NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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27.馬鹿な家族を持つと苦労します。

「フィンガー・バルカンはジオニック社の歴史に残る欠陥武器ではあるけども、開発に使われた技術そのものには価値がある」

 

 キャリフォルニアベースにあるモビルスーツ演習場での話だ。

 グフ・フライトタイプが空を駆ける。乗っているのは公国軍でも屈指のエースパイロット、プロト・ゼロ少佐ことカナリアだ。彼女の操縦技術を見る為にパイロット、メカニックと関係なしに多くの人間が観測所に足を運んでいる。まるで宙に浮いているかのような機体制御をする彼女、その数値化した情報をノートパソコンでリアルタイムで受け取るメイ・カーウィンは「このデータは他では使えないわね」と感嘆を零す。カナリアの操縦技術は熟練を通り越して、超人の域にある。墜落するかどうかのレッドラインの上でタップダンスを踊る彼女と同じ真似を他のパイロットがすれば、機体を渡し船に呆気なく彼の世へ旅立つ事になるはずだ。

 そんな彼女が駆るグフ・フライトタイプの左手には、手の形を模したマシンガンが握られている。

 

「あの開発者は、今はツィマット社にいるみたいだけど……彼が残していった技術は意外と有用なものが多くてね、ザクの頭部にバルカンを内蔵する技術なんかは彼が開発したものになってるわね」

 

 普段からああいう有益なものだけを作ってればいいのに、とメイは不機嫌に口先を尖らせる。

 フィンガー・バルカンの開発者は、西暦時代に流行ったスーパーロボットのアニメを観るのが大好きなオタクであり、内蔵武器に過度な浪漫を持つ人間であった。彼におっぱいミサイルを語らせると数時間は話を聞かされる事になるとの噂。そんな彼もジオニック社が兵器開発事業に参入するまでは、目立った問題を起こす事もない優秀な人間であった。

 

 しかし、彼はモビルスーツ開発に関わるようになった日を境に豹変してしまった。

 

 彼は先ず、手始めに頭部バルカンの開発に手を付ける。

 ジオニック社が誇る熟練の技術者が、断腸の思いで動力パイプを外に出した設計。それを誰も理解できないような異次元の設計思想で頭部バルカンを仕込める空間を生み出し、無理やり作った空間に合わせたバルカン砲を新規設計までしてのけたのが彼である。その技術が買われた彼は陸戦高機動型ザクの設計にも関わっており、動力パイプを内蔵した脚部も彼の協力なしに開発することはできなかった。

 

 しかし、その脚部の開発には表に出せない裏事情がある。

 

 彼はザクⅡの脚部にある外付けミサイルポッドが大嫌いだった。

 何故なら格好悪いからだ。ロボットアニメで培われた彼の美意識が取ってつけたような外付け武器の存在を許すことができなかったのだ。何故ならば、巨大ロボットは外付け武器もディテールの一部に組み込まれていなくてはならない為だ。故に陸戦型ザクの脚部改善案も本来、外付けされていたミサイルポッドを内蔵する為の空間を確保する為の策であった。

 彼は独断で内蔵ミサイルの開発にも着手しており、ミサイル内蔵式脚部の設計案をウキウキで上層部に提出する。

 

 その報告が原因で彼が会社の予算で身勝手な兵器開発を行っていた事が露見し、厳重な処罰を受ける事と相成った。

 

 彼が引いた設計図そのものは優秀であった為、これを基に動力パイプ内蔵式脚部として書き換えられる事になる。

 この上層部の判断に彼は憤慨したが、彼を擁護する者は誰も居なかったという。

 

 彼は身勝手な人物ではあったが、その技術は確かなものであった。

 誰もが放り投げたザクの動力パイプ問題、それを部分的に解決した彼を遊ばせておくには余りにも勿体ない。実際、動力パイプ内蔵式脚部は、逆輸入する形でグフにも取り込まれている。

 そういう事情もあってジオニック社の上層部は、彼にもう一度だけチャンスを与えた。

 

 以上の理由で謹慎処分も程々に彼はグフの武装開発チームに組み込まれる事になる。

 もう既にグフの開発は佳境に入っていたのだが、そんな中でも彼は空気を読まずに開発段階にあったヒートロッドを腕部に内蔵する設計案を提出した。これはヒートロッドを開発していたチームの後押しもあり、試験的な導入が認められる。

 この事に気を大きくした彼は、件のフィンガー・バルカンの開発に着手した。

 

 彼は、ジオニック社の上層部を信用していなかった。

 ただ単に改善案を提出しても、陸戦高機動型ザクを開発していた時のように引いた設計図だけを取り上げて、全くの別物に作り替えられる危険性を彼は感じていたのだ。故に彼はまたしても独断でフィンガー・バルカンを進める。上層部に対しては情報を隠蔽し、現場の人間を騙して、自分が書き直した設計図で開発を進めさせた。

 採用されてしまえば問題ないのだ、と彼は自分が作り替えたグフ試作機を技術本部に送り出した。

 

 だが英雄ギニアス技術少将の目を誤魔化す事はできない。

 彼が行った身勝手な悪行が露見し、ジオニック社は彼の解雇を決断する。

 路頭に迷った彼は今、ツィマット社に拾われている。

 風の噂では、新型機に持たせる為の武装の開発に関わっているとの事だ。

 

 閑話休題、

 ジオニック社の問題児が残していった武装のひとつが今、カナリアのグフ・フライトタイプが左手に持っているフィンガー・マシンガンであった。手指を模した砲身から同時発射される五連装マシンガンの総弾数160発、僅か10秒未満で撃ち尽くす瞬間火力だけを追い求めた武装となっている。継戦能力は致命的、話に聞く角付きの装甲を削ぎ落す貫通力もない為、今や量産する価値もない時代遅れの武装であった。

 しかし、今回、この倉庫で埃被っていた武装をカナリアは見つけ出し、その扱いを確かめている。

 

 空を飛び回るグフ・フライトタイプが演習場に並べられた的を頭上より次から次に撃ち抜いていった。

 鮮やかなお手並みに観測所から歓声が上がる。その完璧な仕上がりに満足したのかカナリアは、空を飛んだまま観測所に向けて決めポーズを取ってみせた。これなら翌日にでも出撃する事が可能だ。テストパイロットとしても優秀だというカナリアの協力もあって有用なデータも取れた。わざわざチベット秘密基地からキャリフォルニアベースまで足を運んだ甲斐があるってものである。

 今日の訓練を終わらせて、格納庫まで戻って来たカナリアを労っていた時の事だ。

 

「大変です、大変!」

 

 慌てた様子で格納庫に顔を出すミアに二人して振り返る。

 

「シャア少佐が怪我で病院に搬入されました!」

「えっ? なんで、にぃにが出撃してんの?」

「私達には知らされていなかった作戦があったみたいなんです!」

 

 カナリアはヘルメットを近場の兵士に放り投げた後、その足で近場に止めてあった自動車の運転手に声を掛ける。

 上官命令、と躊躇なく強権を行使した彼女はミアを後部座席に詰め込んで格納庫を出て行ってしまった。残されたメイは溜息を零し、淡々とグフ・フライトタイプに刻み込まれたデータの抽出作業に従事する。軍に所属していると同性で同年代の友達と言うのは珍しいもので、彼女達との付き合いもあと数日と思えば、ほんの少しだけ寂しくなった。

 戦争が終われば、また会えるのかな。そんな事を考える。

 

◆

 

 運転手ごと徴収した軍用自動車に揺らされて、キャスバルが入院しているという病院に向かっている。

 別に作戦内容を知らされていなかった事に対して怒っている訳ではない。軍隊に所属している以上、全ての作戦を知らされる事はない。自分が所詮、部隊長である事を知っているし、戦略的な思考なんてできる訳もなかった。与えられた作戦目標を達成する事を考えるのが自分の役割だと知っている。

 だから、別に作戦内容を知らされていなかった事に対しては怒っちゃいないのだ。

 

 病院に辿り着いた後、受付でプロト・ゼロの名前を出せばすぐにキャスバルが居る病室へと案内された。

 扉を開けるとベッドで横になるキャスバルの隣で、ガルマが付き添いでリンゴを剥いているところだった。別に作戦内容を知らされていなかった事を怒っている訳じゃないのだ。私が怒っているのは、木馬に関連する任務から外されていたこと。その結果、キャスバルは入院する重傷を負って帰って来た。

 だから右拳を強く握り締めた私は、感情の赴くままにキャスバルの頬を殴ってやった。

 

「カナリア、お前は何をしているんだ!?」

 

 急な私の行動に驚いたのか、ガルマが声を荒げる。

 病室の外で待機していた護衛の者達が病室の扉を開け放った。

 それを私が手で制し、キャスバルに怒鳴り散らす。

 

「私が危ない事をした時に殴る癖に……そうするなら自分が同じことをしないでよッ!!」

 

 感情のままに、訴えた言葉。ガルマの護衛が無言で病室の扉を閉める。

 キャスバルは気まずそうに顔を伏せた。謝罪のひとつもない。私に対して申し訳ないと思っていても、自分が悪い事をしたとは思ってない事なんて彼の目を見ただけで分かった。

 此奴に何を言っても無駄なんだな、と察した私は搦め手を使う事にする。

 

「ララァとハマーンにある事ない事たっぷりと尾鰭を付けて言い付けてやるッ!」

「なっ!? あいつらは関係ないだろうっ!?」

「どーせ、私を守る為だとか、なんだとか考えているんでしょ!? 勝手に兄貴面をしちゃって!!」

「兄が妹を守るのは当然だッ!」

「私が兄だと思っているのはガルマ兄様だけですー!」

「えっ……?」

「キャスバルをアルテイシアの兄だと思っても、私の兄だと思った事なんて一度もない!」

 

 唖然とするキャスバルに「カナリア、よせ!」とガルマが横から割って入る。

 

「ここは病院だ! 国家の重大機密を易々と叫ぶなっ!」

 

 あまりにも真っ当な言い分に私も口を閉ざした。

 

「……あと彼、シャアは数年前から君の事を探していたんだ。あまり悪く言わないでやってくれ」

「それで実の妹を放置して、敵艦に連れ去られているんだから本末転倒じゃないっ!」

「敵艦……?」

「おい、カナリアっ! それを言ってしまっては……」

 

 キャスバルが止めるも遅かった。ハッとした私が両手で口を覆い隠す横で「もしや、木馬に?」とガルマが何かに気付いた様子を見せる。

 

「よお、大将。怪我をしたらしいじゃないか」

 

 そんな時、間が悪く病室に足を踏み入れる大柄な女性が一人。外まで聞こえる大声に兄妹喧嘩をしていると勘違いしたシーマ大尉が気を利かせて、ノックもせずに僅かに開けた扉から身を滑り込ませたのだ。

 

「……アルテイシアが木馬に居るのか?」

 

 ガルマの呟きを聞いたシーマは、踵を返して部屋を出る。

 そして、今度こそ数回のノックを入れて問い掛けた。

 

「入っても良いかい?」

 

 勿論、話を聞かなかった事にはならなかった。

 

◇

 

 ミード湖の戦いにおいて、木馬相手に公国軍が被った損害は大きい。

 北米方面軍が誇るノイジー・フェアリー隊は暫く活動できなくなるほどの被害を受けており、キャスバルもまた三機の内一機が撃破されており、内一機が両腕を切断されてしまっていた。その後に送り込んだ航空戦力は木馬の上に乗った橙色の角付きによって数十機が撃墜され、ガウ級攻撃空母までも一隻が墜とされている。

 傷心中のキャスバルの横で、その話をしてくれたガルマもまた項垂れた。

 

「十分な準備をしてきたはずだったのだがな……」

 

 そう呟くガルマを横目に、作戦全体の流れを聞いていた私が口を開いた。

 

「……ねえ、キャスバル。本当に何やってんの?」

 

 作戦を無視して突出した行動を取ったキャスバルに大きな溜息を零す。

 そしてもう一度、キャスバルの頬を叩いた。さっきよりも強く力を込めて。

 

「またぶったな!? 二度目だぞ、親父にだってぶたれたことがないのに!?」

「殴られる事で大人になる事だってあるんだよ」

 

 というか、と私は呆れ混じりに続ける。

 

「私達が黙っていたのはガルマ兄様に迷惑を掛けない為だよね? 余計な心配をさせない為だったよね? それが、なんでこんなことになってるの?」

「……家族、だぞ?」

「家族だよ。でも、それは戦場に出ているほとんどの人間にとっては関係ないんだよ。私達の勝手な都合で他の誰かが死んで良いって事にはならないんだよ。人が死ぬのが戦争だ、死ねと命じるのが上に立つ者の責務だ。でも、死なせるからには、つまんない理由で死なせちゃいけないんだよ」

 

 言い終えた私は、もうキャスバルの顔を見なかった。

 

「ガルマ兄様、にぃにの容体は?」

「あ、ああ……肋骨と足の骨を折っているとの事だ」

「それだけ?」

「他は聞いていないな」

 

 ふぅん? と声を漏らした私はシーマとミアを連れて扉の取っ手に手を掛ける。

 

「後は私がなんとかする。にぃには怪我を治すまで頭を冷やしてて」

 

 本気で怒っていた私はキャスバル相手に一瞥もせず、病室を後にした。

 まあ命に別状がなかった事だけは幸いである。

 キャスバルがやったことは許されない事だけど、それはそれ、これはこれだ。

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