NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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26.ガンダム、アムロ行きます!

 キリー少佐は、キラー・ハーピーの異名を持つエースパイロットである。

 私が自ら殿を申し出たのは、橙色の角付きが撃破される可能性を排除する為であり、窮地に身を置く事でBBを取り戻す好機と考えた。残された時間は短い、BBが呼びかけに反応しない理由も分からない。だからといって妥協するつもりは毛頭ない。迷いがあるなら、先ずは斬る。分からぬ事があれば、斬って確かめる。両手にヒートサーベルを握り締めて、いざ尋常に、と駆け出した。通じ合えぬ想いがあるのであれば、斬り結べば良いのだ。

 全力全開のスラスター噴射に機体の軋む音がする。コックピットを振動する、掛かるGに身体がシートに押し付けられた。

 それでもなお、私は一歩を踏み込むのだ。

 

 上段から振り下ろしたヒートサーベル、敵機がビームサーベルを横から薙ぎ払って受け止める。

 弾ける斥力、プラズマの奔流になお一歩、踏み込んだ。私にはニュータイプ能力はない、ヤタガラスの言葉で橙色の角付きにBBが居る事を知った。半信半疑に思うところもあった、何故なら橙色の戦い方がBBのソレとは異なっていた為だ。しかし、それでも、ヤタガラスの言葉を信じる事にした。

 しかし今、確信する。先ずは斬る、次に斬って確かめる。最後に斬り結んで友誼を得る。その聞き齧った教えは間違いではなかった。

 今、橙色を操縦しているのは、小生意気な彼奴だ! 宿敵だ、好敵手でもある!

 

「探したぞ、BBッ!!」

『えっ、お姉ちゃんと繋がったの!? 私には反応ないんだけど!?』

「分かるともッ! 刃を交えたのだ、それ以外に考えられんッ!!」

 

 ふはは、と高笑いを上げて息を吐く間もない連撃を浴びせる。

 それを敵機が弾いて、躱し、受け流しては回避する。時に刃同士をぶつけ合った。致命傷にならない一撃は避けず、装甲を削らせるだけに留める。剣の癖を読まれている、当然だ。あれがBBであれば、知らぬはずがない。彼奴がモビルスーツの格闘戦で参考にしていたのは私の技術、ニュータイプ能力の差で後塵を拝することが多かったが、それでも彼女は私の技術を認めていた。ペッシェとも試行錯誤を繰り返し、モビルスーツ用に改善したのが今の型。それをBBは知っている。

 謂わば、同門同士の対決。そしてヤタガラスの力を借りた今、ニュータイプとしても同じ土俵に立っている。

 ならば、私の負ける道理はなし!

 

「どうした、BB! その程度か! そんなものか!?」

『胸騒ぎがする、心が掻き乱される……』

「……ッ! 今のは!?」

 

 直接、通信を繋がれる。それがBBの声だと判断する事なんて容易かった。

 

「帰るぞ、BBッ! 貴様には、待っている者が居るッ! 帰るべき場所があるッ!」

 

 戦闘の最中、相手のビームサーベルを大きく弾いて距離を取る。

 そして十分に間合いを開けた後、ヒートサーベルを地面に突き刺した。

 右手を差し出す、手を差し伸べる。

 BBに何があったのかは知らなかった。だが、何か訳があったのは分かる。

 事情もなしにBBが私達と敵対するはずがないのだ。

 

「ペッシェやアルマ、マリオン……皆が貴様を心配しているぞ!」

『今更……』

「どうした?」

『仮に貴方が私を知っていたとしてッ! 今更、帰れるものかッ!!』

 

 通信機から感情の篭った声に地面に突き立てたヒートサーベルを構え直す。

 角付きの突貫。飛んで跳ねて滑り込んで、まるでモビルスーツを我が身のように扱う身の熟し、その上で人間から逸脱した動作。三次元の動きから繰り出される連撃に耐え忍ぶのが限界だ。持ち前の反射神経に加えてヤタガラスが齎す空間認識能力、その二つがなければ凌げなかった。ビームサーベルの光刃を紙一重で躱し切り、大きく後方に跳躍する。

 殺意はない、コックピットは狙われていない──だが、ズゥンと左腕が地面に落ちる音がした。

 

「BB……貴様……ッ!」

『あの場所に私は帰りたくないッ! 宇宙(そら)は嫌だ、宇宙は怖い……』

 

 それに、と彼女は悲痛な叫びと共に訴える。

 

『今更、ホワイトベースの皆を見捨てられるものかッ!!』

 

 明確な敵意と共に救えなかった少女は駆けた。

 

◆

 

 ユウ少尉の意識はない。システムの全てを掌握する事で機体の制御を自分のものにした。

 ツインアイの映像が、そのまま私の視界になる。数値化された情報から機体の状態を読み取り、まるで自分の手足のように機体を操る事ができた。肉体はない、記憶にもない。でも幾度と繰り返した動きは魂に刻み込まれていた。守破離の守、基礎の基礎は考えずとも勝手に動く事ができる。そしてユウ少尉が幾度か見せた技術に加えて、数値化された情報を足すと自分の学んできたものがあくまでも人間の肉体に合わせた技術だという事に気付いた。人間の技術では、数値に余裕がある。機械ならではの可動域、限界値。記憶を忘れてしまった自分に、学んだ技術に対する敬意もまた失われていた。だから簡単に捨てる事が出来た。基本を学びきった後に、全てを忘れて真っ新な雪原に立ち返る。一歩、踏み入れる。自分の道を刻み込んだ、まだ誰も踏み入れた事がない前人未踏の地。私だけが歩める道を踏み均す。振り返れば、整備された温床の道がある。でも私は右も左も分からぬ、吹雪の中に道を作る。道を外れるのではない、道から離れるのだ。それまで自分を築き上げてきたものに感謝し、その上で踏み越える。

 時代は進んでいる。ひとつ前の世代よりも今の世代、今の世代よりも次の世代。過去よりも未来の方が優れていて当然なのだ。

 子は師を超えてこそだ、技術は常に刷新されている。

 

『だああああああああああああっ!!』

 

 右腕のみとなった敵機のヒートサーベルの刃を掻い潜り、その右腕を斬り飛ばす。

 ズキリと痛む感覚は何か、今は電子生命となった私の頭が痛んだ気がした。フラッシュバックする光景がある。そこでは私は被験者の一人として扱われており、宇宙に放り出されたり、人殺しを強要されたりと幾度と酷い目に合わされていた。あんな事をしておいて、平然とした顔で父親面をする黒人男性が薄気味悪い。

 今なら分かる。あんな場所が私の帰るべき場所であるはずがないッ!

 

『私の居場所は、此処ですッ!!』

 

 最早、抵抗する術を持たない敵機のコックピットにビームサーベルの切っ先を向ける。

 そのまま一息に殺してやろうと思った時、『ダメです!』と横槍の通信が入った。

 

『BBさん! 貴女は、あの人を殺しちゃいけない!!』

『誰ッ!?』

『ペッシェです! ペッシェ・モンターニュです!』

 

 聞き覚えのある名前にズキリと頭が痛んだ。

 心が騒めきが抑え切れない。

 吐きそうだ、癇癪を起こした子のように叫んだ。

 

『貴女も私をまた鳥籠に詰め込んで、宇宙に捨てるつもりな訳ッ!?』

『……何を言って!?』

『私の居場所は其処じゃないッ!』

 

 ビームサーベルを大雑把に頭上へと振り上げて、無作為に真正面から相手に斬りかかる。

 

◆

 

 ニュータイプ研究所にて。フラナガン博士はクルスト博士が残した研究資料に目を通す。

 カナリアシリーズであるヤタガラスとセラフの二人を元の状態に戻す為、彼が残した記録を一から読み直している最中だ。偶発的な事故により、彼は機械の中に意識を閉じ込める技術を発見した。それを意図的に発生させる装置を作った彼は、その装置に以下の名前を付けている。

 TORIKAGO。最初の偶発的な事故の時、機械そのものが壊れた事でBBは肉体の意識を取り戻した。

 

 その現象を確認できたのは一度のみ。原理は勿論、理屈や理論も分からない。

 手頃な誰かで試せれば良いのだが──偶々近くにいたマリオンがビクリと身を震わせたのを見て、首を横に振る。人体実験は安全が実証された後の事、手頃に扱えるモルモットが欲しいなあ。とフラナガン博士は溜息を零す。

 過去の事例に基づくのであれば、ハンマーでハロをぶっ叩くのが二人を元に戻す最も可能性の高い手段であった。

 

◆

 

 両腕を失ったイフリートは、ただ突っ立っていた。

 なのにビームサーベルの光刃は、敵機を捉えることができず、地面に打ち込まれた。BBは歯を食い縛る。電子生命体に成り果てても、歯を食い縛る想いで目の前の現実を睨みつけた。

 血を吐く想いで問い掛ける。

 

『貴方は、貴方達は、私のなんだっての!?』

『私の大切な友達です』

『強敵(とも)であり、好敵手(とも)だ』

 

 即答されて、更に奥歯を噛み締めた。

 

『ユウさん、撤退です! さっきからブライトさんが呼んでます!』

 

 オープン回線でアムロからの通信が入る。ユウ少尉が気絶した今、ホワイトベースからの通信は入らないように切ってあった。

 BBは両腕を失った敵機に背を向けた後、スラスターを吹かしてホワイトベースへ帰還する。湖の向こう側から多くの戦闘機が飛来してくるのが見える。格納庫に戻った時、吐血したユウ少尉の姿に整備員が絶句した。もう既に公国軍の航空戦力による襲撃が始まっている。揺れる艦内、担架で運ばれるユウ少尉、その姿を先にガンダムから降りていたアムロが見送った。そんな彼に幼馴染のフラウ・ボゥが「アムロ、大丈夫だった?」と栄養補給液を手渡す。

 それを受け取ったアムロは、ストローに口を付けた後、ガンダム試作機1号を見つめながら静かに告げる。

 

「アムロ? ねえ、アムロ? もう戦わなくても良いのよ? 十分にやったわ、これ以上は戦わなくても良いの」

 

 一歩、間違えれば誰かが死んでいた。

 そんな戦いを目の当たりにしたフラウが幼馴染に告げる。

 彼を心配しての事だった。

 しかしアムロは彼女と目を合わさぬまま、補給液の入った容器を彼女に手渡す。

 

「……僕は、男なんだな」

 

 ユウ少尉が倒れた今、ホワイトベースを守れるのは自分しかいない事を彼自身が誰よりも理解していた。

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