NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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19.胃薬は常備薬です。

 地球連邦軍所属ブライト・ノア少尉、彼の父親は地球連邦軍に所属する軍人であった。

 父親はスペース・コロニー建設に関わる任務に従事していた為、地球にある家を離れている事が多く、幼少期の大半を母親との二人暮らしで過ごしていた。だからといって、特に性根が捻じ曲がる様な事もなく、真っすぐに育っていく事になる。

 彼の母親は、父親の事を悪く言う事はなかった。

 父親に関しては擁護的であり、それなりに裕福な家庭であった。年に数度、家に帰ってくる度に父親は、自分の息子の事を可愛がっていたし「あまり一緒に居てやれなくてすまない」と事ある度に謝っていた。母親は浮気をしなかった、父親が帰って来る度に仲睦まじい様子を見せられていた。

 だからブライトは、あまり家に帰って来ない父親の事を、そういうものだと受け止める事ができた。

 

 なによりも彼の母親はコロニー公社に勤める技術者であり、仕事の関係が二人の出会いだと耳にタコができるほど聞かされていたので父親の仕事の事を悪く思うことなんかできなかった。父親の仕事は、悪い奴から民衆を守る為の素晴らしい仕事だと解釈し、そう思い込む事で寂しさを紛らわせた。

 

 そうして彼は中学生まで優等生として生きた後、親の背中を追いかけるように士官学校への入学を果たす。

 彼が士官学校の寮に入った翌週、母親は父親と二人で過ごす為に宇宙へと飛び立った。両親の仲の良さは知っている。今日まで文句ひとつ言わず、愛して育ててくれた母親にブライトは感謝の気持ちでいっぱいだった。寂しい想いはある。でも、自分を地球で育てる為に離れ離れになった分だけ幸せにやって欲しいと素直に思う事ができた。

 ブライト・ノアとは、そういう人間であった。

 

 ブライトは優等生であると同時に秀才と呼べる人間であった。

 士官学校を卒業した後、将来を有望視されていた彼はパオロ中佐の補佐官に選ばれた。ジオン共和国がジオン公国に名を改めた頃、士官学校の教官から軍に戻されていたパオロ中佐は新型の強襲揚陸艦、ペガサス級ホワイトベースの艦長となっていた。その初任務、初航行にブライトも付き従う事になり、短い期間、教官の時の癖が抜け切らないパオロ中佐の教えを受け続ける事になる。

 そして、新型機の受領の為にサイド7に乗り込んだ時、多くの戦いに巻き込まれる事と相成った。

 

◆

 

 宇宙世紀0079年9月26日。

 ホワイトベースは今、ジャブローを目指して北米大陸アリゾナ州を緩やかに南下中。大気圏突入後の戦闘により、機関の出力は三割を切ってしまっていた。おかげで速度は出せないし、高度を取る事もままならない。搭載したモビルスーツの損害が少ない事だけが慰み程度の救いであった。

 レーダーには、常に敵機を捉えている。

 攻撃を仕掛けてくる訳ではないが、常に自分達の動きを観察できる位置関係。時折、挑発するように視覚内まで姿を見せに来るのが厭らしかった。追い払いたいが、相手は3機編成。すぐ相手の援軍が来ることを考えれば、コア・ファイターで襲撃を仕掛けることもままならない。ユウ少尉以外のパイロットは、新兵か民間人だ。敵に誘い出される可能性も考えると、やはりホワイトベースから距離を取らせる訳にはいかない。

 ユウ少尉を出撃させてしまっては、緊急時に頼れる相手が居なくなる。

 

「レーダーに敵影あり! ドダイです!」

「またかっ!」

 

 オペレーターの報告を受けて艦の指揮を執る。

 地球に降り立ったのが23日の話。今日までに十回以上の爆撃に晒されており、その度に艦にいる全員が叩き起こされる羽目となっていた。昼夜問わず、日に三度以上の爆撃に晒されるとなれば、二十四時間体制で備える他になく、ローテーションを組んでいても日に日に疲れが溜まっている。

 そんな中でも文句ひとつ零さず、粛々と第一種戦闘配備に移るユウ少尉の存在は大きかった。

 

『ユウ少尉、ガンダム1号にて待機。出撃の必要があったら言ってくれ』

 

 映像通信を使って、彼からの連絡が入る。

 誰よりも大きな戦果を上げて、誰よりも多くの戦闘に関わる彼が率先して動き出す。

 そんな彼の姿を見れば、周りも不満を押し殺して動かざる得ない。

 

 彼が特別かといえば、そんな事はない。

 少なくとも人並み外れた体力バカではなかった。実際、食堂で食事を摂る彼が居眠りをする姿は何度も確認されている。皆が彼を気遣って起こさないようにする中で警報が鳴り響けば、彼は何事もなかったかのように目を醒まし、誰よりも早くモビルスーツのある格納庫へと駆け出した。

 そんな姿を見せられては、誰も文句を言えるはずもない。

 不満はある、憤りを感じている。それは全て、襲撃を仕掛けてくる公国軍へ向けられた。「寝かせろっ!」と機銃の照準を定める手に力が込められる。この敵地に孤立した絶望的な状況下で、自棄染みた感情が結果的に戦意の維持に繋がっている。

 問題なのは、むしろ民間人の方だ。連日連夜の襲撃に心の方が持たなくなっていた。

 暴動まで一歩手前の状況まで追い詰められている。

 

 ドダイから放たれた対地ミサイルがホワイトベースを大きく揺らす事、数回。

 ルナ・チタニウム合金の装甲は、自分達が想定していた以上に頑丈だ。モビルスーツの装甲板と比較して、艦艇に取り付けられた装甲板は厚みがある。あれだけガンダムが頑丈であった事を考えれば、数度の爆撃に耐える事は訳なかった。それでも少なからずの被害は出る、迎撃をする度に物資が削られている。

 数度の爆撃を終えた後、悠々と帰還するドダイを大人しく見送る他になかった。

 

「こんな調子でジャブローまで持たせられる訳がない」

 

 艦長が弱音を吐く訳にはいかない。

 今、ホワイトベースの艦長は交代制だ。リード中尉に艦の指揮を任せている間に自分は、もう何も考えたくはないと目を閉じる。気絶するように睡眠を取れば、まだ数秒しか経っていないように感じるのに交代の時間が訪れた。

 溜息を零す。リード中尉と交代し、艦長席に腰を下ろす。

 ジャブローに辿り着けば、なんとかなる。

 その縋る想いは、連邦軍から送られてきた無線通信によって打ち砕かれる。

 

「ホワイトベースは敵の戦線を突破して海に脱出することを望む……なんだ、これは?」

 

 司令部は俺達に何をさせたいんだ?

 疑念は胸の中にしまって、不満は口から出さないように努めた。

 

◆

 

 南米某所。地球連邦軍総司令部、ジャブロー基地。

 ヨハン・イブラヒム・レビルは、自慢の髭を紅茶で濡らして溜息を零していた。

 制服の襟に着いた階級章は、大将を示す。ルウム戦役後、地球連邦軍の総司令官に任じられた彼は、役職に階級を合わせるように中将から大将に昇進させられていた。そんな彼が開戦後から任されたのは、各地で連戦連敗を続ける連邦軍の戦線を整備し、防衛線の構築、反攻作戦の準備が整うまで計算的で徹底された遅滞戦術の作戦立案。その指揮を執り、実行するまで行われている。

 そんな過労死コースまっしぐらな彼を今、悩ませているのがホワイトベース問題であった。

 

 ルナツーの司令官であるワッケイン少佐から送られてきた秘密通信。軍内部にすらも知らされない徹底した情報規制を敷いた上で受け取った暗号文から読み取ったホワイトベースの現状は、血反吐を吐きたくなる程の胃痛案件であった。アジア大陸の古い歴史書には、よく憤死という言葉が使われている。もし仮に憤死が実在するのであれば、きっと今の自分のような胃痛案件を抱えて倒れてしまった者達の事を指し示したのだとレビルは益体も無いことを考える。

 

 大気圏に突入した時、直接、ジャブローまで来たのであれば受け入れる準備もある。

 しかし公国軍が支配する北米大陸に落下してしまったのであれば、大々的に迎えに行く事は不可能に近い。というよりも連邦軍は現在進行形で連戦連敗の真っ只中にあった。相手の防衛線を突破して、友軍を助ける余力なんて何処にもない。仮に敵の包囲を突破して、ジャブローまで来られるのも困る。

 それは今、ホワイトベースが敵軍の標的になっている事が問題であり、敵に注目を浴びたままジャブローに入られては基地の位置を特定される可能性が高い為だ。北米大陸に居ても助けられず、ジャブローまで来ても厄介払いにする他にない。参謀本部からは軍事機密を明け渡さない為にホワイトベースを自沈させるべきだと訴えがあり、連邦軍全体でも見殺しにする意見が過半数を超えていた。V作戦の機密保持の観点からも反対し続けているが、協力を得ることは難しい。ホワイトベースの装甲は、ルナ・チタニウム合金が用いられており、それを全て破壊することは不可能だ。万が一にもルナ・チタニウム合金の有用性を知られてしまえば、今度はルナツーが危うくなる。

 連邦軍が勝利する為には今、ジャブローの位置を特定されてはならず、ルナツーを落とされる訳にもいかない。今は後期型ジムの量産が始まったばかり、十分な数を製造するまで耐え続けなければ、反攻作戦は成立しなかった。

 それに、いざとなれば簡単に友軍を見捨てる軍に統制が保てるはずもない。あのホワイトベースには少なくない数の民間人も乗せられているのだぞ。

 

 現実問題、アメリカ大陸にホワイトベースの居場所はない。

 故にホワイトベースの生存には、欧州方面で善戦を続ける部隊と合流する他に手はなかった。

 生かす為には補給が必要だ。北米大陸を出た後、欧州まで行く物資が足りない。

 しかし、敵地に孤立した部隊の為に戦線を突破なんて真似を命じられる相手はいなかった。

 頭を悩ませる。そんな無謀な作戦に、一人の志願者が居た。

 

 マチルダ・アジャン中尉、後方で補給部隊の隊長を務める女性士官だ。

 何処から聞いたのか。ホワイトベースの現状を知った彼女は、子供を見殺しにはできない。と危険な任務に従事する許しを得る為に直談判しに来たのだ。

 そんな彼女にレビル将軍は、ホワイトベースの命運を託す事を決めた。

 

◆

 

「木馬が進路を西に取ったらしい」

 

 ホテルの一室にて、部下からの報告を受けたガルマがソファの横に座る私に告げる。

 

「ほう? 西海岸から海に出るつもりか?」

「海から回り込むつもりかな?」

「もしくは、ジャブローに行く事を諦めたのかも知れないな」

 

 シャアが顎に手を添えて考え込む仕草を見せる。

 頭の中で木馬の動きを思い返す。大気圏突入直後、北米大陸に落ちた木馬は先ず、南に進路を取った。これは連邦軍の総本山であるジャブローに、少しでも近寄る為だったはずだ。その方針は昨日までは変わっておらず、今朝、初めて明確に西へと進路を取り始めた。

 この急な方針転換には、何かあった。と考えるのが妥当だ。

 

「木馬に向けて、何か通信があったという報告はないか?」

 

 部下に確認を取らせる、しかし南米からの通信量が急に増えたという事はないようだ。

 

「連邦軍もバカではあるまい。そんな分かりやすく通信を取るような真似はしないはずだ」

 

 ジャブローから指示があったのだ、とシャアは断言した。

 

「何故、そう言い切れる?」

「ここから暫く、公国軍の大きな拠点はないからな。迂回したとは考えにくい」

「迂回するならするで今、ここで動き出すのは不自然って事か」

 

 北米大陸から逃がすつもりはない。

 あの木馬、特にモビルスーツとパイロットは公国軍にとって危険だと判断した。

 倒すべきは今、孤立している今が最大の好機である。

 

「……補給があるはずだ」

 

 不意にシャアが零す。

 

「北米大陸の西には、太平洋がある。あの辺りは公国軍が抑えている為、補給を得る事は難しいはずだ」

「ジャブローに逃げ込まないんだ。連邦軍が木馬を見捨てる可能性は?」

「それならそれでも構わない。私の心配は杞憂だった、で済む話だ」

 

 物資が尽きた段階で降伏を促せば良い、とシャアが答える。

 

「我々が今、避けなくてはならない事は木馬が味方と合流することだ」

「……そうだな、その通りだ」

 

 角付きの危険度は身を以て理解している。

 あれを解き放っては公国軍の後方に甚大な被害を与える事にも繋がり兼ねない。

 自棄を起こして、兵站を荒らすだけ荒らされても困るのだ。

 白い木馬は今、倒さなくてはならないのだ。

 

「やはりイアン中尉を前線から引き抜く事も検討しておくべきだな」

「イアン中尉?」

「守備隊のモビルスーツ中隊隊長だ。ザクキャノンの名手であり、今日まで航空機を20機以上も墜としている対空砲火の達人だ」

 

 それは凄いな、とシャアは素直に感心してみせた。

 もし仮に連邦軍が木馬の補給に訪れるのであれば、その手段はミデアによる輸送だと考えられる。

 ミデアでなければ、それに準じる補給艦だ。

 それらに対応する為には、空を飛ぶ敵を撃ち落とすスペシャリストが必要となる。

 幸いにも今、前線は安定していた。

 

「……カナリアはまだ慣熟訓練を終えていないのだったな」

 

 シャアが零す。カナリアの事なので、現状でも戦えない事はないはずだ。

 だがシャアは今回、カナリアの出撃を見送る事を提案した。あの白い角付きを見た時、カナリアは強い執着を見せる。危険を厭わず、無理やりにでも破壊しに行ったのが大気圏突入時の惨状だ。シャアは今すぐにカナリアを出撃させたいとは考えなかった。少なくとも万全の態勢を整えるまでは、白い角付きと会わせるつもりはない。

 そのように断言した彼は自嘲する。

 

「シスコンだと笑うかね?」

「家族を大事に思うのは当然だ」

 

 次回の作戦は、カナリア抜きで実行する事を決断する。

 今日、合流したノイジー・フェアリー隊の補給も、もう終わっているはずだ。

 北米方面軍の総力を以て、先ずは木馬を追い詰める。

 そして撃破してのけるのだ。

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