俺が工事区と偽る試験場でザクを3機、撃破した時の事だ。
連邦軍の駐屯地。居住区側の出入り口でも戦闘が発生したという話を聞いた。相手はザクが2機という話だったが、両機共にガンダム2号機が撃破したとの事だ。ガンダム2号機のパイロットは、ケンプ中尉。彼は新型兵器のテストパイロットに選ばれているだけあり、優秀な軍人だった。流石だな、と素直に感心した後で艦長代理を名乗るブライト少尉の指示に従って、輸送途中にあったガンダムに関連する予備パーツと共に搬入を開始する。
ガンダム2号機は、先に新型強襲揚陸艦であるホワイトベースに格納されるのを見た。
遠目から見た感じだと、目立った破損はなかったように思える。しかし、覚束ない足取りをしていたので関節部を壊していたのかも知れない。……まあ、とりあえず、2号機のザクとの戦闘でコロニーに大穴を空けてしまったのでサイド7の放棄が決まった。
もう、此処には長くいられない。避難民の収容を終える頃には、1号機の格納まで終わらせておきたい。
『変ですね』
機械音声、BBと名乗るAIが告げる。
「何が?」
『2号機には、子供が乗っています』
「……分かるのか?」
『分かります。エスパーなので』
「今や、機械がエスパーを語る時代か」
モビルスーツパイロット候補生には、18歳のリュウ・ホセイ曹長が居る。
この1号機の正規パイロットが居なかったのと同じように、もしかするとケンプ中尉も怪我をしたのか、やられてしまったのかも知れない。駐屯地は勿論、格納庫も壊滅状態にあった為、俺が想像している以上に状況が悪い可能性もある。
でもまあ、出来る事をやるだけだ。
「お前の事も気になるからな」
後でテム博士に詳しい話を聞いてやる。と思った時に『自己紹介は必要ですか?』と機械音声が耳に入る。
「ああ、頼む」
『要求にお答えできません』
教えてくれるのなら、と肯定すれば、帰って来たのは否定の言葉だった。
『私には記憶がありません』
「……記憶? 記憶媒体でも破損したのか?」
『自己診断システムを起動──いいえ、十全に機能しています』
「十全に機能しているのなら、それで良いんじゃないのか?」
『……そうですね、私は戦闘支援用プログラムです』
そのようにマニュアルに記載されています。とAIは他人事のように語る。
機械音声は無感情だ。だから、そう感じてしまっただけかも知れない。
……はたして、ただの機械が、エスパー、等と冗談を言うのか。
兎も角、運び入れられる分の物資は運び入れた。
運び入れられない分は使い物にならないように処分をしてから破棄した。
ガンダム1号機をデッキに立たせる。BBに別れを告げた後、ホワイトベースのドックを見回してみたが、極端に人が少ないように感じられた。ブライト少尉の指示に従って艦橋に顔を出す。その途中でも、やはり、連邦軍の制服を着た人物は多くない。
嫌な、予感がする。
その想いが確信に変わったのは、艦橋でベッドに横たわるパオロ中佐の痛々しい姿を見た時だった。
ホワイトベースの士官も含めた搭乗員は、久しぶりのコロニーの寄港で半分以上が艦を降りていた。その搭乗員が居た場所が駐屯地であり、その駐屯地の施設はザクの手によって壊滅状態にある。ホワイトベースに残っていた士官もモビルスーツを輸送する為に指揮を執っており、この時にモビルスーツを狙ったザクの無差別な銃撃で殺されてしまっている。
士官は、ほとんど居ない。少なくとも艦橋に立つ人物で尉官以上なのは、重傷のパオロ中佐とブライト少尉の二人だけだ。
モビルスーツパイロットは、自分を除いて全滅してしまっている。
パイロット候補生にリュウ軍曹の他にジョブ伍長が居るが、共にまだパイロット訓練を受け始めたばかりだ。素人に毛が生えた程度でしかない。さっきは、もしかしたら、という思いもあったが、二人にはガンダムの操縦は難しいだろう。
まだガンタンクにでも乗せている方が役に立つはずだ。
「操舵手が、民間人のようだが?」
「……スペースクルーザーのライセンスは持っているようですよ」
本気で言っているのか、こいつ。と思って細目の男を睨んでやれば「私が許可を出した」とパオロ中佐が呻くような声を零す。
「ヤシマ嬢はまだお若いが、優秀な女士官が我が軍にも居なかった訳ではない」
「………………」
「他に、艦を動かせる者がいないのだ……」
また民間人か、と俺が深く息を零せば、ブライト少尉がいたたまれないように視線を逸らす。
見れば、パオロ中佐の手当をしているのも民間人。この艦は、本当に人手不足のようだ。
「コロニーの外には、ジオンの艦が一隻、待ち構えている」
ブライト少尉が、艦長席に座って告げた。
表情に緊張がある。こんな状況だ、無理もない。実戦の指揮を執るのも初めてのはずだった。
俺は、踵を打ち鳴らして背筋を伸ばし、姿勢を正す。
「艦を守れ、と命令を」
今の俺はもう、無力ではない。ガンダム試作機1号という力を得た。
ルウム戦役では成せなかった艦隊護衛の任。母艦が沈んでいく光景を眺める事しかできなかったあの時の俺とは違う。
この艦は落させない。と強い意志を込めて、この艦を任せられたブライト艦長を見つめる。
「あ、ああ。頼んだ、ユウ少尉。この艦の命運は少尉の働きに掛かっている」
敬礼を取った後、足早にドックへと戻る。コックピットに乗った後、自分の腰程の高さにあるモニターに手を触れた。
『おはようございます、ユウ。お早い帰りですね』
「もう一度、出撃する。次は宇宙だ」
『了解、戦闘行動を開始します。敵の数は?』
「ジオンの艦船が一隻。ホワイトベースがドッキングベイを出るのと同時に襲撃が予想される」
『了解。装備にビームライフルが追加されています。操作確認は必要ですか?』
「大丈夫だ」
外では整備士が忙しなく動き始めた。
数は少ない。少なくともサイド7の格納庫に居た人数の半分以下だ。
あまり損耗できないな。と考えて、大きく深呼吸をする。
『ガンダム1号機、ユウ少尉へ! スタンバイできているか!?』
強張った声を耳にして、俺は艦橋と繋がるカメラに親指を立てる。
『よし、ドッキングベイを出て、30秒後にガンダムを射出する! 10キロメートルの範囲内で本艦の援護を頼んだ!』
ブライト少尉の声色に力が籠る。緊張していた表情が、更に強張ってきた。
『本艦の現状の戦闘能力では、ムサイの火力に対抗しきれない。これは戦闘だ、訓練じゃない! この艦は少尉の働きに掛かっている!!』
新米艦長の余裕のない様子に、どうしたものかと考え込んでいると『ブライト少尉、通信士席が空いていますね?』と別の女性の声が聞こえてきた。
『ユウ少尉との通信は私がしますから、少尉は指揮に専念してください』
『…………すまない。気を張り過ぎていたらしい』
ブライト少尉は一度、大きく深呼吸をした後、やはりまだ強張った様子で威勢の良い声を張り上げる。
『対空ブロックは各個に迎撃態勢を取れ! ミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布しろ!』
艦長は細い目を閉じる。数秒の葛藤の末に通信用の受話器を掛け直す。
『ブライト艦長代理だ! いつでも出撃できるようにガンダム2号機を準備させておけ、パイロットはアムロ君を乗せるんだ!』
民間人を使うのか? その想いは画面の向こう側、もしくは受話器の通信相手も同じのようだった。
『2号機のパイロットはザクを2機も倒した実績を持っている! 我々は既に民間人を採用している。この艦が生き残る為だ!』
まあ、良い。と俺は操縦桿を握る手に力を込める。
ガンダムがカタパルトに運ばれる感覚を全身に感じ取りながら、静かに精神状態を整える。
俺が、苦戦しなければ良いだけの話だ。ホワイトベースは、俺が守るッ!
『違います、ユウ。私がいます』
機械音声の言葉を聞いた時、つい思わず、モニターを軽く撫でてしまった。
◆
「敵が出て来る。ドレン、聞こえるか?」
寂しくなったムサイ級軽巡洋艦ファルメルのドック。
ハンガーに立たされた赤いモビルスーツに乗り込んだ私は、艦長代理を務めるドレン少尉に問い掛ける。
映像通信の画面には『お出になるんですね!?』とドレンの大きな顔がアップ目に映った。
「ああ、たぶん向こうも出すだろう。それでなくては、戦えんはずだ」
『了解!』
「レーザーラインにのせて私とスレンダーのザクを第一種装備で射出しろ」
私としては随分と待った方だ。後方で指揮を執るよりも前線に出る方が性に合っている。
『……にぃに、気を付けてよ』
通信機越しに義妹が話しかけてくる。
「どうした?」
『少し嫌な予感がする』
「縁起でもないな」
義妹の勘はよく当たる。特に悪い予感は異次元なレベルで当ててくる。
「スペシャルか?」
『まだわからないよ?』
「お前の勘なら信じてやる」
連邦軍にとっては、虎の子の新型モビルスーツだ。
そのパイロットがニュータイプ能力を持っていてもおかしくない。
ニュータイプ研究所の彼女達は、揃いも揃ってテストパイロットとして優秀な能力を持っていた。
用心して然るべきだ。
「シャア・アズナブル少佐、ザク。出る!」
スレンダー伍長と共に宇宙へ出た。
連邦のモビルスーツ、お手並み拝見と行こうじゃないか。
◆
初撃。ムサイ級から発射された二発のミサイルを頭部のバルカン砲で迎撃する。
人員が不足した影響か、外から見てもホワイトベースの動きが鈍い。それもそのはずで操舵手は素人なのだ、これでは満足な回避運動もできない。このままミサイルを撃ち続けるのであれば、対処もできるが、メガ粒子砲を撃たれてしまってはどうしようもない。あのムサイ級に牽制のひとつも入れておいた方が良いか──いや、あのムサイ級にはまだモビルスーツが残っていたようだ。
二機のモビルスーツ、片方が赤いモビルスーツ。
『警戒してください。通常の約三倍でホワイトベースに接近しています』
「彗星か? それとも稲妻か?」
『データベースを確認。いえ、あの機体を私は知っています』
機械音声は一呼吸、置いた後で告げる。
『敵機、赤い彗星。シャア・アズナブル、スペシャルです』
ルウム戦役で戦艦5隻を撃墜したジオン公国のエースパイロット。
戦役以降、地上でも姿を見せなかった男だが、まさか、こんな所で諜報活動に明け暮れていたとはな。
丁度良い機会だ。ここでルウム戦役の借りを返してやる。
「行けるか?」
相棒に問い掛ける。すると感情のこもらない機械音声で言葉が返って来た。
『宇宙というのは、恐ろしいですね』
「……怖いのか?」
『根源的な恐怖があるように感じます』
「AIが?」
『はい。AIが、です』
その言葉を聞いて、初めてBBを起動した時に視えた幼い少女の姿を思い出す。
モニターを撫でた、無意識だった。これで相手が何かを感じるとも思えない。
しかし、俺は彼女に言い聞かせる。
NTロリ娘と名乗っていたのだ、呼称は彼女で良いはずだ。
「大丈夫だ、俺が守ってやる」
言った後で操縦桿を握る、急速に接近してくる赤い彗星を睨み付けた。
『期待しています』
「ああ、任せろ」
ビームライフルを構えた。初見でこの兵器の弾道を見切れまい、そう思っての行動だ。
しかし相手の赤い影を照準に合わせる。と、同時に相手は横に大きく軌道を変えて、瞬く間に照準器の中から消えてしまった。
舌打ちする。赤い彗星は別格だ、そんなことはルウム戦役の頃から知っていた!
『ユウ少尉、下がれ! その赤いザクには君は、勝てない!!』
「今、下がってもホワイトベースがやられるだけ──なら、やらない訳にはいかないな!」
通信機越しのパオロ中佐の制止を振り切って、俺は赤い彗星を相手に機動戦を仕掛ける。
ガンダムだって新型だ。ザクを相手にパワー負けすることはない!