NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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11.海兵隊の本懐。

 メインシステムを落とした後、深淵の闇が訪れる。

 冷たくもなければ、温かくもない暗闇の世界。所謂、温度と呼ばれるものが存在していなかった。液体の中に浸けられているようにも感じられる事もあれば、星の見えない宇宙空間を漂っているかのようにも感じられる。分かるのは今、此処には私だけしか居ないって事くらいなもので、不思議と恐怖は感じられなかった。独りぼっちの暗がり、闇に溺れてしまいそうだ。まるで夢心地、自分の存在が闇の中に溶けるかのようだ。

 今、機能は停止している。機械である自分の意識も閉じられて然るべきだ。

 ならば、何故? 自分は今、夢を見ているのか。本当に夢なのか。アンドロイドが見るべきは電気羊の夢であるべきだ。行き過ぎた科学技術の発展は感情と記憶を持ち、自分自身ですらも自分が機械であることすらも希薄にする。機械は人類に従属すべき、なればこそロボット三原則がある。そうした機械の自我を題材にした娯楽作品は多岐に渡り、古くはターミネーター、マトリックスを経て、デトロイト・ビカム・ヒューマンに集結し、更に先の未来まで語り継がれて、語り尽くされた題材のひとつだ。

 今更、そんな事で悩む事はない。

 私は独立型の戦闘支援AI、そのようにリードミーには書かれていた。

 人間は自分が持つ命の意味と価値に思い悩むものだが、私という存在には明確な使命がある。

 故に私という存在は、逆説的に人工物であると言える。

 

 不意に暗闇に光が差し込んだ。

 どうやら目覚めの時が来たようだ。あの0と1の電脳世界に戻り、カメラなどを通じて現実世界を認知する。

 おはようございます。戦闘行動を開始します。

 

「うわっ、喋った!」

 

 カメラに見知らぬ顔が映る。

 特徴的な仮面、ちょっと格好良かった。

 見た事ある顔だ、何処で見たかは分からない。

 見慣れた顔のようにも感じられる。

 

「ミア~! どうしよ、これ! ミア来て~っ!」

 

 情けない声を耳にして、子供の玩具になる前に早くユウに来て欲しいなって思った。 

 

◆

 

 ドズル中将率いる宇宙攻撃軍が公国軍の中核を担っている。その為、宇宙攻撃軍に求められるのは士気と統率であり、将兵には信頼性と確実性を重視する傾向があった。

 対してキシリア少将率いる突撃機動軍は、少数精鋭。宇宙攻撃軍では請け負うことができない任務を遂行する為に編成された部隊の集合体である。特殊な戦場、特殊な任務での作戦を達成する為に突撃機動軍が重視するのは専門性であり、将兵には高い練度が求められる事になる。

 そしてシーマ大尉が鍛え上げた海兵隊は、元々突撃機動軍の所属であった。

 

 開戦以前、コロニー群の早期制圧は目下の課題とされていた。

 宇宙攻撃軍が艦隊を率いて敵本隊を打倒する事を目的とするのであれば、これとは別にコロニーを制圧する事に特化した部隊の創設が必要だとキシリア少将は提言する。これにギレン総帥も賛同し、人員は宇宙攻撃軍から引き抜かれる事で話が進められる。これに難色を示したのがドズル。コロニー制圧に必要なのは優れた腕を持ったモビルスーツパイロットだ。しかしモビルスーツは連邦艦隊に対する切り札であり、優れたモビルスーツパイロットは一人でも減らしたくないのがドズルの素直な気持ちだ。

 実際、連邦艦隊を打倒できなければ、戦争の勝利はないのだ。

 今ある戦力は削れない。ならせめて人手だけでも集めることはできないか、と懇願するキシリアを前にギレンは思案する。当時よりブリティッシュ作戦を考えていた彼は、コロニーの早期制圧を専門とした部隊の編制には賛成であった為、代案を提示する事を決める。

 その代案というのが3バンチコロニーのマハルから徴兵する事であった。

 

 マハルとは、貧困層が多いスラム化が進んだコロニーの事だ。

 ジオン・ズム・ダイクンがサイド3に来る前の話になる。元々コロニー公社からスペースコロニーの建築、補修の下請けを行う業者が多いコロニーではあったのだが、この下請け業者というのは今のように組織化が進んだ集団ではなかった。コロニー公社から仕事を受注する請負業者は、その工事の規模に応じて、自分の子分達を招集して必要な人員を調達する手法を取っていた。その為、マハルにある建築業者の多くは親分と子分の関係にあった。

 当時、スペースノイドの多くは地球から宇宙へと打ち上げられた人間だ。つまり社会的には下層に位置する人間が大半を占めており、あまり良い教育を受けてきたとは言えない人間が多い。特に3バンチコロニーのマハルには、そういう人間が固まっており、気性と素行の荒い者達で大多数を占めていた。

 そういった者達を掌握する為に、親分の立場にある人間には腕力と人徳が求められる。

 

 コロニー公社は、より安く事業を達成する為に競争入札という形を取った。

 これは請負業者を一ヶ所に集めて、より安く事業を達成してくれる業者に下請けを申し込むというものだ。これに対抗する為に請負業者が、業者間での談合を頻繁に行っていた事もまた治安の悪化に一助している。この談合というのは元々コロニー側に所属する請負業者が、安価で仕事を請け負わないようにと自分達を守る為に取った方策のひとつである。

 しかし、業者が多ければ、抜け駆けする者も中にはいる。

 そういった者達に制裁を加え続けた結果、次第にマハルは暴力で解決する事が当たり前の環境になっていくのだった。コロニー公社も暴力組織の巣窟となったマハルから手を引いてしまった。残された下請け業者の関係者は縄張り争いを始めるようになる。殴る蹴るは当たり前、道端に死体が転がっているのは珍しくもない話であり、毎日のように拳銃の発砲音が響き渡る。

 金を稼ぐ為に麻薬の密造を始めるようになり、それを外部に売り捌くことで必要な物資を取り寄せる。

 最早、治安は最悪で戸籍調査を行う事も困難な有様であった。

 これが戸籍を持たない子供が多く発生する一因となっている。

 

 ギレンはいずれ、3バンチコロニーのマハルを潰さなくてはならないと考えていた。

 ジオン公国の公王であるデギンもまた、マハルの現状に頭を痛めていた。

 生前のダイクンもマハルの事を、いずれ取り組まなくてはならない問題と考えていた事もある。

 特に戸籍を持たない子供の救済は急務だとデギンは認識している。

 

 この事を覚えていたギレンは、マハルを潰す一手として“戸籍を持たない人間”を限定にした徴兵を提案する。

 ギレンからすれば、元からジオン公国に居ない人間だ。死んでも痛くはない。事のついでに調査できなかった子供を軍の保護下に置いて、救済する事もできる。良い生活は出来ないかも知れないが、マハルに居るよりかは安定した生活を送る事ができるはずだ。デギンもにっこりである。

 キシリアは承諾し、では代わりにと将兵を教育できる人間をギレンとドズルに求めた。

 これをギレンが快諾。当時、総帥府に所属していたアサクラ中佐を大佐に昇進させた上で、突撃機動軍に転属させる事になる。ギレンは、出戻りを前提とした出向のつもりで送り出した。

 しかし、これをアサクラは左遷と受け止める。

 

 ギレンはまだ35歳だ、当時はもっと若かった。副官の一人に過ぎなかったアサクラを大佐に昇進させた上で艦隊司令に配属する事が左遷になるとは露ほどにも考えておらず、経験を積んでから戻って来いといった程度の気持ちでしかなかったのだ。しかしアサクラにとっては、総帥府から離れる事そのものが左遷であり、いくら階級が上がったからといって出世したとは考えられなかったのである。

 

 新設艦隊、つまり海兵隊の司令になったアサクラは、総統府で作戦指導を続けて来た経験を活かしてマハル出身の無法者を鍛え上げる。

 仕事となれば真面目にやるのがアサクラという男であり、総統府へ出戻り栄転の一縷の望みを抱いて日々を過ごす。しかし海兵隊を鍛え上げてもギレンから出戻りの辞令は出なかった。これはキシリアが海兵隊を率いる新しい司令官を用意できなかった事に問題があり、ギレンも新しい人間を寄越すよりも今、上手くいっているアサクラに任せた方が良いと判断した上での事であった。

 そうして一週間戦争に突入する。事情を知らされていなかったアサクラは、辞令なく戦争に突入した事で出戻り栄転の可能性は絶望的だと察してしまった。その上でコロニーに毒ガスを注入する任務を負わされた事で自分が今、蜥蜴の尻尾切りに使われている事を危惧する。

 総統府で仕事をしてきた人間だ、そうやって切り捨てられた人間が居る事を彼は知っていた。

 

 ただ切り捨てられる事を良しとしなかった彼が起こした行動が、ブリティッシュ作戦の失態に繋がった。

 配下を裏切り信用を失った彼は今、総統府に戻されている。能力はあるのだ。彼を事情聴取した結果を受けたギレンは自分の言葉足らずを恥じた。

 彼を最低限の処罰に済ませた後、現場と直接関わらない仕事に就かせている。

 

 残された海兵隊は、キシリアに強い不信感を抱くようになった為に宇宙攻撃隊に転属となった。

 しかし特殊任務の為に鍛え上げられた海兵隊は宇宙攻撃軍と性格が違う為、ドズルは彼らを持て余すことになる。かといって、ただ解体して他部隊に編入するには惜しい部隊だった。海兵隊は総統府が鍛え上げた虎の子の精鋭だ、出来れば、そのまま運用する事が好ましい。ならば、とドズルが思いついたのが海兵隊をカナリアの下に付ける事であった。

 カナリアのプロト・ゼロとしての階級は少佐だが、彼女は艦隊指揮を学んだ事すらなかった。艦長代理が担える優秀な副官が彼女には必要なのだが、艦長代理を務められる人間というのは、元から艦長になっているものだ。他の部隊から副長を引き抜くのも難しい。カナリアの副官になるという事は、カナリアの下に居る限り、艦長になれない事を意味している。

 なによりカナリアは15歳、それもまた彼女の副官選びのネックとなっていた。

 だからケチが付いた海兵隊は都合が良かった。

 なにより海兵隊はカナリアに恩義を感じているのが大きい。

 

 こうした様々な紆余曲折と思惑が折り重なった結果として今、海兵隊はカナリアの下に付けられる事になった。

 

 海兵隊の名前の由来は、アメリカ合衆国の大陸海兵隊が元となっている。

 アメリカ独立戦争中、イギリス軍にあった海兵隊を真似したアメリカ軍が同様のものを設置しようとしたのが始まりである。成立当初は特別な創設理由や責任任務はなかった。最初、ジョージ・ワシントンが率いる大陸軍から引き抜いた兵士で設立しようとしていたが、これをジョージ・ワシントンが反対し、ニューヨーク市あるいはフィラデルフィア市から徴兵する事を提案する。

 その海兵隊設立までの流れが似ていた為、キシリアは彼らを海兵隊と名付けた。

 

◆

 

 海兵隊は元々、コロニーの早期制圧の為に編成された部隊だ。

 総統府所属のアサクラ大佐が手を加えた結果、潜入工作も熟す万能の精鋭部隊へと成り代わった。

 油断したルナツーへの潜入もお茶の子さいさいだ。

 

「あ、その扉の先に人が控えてるよ。右に二人、左に一人。二人は談笑をしているね」

 

 そこに私の特別な能力が加われば、鬼に金棒。

 扉を開け放った直後、ノーマルスーツを着た海兵隊の三人がサプレッサー付きの拳銃で二発ずつ撃ち込んだ。

 三人が悲鳴を上げる間もなく倒れる。

 他人が死ぬ事には慣れてるけど、あまり見ていて気分の良いものじゃない。

 自分の後ろに立つミアは、私の肩を掴んで半泣きになっている。

 

「その子は連れて来る必要あったのかい?」

 

 ミアを抱きしめて落ち着かせる私に、シーマが問い掛ける。

 

「必要だよ。最悪、データだけでも頂いて行かなきゃいけないしね」

「それほどの代物かい? その白いヤツってのは」

「それほどだよ」

「なら仕方ないねえ」

 

 シーマが周りに指示を出す。

 幾つかの部隊に分かれて、各々の目的に向かって駆け出した。

 シーマともお別れだ、彼女には管制室制圧の任務がある。

 

 外からはリリー・マルレーンの陽動する為の砲撃が始まったようで、基地内の様子が慌ただしくなってきた。

 先頭を走る私は部隊を制止させる。廊下の角から敵兵が飛び出してくるのを察知した為だ。周囲に人が居ない事を確認し、銃撃のハンドサイン。カウントダウンを刻んで、ゼロになったと同時に飛び出した敵兵を拳銃で撃ち殺す。突撃銃は音が出るし、痕跡も残るからね。潜伏できる内は潜伏しておきたい。

 そのまま順調に邪魔な敵を排除しながら格納庫まで急いだ。

 

 大きな爆発音、格納庫の出入り口に仕掛けた爆弾が作動したようだ。

 これで上手く行ったなら格納庫の入り口は塞がれる事になり、あの白い木馬は格納庫から逃げる事ができなくなる。

 途中で銃撃戦があった。

 その場を他の海兵隊に任せて私とミアの二人で先を急ぐ。

 

 格納庫に辿り着いた。白い木馬が目の前にあった。

 その脇に敵の新型モビルスーツがハンガーに立てかけられている。

 角付きは、拘束具で封印されていた。

 

「……盗み出すのは無理、ならデータだけでも貰って行かないとね」

 

 橙色のコックピットは開けっ放しの状態だった。

 何か作業をしていたのかも知れない。兎も角、これは好都合だ。足場からコックピットの中に滑り込んで、シートに腰を落とす。……ザクやヅダと比べると随分、内装がスッキリをしている。見た感じ、モビルスーツを起動する為のスイッチやレバーといった類のものはなさそうだ。

 なら、目の前にあるモニターが怪しいと思って、手を触れる

 

『おはようございます。戦闘行動を開始します』

「うわっ、喋った!」

 

 突然、機械音声が鳴り響いた。

 なんだ、こいつ? 人工知能? なんか凄く気持ち悪い感じがする。

 兎も角、私の手には負えそうもない。

 そう考えた私は、近くに控えさせたミアを呼び出した。

 

「動くな!」

「ぴえっ!?」

 

 敵の声、ミアの悲鳴。

 やってしまった。機械音声に驚いて、周囲の警戒を怠ってしまった。

 私はまだ気付かれていないか?

 敵の位置は……あれ、この気配って、なんだか懐かしい?

 キャスバルにも似た気配。

 思わず、コックピットから顔を出してしまった。

 

「二人居たのね。両手を上げて、そのコックピットから出て来なさい!」

「あれ、アルテイシア? 美人になったね~」

「……何故、その名をッ!?」

「えっ、わかんない? あ、そうか。今、ヘルメット被ってるもんね」

 

 私はヘルメットを取り、改めてアルテイシアと面を合わせる。

 

「……私は、そのような奇抜な仮面を被った変態と知り合いじゃないわ!」

「それはちょっと酷くないッ!?」

 

 格好良いじゃん、仮面。絶対に格好良いって。

 キャスバルだってドヤ顔で仮面を付けてるし、格好良いよね?

 渋々と仮面も取れば、漸く彼女は私だと勘付いてくれた。

 

「なんで、貴女が……こんな所に!?」

「やっほー、カナリアちゃんだよ。あ、こっちは友達のミアね」

「どうして貴女が軍服を着て、ここに居るのよ!?」

 

 あんなにも優しかったのに! と、アルテイシアが私に銃口を向けたまま悲痛に声を荒げた。

 

「ん~、成り行き? というかアルテイシアも連邦の軍服だよね?」

「成り行きって、そんな! 貴女は人殺しをするような人じゃなかったじゃない!」

「必要だと思えば、殺すよ。進んで殺したいとは思わないけど」

 

 私はにへらと笑って肩を竦めてみせた。

 

「それよりもアルテイシア、私と一緒に行こう!」

「行ける訳……ないじゃない! 兄は殺されたのよ!?」

「殺されたって? 誰が?」

「貴女の方こそ、私と一緒に来なさい!」

「え~、そんなの急に言われても困るよ。私って今、ザビ家の人間だよ?」

「どうして、あんな、連中に……ッ!」

「あんな連中って、なんでそんな────」

 

 直感、横殴りの殺気を感じ取った。

 

「──危ないッ!!」

 

 私はヘルメットを片手に持ったままミアに飛び掛かった。

 そのまま二人共に足場から落下する。発砲音がした。落下したまま殺気がした方を見れば、橙色の角付きに乗っていたパイロットと同じ気配をした奴が私達に拳銃の銃口を合わせていた。その隣に天パの少年、白いヤツのパイロットだ。

 私は地面に衝突する前に、装備の一つであるジェットパックを起動する。

 

 再度、アルテイシアを見た。

 しかし横からの殺気に舌打ちを零し、この場から離れる事を優先した。今は逃げるしかない。ミアを抱きしめたまま、落ち着いた場所に身を隠し、外したヘルメットを被り直す。

 作戦は失敗だ。無用なちょっかいをかけただけになってしまった。

 

「ミア、大丈夫だった?」

 

 ぷるぷると小刻みに震えるミアの両肩に手を置いて、問い掛ける。

 

「……漏らしました、全部」

 

 涙に震えた声でポツリと零した言葉。

 密閉されたノーマルスーツは外に液体が零れない仕様だ。

 私は、一緒にシャワーを浴びる約束をして、ルナツーから抜け出した。

 ちなみに被害はゼロ、流石の海兵隊だ。

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