NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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14.大気圏突入

 首都ズムシティにあるドズル中将の別邸にて、

 私は、少佐の花嫁として押しかける未来の為に家事の特訓を始めていた。

 少佐の心には、一人の少女が住み着いている。しかし、それは家族としての愛であり、異性に対するものではない。それが恋愛に傾くものではないと分かっているから、彼女は私のライバルには足り得ない。だが、あの子、カナリアの家事技術が一定以上である事は周りの話から知っていた。

 だから、私は、家事技術を磨く為に花嫁修業に明け暮れるんです。良い嫁になる為に!

 同じく別邸に移動したハマーン・カーンは、勉学に励んでいる。まだ13歳という年齢で士官学校に入学できるだけの知恵を身に着けており、今は歴史や戦術についても学んでいた。時折、彼女は私の事を鼻で笑ったりする。私の方が少佐の力になれる、と彼女は言っているのだ。長い時間を共に過ごせるのは、果たしてどちらの方なのか。賢しい彼女は、貴女は大人しく家でも守っているんだな。と蔑む目で私を見つめる。

 しかし彼女も分かっていない。

 少佐と長い時間を共に過ごしたいのであれば、むしろ戦術と政務の能力は邪魔なのだ。戦場に連れて行って貰う為には最低限、自衛するだけの力が必要になる。少佐を守るだけの力があれば、むしろ周りの方から少佐を守る為にモビルスーツに乗ってくれと言われるようになる。そして私のモビルスーツの腕前は、ニュータイプ能力込みでエース級だ。傍に置いておかない理由がない。

 でも彼女は部隊指揮は勿論、艦隊指揮まで身に着けようとしている。その上で事務仕事に精を出して、政務にまで手を伸ばそうとしていた。

 彼女は知らない、若さ故に。

 なんでもできる人間というのは、なんでも仕事を任されるという意味。仕事というのは暇そうな奴に任せるのではない、忙しそうにしている奴に振るのが常識だという事を彼女は知らなかった。

 それに私は17歳、もう結婚が出来る年齢だ。彼女はまだ13歳、最短でも3年の猶予がある。

 即ち正妻の座は、私の手の内にあると言っても過言ではないッ!

 オーッホッホッホッホッ! オォーッホッホッホッホッ!!

 

◆

 

「ん?」

 

 遠い宇宙の彼方から、なんか良くない脳波を受信してしまった気がする。

 陰険な嫁姑扱いを受けたみたいな、そんな悪感情だ。

 まあ良いか、と機体を立ち上げた。

 感度良好、駆動音の他に身体に伝わる振動で機体の調子は感じ取れる。

 流石はミア、私と以心伝心で最高の整備士だ。

 機体から愛を感じちゃうね! 好きだよ、ミア!

 

『慣らし運転もなしで本当に大丈夫なのかい?』

 

 画面に通信映像、シーマ大尉の問い掛けに私は親指を立てる。

 私が今、乗っているのはミアの愛機、ノーマルカラーのヅダだ。

 シーマが搭乗するのはカーキ色の専用機。

 

「完璧だね。機体の癖は少し動かせば掴めるよ」

『ツィマット社でテストパイロットを経験していただけあるね』

「初期生産型の乳母は私だと言っても過言じゃない」

 

 今、配備されているヅダは統合整備計画の影響で設計に変更が加えられた改良型。新規開発で新たに得たノウハウを基に細部でアップデートが加えられている。ザクⅡでいう所のC型やF型にある立ち位置の機体だ。

 

「無理は絶対にしない事、良いね?」

『この作戦自体が無茶だと思うんだがねえ』

「こんな程度、無茶でもなんでもないよ。何時もよりもちょっとリスキーなだけ」

 

 ヘルメットを被り、バイザーを閉じた。

 改ザンジバル級機動巡洋艦リリー・マルレーンの格納庫。船体の底部に備え付けられたハッチが開かれる。

 カタパルトはない。こういう時にカタパルトがないと不便だよね、と思いつつ機体を乗り出した。

 

『少佐、待ってます』

 

 更に通信映像が開かれる。眼鏡を掛けた相棒に、ピースサインを出す。

 

「プロト・ゼロ少佐。ヅダ、出撃するよ!」

 

 シーマよりも一足先に宇宙へと飛び出す。

 頭上に宇宙、輝く星々。眼下には地球という青い星が広がっていた。

 思っていたよりも、重力の影響が強い。引っ張られるようだ。

 堕ちないようにする為には、常に推進剤を使って重力に逆らっておく必要がある。

 あまり長い時間、戦闘する事が出来なさそうだ。

 

「まあ、今回は短期決戦だから心配する必要ないんだけどねッ!」

 

 統合整備計画により、武装の選択肢が多く取れるようになった。

 両手に構えたズックス社製のショットガン。兎に角、火力の強い武器という事で用意された一品であるが、散弾で角突きの化け物みたいな装甲を撃ち抜けるとは考えていない。だが至近距離から撃った時の衝撃はなかなかのものだ。

 これで地球に突き落としてやる。と連邦の白いヤツを目指して宇宙を駆けた。

 

◆

 

 もし次に公国軍が攻めて来るとすれば、大気圏の突入前。

 そうあって然るべきだ。大気圏突入時の奇襲なんてものは有史以来、一度だって聞いた事がない。確かに大気圏に突入する時は、艦艇は無防備になる。だが、それをしないのは、それだけ危険っていう事だ。地球に落ちる。重力に引きずり込まれて、大気圏に燃やし尽くされる。地球が緑を維持できているのは、大気圏と月のおかげだ。そのおかげで人類史が始まって以来、地球に致命的な隕石が落ちてくる事はなかった。

 大気圏に突入する直前まで、気を抜くことができない。

 

「ムサイ級、そしてザンジバル級です!」

 

 オペレーターの一人が声を荒げる。

 ホワイトベースの後方を陣取る二隻の敵艦。まさか、という思いはあった。

 何処に降下するのか見届けに来た?

 まさか! この艦がジャブローに降下する事なんて見届けずとも分かる。

 このタイミングで姿を現したことには意味がある。

 

「……ったく、シャアは何を考えているんだ!」

 

 どうせならもっと早くに出て来い。と俺は格納庫の整備員に指示を送る。

 

「フライトデッキ、ガンダムの準備は出来てるな!?」

『えっ? 出撃するんですか? 無茶ですよ!』

「敵が戦いを望んでいるんだ! 対応するしかないだろう!」

 

 受話器を手に取り、ユウ少尉に通信を繫げながら指示を出す。

 

「ミライ! 余計な事は考えずサラミス級の誘導に従え!」

「は、はいっ!」

「セイラはサラミス級に通信を取れ! 背後に敵艦が二隻、とな!」

「わかったわ」

 

 オペレーターから敵艦から6機のモビルスーツが射出された事を告げられる。

 本当に来た。杞憂では、終わらないか。余程、腕に自信があるようだ。艦橋が慌ただしくなってくる。この状況で機動力のないガンキャノンとガンタンクを出撃させる意味はない。ガンダム以外のモビルスーツパイロットには機銃の砲座に座るように指示を送る。他に命令すべき場所は──これで3戦目、船員も慣れて来たとはいえ練度不足が歯がゆいな。

 ホワイトベースは素人集団、思いつくことは全て指示を出しておくべきだ。

 

「相手の機種は分かるか!?」

「赤い彗星が居ます! 黒いヅダと赤いヅダ……それに黄土色、でしょうか!?」

「機種!」

「ヅダです、ヅダ! ノーマルカラーも含めて、ヅダ4機。ザクが2機です!」

「専用カラーが四機とは、我が艦も随分と人気が出てきたじゃないか!」

 

 言葉とは裏腹に歯噛みする。

 大丈夫だ、地の利は自分達にある。

 シャアだって生身だ、死ぬことは知っている。

 少しの間、凌げば、なんとかなる。

 

『ブライト艦長だな!? 状況はどうなっている!?』

 

 ユウ少尉の声が聞こえた。

 

「モビルスーツが6機! ヅダが4機、ザクが2機。専用カラーが4機だ! シャアが奇襲を仕掛けて来た!」

『打って出るしかないな』

「行けるか!?」

『行かなきゃ、諸共死ぬだけだ』

 

 ユウ少尉は必要な事だけを聞くと通信を切った。

 ホワイトベースで唯一、まともな軍人と言える人だ。話が早い。

 しかし、そんな彼もモビルスーツが6機も相手では分が悪い。

 後方に陣取られた今、主砲と副砲は使えない。

 機銃で援護しろとリュウ達に指示を飛ばした。

 後、指示を出していないのは一人だけだ。

 

『ブライト艦長、僕も出ます』

 

 映像通信に映し出されるのは、もう一人のガンダムパイロット。

 こちらから通信を取る前に相手の方から連絡を入れて来た。

 

「……行けるのか?」

 

 大気圏内の戦闘は危険を伴う。

 ユウ少尉が出撃した以上、アムロを出すべきかの判断に俺は迷っていた。

 ガンダム1機で6機のモビルスーツを食い止める事が難しいのも事実。ホワイトベースの生き残りを考えるのであれば、迷わず出撃する場面だ。しかし彼は民間人、まだ15歳。他に手がないのであればまだしも、今回は出撃をしないままやり過ごすことはできないか。

 だが戦力を出し惜しんで、ホワイトベースがやられてしまっては元も子もなかった。

 

『行かなきゃ死ぬ可能性が高いってだけです』

 

 それに、と付け加える。

 

『さっきBBに確認して貰ったのですが、ガンダム2号機には大気圏突入用の装備が備わっているみたいですよ』

「ガンダムは単機で大気圏突入を可能としているのか!?」

『2号機だけですよ。モビルスーツの可能性を追求したのが2号機のようですからね』

 

 つまり1号機には大気圏突入用の装備は付いていないって訳か。

 数秒。考え込んだ。そして決断する。

 

「よし、アムロ君。ホワイトベースに近寄ってくる機体だけを相手にしてくれ!」

『わかりました』

「くれぐれも深追いはするなよ! ホワイトベースの着弾だけを防いでくれれば良い! 帰還の合図は、こちらで出す! 合図が出れば、直ぐに帰還するように!」

『そんなに言われても覚えられません』

 

 一方的に通信を切られる。

 その態度に、少し苛立ちを思えるも呑み込んだ。

 まだ15歳の民間人、自分から戦ってくれると言ってくれただけでもありがたい。

 そう思うべきだ。

 程なくしてオペレーターからガンダム2号機が発進したと報告があった。

 ここを凌げば、ジャブローだ。二人共、堕ちるなよ。

 

「……ところでBBって誰だ?」

 

 その問いに答えられる者は、この艦橋には居なかった。

 

◆

 

 宇宙に出た、既に戦闘は始まっている。

 ユウ少尉が赤い彗星の他に、赤と黒のヅダ2機を相手にしていた。

 残り3機のモビルスーツはまだ、何処に居るのか分からない。

 

「金色のヅダは今回、出て来ていないのか?」

 

 不意に視界の端をバズーカの砲弾が横切った。

 砲弾は白煙を上げて、ホワイトベースに吸い込まれる。

 着弾、大きく爆発する。

 クソッと顔を上げた時、ノーマルカラーの青いヅダが両手持ちの銃器を僕に向けていた。

 咄嗟に盾を構える。強い衝撃が機体を揺らした。

 

「散弾!? そんなもので、このガンダムがッ!」

 

 片手に持ったビームライフルを構える──よりも早くヅダが格闘戦の距離まで接近して来た。

 盾の上からヅダが蹴りを入れてくる、機体が重力に引っ張られる。体勢を立て直そうとすれば、ショットガンの弾が頭上から降り注いだ。この程度でガンダムは倒されない! 構わずビームライフルで相手に照準を合わせてやれば、引き金を引く間際でヅダは鋭く横に旋回した。二度、三度と連発しても敵の動きに追いつけない。

 この動き、この感覚──再び盾の上から蹴りを入れられた。

 

「金色のヅダと同じ奴だなッ!?」

 

 相手は僕を地球に堕とそうとしている。

 なら、と地球に落下しながらビームライフルの照準を相手に合わせようとした。

 このまま引き込んで、撃ち抜く算段だった。

 しかし、構えたビームライフルをヅダに蹴り払われる。

 ビームライフルを手放してしまった。

 

「くぅッ!」

 

 ヅダは僕に追撃するよりも先に手放したビームライフルを手に取り、それを後方に投げた。

 悠長な事を! ガンダムには、まだ遠距離で使える武器がある! バルカン砲をヅダに向けて掃射、上手いこと避けられる。カーキ色のヅダがビームライフルを回収、その背後からバズーカを構えたザクが突っ込んでくる。ここで押し込まれては、大気圏突入前に戻れなくなるッ!

 シールドを投げて、相手の視界を塞いだ。更にバルカン砲、ザクの抱えるバズーカに着弾して、相手の武装が爆発した。片腕を失ったザク、その余波を受けて、青いヅダが大きくよろけた。動きがおかしい、メインスラスターの内一つが動作不良を起こしてしまったようだ。

 今なら脱出できる。そう考えて、ガンダムの出力を最大限に上げた。

 

 ──行かせるかァッ!

 

 青いヅダは、僕の投げたシールドで前面を覆ってガンダムに突っ込んできた。

 今の感覚はなんだ? いや、そんな事よりもッ!

 

〈ヅダのパイロット! 一緒に死ぬつもりかッ!?〉

〈貴方はいずれ私の大切な人を奪うッ! そういう人だ!〉

〈女の子!? 僕よりもずっと幼い!?〉

〈今、此処で死ぬべき人間なんだッ!〉

〈……そんな、訳の分からない事をっ!!〉

〈分からないまま死んでいけェッ!〉

 

 機体温度が上昇する、赤い大気が機体を覆い隠す。

 ガンダムが大気圏を突破する為には、あのシールドの回収が必要だ。

 ヅダとガンダムでは、明確にパワーの違いがある。

 

〈君も、死ぬんだぞッ!?〉

〈スラスターが死んだ! もう私は帰れない、なら貴方だけでも道連れにしてやるッ!〉

〈そこまでしてガンダムを倒したいのかッ!?〉

〈ガンダムなんてどうでも良い! 私が殺したいのは貴方自身だッ!〉

〈僕が何をしたっていうんだ!?〉

〈これからするんだよッ!!〉

 

 ヅダの背負ったランドセルが爆発した。

 怯んだ、その隙を狙ってシールドを奪い取る。

 蹴って距離を離そうとした。けど、その足を取られてしまった。

 腰にしがみつかれる。動力炉もないはずなのに!

 もう大気圏突入の体勢に入ってしまった。

 振り払おうとすれば、僕もやられる。

 

「クソッ! クソォッ!」

 

 耐熱ガスを噴出、それを前に構えたシールドで対流させる事で全身を冷却させる。

 此処から先、ガンダムを下手に動かすことはできない。腰にしがみついたヅダが暴れるだけで、対流させた耐熱ガスが霧散してしまう。脱出し損ねたのか、片腕を失ったザクが大気圏の熱に機体が焼かれて燃え尽きていった。腰にしがみついたヅダもまた足から先が崩壊を始めている。

 このまま放っておけばヅダは自壊する。

 しかし先程、感じた思念は、僕よりも更に若い女の子の姿だった。

 ジオン公国は、こんな幼い子供まで戦場に出すというのか!?

 

「こ、子供が戦争をするなんて間違っている! こんな事をしてるから世の中、おかしなことばかり起こるんだッ!!」

 

 程なくして大気圏を突破する。

 ヅダの姿は見る影もなかった。

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