今何処。此処は数多ある夢の世界、可能性のひとつを悪用したメタフィクション時空。
物語の序盤でサイド3に空いた大穴から外に放り出されたはずのテム・レイが背広の姿で教壇の上に立ち、その背中にある黒板には大きな文字で“技術の「ぎ」の字も知らぬ上層部のバカ共でも分かるガンダム解体新書”と書かれていた。この講義を受けるのはモビルスーツの設計に携わった選りすぐりの技術者達、最後尾の窓際という主人公ポジションには、なんとあのジオングを以てして「足なんて飾りです、偉い人にはそれが分からんのです!」という名台詞で有名な技術者が陣取っている! あのガンダム史上、最も知られた技術者だ! 名前は分かんないけど!
そんな窓の外を見つめて、意味深に物思いに耽る彼の事は頭の外へと追い出し、教室には所属問わず時代を超えたメカニック達が学生服姿で机に座っていた。膝上に軽く握り締めた手を添えた面接スタイルで講義に挑むのはアストナージ。床を引きずるほど、丈を長くしたスカートを履いたスケバンスタイルのニナ・パープルトン。そして前列の真正面には、男子生徒のほとんどが黒色の学ランに袖を通す中、純白の学生服を着こなす貴公子パプテマス・シロッコの姿があった。タイマンであれば誰が相手でも勝てると言いたげなジ・Oの思い切った性能は正直、大好きだぞ!
テム教授はコホンと咳を零し、問題児だらけの教室を前にして大きく口を開いた。
「この作品はメタフィクションだ。原作の考察ではなくて、この作品におけるガンダムの立ち位置を考える単話となる」
正直、読む必要はない。とテム教授が告げる。
よくあるアニメの大晦日スペシャルとか、ミニパトとかそんな感じの立ち位置にある作文だ。
つまり、これは筆休めなのだ。小説を書くのに疲れたので小説を書くのである。意外に思われるかも知れないが物語を書き連ねる事とエッセイを書き連ねることは別腹だ。漫画を描くのとイラストを描くことが同じでありえないように、楽器を弾くのと歌を歌うことが同じでないように、使っている脳の位置が違うのか何なのか──これは昼食後、三つ時に食べるおやつといった単話である。この後にまた夕食があり、夜食を摂取し、少し脳を休めた後にまた朝食、昼食と続いて、三つ時のおやつが間に挟まっている。つまりは小説を書くのに疲れたから文字を書く事に矛盾はないのだ。
私の理念上、クリスマスだのバレンタインデーなど、キリ番記念のアンケート作品など、そんな時事ネタに現を抜かす暇があれば、さっさと続きを読ませてくれと言うのが本音ではあるのだが私は今、酷く疲れている。
という訳で物語ではなく、ただただ手慰みに書いたのが本話となっている。
まあ書き始めたからには、それなりには仕上げなくてはならないのが私の矜持。何時もの読者層よりも更に絞ったコアな話に見せかけた、設定語り。もとい、設定物語となっている。
物の設定を語るから物語。今、上手い事を言いました。はい拍手。
どーもどーも。反応が薄いですね。
「先ず最初にガンダムを語る前に連邦軍のモビルスーツの歴史を語っておかなくてはならないな」
テム教授は黒板に書かれた表題を消した後、大型戦闘車輌という文字を書き記す。
大型戦闘車輌とは、
ジオン・ズム・ダイクン暗殺事件が起きた当時、地球連邦軍で制式採用されたガンタンク初期型の事である。大型戦闘車輌と分類されている事から分かるように、この時はまだモビルスーツとして扱われていない──というよりも当時はまだモビルスーツという概念すらなかった。
治安維持を名目に配備された当車輌、敵として想定されるのは暴徒化した民衆である。
その為、市街地での運用が想定されており、車高を高くする事で視界を広く確保しようと試みた。また両腕には取り回しの良い機関砲を装備する事で対人掃討能力の向上を図っている。車高を高くした分だけ、火炎瓶などで襲われる事もなくなり、暴徒相手に蹂躙する分には十分な性能となっている。
そもそもだ。ジオン共和国が生まれる以前、世界は地球連邦政府によって統一されていた。
故に国家を相手取るような強力な兵器は必要なかったのだ。
結果的に上半身が人型になったのは、暴徒鎮圧に特化した末の事なのだ。
後付けで民衆に対する心理的抑圧という理由が加えられた。完成したガンタンクの設計図を見た技術主任でも「ロボットアニメかよ」と思わず呟いた見た目に対して、頭の固い上司を説得する為に考えた苦肉の策となっている。
実際、市街戦を想定した治安維持の兵器としては優秀であった為、無事に認可された。
ガンタンク初期型の威容は、抑圧を受け続けたスペースノイドに強く印象付けられる事になる。
この前提を以て語るのであれば、IGLOO作品に出演したヒルドルブは、明らかにガンタンク初期型を意識した兵器という事になる。公国軍が兵器の形に人型を選択する忌避感をなくす要因にもなっており、後のモビルスーツ開発へと繋がっていく事になった。
モビルスーツの前身がモビルワーカーであるならば、そのモビルワーカーの前身がガンタンク初期型なのだ。
「公国軍がモビルスーツという未知の兵器を開発していた事は勿論、本作の連邦軍も掴んでいた!」
熱く語るテム教授は、嘗ての屈辱を思い出すかのように拳を握り締める。
当時の地球連邦軍では、モビルスーツの有用性が理解できなかった。
ミノフスキー粒子散布下では通信障害が発生するという事実を、当時の連邦軍は知らなかった。
その為、モビルスーツの兵器としての有用性を認める事ができなかった。
ただ作業用機械としてモビルワーカーが優れている事は分かっていた為、サイド3。延いてはスペースノイドの独占市場にさせない為にモビルスーツの開発に着手する事と相成った。地球連邦政府、延いてはアースノイドの威信にかけて、AE社を巻き込んで開発したのが、スミス海の戦いで投入された最初期型ガンキャノンとなる。
その時の技術主任は、テム・レイ。
ただ地球連邦政府の意地に付き合わされただけの貧乏籤であった。
連邦軍の上層部は、モビルスーツの開発に懐疑的であった。
テム技術主任もまたモビルスーツの知識が不足していた事もあり、出来上がったのはモビルスーツ未満の情けない代物であった。この時はまだ、大型戦闘車輌であるガンタンク初期型と大差なく、連邦艦隊に対する切り札として開発が続けられたザクⅠに敵うはずもなく蹂躙される結果に終わっている。
スミス海での大敗。実際の所、地球連邦は重く受け止めていなかった。
連邦軍には、質と量を両立した無敵艦隊がある。脆弱な公国艦隊なんぞ鎧袖一触で蹴散らす自信がある。
故にスミス海での戦いの後、連邦軍のモビルスーツ開発は停滞してしまう事になった。
此処までの話で重要なのは、一点。
本作の連邦軍は、モビルスーツ開発のノウハウがなかった訳ではない。
ある程度、開発に着手した状態であったという点だ。
「スミス海の戦いは、私も不満が残る結果であった。次こそは負けてはいられない。と温め続けた計画がV作戦の草案となっている!」
V作戦、と大きく書かれた黒板をテム教授がバンと手で叩いた。
拳を握り締めて、冷遇されていた当時を思い返す。いつの日か、誰かモビルスーツ開発が日の目を見ると信じて、堪え難きを耐え忍んできたのだ。そんな涙なしには語れない話は、全面的なカットを挟んで、V作戦の話に移る。
涙なしには語れない話は、テム教授に涙を飲んで貰ってなかった事にします。
ふふっ。今、上手い事を言いました。ここすきの押し所さんです。
再び連邦軍内でモビルスーツ開発に注目が集まったのは、ルウム戦役の後の事だ。
同戦役で大敗を喫した事で、連邦軍はミノフスキー粒子散布下におけるモビルスーツの脅威を認識したのだ。以後、モビルスーツ開発はレビル将軍が主体となって推し進められる。既にノウハウを持っていたテム技術主任が再び日の目を見る事になり、兼ねてより彼が温めていた計画はゴップ大将の監修で作戦案としてまとめられた。
それが彼の有名なV作戦の始まりであった。
先ず、明示する。
本作におけるV作戦の最終目的はガンダムに非ず。
連邦軍の主力量産機の開発。
即ち、ジムの開発であった。
ジムの開発に当たって、先ず問題となったのがモビルスーツに関する情報不足だ。
モビルスーツという新兵器を開発する為の情報が出揃っていなかった。
故に主力量産機の開発と偏に言っても、その基準の設定すら儘ならなかったのだ。
そこでテム技術主任が取った手段というのが、
先ずは性能とか小難しい事を考えず、今できる一番良いものを作っちまおう!
というものであった。
チマチマと最適解を探り続けるよりも、先に良いものを作った後で性能を落とす方が簡単なのだ。
勿論、このやり方には欠点がある。時間に余裕があり、資料も十分に揃っている状態であれば話は変わって来る。
しかし連邦軍は基礎技術の再構築から始めなくてはならない状況にあった。それも戦争が起きた後の状況であり、時間は一刻足りとて無駄には出来ない。ジムを作る為にはガンダムが必要であり、ガンダムを作る為にはガンタンク、ガンキャノンで経験を積む必要がある。最短距離でジムを作る為には、兎にも角にも物を作ってデータを集める事から始めなければならないのだ。
一見すると遠回り、しかし連邦軍にはジムが主力量産機として成り立させる為に必要な基準すら分からなかった。
兎にも角にも物量で押し切る本計画の欠点は、湯水の如く資金を消費する事にある。
だが、幸いにも連邦軍の資金は、公国軍と比べて潤沢だった。
金で買える時間は、金で買え。金を惜しむな。
某眉なしの野望ゲームが好きな諸君達であれば、開発資金を倍プッシュすれば、開発期間が半分になる事は分かっているはずだ! 倍にした開発資金は何処に消えているのか、従業員の残業代であるッ! 通常業務で8時間、手当込みの残業で4時間ッ! 朝も2時間早く出勤すれば、日に14時間も働ける! 従業員は札束で叩いて黙らせるのが資本主義のやり方だッ! オラッ、犬になれ! 資本主義の犬になれッ! キャンキャンと泣き喚く従業員を金の力で黙らせてなおもまだ足りないのであれば開発資金を更に増やせば良いッ! 連邦軍はホワイトな組織であるが故、寝袋と栄養剤の現物支給ッ! 連邦軍は裏表のない素敵な企業です。はい、復唱。良かったな、研究室で寝泊まりすれば宿代も掛かるまいッ!! なんと電気と水道は使いたい放題、これはホワイト企業。通勤時間が平均1時間と考えれば、日に16時間も働ける計算になるッ!! 休日出勤の手当も付けてやろう、この欲張りさんめッ!! 16時間を5日で割れば、3時間強! 土日で倍の6時間だ! 祝日の追加分を加味すれば、掟破りの23時間労働だ!! そこにひと匙の個人努力として気合と根性を試算すれば、なんと夢の24時間労働となるッ!! ハッハッハッ! 企業倫理がゴミのようだ! 何時如何なる時に背中を刺されてもおかしくないなッ!! 夜道も一人で歩けまいッ! 責任者は常在戦場の覚悟を以て、重役出勤するものとするッ!! 重役、知っていますか。工場内での死因の大半は
そんな事が実際に起きたかどうかはさておいて、
ルナ・チタニウム合金の開発と共にモビルスーツの開発は進められる。
ガンタンク、ガンキャノンを対モビルスーツ戦を想定して再設計し、
二機から得られた情報を元にガンダム試作機1号の開発に着手する事になった。
ほぼ同時期にジムの開発が推し進められる。
この同時進行の開発には理由がある。
モビルスーツパイロットの養成を少しでも早く始めなくてはならない為、パイロット訓練用のモビルスーツを用意する必要があった。事のついでにジムから得られた情報をガンダムにフィードバックし、ガンダムから得た情報をジムにフィードバックを繰り返す。この異次元の荒業を可能としたのは、二機の設計担当者が同じ人物であった事が要因のひとつに上げられる。
つまりはテム技術主任の独断と専制によるウルトラC、開発の新月面が描く設計図は栄光の架け橋だ!
新しい情報を得る度にテム・レイは設計図を書き直していた為、ジムの初期生産型は基本設計を無視するのが常習化されていた。というよりも基本設計が日付けの変わる度に更新される。生産工場に所属する人間は阿鼻叫喚である、極道入稿も真っ青だぜッ! ガンダム試作機1号から取れるデータがなくなった時、初期生産型ジムの生産も打ち切られた。
そうしてジャブローには42機のバリエーションを持った初期生産型ジムが積み重ねられる。
その為、同機は「粗製乱造」や「粗悪品」と揶揄される事も多々あった。
実際、その通りである。ぐうの音も出ねえや!
公国軍がサイド7を襲撃した際、テム・レイ氏は行方不明となっている。
それが事故なのか、事件なのか。今となっては知る由もない。
此処までの話、何が言いたのかといえば、
ガンダムも含めて、RXシリーズで開発された機体の全てがジムを開発する為の踏み台という事だ。
実際の試作機とは意味合いが異なるが、
ガンダムとは「モビルスーツを開発する上で問題点を洗い出す為に試験的に生産された機体」であると同時に「新たな装備や新機能をテストする為に制作された機体」である上に「モビルスーツが持つ可能性の限界を模索し、機体がパイロットや環境に与える影響などを確認する為の機体」でもあった。
開発責任者であるテム・レイですらもガンダムの立ち位置がよく分かっていなかった。
ただひとつ言えることは、ガンダムがなければジムは完成しなかった。
ジムがガンダムの後継機と呼べるかも知れないが、ガンダムもまたジムの開発途中で得られたアイデア等がフィードバックされている為、一概に後継機と呼ぶこともできない。V作戦の趣旨に着目すれば、ジム以外の機体は全て試作機という枠組みに嵌められない事もないかも知れない。同時期に開発された機体である為、兄弟機と呼ぶ事もできるかも知れないが、そのように呼ぶには二機の趣旨があまりにも違い過ぎた。
結果的にガンダムから得た情報を元に量産機の開発を行っている為、機体構造を簡略化した廉価版とも呼べるかも知れない。実際、技術的には同じものが使われている。再設計を間に挟んでいる以上、別物と呼ぶ事も可能だ。本作の後世において、技術者達はガンダムとジムの関係を例に出して「試作機とは何か?」という哲学的な問題を前に延々と頭を悩ませ続ける事になる。
ちなみにテム・レイは実験機だと考えている。
しかし書類上は試作機として、開発した。
何故か。理由はただひとつ、V作戦はジムを開発する為の作戦である為だ。
ガンダムというハイスペックな機体を製造する為の計画ではないが故、ガンダムを実験機にしてしまってはジムの開発費用として計上できないのだ! 政治である、法律でもあった。ゴップ直伝の裏技でもあった! そう、誰が何と言おうとガンダムは試作機なのである! 黒は白いのだ、だからガンダムは白いのだ! 黒と赤は悪、白と青は正義ッ! そうでなくては開発費用の横領となってしまう為、ガンダムは試作機でなくてはならないのだ!
試しに作ってみた機体を略したら試作機になるんだから試作機なんです!
信じてください! 本当なんです!
ガンダムを製造した時、テム技術主任の誤算はただ一つ。
開発にルナ・チタニウム合金を装甲に用いた結果、想像以上にヤバい代物が出来上がってしまった。頑丈である為、機体に負荷を掛ける実験がやりやすく、ジムに必要とする強度を割り出す事もできた。また出力も十分にあり、運動性にも優れていた為、モビルスーツ用の様々な新機能や新兵器の実験機するのに丁度良い機体でもあった。
ガンダム試作機2号は新機能、新兵器の実験専用機として新たに製造された機体である。
大気圏突入用の装備が付けられていたのも、同じ理由だ。
そして、量産機にルナ・チタニウム合金はコストの面も含めて、上層部に過剰だと判断された。
ジムへの使用は必要最低限に留められる。
「つまり、V作戦とは何か!? 要約するとジムを開発するまでのロードマップの事だ!!」
最短でジムを開発する為に熟すべき課題を選定し、解決する為の手段を言語化した代物。
コストは度外視し、速度のみを追求した予定表であった。
故に連邦軍は無駄を排する事により、最短でジムを作り上げる事に成功する。
その結果、連邦軍はRXシリーズ以外のモビルスーツを新規開発できなくなってしまった。
延々とRXシリーズを拡張し続ける事で急場を凌いだ。
そして、ボールが開発された。
以上が本作におけるガンダムとジムの関係性となっている。
ここまで語り尽くしたテム教授は満足げな顔で教室を見渡した。
最後まで起きて聞いていたのは最前列に座るシロッコだけ、他は誰も話を聞いちゃいなかった。