NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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15.カナリアちゃんは永遠に不滅です!

 ペッシェ・モンターニュ准尉。

 ニュータイプ研究所ダーク・コロニー支部。通称フラナガン機関より補充パイロットとして送り出された彼女は、まだ16歳の内気な少女であった。少なからずニュータイプ能力の素質を持っているとの話だが、カナリアやララァのように他人の思念まで読み解くことはできないようだ。

 しかしモビルスーツの操縦センスは悪くない。実戦で鍛えれば、すぐ熟練のパイロットと遜色ない働きをすることは見て取れた。それに──やはり、ニュータイプ能力を持っている為か、勘が良い。突出しなければ、戦場で直ぐに死ぬこともなさそうだ。

 私情になるが、自分よりも若い人間には出来る限り死んで欲しくなかった。

 

 改ムサイ級軽巡洋艦ファルメルの後部ハッチから愛機のザクⅡを出撃させる。

 赤色に塗装した専用機。通常のF型と比べて推力を3割増しにする改修が施されており、継戦能力を高める為に脚部内燃料タンクを拡張している。兎にも角にも機動力に特化させたカスタムで、スラスターのリミッターを外す事で更なる速度を引き出す事を可能としていた。通常のパイロットでは、制御し切れないピーキーな設定。そうしなくては追いつけない相手が居たから意地でも身に着けた技術だ。いざという時に置いて行かれないようにする為に。

 地球の重力圏内での出撃、機体が引きずり込まれるのを肌身に感じ取る。

 地球圏に存在する限り、我々は常に地球の重力下にあるといえば、その通りだ。サイド3は勿論、月の公転線上に設置された全ての人工物が地球の支配下にある。地表だけに留まらず、宇宙にまで伝達する重力。母なる地球、その壮大な自然と偉大な存在感に人は惹きつけられる。

 心を奪われてはならない、重圧に堪えるようにスラスターを吹かし続けた。

 

「相手は打って出てきてくれるだろうか?」

 

 その心配も杞憂に終わる、白い木馬から橙色の角付きが出撃してきた。

 両手に持ったASR-78対艦ライフルを構える。ドズル中将に火力のある武器と要求した結果、送られてきた武装の一つ。これで私はルウム戦役で何隻かの戦艦を落とした事がある。本来は対艦用でモビルスーツに使う代物ではない。銃身が長い事もあり、中距離以下の間合いでは使いにくいのだ。機動力に長けたモビルスーツ相手に使うものではない。

 しかし、まあ、やってみるさ。

 

「これでも損傷を与える事ができなければ、お手上げだな」

 

 そう考えて、まだ相手がビームライフルを構えるよりも遠い距離から狙撃する。

 発砲音。僅かな間があって、相手の盾に着弾した──今、撃つ直前に盾を構えるのが見えた。構えなければ、頭部に着弾していた。と舌打ちを零す。スコープを拡大、少なくとも角付きが持つ盾に大きな銃痕が残るのを確認した。盾と装甲の材質は一緒か? まあ装甲よりも柔らかい盾があるはずもない。同じ材質ならば、装甲の方が薄くて然るべきだ。

 私に向けて、ビームライフルを構える。遅いな、と呟き。相手が私に照準を合わせる前に次弾を撃ち込んだ。

 

「チイッ、外したか」

 

 徹甲弾は、角付きの肩を掠める。

 一発目が上手く行き過ぎた。敵機から放たれた反撃の一射は、目視できない程度に機体を横にズラす事で回避する。流石に警戒された状態では、当てることは難しい。

 残り一発、慎重に狙いを定める。

 

『重力が……!? 引きずり込まれる……ッ!!』

 

 通信機から声がした、モノアイだけを動かして味方機の位置を確認する。すると赤いヅダが慣れない環境下での戦闘に姿勢を崩し、地球の重力に引きずり込まれようとしているのが見えた。舌打ちする、まだ助けられる。間に合うのであれば、見捨てるつもりはない。しかし視界の端で、角突きが私にビームライフルの砲口を向けているのが見えた。

 

『ジオンの騎士、ジオンの剣! 即ち、ニムバス・シュタァーゼンであるッ!!』

 

 その時、宇宙に閃く黒い軌跡。ヒートサーベルを構えた漆黒のヅダが横殴りに切り掛かる。

 私は一先ず、彼にこの場を任せる事にし、ペッシェの救出に向かった。

 

◆

 

 ホワイトベースから出撃して直ぐの事だ。

 

『左前方、狙撃来ます』

 

 BBの言葉にシールドを構える。直後、強い衝撃が機体を揺らす。

 この鋭く硬い感触は榴弾ではありえない、徹甲弾か? 避弾経始の要領で偶然、上手い具合に斜めに逸らすことが出来たようだ。シールドには抉るような銃痕が残されており、真正面から受け止める事の危険性を示唆している。

 敵機を再確認、赤い機体。ザクⅡなら赤い彗星だ。

 大仰なライフル銃で自分に照準を定めている。もしや対艦ライフルで狙撃したのか? それは反動が大き過ぎて、モビルスーツ相手に狙いを付けるものじゃないだろう。最早、人間業ではない。兎にも角にも反撃しないといい的になる、とビームライフルを構える。ほぼ同時に敵機の対艦ライフルから白煙が上がる。

 狙いを付けて撃つまでが尋常じゃなく早い。

 姿勢制御用のスラスターで機体を横に逸らす事で回避を試みる。しかし肩装甲に被弾、腕機能に問題はない。構わずビームライフルで反撃を試みる。だが、姿勢を崩された為か僅かに逸れてしまった。

 舌打ちを零し、改めてビームライフルでの狙撃を試みる。

 

『左側面、敵影です』

 

 BBの声に反応して、左を見る。

 黒いヅダが上段にヒートサーベルを構えて突っ込んでくる姿が画面に映った。ビームライフルで迎撃を試みる、トリガーを引いた。銃口から放たれるメガ粒子の閃きは、敵機の僅かに横を通り過ぎた。後方にスラスターを吹かす、振り下ろされるヒートサーベルが前に突き出していたビームライフルを両断した。手放す、ビームライフルは火花を散らした後、爆散した。

 バックパックに突き刺したビームサーベルを手に取り、相手を振り払うように横へ薙いだ。

 黒いヅダが姿勢を落とし、メガ粒子の放射束は相手の頭上を掠めるに留める。身のこなしが素人ではない! 敵機が肩で胸部に体当たりを入れる。体勢が崩された。眼前には、ヒートサーベルを横に構えるヅダの姿。赤いモノアイの光が画面越しに俺を見据えているかのようだった。

 頭部バルカンを掃射。敵機はヒートサーベルを盾に距離を取り、俺も奴から離れるようにスラスターを吹かす。

 

『戦闘可能時間を超過、危険です。母艦に戻ってください』

 

 赤い彗星に赤いヅダ、黒いヅダ。あの3機を相手に一人で食い止めるのは困難を極める。

 今が制限時間ありの戦闘で良かった。と安堵の息を零し、ブライト少尉と連絡。相手が引き上げるのを確認しながらホワイトベースに戻る。アムロ君がガンダム試作機2号で大気圏に突入を試みると聞いたのはハンガーに機体を運び入れた直後の話だ。BBのおかげでガンダム試作機2号には、大気圏突入用の装備があるという事は知っている。しかし、それは最終手段のはずだ。

 そもそもの話、俺はガンダム試作機2号は出撃させるつもりはなかった。

 出撃したという事は別動隊が居たという事か。駆け込んだ艦橋で見た映像には丁度、ガンダムが大気圏に突入するところだった。その腰にしがみ付いたノーマルカラーのヅダを見て、状況を理解する。横には、同じく逃げ遅れたザクⅡが赤い大気に焼かれて自壊していった。その衝撃的な光景を前に「あ、ああ……」とミライが悲痛な声を零す。程なくしてノーマルカラーのヅダが足先から崩壊をし始めた。

 それを最後に映像が途切れる。

 

「電波障害です、しばらく通信途絶します」

 

 オペレーターの声が艦橋に響き渡る。

 ホワイトベースが大気圏に突入した事で通信障害が発生してしまったようだ。

 ブライトからハッチ閉鎖の指示が出される。

 俺はノイズだけになった映像を、拳を握り締めて睨み付けた。

 こうなっては、もう、祈る他にない。

 

◆

 

「なんだと!? クラウンがまだ戻っていない!?」

 

 経歴上、クラウンはルウム戦役を生き延びた熟練のモビルスーツパイロットだ。

 ペッシェとニムバスに比べて実績がある。故にカナリアとシーマの援護に向かわせていたのだが、W・コムまで戻れず地球の重力に引きずり込まれてしまったようだ。今からでは、もう間に合わない。せめてものと死に様を見届ける為に映像を映し出した。

 丁度、ザクⅡが自壊を始める場面であり、自壊を始めたところである。

 隣に立つペッシェの顔が青褪める。それもそのはずだ、私が助けなければ、彼女も同じ目に遭っていた。崩壊したザクⅡの横で連邦の角付きが大気に焼かれる姿を見て「大きな戦果だ、無駄死にではない」と下唇を噛んで慰めにもならない事を呟いた。

 そこで、角付きの腰に青いヅダがしがみ付いているのを確認した。

 どうやらカナリアの部隊でも被害が出てしまったようだ。

 

「連邦の新兵器に何機やられた?」

 

 ザクⅡが7機、ヅダ1機の合計8機。部隊を率いる者として、短期間であり得ない損失だった。

 これでは更迭も止むなしだな、と溜息を零す。カナリアも金色のヅダを壊されている。

 

「…………プロト・ゼロ少佐は、今回の作戦で何に乗っていた?」

 

 カナリアの部隊には、まだヅダが2機残っている。

 カーキ色のヅダはシーマ大尉の専用機、予備戦力のヅダはノーマルカラーで整備士の子が乗っていたはずだ。確か名はミア技術少尉、カナリアのお気に入りでツィマット社から引き抜いてきた子である。そんな子をカナリアが今回のような危険な任務に従事させるか? 頬を嫌な汗が伝う。いや、と首を横に振る。何度か見た事はある、意外と度胸のある子だったはずだ。だが、あんな風に角付きの腰にしがみ付いて、相手を道連れにするような根性のある子だったか?

 ……今回、カナリアの部隊から出たのは2機。3機ではなく2機。

 カナリアの性格からして、必ず自分で出る。もう一人はシーマ大尉、実力的に彼女以外考えられない。

 あのノーマルカラーのヅダに乗っているパイロットは、誰だ?

 

「……助けに、出る」

「はあ!? 何を言っているんです!?」

「ドレン、ザクを出す! 今すぐだ!」

「出せる訳ないでしょう!」

「いいや、出す! 私は助けに出るッ!」

「少佐がご乱心なされた! 全員で止めるんだ、早く!」

 

 ドレンが周りに指示を出し、周囲にいた部下達が私の身体に飛び掛かってきた!

 ええい、どけ! どくんだッ! 全員、命令不服従で更迭してやるぞッ!

 数人を殴り飛ばしても、誰も怯まず、私を床に叩き付けるように押し倒した!

 

「少佐殿、如何した!?」

 

 ニムバスの言葉に床に叩き付けられた衝撃で仮面が剥がれたのも気にせず、怒鳴り散らした。

 

「あれには! 私の妹が乗っているんだ!! 放せ、私が助けに……」

 

 ヅダの四肢が大気にもがれて、見る影も失われる。

 その映像が目に入る、瞼に焼き付けられる。

 角付きのモビルスーツだけが大気の業火の中で存在し続けていた。

 

 大気圏を突破した時、頭の中は空っぽで、瞳は何も映さなかった。

 何も考えられなかった。生きる気力も何もかもが失われたようで、ただ茫然とすることしかできなくて、周りが私に話しかけているように感じるけども耳に入らない。私は、取り返しの付かない事をしてしまった。カナリアならば、大丈夫だと何処かで思っていた。どんな過酷な状況であっても、ひょっこりと平気な顔をして生きていると考えていた。

 しかし、ヅダが消失してしまっては、もう────

 

「生きてます!」

 

 ──はっ?

 

「カナリアさんは生きてます!」

 

 ペッシェ准尉が復帰した映像を指で差した。

 ホワイトベースの上に着地する角付きの姿、その胸元には装甲の溶けたヅダの胴体部だ。

 私は、今度こそザクⅡでの緊急出撃を告げた。

 

◆

 

 思わず、としか言い様がない。

 執拗に自分の命を狙う相手を助けるだなんて正気の沙汰とは思えなかった。

 大気圏突入する中、シールドを支える両手。片方の手を放して、胴体部分だけになったヅダを掴み取り、シールドに押し付けた。耐熱ガスの影響を最も受ける箇所だ。少しでも姿勢を崩せば、僕自身が大気に焼かれて死んでいた。まともじゃないなんて分かっている。

 でも、ヅダに乗っているのが人間で、それが僕よりも幼い女の子で、助けられると思ったなら助けずにはいられなかった。

 

 半分解けたヅダの胴体部、コックピットのハッチが開かれる。

 奇跡的にハッチの開閉機能は無事だったようだ。コックピットから顔を出したのは幼い姿の少女、金色の長髪が風に靡いている。彼女はガンダムのカメラ越しに僕を見た、不機嫌そうにしていた。周囲を見渡した後、もう一度だけ僕の方を見る。

 そして人差し指で下瞼を引き下げて、あっかんべえ、と真っ赤な舌を出した。

 

「なんだ……? せっかく助けてやったのに」

 

 僕がむっと口先を尖らせれば、彼女は笑ってコックピットから飛び出す。

 あっ、と声を零れる。少女は風に吹かれて、ホワイトベースの上から落ちていった。追いかけようかと思った時、自分の前に赤いザクが現れる。ソイツは僕を一瞥した後、少女の後を追いかけるようにスラスターを吹かす。

 なんだったんだ? とりあえず攻撃の意図はないようだ。

 

『アムロ! 聞こえる!? 応答して、アムロ!!』

 

 悩んでいても仕方ない。

 僕は通信機のマイクをオンにして「セイラさん、大丈夫です」と応答する。

 なんだか、ずっと大変な思いばかりをしてきたけども、

 今は、少し気分が良かった。ほんのちょっぴり。

 殺し合いを強要され続けた中で、初めて、自分の意志で殺さなかった。

 そのせいで厄介な事が起きるかもしれない。

 生かしてしまったせいで、苦労させられるかもしれない。

 これから先も命を狙われ続けるに違いない。

 だけど、そうだけど。

 後の事は、今は、考えない事にした。

 この胸がすくような想いに、今少し浸っていたかった。

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