NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

38 / 61
31.ほうき星の魔女。

 今は夜、キャリフォルニアベースの喧騒が鳴り止む事はない。

 メイは自分の為に宛てがわれた個室にて、北米での研究成果の整理を行っている所である。内容の十中八九がグフ・フライトタイプ、つまりはカナリアに関する情報だ。最後にもう一度だけ、記載された数値の数々を眺めて頭を抱える。

 ……参考にならない。

 彼女のパイロットとしての技量は規格外に突出しており、彼女を基準に組み上げた調整済みのプログラムは他のパイロットに適用する事はできない。また彼女と同じ運用で当機を運用する事も難しいはずだ。カナリアが乗る機体は、他とは明確な差が生まれる。もし仮に連邦軍がカナリアを鹵獲した時、彼女が乗るモビルスーツに特別な改造を施していると考えて、彼女自身に問い詰めるはずだ。しかし彼女自身は笑顔でこう言ってのける。

 ただ反応を良くしただけだ、と。全く以てメカニック泣かせのパイロットである。

 苦笑し、近場の自販機で買っておいた甘い缶珈琲を啜った。

 

 メイ・カーウィン技術少尉は回顧する。

 プロト・ゼロ少佐ことカナリアの機体を調整していた時の事だ。テスト飛行を続けるカナリアがあまりにも機体の反応が遅い遅いと宣うものなので、全ての感度を設定できる最大にして送り出した事がある。まともに歩行する事も出来やしない、と高を括っていたのだが「今までの中で一番良い!」と満面の笑顔で空の彼方まで旅立ってしまった。

 数十分後、格納庫に戻ったカナリアは私を見つけると「もっと早くしても良い!」と目を輝かせる。

 冗談じゃない。今の設定でも並のパイロットが乗れば、板金7万円コースまっしぐらだ。実際には7万じゃ済まない金額だけど。兎も角、歩くだけで転んでも仕方のない設定にしてあった。それを自分の身体のように操る彼女の姿を見せられたからには、どうにかしなくては天才メカニックの名が廃るというものだ。

 操縦系は限界まで感度を高めた、駆動系は徹底的に高速化を施している。

 宇宙世紀、西暦の時代と比較して技術は飛躍的な進歩を遂げていた。それでもまだ辿り着けない独りの人間が生み出す極致。彼女の操縦技術に関しては、現代の技術を以てしても天才以外の言葉で語る事ができない。ジオニック社が持つ技術の粋を集めてもなお手が届かない個人の領域、これで負けてしまったのであれば、それはもうパイロットの運や実力の話ではない。

 モビルスーツの性能で負けてしまった、と認めざるを得なかった。

 

 そもそもだ。彼女はテストパイロットとしても優秀であり、常に機体の限界以上の性能を引き出している。

 

 彼女の操縦記録を見てみると機体が壊れていないとおかしい数値を出し続けているのが分かる。何故、壊れていないのか分からない。予想も付けられる。でも、それは二言目に「ありえない」って言葉が常に付いて回る。一度だけであれば、そんな事もある。二度あれば、珍しい事もあるもんだ。三度もあれば、流石に疑問を持つし、それがずっと続いているのであれば、もう認める他にない。現代科学の敗北である。

 

 今夜もまた彼女は戦地に飛び立っている。

 自分とそう変わらない年齢の子が殺し合いを続けている事に思うところがない訳ではない。

 でも、だからといって、出撃するのを止めてなんて言えない。

 私達は戦争をしている。彼女は戦える。彼女にしかできない事がある。

 そして、私もまた私にしかできない事がある。

 

 彼女が駆るグフ・フライトタイプの背中を思い返し、天井に手を伸ばした。

 あの空に私も連れて行って欲しいなあ。

 並のパイロットでは無理だ。彼女だから我が身のように使い熟して、自由自在に空を翔る。

 それに戦うのは怖かった。

 時折、モビルスーツに乗るパイロットが羨ましく思う事がある。

 特に彼女は、本当に楽しそうに乗るものなので、羨ましい、と思ってしまうのだ。

 あれだけ好き勝手に動かせるのだ、楽しいに決まっている。

 無事に帰って来てくれる事を祈るばかりだ。

 

◆

 

 月光が照らす摩天楼、廃墟化したビル群を二機のモビルスーツが縦横無尽に駆け抜ける。

 片や闇夜に溶け込む濃青色の新型機、もう一機は灰色の塗装をしたグフ型の派生機。推進剤を燃やす高速移動の後には、光刃と熱刃の残滓が残る。コロニー落としで半壊したロサンゼルスの街並みが、二機による激戦の余波を受けて次々と崩壊して行った。ロサンゼルスは街の規模に対して、住民は少ない。キャリフォルニアベースが近場にある都合上、公国軍は将兵の宿泊施設としても活用している為だ。その為、復興も優先的に進められていたのだが、二機の悪魔は周囲の事なんてお構いなしに切り結んでいる。

 否、周囲に配慮する余裕がないのだ。

 ガンダムのパイロットであるアムロは憔悴していた。どれだけ振り切ろうとしてもピッタリと距離を詰めてくるグフ派生機を相手に集中力を途切らす暇がなかった。BBの助力を受けて、やっと命を繋いでいる状況である。今日までは機体の性能差で押し切れていた。しかし相手が新型機に乗り換えた今、機体の性能は戦力の決定的な差ではなくなってしまったのだ。

 初めて戦う格上を相手に、アムロの集中力は擦り減っていた。

 

 グフ・フライトタイプに乗るカナリアもまた精神を磨耗させている。

 相手が夜間迷彩を施していると知った時、彼女は無意識に目に頼ることを放棄した。ニュータイプ能力としての勘をフルに活用しており、自前のレーダーで敵を捕捉し続けている。世の科学者が聞けば、卒倒しそうな事を彼女は接敵直後から続けていた。故に疲弊する。人間というのは、知覚情報の八割以上が視覚だと言われている。カナリアも同じだ、半分以上は目から受けた情報に頼っている。

 近接格闘という極限状態の中、その何時も使っている五感の内一つを自ら閉ざして戦い続けているのだ。

 軽い頭痛を覚える。脳が発する危険信号を無視して、彼女は息も吐かせぬ猛攻を続けていた。此処で絶対に殺すのだ、という強い意志が角付きの新型機を追い詰める。今日まで生き残れたのは運が良かっただけだ。機体の性能に守られていただけだ。と敵機が防戦一方になるまで追い込んでいた。

 漸く掴んだ勝機、ここで逃してなるものか。とフットペダルをベタ踏みする。

 

 限界を超えた動きに機体が悲鳴を上げる。

 そんなこと構うものかと押し込む操縦桿が火花を散らす。相手が動き出す気配を感じ取り、まるで未来予知をしているかのような動きにアムロとBBは戦慄する。背中に目が付いているどころの話ではなかった。闇夜の有視界戦闘、夜間迷彩を施したこの機体の位置を寸分違わずに掌握されている。それだけではない。ガンダムは機体の特性上、空を飛べるように設計されていない。スラスターを活用する事で大きく跳躍する事はできる。しかしヘリコプターのように空中で静止する事は不可能だ。

 今、戦っているグフ派生型は、それを可能としている。

 カナリアの規格外の腕前によって、機械制御では追いつかない空中での姿勢制御を可能とし、時にはビルの壁面に着地する事で鋭角に軌道を変える。視界の悪い夜間での話だ。ほとんど月明かりだけの環境で建ち並ぶビル群に機体を擦らせる事なく、三次元の軌道を以て連邦の新型に切り掛かっている。これにアムロが対処できているのは、BBの助力があっての話だ。背中にBBという名の目を付ける事で視覚外からの攻撃にも辛うじて凌ぎ切ることができていた。

 退いても、弾いても追いかけて来る灰色の亡霊にアムロは自身の無力を嘆いた。

 

 そんな二人の戦闘風景を遠くから眺めるモビルスーツが一機。

 両肩にキャノン砲を搭載した赤い塗装の機体の名は、ガンキャノン。

 操縦席に乗るのはカイ・シデンだ。

 

 最初はセイラが出撃を自己申告した。

 しかし艦長のブライトによって要請は却下される。そこで頭に包帯を巻いたリュウ曹長が「艦の護衛ならコア・ファイターがある」とパイロットスーツで姿を現した。これにブライトは自分の考えを曲げて、アムロの援護としてガンキャノンの出撃を命じる。だがパイロットはセイラではない。彼女の代わりにガンキャノンの操縦に長けたカイを指名した。

 そんな流れで艦を追い出されたカイは先ず、視界を確保する為に高台に出たのだ。

 

「おいおい……あんなの、どうやって援護しろってんだ?」

 

 少し遠方で繰り広げられる戦闘の軌跡、戦闘は二次元ではなく三次元で繰り広げられている。

 二人の戦闘の余波により、破壊され続ける建造物の跡、砂煙の中でなお見える光刃と熱刃の交錯。スラスターによる機動は、木々の隙間を潜り抜ける燕のようだった。アムロは自身の無力を嘆いた。しかし、それは日本のプロ野球選手がメジャーリーガーを相手にした時の感覚に似ている。まだアマチュア野球のレギュラーを取ったばかりのカイでは、二人の戦いに手が出せようはずもない。

 あの戦いに、足を踏み入れる事はできない。そう察したカイは身を伏せる。息を顰めて、気を静める。ビームライフルの照準は空飛ぶグフを追いかける。この状況で当てるのは不可能だ、引き金に手を添えたまま時期を待った。カイは自分がユウやアムロとは違う事を自覚している。だから、この状況で他のモビルスーツと接敵した時、殺されるのは自分の方だと分かっていた。

 だから援護射撃は一発限り、彼もまた幾度と死線を乗り越えた戦士となりつつある。

 

 カナリアは攻め切れなかった。

 逆にアムロもまた活路を見いだせていなかった。

 精神を擦り減らす消耗戦、先に我慢の糸を切らしたのはアムロの方だった。

 

「こんだけ頭上を取られているから苦戦している……なら、頭上を取れば良いんだ!」

 

 ガンダムがスラスターから青白い光を噴射する。

 先程まで見ていたグフ派生型のビル蹴りの動きを参考に、駆け上がるように軌道を変えながら相手よりも高い位置に出ようとした。あと少し、グフ派生型の上に飛び出そうとしたその時、敵機の左手に小型の銃器が握られている事に気付いた。まるで手の形を模した五砲身のマシンガンから高速連射される銃弾、それにルナチタニウム合金を貫く程の威力はない。しかし一度に五発も当てられた時の衝撃は、並の実弾兵器よりも大きかった。姿勢が崩れる。ガンダムに空中で相手の攻撃を受けながら姿勢を制御できる能力はなかった。

 アムロは舌打ちを零し、相手の頭を抑える事を断念。どっすんと地面に着地する。

 

 頭上を見上げようとした時、五砲身のマシンガンによる連射が雨のように降り注いだ。

 その半分以上がガンダムを捉えているのだから驚異の命中率である。スラスターを吹かせて逃げ出したくとも衝撃の振動で上手く起動させられない。のでガンダムのソフトを掌握していたBBが強制的にスラスターを始動させる。マシンガンの雨から脱出した。頭上を見上げた、しかし夜空にグフ派生型の灰色の影はなかった。姿を隠した? いや、違う。とアムロは希望的観測を拒絶する。敵機の殺意を肌身で感じ取っていた。そして、それはBBも同じだった。

 相手の視界を見切り、必要最低限の姿勢制御用スラスターで常に相手の死角に回り込む落下運動。グフ・フライトタイプを受領した時から考えていたカナリアの新戦術、あの新型に乗ったパイロットを殺す為のスペシャルだ。

 

「名付けて……メテオ斬り!」

 

 フィンガー・マシンガンを始めとした衝撃力の高い武器で相手の動きを制御し、必要最低限の姿勢制御用スラスターで常に相手の死角に回り込むように落下をしながら近接武器で切り込む必殺技だ。熟練した機体制御、相手の思考を読み取る特殊能力。その二つを兼ね備えていないとできない今はカナリアだけが扱える新戦術であった。

 

『アムロ、相手が視界に居ないのなら……ッ!』

「ああ、分かっている!」

 

 だが、その必殺も相手が常識の範囲内に居た時の話だ。

 相手の殺意に合わせて、アムロは背後の頭上に目掛けて右手に握り締めたビームサーベルを薙ぎ払った。当たらずとも相手を振り払えれば良い、そんな考えでの行動だった。手応えはない。振り払った後、空中で停止し続けるグフ派生型の姿を見て、アムロの血の気が引いた。BBは絶望に言葉を失った。

 カナリアは、殺意だけを飛ばした。

 言葉にすれば、それだけの話。相手が自分と同じ能力を持っていると予測しての選択だ。

 

「勘の良さが命取りだ!」

 

 大きく開いた新型機の胸元、この状態でも左手でランドセルに刺さったままのビームサーベルを握り締めようとしているのだから油断ならない。しかし、それよりも早くにヒートサーベルの切っ先が届くと確信したので、カナリアはペダルを全力で踏み込んだ。カナリアはモビルスーツがまだ世間に認知されていない時から開発に携わって来た熟練のパイロットである。しかし、それ以上に彼女は特別な能力を自覚してから十年以上の年月が流れていた。これを彼女は自分だけの特別な力だと思った事はない。似た能力を持った人間が何処かにいると思っていたし、他よりも少しだけ優位に立てるだけで絶対的なものだとも信じていなかった。それは幼い頃、キャスバルやランバ、ドズルを相手に遊戯などで多く負かされ続けてきた経験があるからだ。故に彼女は自覚している。それまでの人生で積み重ねてきた多くの経験がこの能力の欠点、長所が弱点に裏返るポイントを熟知していた。故にカナリアは、この能力を誰よりも使い熟している。カナリアは意識を集中する。最後の最後まで絶対はない。万が一の逃げ道すらも潰す意気込みで、眼前の新型機に自分の持てる全ての能力を集束させた。反撃があるなら掻い潜って殺す、避けるなら追いかけて殺す。相手の行動の全てを先読みし、未来視にも達する極致の果てにヒートサーベルの振り抜いた。

 

「くそぉっ! 当たっても俺のせいじゃないからなっ!!」

 

 ビームライフルの閃光がグフ・フライトタイプの頭部を消し飛ばす。

 

「……えっ?」

 

 予想外の横槍、ブラックアウトするメインモニターにカナリアは唖然とした。

 その僅かな隙を見て、アムロは咆哮した。ガンダムの左手に握り締めていたビームサーベルを我武者羅に振り落とし、ヒートサーベルを握るグフ派生型の右腕を切断する。カナリアは舌打ちを零す。完全に視界が閉ざされた中で、的確にガンダムの胴体部に蹴りを入れた。仰け反った相手との距離が生まれる。カナリアは左手のフィンガー・マシンガンで相手を牽制、撃ち尽くした後にパージ。地面に落とした反響音を頼りにヒートサーベルを左手で回収した。

 そしてガンダムに向けて、左手一本で構えを取る。

 

「高が、メインカメラがやられただけ……!」

 

 どうせ最初から相手の姿なんてよく見えていなかったのだ。

 瞼を閉じることで完全に死角を遮断し、摩耗した意識を更に集中させる。

 つぅっと鼻から赤い血が流れる事も気にせず、カナリアは自ら相手に切り込んでいった。




ハンドガン「指マシで、その技は使えないはずじゃ……!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定