車道の隊長さん♪」
「う、は、はい」
ちなみにあの演習から戦車道の隊長を梨里須から引き継いだ。私の通っているファラフェル女学院は中高一貫校なのだが戦車道は分かれているのだが、伝統で三年生は早い段階で高等部戦車道に移籍しなければならない。
とはいえ移籍する時期は好きに出来るのだが何故か殆どの三年生は既に移籍してしまった。そして梨里須も一応夏休み明け後に移籍するため副隊長だった私が自然と隊長になったというわけだ。
兎も角、新隊長となってこうして呼び出されたわけだからしっかりしなければ.....
「来たか、待っていた。それで呼び出した訳なんだが、本当に急で悪いとは思っているのだが......プラウダ校との練習試合をしてもらいたい」
こいつは何を言っているんだ?頭の中がおかしくなってしまったのか。思わず真面目な顔と理解不能な顔が合わさって変な顔になってしまった。ついでにツッコミを入れてしまった。さすがに口にはしなかったが。
「それはまた、本当に急な話ですね。まず高等部なら分かりはしますが、それがなぜ私たちの中等部なのでしょう?それに何故今なのです?練習試合で経験を積むにしても既に戦車道全国大会は終わっていたと思いますけど」
本来なら私が訊かなきゃいけないことを梨里須に先に言われてしまった。
「その、だな。つい言ってしまったのだ......」
腕を組んで隠すように目を逸らして言い淀む理事長。いったい誰に何を言ったのだろう。事情を知っていそうな梨里須に横から見上げるようにちらっと視線を向ける。
何かを察したのか、ため息を吐いて答える。
「......予想通りならあの時視察に来ていた文科省の役人ですか。もしかしてこう言ったのですか、我が校の中等部は優秀だからプラウダ校にだって勝てる、という風なことを」
ほとんど合っているらしい。理事長は重く頷いた。えぇ......