「だからオムツ履いといてって言ったのに~」
仕方ないなあ、と困ったようにはにかんだのは私の可愛い相方だ。
夜になると「独りじゃ眠りが浅い」と添い寝を所望し、朝は弱くて自分の髪の手入れもできない怠け者である。私がシャワーに入っていると、これ見よがしに彼女も押しかけて、勝手に私の前に座っては髪を洗えと強要してくる。まあ彼女の髪は綺麗で手入れし甲斐がある。化粧水とかも私が選んだものをそのまま使っちゃうので自分好みに改造できると思えば、悪い事ばかりではない。年齢はひとつ上なのに、彼女はまるで妹のようなお子様だった。ジオン公国のエース様を自分の好き勝手できるのは、ちょっとした優越感だ。フォークに差した苺を彼女の口元に差し出せば、彼女は何の抵抗もなくパクリと食べる。そうして満面の笑顔で頬張る姿を見るのは、とっても可愛らしくって癖になる。
仕方ないなあ、と一緒の布団で横になり、抱き締めてくる彼女の頭を撫でながら眠るのは心地よかった。
しかし今、私ことミア・ブリングマンの尊厳は欠片も残されちゃいなかった。
ルナツーに潜入した後、緊張が途切れて、腰が抜けた。そして出すもの出して私を背負って母艦まで連れ帰ってくれたのは彼女だ。他の船員が労ってくれる中、まだ足が小鹿のように震える私の事をさりげなく部屋まで誘導してくれたのは彼女であり、尿塗れになったノーマルスーツを脱がしてくれた時も嫌な顔ひとつせず、まだ足の震える私を部屋に備え付けられたシャワールームまで手を引いてくれた。ぐっしょりと濡れたパンツも脱がされた。熱い湯を頭から浴びせられて、何時も私が洗う側なのに全身をきっちりと綺麗にしてくれたし、髪の手入れもばっちりだった。やらないだけで、やろうと思えばできる事を思い知らされる。
そして現在、私はベッドの上で彼女に股を晒していた。股には紙オムツが付けられている。紙オムツの付け方が分からないっていう私に、彼女は教えてあげると言って、まだ濡れていた股をタオルで軽く押し付けられた後、右へ左へとゴロンゴロンと転がされて、紙パットと紙オムツの付け方をひとつひとつ丁寧に、股を晒したままの私に見つめ続けるように言い付けて、ゆっくりと丁寧に自分でもしっかりと見た事がない部分をまじまじと見つめられながら紙オムツを付けられたのだ。
もうお嫁には行けない。両手で真っ赤になった顔を覆って、しくしくと涙を零す。
尿の溜まったノーマルスーツと漏らしたパンツをシャワールームで洗ってくれたのも彼女、カナリアである。洗った後でスーツの股間部に鼻を近付けて、くんくんと臭いを確認するのは恥ずかしいからやめてください。切に、切に。なんだか悔しかったのでカナリアがトイレに入った時に彼女のノーマルスーツの臭いを嗅いでみた。普通に汗の臭いが混ざった、甘酸っぱい匂いがする。嫌な感じはしない、むしろちょっと安心する。なんか悔しい、スンスンと臭いを嗅いでると背後から小さな物音がした。
振り返った、カナリアが少し引き攣った笑みを浮かべていた。
「ミアならいいよ、うん。あ、でも、今日は別々に寝よっか?」
生き恥を晒すくらいなら死んでしまった方が良いかも知れない。
ちなみにカナリアは一人での付け方を見せてあげると言って、チャチャッと手際よく紙オムツを付けた後、腰に手を当ててドヤ顔を披露していた。シャツにオムツ、これがモビルスーツパイロットの日常。紙オムツに排尿する感覚も知っておいた方が良いからって今、私はお漏らしをするまでオムツの着用を義務付けられていた。まさかのトイレ禁止令である。正直、今、トイレに行きたいのだけど、羞恥心が邪魔をしておしっこが出なかった。利尿薬を貰って今、それを飲んでいる。
心に深い傷を負った私は、ベッドの上でぼんやりと天井を見上げる。カナリアは、シーマと今後の打ち合わせがあるって部屋を出て行った。
ルナツーに潜入した後、再び赤い彗星のシャアと連携を取って白い木馬に攻め込む事となった。相手が大気圏に突入する間際を襲撃し、それと同時に降下する2隻のコムサイを緊急避難先とする。ファルメルから投下するコムサイはW・コムであり、通常のコムサイならモビルスーツを2機まで搭載できるところを4機も搭載可能となっている。
リリー・マルレーンから降下するのは2機。シーマ大尉が乗るカーキ色に塗装したヅダとノーマルカラーのヅダ、ノーマルカラーのヅダは本来、私が載る機体なんだけどカナリア専用機の金色のヅダがまだ修理中の為、緊急的にカナリア用の調整をした機体になっている。
私はコムサイに乗り込んで、カナリアと共に地球に降りる予定だ。
「あ、そろそろ来たかも……」
お腹、少し張っている気がする。
ちょっと力を入れると出す事が出来そうだ。ふっと息を零して、いっぱいになったぽんぽんに力を込めた。その時、「出たー?」とノックなしに部屋に戻ってくる。もう尿道まで通っていた尿意を、咄嗟にキュッとお尻に力を込めて我慢してしまった。数滴の尿が零れる感覚、ふるふると身を震わせる。出て行って、その一言が口に出せない。今、何かを発するだけでおしっこが溢れてしまいそうだった。
そんな断崖絶壁に立たされた私の事なんて気にも留めず、歩み寄る。
ベッドの傍に立つ彼女を涙目で見つめる。少し波が引いた、熱の篭った吐息が零れる。やっと声に出せると思って息を吸い込んだ時、不意に彼女は私の股下に手を突っ込んで、むんずと紙オムツを握り込んだ。
「ひゃっ……あ、ああ……っ!」
「ありゃ、まだ出てないね。我慢しなくても良いのに」
ああ、そうだ。と彼女は私の横に座って、ポンポンと膀胱がある部分を優しく叩いた。
波紋が揺れる。尿が振動する。一定のリズムで刻まれる。心地良さすらも感じさせる振動が、私の急所を的確に刺激した。そして時は来た。即席で積み上げた防波堤は決壊し、膀胱から尿道へ生暖かい液体が放流される。やっと出たねえ、と幼馴染が天使のような笑顔で微笑みかけてくる。溢れ出す放流物を紙オムツが羽毛のように優しく包み込んだ。不快感はない、むしろ心地良さすらある。開放感による安堵があり、放流から途絶えるまでの一部始終を見られる事に羞恥があった。真っ赤になった顔を両手で隠す、見ないで、と力なく訴えた。そんな私の頭に彼女の手が添えられる。偉い、偉い。と優しく撫でられた。何時も妹のようだと思っていた。私よりも一歳上なのに落ち着きがなくて、私がしっかりしなくちゃって考えていた。彼女に整備士として誘われた時も、放って置けなかった事もあるし、彼女には私がいないといけないと思ったからだ。
でも、今は、彼女の方がずっと大人で、私が思っていたよりもずっとしっかりしていた。
やれないんじゃなくて、やれるけどやらない。
そこには大きな隔たりがある。
自分の方がお姉ちゃんだと思っていた自尊心のようなものが崩壊して、ポロポロと涙が溢れ出す。
「綺麗にしないとね、放っておくとすぐかぶれちゃうんだよ?」
そう告げる彼女の顔は、悪戯っ子そのものだった。
……彼女は勘が良い。全て分かってやっていた事に気付くまで数秒、ポンポンと膨らみ切った紙オムツを手で叩いた。
私が自分を取り戻す前に、紙オムツを留めていた接着面が剥がされる。
「待ってください、自分で……!」
「こういう場所は大事だからね。ちゃんと教えてあげるよ」
「臭いとか……恥ずかしいですから!」
「大丈夫。お漏らしした後だし、帰ってきた時の方がキツかったし」
「か、嗅がないでください!」
赤い彗星のシャア・アズナブルが言っていた。
ニュータイプはクソガキばかりだ、と。
今、その言葉の真意がはっきりと分かった。
女の尊厳、人の尊厳、姉の尊厳。
全てを粉々に打ち砕かれた今、
新しくなった紙オムツで虚空を眺めて、呟いた。
「……ニュータイプは、クソガキ……ですね…………」
人類の未来は、余りにも暗い。
◆
ミアは意地悪のし甲斐がある。
私が彼女をお気に入りにしている理由の一つだった。
いや、普通に好きだけど……叩けば響くと言いますか、良い声で鳴くと言いますか。
羞恥でポロポロと涙を零すところなんか正直、胸にグッと来た。
もしや、これが……恋!?
「ま、後でちゃんとフォローを入れとかないとね」
カナリアちゃんはできる女なんです。とウキウキで艦橋に向かう。
まあ実際、紙パンツやオムツに漏らすのは慣れておかないと難しいものだ。私は、そういうものだって割り切っちゃったので平気でジョバッと出したけど。臭いだけは少し心配になったけど、意外と外に漏れない。というか艦隊指揮をやっているドズルも紙オムツを履いてるし、シーマ様だって交戦の可能性がある時は常に紙オムツだ。普段は普通の下着の人も居るけども、スクランブルの時は紙パンツをチャチャッと履いたり、紙パッドを股間に突っ込んだりしてる。紙オムツとかを使わないのは非戦闘員だけだ。予備戦力のミアも履いてなかったんだけどね。
でもまあルナツーに侵入する時に恥ずかしがってオムツを付けずに痛い目を見てるんだから仕方ない、付けとけって言ったのに。あれだけ恥ずかしい思いをしたならば、次からは大人しく履いてくれるはずだ。
さておき、次の戦闘は大気圏突入時だ。
ルナツーから白い木馬が出たのを確認した後、キャスバルと通信して決めた。白い木馬にはアルテイシアが居た事を通信記録に残さないように伝えた時、白い木馬に搭載されたモビルスーツは先に排除しておくべきだとキャスバルは判断した。それに私も賛成した。だから確実にモビルスーツだけを排除する為に大気圏突入時に奇襲を仕掛ける作戦を取る決断をする。
別にこれは公国軍の行動としても間違っちゃいない。あの白い木馬を拿捕すれば、少なからず機密が手に入るはずだからだ。ドズルは破壊か拿捕を命じたけども公国軍の為を思えば、拿捕以外の手はない。破壊できずとも高々艦一隻だ、戦局に大きな影響を与える事はない。
アルテイシアを奪還し、また三人一緒で楽しい時間を過ごせたら良いな。そこにドズルとお父さんも居れば最高だ。また五人一緒に同じ時間を過ごしたい。
その為にも本作戦、確実に達成する必要がある。
◆
ガンダム試作機2号が、他のRXシリーズと比べて優れているのはルナ・チタニウム合金の精度にある。
V作戦は幾つもの段階を経て進行しており、先ずは試作したルナ・チタニウム合金を用いた装甲の作成。ホワイトベースの装甲材としても用いていたものをモビルスーツに適用するテスト機として、元から設計図のあったガンタンクを改良して建造した。データを収集する目的もあるが、サイド7に招集した研究者と技術者にノウハウを積ませる意味合いの方が強かった。次にルナ・チタニウム合金の加工技術を高める為、関節部を中心に強化を施したガンキャノンを作成する。対モビルスーツ戦を想定して改良が加えられた新型だが、ルナ・チタニウム合金が齎す恩恵は従来のガンキャノンを遥かに上回るパワーを生み出した。それはガンキャノンでは想定していなかった近接戦を行える程の強度を備える程であり、次世代機の仕様に耐え得ると判断。本格的にガンダムの建造に乗り出す事になった。
ルナ・チタニウム合金の精製技術も鍛えられており、従来のルナ・チタニウム合金よりも更に強度の増したルナ・チタニウム合金の精製に成功する。ただ、これには高いコストが掛けられる。逆に従来のルナ・チタニウム合金は、従来よりも簡易的な方法で精製できるようになっていた。
コストパフォーマンスを測る為、ガンダム試作機1号は駆動部に限り、部分的に新型ルナ・チタニウム合金で強化を測ることになる。満を侍したガンダム試作機2号は装甲まで新型ルナ・チタニウム合金で作り上げた。
結果的に装甲を固くするだけならば、従来のルナ・チタニウム合金で充分だという事が判明し、パワーを上げたいのであれば、部分的な強化で事足りる事が判明する。この時点で次世代型の量産機には、コストパフォーマンスを鑑みて、駆動部に限って従来のルナ・チタニウム合金を用いる事で決定がされた。
モビルスーツ用ビーム兵器が開発された今、数の方が重要だと判断された為である。
以上がV作戦の経過内容となっていた。
ユウ・カジマ少尉に対する事情聴取から得られた情報を反芻し、ルナツーから出航したホワイトベースを見送る。
隣には移動式のベッドで横になるパオロ中佐、自分の士官学校時代の教官だ。総合評価に「時として柔軟性に欠く」と書かれた事は今も鮮明に覚えている。とはいえだ、腐敗した人物が多い中で実直に自分を貫く彼は、私にとっては尊敬すべき人物の一人である。
今はもう、息を引き取っている。
……避難民と共にホワイトベースを見送る。公国軍がホワイトベースを目的に潜入してきた以上、ルナツーに置いておく訳にはいかなくなった。緊急時という建前で、事を有耶無耶にしたまま彼らをルナツーから追い出す事ができた。あの民間人達の事は、後でゴップ大将にでも根回しをしておく事にする。それがパオロ中佐の遺言でもある為に。連邦軍に取り込まれる事になるだろうが、所詮は素人集団。戦争が終われば、軍を抜ける事もできるはずだ。そうなるように今から根回しもしといてやる。
民間人を徴用しなければ、まともに動かす事もできない。動かしているのは、高々20歳にも届かない程度の若者達。そんな彼らに付けられるのは一隻のサラミス級宇宙巡洋艦。
これが私の権限で出来る精一杯だ。大の大人が子供にしてやれる事がこの程度である。
寒い時代だと思わんか……?
こんな事、もう二度と起きて欲しくないものだ。
仕方ないにしても、立ち会いたくない。