NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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30.エージェント夜を往く

 ヨーゼフ・エッシェンバッハは、本質的には反公国派の人間だ。

 地球降下作戦の時に彼が北米大陸に残り続けたのは、単純に彼以外の名家や財界人がジャブローに逃げてしまった為だ。残された財界の要望により、民衆の為、荒廃した都市の復興の為、彼は公国軍の統治に力を貸す事になる。その裏で彼が反公国派ゲリラを支援しているのは、彼なりに公国軍のやり方を認めていないという意思表示であった。

 それに、此度の戦争は連邦軍が有利になると彼は認識していた事もある。

 公国軍の躍進も最初だけ、地球という慣れない土地。遠征軍である公国の無秩序な侵略には、何時の日か攻勢限界が訪れる。それまで耐え忍ぶ事が出来れば、逆侵攻の機会が必ず訪れる。そのようにヨーゼフは信じていた為、彼はポーズだけでも連邦派閥の人間である事を示しておかなくてはならなかった。そうしなくては戦争を終えた時、自分は公国軍に与した人間として裁かれる事になる。ジャブローに逃げた人間は、北米に残り続けたエッシェンバッハ家を英雄にしたくないはずなのだ。それを認めてしまっては、自分の方が民衆を捨てた非国民として責められる事になる為だ。

 ヨーゼフは、自分だけが戦争犯罪者として罪に問われる事は構わない。と思っている。そういう可能性も考慮した上で公国軍の統治に協力している為だ。しかし娘のイセリナを巻き込む覚悟まで持つ事はできなかった。もし仮に自分が戦争犯罪者として裁かれる事があり、エッシェンバッハ家が途絶える事になれば、誰が娘を守ってくれるというのか。公国軍に与した人間の娘に、誰が力を貸してくれるというのか。

 だから、彼は娘の為に、決して公国軍に迎合した訳ではない事を行動で示さなくてはならなかった。

 

 正直、貧乏籤である。自分以外に、誰も民衆を守る力と意思を持っている者が居なかった為、彼は立ち上がらざるを得なかった。民衆を見捨てるには、彼は高潔であり、親の教えが良過ぎた。娘を巻き込むには、愛を知り過ぎていた。故に私情と責務の間に挟まれる事になり、どちらにも踏み切れない中途半端な立ち位置を維持し続ける事になる。

 

 そんな折に娘が敵国の王の息子と関係を持っている、と知った時は頭を抱える想いだった。

 このまま公国軍が勝てば良い。しかし公国軍が負けた時は、どうするつもりなのか。娘は愛の為というが、娘の身勝手な行為で父である自分は勿論、妻まで殺す事に成り兼ねない。娘は私の事を何も分かっていないと喚き散らすのだが、娘の方こそ自分の行動する意味を何ひとつ分かっちゃいなかった。そして、そんな娘を庇おうとする妻もまた、何も分かっちゃいなかった。

 エッシェンバッハ家には権力があるんだよ!「私の人生なんだから私の勝手よ!」なんて事を言われても、それで周りに影響が出ちゃうんだから仕方ないだろうが! 俺だって別に好きでやってる訳じゃねえんだよ、好きで生まれた訳でもないんだわ! 妻の愛に嘘はないと思っているけど、婚約時は立場と金目当てなとこもあっただろうがっ! 娘が一番!? んなこと知ってるよ! でも、時と場合と相手が悪すぎるんだわっ!! ガルマもガルマだ! せめて、もう少し周りに見えないところでやるとか配慮してくれよ! 婚約とか、そういった話は戦争が終わってからにしてくれよ!! それならまだ、連邦と公国の和解の証とかいって、良い感じにカードを切れるんだわっ!!

 俺達、戦争をやってるんだよ! 戦争をラブロマンスのエッセンスにしてんじゃねえんだわ!!

 

 閑話休題、

 ヨーゼフがゲリラに資金援助をしていたのは保身の為だ。故にゲリラへの関与は物資と資金の支援だけとなっており、情報提供も当たり障りのないものに留めている。それ故に彼は、今回の作戦を知らされていない。

 ロサンゼルスの夜、爆発音が鳴り響いた。

 揺れる会場、どよめく参加者。パーティー会場に潜入していたキシリア機関の者達は真っ先にヨーゼフを注視する。しかし衝撃で床に転んだヨーゼフが「こんな事、聞いてないぞ」と小さく零していたのを確認した。その後も困惑し続ける様子に一旦は見逃される事になる。

 では実際、爆発を起こしたのは誰なのか。反公国派ゲリラであった。

 

 北米在中のゲリラさんが、あの場所で爆発を起こしたのは不本意であった。

 重要人物の集まるパーティー会場の会合を襲撃する事が目的であり、公国軍に与する不逞な輩を一網打尽にする事こそが本懐であった。しかしゲリラにとって不運だったのは、ホワイトベースの影響でロサンゼルスの警戒が高くなっていた事だ。トラックでの移動中、公国軍の憲兵に呼び止められる。憲兵が重火器や爆発物が大量に詰め込まれた荷台の方に足を運んだ時、早まったゲリラの一人が、その憲兵を拳銃で撃ち殺してしまった。これが発端となり、戦闘が勃発。銃撃音を聞いて駆け付けた公国軍の装甲車、それをゲリラがロケットランチャーで迎撃したのが先の爆発であった。

 

 そんな騒々しい夜道を二人の少女がワゴン車で駆け抜ける。

 連邦軍のマリア・オーエンス准尉とクレア・ヒースロー一等兵。私服に着替えていた二人は、逃げ惑う民衆に紛れてある場所へと向かっていた。二人はゲリラには関与していない。しかし、今を好機と見た二人は、公国軍のモビルスーツ格納庫に駆け出していた。ロサンゼルス市には、港がある。港には、物資搬入の為にモビルスーツが配備されている。この輸送拠点を守る為、ロサンゼルスの格納庫には、少なからずの戦力が備えてあった。

 クレアは公国軍に守って貰う為、という名目で公国軍の戦力がある方へと市民を誘導し、ワゴン車に民間人を詰め込んだ。

 

 そして来た、カーキ色をしたヅダが逃げ惑う市民を見て、基地のある方へ逃げるように指示を出す。

 ガッツポーズをしたクレアは、マリアと共に悠々と格納庫へと向かうのであった。

 

◆

 

 ホワイトベースがロサンゼルス市に入ったのは、人為的な失敗であった。

 公国軍の警戒網に引っかからない為、センサーの類を全て切った上で移動をしていた。しかし夜間、広大で変わり映えのしない大地。月光だけを頼りに移動をするには、余りにも困難であり、気付いた時にはロサンゼルスの郊外まで入り込んでしまっていた。この失態に頭を抱えたブライトは今更、逃げ出すこともできない。

 焦燥感の募る中、ブライトは公国軍を迎え撃つ事を選択する。

 要はガウ級攻撃空母を仕留めれば良いのだ。ガウ級さえ撃墜できれば、海に逃げる自分達を追いかける事はできない。

 

 そう考えたブライトはホワイトベースを近場のドームに隠し、ガンダムを使って敵を誘き出す策を取った。

 

 マチルダ中尉が届けてくれた物資のおかげで、主砲のメガ粒子砲を撃つだけの余裕ができた。

 静かに主砲の発射準備を整える。

 

 そんな時、市中にて爆発が発生する。

 何が起きたのか分からない。分からなかったが、そんな事よりも注意しなくてはならない存在があった。夜空から地上に目掛けて飛来する流星があった、ほうき星のようにも見えた。それは敵を陽動する為に出撃させていたガンダムに一直線に突っ込んだ。砂煙が舞い上がる。

 思わず、ブライトはアムロの安否を確かめる為に回線を開いた。

 

「おい! 何があった!? 応答しろ、アムロ!」

「ヅダです! 金色の……あのっ!」

 

 とりあえず応答があった事に胸を撫で下ろす。

 

「金色だと? そんな色には見えなかったが……」

「乗っている奴ですよ! 切りますよ!」

 

 焦る声に通信が切断されてしまった。

 舌打ちし、通信用の受話器を戻す。いずれにせよ、ホワイトベースの命運はアムロに掛かっている。コア・ファイターで援護したくてもリュウ曹長とジョブ伍長はミード湖の戦いで負傷している上に夜間飛行の経験はない。セイラに任せるなんて以ての外だ。予備戦力のガンキャノンとガンタンクは、いざという時にホワイトベースを守る役目がある。

 アムロの戦闘の行く末を祈る想いで見守る他、やれる事は何もなかった。

 

◆

 

 眠れない夜にこの身を苛むのは不安と焦燥感。

 耐え切れない想いを胸に抱えて、戦場に駆け付ける。

 どんな状況にも万全に応えてみせる。

 

 私は貴方を射止める刺客(エージェント)、公国軍が誇る最強のエースパイロットだ。

 

 舞い上がる砂煙、その狭間に映り込むのはビームサーベルの閃光。

 恐れる事は何もない、怯える事は何もない。メイが私の為に調整してくれたモビルスーツの感度は良し、新しい感覚に身を委ねてヒートサーベルで切り掛かった。化粧直しをした青色の角突き、視界が塞がれているにも関わらず、しっかりと応戦してくる。真っ向勝負、闇夜に閃く剣閃が砂煙を幾重と切り裂いた。相手が距離を取ろうとする気配を感じ取った、それに合わせてスラスターを吹かす。距離を取らせるような真似はしない。振り払うように放たれたビームサーベルの光波を身を屈めることで回避する。代わりにヒートサーベルで薙ぎ払ってやれば、角付きは大きく後方に跳躍することで回避。逃がして堪るか、とホバー移動で追いかける。

 

「──殺気っ!」

 

 いつの間にか持ち替えていたビームライフルの閃光を身を捩るだけで回避した。

 ヒートサーベルを右手に握り締めたまま、角付きを目掛けて直進。ビームライフルの砲口はまだ、私に向けられていた。二射目、これをヒートサーベルの熱刃で切り払った。

 そのまま上段に構えて、角付きを縦に両断する為に振り下ろす。

 

「さっきから殺意が駄々洩れなんだよねえっ!!」

 

 切断、手応えなし。前に突き出されていたビームライフルを両断するに留まった。

 角付きが距離を取る為にスラスターを吹かす。追いかけようと思ったが、牽制に頭部バルカンを撃ち込まれてしまったので回避する他になかった。距離を取られる。角付きが改めてビームサーベルを握り締めた。距離を保ったまま、横に移動していると巨大な建造物が互いを別つ。角付きの足音が止んだ、気配を読む。建造物を盾に、こちらの出方を窺っているようだ。

 右から行くか、左から行くか。はたまた上から行くべきか。

 

「しゃらくせえっ」

 

 モビルスーツの姿を隠すほどの巨大建造物、それを目の前にヒートサーベルを構えた。

 

◆

 

「……はあ、はあっ……あり……得ない……っ!」

 

 息の詰まる攻防に束の間の休息。荒い息を零し、全身から汗が滝のように溢れ出す。

 

「あ、あいつ……い、今、ビームライフルの弾を斬ったよな……?」

『常軌を逸しています』

 

 淡々と呟かれる機械音声。今、自分はBBの援護を受けてグフの改良型と対峙していた。

 あのグフに乗っているパイロットは、気配からして金色のヅダと同じ少女のはずだ。

 だが、彼女は、あそこまで強い訳ではなかった。何度か戦ったが、此処までの差はなかった。

 

『……もしかすると、モビルスーツの性能が彼女に追いついていなかったのかも知れません』

「つまり?」

『彼女の技量がモビルスーツの性能を超えていた、という話です』

 

 その言葉を聞いた時、背筋がゾッとする。

 赤い彗星の動きも見えるようになってきた、公国軍の一般兵が相手だと敵にもならない。大気圏に突入した時は勝ったようなものだと思っているし、ほうき星の魔女にだって引けを取らないつもりでいた。勿論、それはガンダムの性能あっての事だと理解しているつもりだ。それでもモビルスーツの操縦に少しは自信を持っていた。

 なのに、彼女はまだ本気を出していなかった可能性がある。

 もし仮に公国軍にガンダムと同等以上の性能を持つモビルスーツが存在していたとすれば……

 想像するだけでも恐ろしかった。

 

「兎に角、今は倒さないと……右から来るか、それとも左か。上だってある」

 

 建造物に背を向けて、周囲を警戒する。

 耳を澄ませて、五感で相手を感じ取ろうとした。

 ゴリッ、と何かを削る音がした。ズガガッ、と切り刻む音がする。

 崩れる音。あり得ない、という想いが理解を拒んだ。

 首を横に振る。

 いや、まさか、そんなことが……

 

 ボコッと直ぐ隣の壁を破ってにグフが現れる。

 瓦礫と共に現れた巨体、真っ赤なモノアイが僕を見据えた。

 ヒートサーベルの刃が赫々と熱を纏っている。

 

《あぁあぁ、見つかっちゃったねえ~?》

 

 ねっとりとした思念。ぞぞぞ、と恐怖に身体が震え出した。

 振るわれたヒートサーベル、辛うじてビームサーベルで受け止める。

 しかし建造物に身体を叩き付けられた。

 そのまま、振り被るグフに頭部バルカンの弾を浴びせる。

 グフはヒートサーベルの刀身を盾に距離を取った。

 

「くそっ……滅茶苦茶だっ!!」

『バルカン砲、残弾数ゼロ。次からはもう同じ手を使えません』

 

 兎に角、ガンダムを起こしてビームサーベルを構え直した。

 僕達を見据えるグフは何を考えているのか分からない。勝てるかどうかも分からない。

 今はただ、最善を尽くすだけだ。と姿勢を落とし、相手を注意深く観察する。

 

「どうする……? どうする……!?」

 

 もっと戦えると思っていた。

 ここまで圧倒されてしまうのは、流石に想定していなかった。

 一歩、グフが前に踏み込んだ。

 それだけでビクリと身を強張らせる。

 殺意を感じた。思わず、ビームサーベルを振るった。

 しかし、グフは微動だにしていなかった。

 

『……試されて、いますね』

 

 屈辱、だった。

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