北米大陸。ブリティッシュ作戦によって多大な被害を受けた土地のひとつ。
南極において地球連邦軍が停戦条約を拒絶した後、戦時条約が締結すると同時にガルマ率いる地球降下部隊がキャリフォルニアベースへの攻撃を開始する。地球連邦軍の急な方針変換が起きた事もあり、キャリフォルニアベースの将兵は公国軍の奇襲とも呼べる侵略に対応する事もできず、ほとんど無抵抗のまま占領される事になった。
地球攻撃軍の司令官であるガルマ大佐は、そのままジャブローへの橋頭堡を確保しつつ、後方を固める為に北米大陸から連邦軍の追い出しにかかる。ランバ・ラル大佐は勿論、闇夜のフェンリル隊、ノイジー・フェアリー隊という強力なモビルスーツ部隊の活躍もあり、瞬く間に北米の全土占領を完遂する。
この功績を以てガルマは大佐から准将に昇進を果たした。
第二次地球降下作戦に合わせて、ハワイ諸島の占領にも成功しており、ニューギニアとオセアニアに攻め込んだ味方部隊の補佐に従事する。日本諸島を支配下に置く事にも成功しており、アジア大陸の確保に大きく貢献する事に相成った。
今はガルマ少将となっており、ジャブロー基地の炙り出しに精を出す。
「久しぶりだな。司令部から話は聞いたよ」
旧アメリカ合衆国領、カルフォルニア州ロサンゼルス。
ハリウッドサインが見える某ホテルにて、ガルマは書類整理に追われながら親友の声に耳を傾ける。地球攻撃軍の司令部が置かれてあるこの土地には、今もなお地球上の全戦線から情報が送られ続けていた。その全ての情報に逐一目を通し、常に情報をアップデートし続けるのがガルマという男である。
そんな親友の姿を通信映像越しに見たシャアは苦笑いを浮かべた。
「正直、信じられないな。連邦の連中が公国よりも優れたモビルスーツを生み出す事は、まだ分かる。しかし、それは赤い彗星が手こずる程の相手なのか?」
『ザク7機の損害を出してしまったのは事実だ。あまり舐めて掛からない方が良い』
「舐めてかかるつもりはない。……だが、高い代償だな」
『言い訳するつもりではないが、それだけ強敵だという事だよ』
「ああ、肝に銘じておくよ」
赤い彗星とほうき星の魔女の二人がかりで倒し切れなかった相手だ。
ランバ・ラル大佐を呼び戻すか、ノイジー・フェアリー隊を呼び出すかした方が良いかも知れない。闇夜のフェンリル隊は、その部隊の性格から東奔西走と忙しくしている為、こういった時に呼び出すのは難しい。対空攻撃であれば、ザクキャノン小隊を率いるイアン・グレーデン中尉を呼び出すのもありかも知れない。
いずれにせよ、今日明日で呼び出すことは難しかった。
『どうした、考え込んでいたようだが』
「ん? ああ、すまない。君と同じ轍を踏まないように考えていたんだ」
『酷いな、存分に反面教師にすると良い』
「汚名返上の機会は用意するつもりだ」
『扱き使ってやる、と言っているように聞こえたが?』
どちらから、という訳でもなく二人して笑い声を上げた。
「よく無事に帰って来てくれた」
『尻拭いをさせてしまってすまないな』
「何時も頼りにしていたんだ。少しは借りを返させて貰うさ」
映像通信はそのままに、受話器を取る。
今は司令部で待機している自分の副官、ダロタ中尉と連絡を取り、今すぐ動かせるガウ空母を調べさせた。スクランブル出撃だ。空から連邦の新型モビルスーツが落ちて来た事も伝えた後、映像通信を繫げたまま簡単に身支度を整える。『君が来るのか?』と問い掛けるシャアに彼は「君が手こずる相手なのだろう?」と返す。
ルウム戦役の後、サイド2の連邦軍残党を掃討する際にランバ大佐の下で徹底的に鍛えられた。だから指揮に関しては人並以上にできている自信を付けている。
軍服に袖を通した後で、ふと思いついた事を口にした。
「なあ、このままジャブローまで泳がせておくというのはどうなんだ?」
『素直にジャブローまで行ってくれるのであればな。海に出られた時が厄介になる』
通常兵器では、未だに連邦軍が一枚上手だ。とシャアが付け加える。
『出来れば、補給を与えたくはない』
「海の上をミデア*1で空輸ということだな」
『ユーコン級では海上封鎖は出来ても、空を狙い撃ったりは出来ないからな』
ふむ、とガルマは納得したように頷いてみせる。
「余計な事を言ってしまったな」
『なに、ニュータイプ能力持ちも言葉にして伝える事が大事だと言っていた』
「ニュータイプ論も結局のところ、隣人愛という訳だ」
ガルマは最後に髪を整えた後、後で会おう。と通信映像を切断する。
地球に降りてから家族は勿論、特殊任務中の親友と連絡を取る事も叶わなかった。
だから少し浮かれている。
髪先を指で、くるくるっと絡めてから部屋を出る。
接収したホテルは居心地が良い、ハリウッドスター達が使っていたというのも納得だ。
表に出ると、既に運転手が黒塗りのリムジンで待ち構えていた。
後部座席に一人乗り込んだ。
持ち込んだ書類を眺めつつ、僕にも秘書が欲しいな。と一人、呟いた。
◆
現在位置はアリゾナ州、
赤い彗星の襲撃を受けた事で突入のタイミングが遅れた分だけ降下地点がズレてしまった。
目的地のジャブローまでは、約六千キロメートルの距離がある。
「北米はジオンの勢力圏だ! 冗談じゃない!」
尉官用の軍服を着た二十代半ば程の男が怒声を張り上げる。
リード中尉、階級が低くても巡洋艦一隻を任される艦長だ。大気圏突入の際、ホワイトベースを先導してくれたサラミス級宇宙巡洋艦の指揮を執っていたのも彼であり、不慣れな操舵手の為に大気圏突入用のカプセルで共に地球まで降りてきてくれた男でもある。
今は階級の都合で、ホワイトベースの艦長代理となる。
「これでは、みすみす敵に捕獲されに来たようなものだ!」
リード中尉の言葉に「そうです」と私、ブライト・ノアが返す。
「我々はシャアの策に嵌ってしまったのです」
大気圏突入時の奇襲は、二段構えの策であった。
倒せるならば、それで良し。もし倒せずとも公国軍の勢力圏に落とせたならば上々だ。
そんな二手、三手先を読んだ戦術に、まんまと嵌められてしまった。
「……ジャブローと通信を取ることはできないのか?」
リード中尉が通信手であるセイラに問い掛ける。
「先程から試みてはいるのですが……」
「まさか見捨てられた訳ではないと思うのだが……構わん、暗号通信で連絡を試みてくれ。指示を受けない事にはどう動けば良いのかも分からないからな」
「ええっと、暗号通信のやり方は……」
「貴様、軍学校では何を……ッ! いや、そうだったな。この場にいる半数以上が民間人だったな。貸せ、やり方はこうだ」
セイラの代わりにリード中尉が見本を見せるように通信機を操作する。
「暗号文の変換は、機械が勝手にやってくれる」
さて、と改めて私の方を睨み付ける。
表情は険しい。彼は艦長席に腰を下ろし、苛立ちを隠し切れないまま貧乏揺すりを始めた。
正直、そのストレスを抱える気持ちはとてもよく分かる。
「どうにかジャブローと連絡を取らなくてはならんな」
そうリード中尉が呟いた時「敵機です!」とオペレーターの一人が声を上げる。
「大型機一機! 大きさから推測して、ガウ攻撃空母の一個中隊が展開してます!」
「もう来たのか!?」
中尉が叫んだのを横目に、逆に冷静となった私は「展開が早いな」と零す。
「……ブライト君、ガンダムを出撃させる事は可能か?」
「ガンダムは空中戦用の兵器ではありません」
「だからといってコア・ファイターが二機では、数に押し負ける。今までの敵とは違って戦力を揃えてきているのだぞ」
「しかし地上を歩いていては、戦闘機の良い的になります」
「だが、この包囲を突破したところで対空戦闘の問題は付き纏うではないか」
私が指揮を執る。とリード中尉が強い声色で告げる。
「ガンダム、ガンキャノン、コア・ファイターが一機ずつだ。民間人は乗せるなよ」
リード中尉の指示を受け取り、「聞いたな!?」と私は周りに大声を上げた。
「突破口を開く! ユウ少尉、リュウ曹長、ジョブ伍長! 連戦だが今少し耐えてくれッ!」
了解、と既に操縦席に乗っていた三名が同時に返事を返す。
『ブライトさん、僕も行きます!』
ヘルメットを被った姿のアムロが通信映像に映し出された。
ガンダム2号のコックピットに乗り込んでおり、今すぐにでも出撃できる状態にあった。
「大気圏を突破したばかりだ! 整備はまだのはずだろう!」
『戦闘行動には支障がないレベルです』
「素人に何が分かる!」
『BBが確かめてくれました!』
「整備士の事か!? 本当に行けるんだな!?」
何度も念押しする。
『行けます』とアムロは、それだけを口にした。
リード中尉を横目に見る。
「……軍法会議ものだな」
「しかし、ここを突破しなくては明日もありませんよ」
「その通りだ。対空戦は弾数が多ければ多いだけ良い!」
行かせろ、というリード中尉の言葉でガンダムの出撃が決まった。
大気圏に突入後、すぐの交戦。サイド7を出て、これで四度目になる。気を落ち着ける暇もない、もう私自身が疲れ切っていた。しかしモビルスーツで戦う皆の方が私の数倍疲れているはずだ。泣き言は言ってられない。手の空いている者には、機銃の銃座に座るように指示を出す。
当たらなくとも良い。対空砲火は弾幕の厚さがモノを言うのだ。
◆
「なるほど、木馬とはよく言ったものだ」
急遽、発進させたガウ航空空母。その艦橋から見る敵影を見て、素直な感想を零す。
見た事のない形をしている。強襲揚陸艦としての性能を持ちながら戦艦並の装甲と戦闘力を兼ね備えている。連邦軍の連中は優れたモビルスーツを開発したという話だが、彼の木馬も大した化け物スペックだ。
シャアとカナリアが負けたのだ。決して、侮れない。
「失礼する」
仮面を被ったシャアとカナリアが横並びで艦橋に入る。
「敗軍の将である私に斯様な厚遇を感謝致します。北米方面軍司令ガルマ少将」
「普段通りで良い。君に畏まられるとむず痒くなる」
私が手を差し伸べれば、シャアもまた握手に応じる。
その隣には不機嫌に頬を膨らませるカナリア。官邸にいる時のカナリアは何時もメイド服を着ていた為、軍服姿の彼女を見るのは少し新鮮だった。頭には幾つものたんこぶが付いている。私は、副官のダロタ中尉と視線を交わし、二人を連れて艦橋を離れる。談話室、誰も入れないように兵に指示を出して、二人を中に招き入れた。部屋に備え付けた紙コップ、ティーパックを入れて電気ポットの熱湯を注ぎ入れる。
先に椅子に座らせた二人の前に「安物だがね」と熱々の紅茶を置いた。
「カナリア、今度は何をしでかしたんだ?」
「ひっどーい! 開口一番に、それなの!?」
「このバカは連邦の新型を道連れに大気圏へ突入した」
「なるほどな。僕も一発、その脳天に拳を叩き込んだ方が良さそうだな」
「ええ、なんで!? もういっぱい、叱られたんだけど!?」
「是非とも殴ってやってくれ。この通り、反省の色が見えない」
ぶうぶうと抗議するカナリアに笑い声を零す。
彼女の名前はカナリア・ザビ。ルウム戦役の後、兄ドズルが養子として引き取り、私の姪になった少女である。そしてシャアが士官学校に入って以後五年近くも探し続けていた義妹が彼女だと発覚した時、芋づる式に判明した事実として彼の本名がキャスバル・レム・ダイクンである事を私は知っている。
この事をザビ家で知っているのは、今は私とドズル兄さんの二人だけだ。