NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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34.負の世界遺産。

 本来、ニュータイプ能力の研究は公国軍の中だけで行われてきた機密事項である。

 それが連邦政府の知るところになったのは、一年戦争初期にジオン公国から亡命した一人の研究者が齎した情報からである。彼はプロト・ゼロ少佐がルウム戦役で活躍した映像データを基にニュータイプ能力の危険性を訴えた。本来であれば、与太話として切り捨てられそうな話。しかし彼の傍には青い髪をした幼い少女が控えており、彼女の存在がそのままニュータイプ能力の証明となる。

 この話を聞いた連邦政府の高官は、極東の地にて、秘密裏にニュータイプ能力の研究と開発をする為の施設を用意する。

 

 これが後にいうムラサメ研究所となる。

 亡命者であるクルスト博士が持ち込んだ少女を素体に基礎研究が進められる事になったが、政府高官の思惑がニュータイプ能力に対する備えではなく、開戦以後、増長しつつある軍部に対する備えとして、ニュータイプ能力の力を欲していることを彼は知る。ジャブローから遠く離れた極東の地に研究所を設けたのも軍部の目から逃れる為、ニュータイプ能力の危険性を訴えていたクルスト博士は政府高官の思惑から逃れる為に連邦軍に情報を横流しにすることを決意。その翌日に、彼は素体の少女と共にムラサメ研究所から姿を消す。

 連邦軍に身を寄せた彼はニュータイプ能力に関する全ての情報を開示した後、政府高官の手から逃れる為にサイド7への異動となる。そこでEXAMシステムの研究に着手し、ガンダム試作機1号に搭載する事と相成った。

 赤い彗星の襲撃を受けて以後、彼の消息は分からず終いとなっている。

 

 クルスト博士からの情報提供を受けた連邦軍は、常に彼の傍にいた青髪の幼子から事実の有無を判断し、その脅威を認める。特に恐ろしかったのは、相手の思考や感情を読み取れる能力であった。彼女のような存在が他に居て、連邦軍の内部にまで侵入されているかも知れない可能性を何よりも恐れた。

 早急に対策を講じなくてはならない。

 クルスト博士の研究データを基に連邦軍もまた独自の研究機関を設立する。その候補地に選ばれたのは北米大陸にあるオーガスタとオークランド、しかしガルマが指揮する公国軍の速やかな地球降下作戦によって北米の大半が占領されていた事から見送られる事と相成った。

 代わりに選ばれたのが欧州にあるライプチヒ、後に負の世界遺産と呼ばれるライプチヒ研究所の始まりであった。

 

 ライプチヒ研究所では、公国軍のコロニー落としを予見した「奇跡の子供達」が招集される。

 子供達は三人居た。しかしクルスト博士から齎された研究データによって、金髪の少女が最も高い適性を持っている事が判明する。クルスト博士が持ち込んだ幼子よりも高い素質を持っていた事から彼女は、地球で生まれ育ったニュータイプ能力者として大切に育てられる事になる。

 そしてニュータイプ能力は、戦力に転用できる事を彼らは忘れていなかった。

 ライプチヒ研究所では、人工的に奇跡の子供を生み出す研究が続けられる。最初は青髪の少女という実例のあるクローンで増やそうとした。しかし奇跡の子供にはクローンの素体としての適性はなく、その多くが成長する前に死亡し、仮に育ってもニュータイプ能力を持っていなかった。

 故にニュータイプ能力の覚醒実験は、肉体と精神を弄る方向に舵を切られる。

 

 それには目ぼしい能力者をムラサメ研究所に取られてしまっていた事情も含まれていた。

 

 ムラサメ研究所では先ず、可能性のある人間を適当な理由で招集することで被験者を揃える。

 しかし最初からニュータイプ能力の素質を見せたのは一人だけであった。計画の責任者であるムラサメ博士は、この時点で真っ当な手段では政府高官の要望に応えられない事を確信する。ニュータイプ能力の研究は素質を持つ一人に任せる事にし、残った全ての被験者を人為的にニュータイプ能力を覚醒させる手段を得る為の糧にすることを決断した。

 これによって、過酷な強化手術に耐え切れなかった多くの被験者が命を落とす事になる。

 しかし、そんな中でも生き延びた者はいる。それがゼロ・ムラサメ、彼は世界で最初となる強化人間の成功例であり、今ではムラサメ研究所の最高傑作とも呼ばれている。そして彼という最高の成功例が生まれてしまったので強化人間の研究は以後も止められることなく続けられていった。

 そしてまた効率化した強化手術の中で一人の少女がニュータイプ能力に目覚める。

 

 彼女の名前は、シス・ミットヴィル。癖の強い茶髪が特徴的な女の子だ。

 ムラサメ研究所における二番目の傑作、という意味でセカンドの名が与えられている。

 

◆

 

 ひたひた、と薄暗い廊下を歩いている。

 度重なる強化実験に精神は摩耗し、時間の感覚なんて疾うの昔に忘れてしまった。

 ニュータイプ能力を強化するという名目で散々な目に合わされた。強化手術の苦痛だけならまだ良かったのだけど能力の強化には、精神が大きく作用するとの話だったので様々な事を経験させられ続けている。辛いことも、苦しいことも、恥ずかしいことも、繰り返されている内に心が鈍化し、感情というものがよく分からなくなってしまった。反応が悪くなると能力の出力も安定し、酷い事をさせる頻度も減っていったのでより感情を殺す行為を加速させていく。そうして夜な夜な人目を盗んでは、施設内を徘徊する機会を増やしていった。

 どうしてこんなことをしているのか分からない。

 此処ではない、何処かを望んでいるのかも知れない。強化手術に耐え切れず、多くの人間が死んでいる。此処から逃げ出したいと思うのは当然だ。でも此処から逃げ出したところで、何処に行けば良いというのか。昨日は一人死んだ。実験ではない、この場所から逃げ出そうとして死んでいる。少し羨ましいと思った。私には帰る場所がない。何故なら、私は、親に売られて、この場所に来たからだ。結果はさておいて、帰りたいと思える場所があって、行動に移したということそのものが羨ましかった。

 私には、それをするだけの度胸もなければ、勇気もなかった。

 

 その日は、窓から見上げる月が綺麗だった。

 死にたいなあ、と自然と口が動いた。今の私は惰性で生きている。

 運良く死んでいないから生き続けているだけだ。

 何もかも消えてしまえば良かった。

 

 何時もの夜、何も変わらない毎日が続くはずだった。

 今夜、何時もと違ったのは警報が鳴り響いた事。それが鳴り止まなかった事。轟音と共に地面が大きく揺れた。

 その衝撃に立っていられず、地面に倒れ込んだ。急な事に何が起きているのか分からない。

 窓から外を見た。直ぐ近くをモビルスーツが着地する。

 ジムではない、黒い色をしていた。公国軍のモビルスーツでもない、見た事のない機体だった。

 それは私の方に右腕部を突き出すと四発のグレネード・ランチャーを放った。

 強い衝撃と共に意識を失った。

 

◆

 

「実戦だなんて話は聞いていないよお!」

 

 ムラサメ研究所に併設された格納庫では、赤髪の少女が喚き散らしていた。

 パイロットスーツを着せられて、白い機体に押し込まれている。ムラサメ研究所が囲い込んだ純正のニュータイプ能力者である彼女は今、格納庫からモビルスーツを奪い取った裏切り者と戦わせる為に出撃を強制させられている。

 

 彼女はモビルスーツの操縦訓練は十分に受けていた。

 しかし彼女は性格的に実戦には向いておらず、実戦投入を先送りにされ続けた経歴を持っている。そんな彼女が今回、出撃させられる事になったのは、ムラサメ研究所に残っている被検体の中では三番目の成績を持っている為だ。一番目の被験者は今、裏切っており、二番目の被験者は部屋から抜け出していた。

 二人が同時に裏切っている可能性は十分に考えられる。

 仮に今、裏切ってなくとも彼女では、ゼロの呼びかけで寝返る可能性も十分にあった。

 だからセカンドの捜索は早々に打ち切って、どうせ此処が破壊されてしまっては研究が続けられなくなるのだ。といった精神で彼女、に白羽の矢が立てられる。

 

 半ば強引に出撃をさせられる事になったカチュア。

 外に出た、まだ空は暗かった。研究所の破壊を続ける黒い機体と視線が合った気がした。

「あっ……」とカチュアは自らの死期を悟る。シミュレーションで見たジムとは比べ物にならない速度で接近する機影に彼女は為す術なく、体当たりを受け止めた。そのまま機体は仰向けに倒れる。偶然、手に触れてしまったスイッチがコックピットのハッチを開いた。

 黒い機体がヒートナイフの切っ先を白い機体に突き付ける。

 しかし、それが振り落とされる事はなかった。

 黒い機体を乗る彼を乗せたのは、白い機体のコックピットの中で気絶する赤髪の少女を見てしまった為だ。

 

「……子供を道具にしてまで戦争を続けたいのかッ!」

 

 明らかに軍人ではない少女を見てゼロ・ムラサメが咆哮する。

 怒りの矛先は自らを改造した研究者へ、白い機体よりも先に研究所の破壊を優先した。

 もう二度と研究が続けられないように徹底的に破壊する。

 故に彼は気付けなかった。

 白い機体に駆け寄る少女の影を、ほんの数分前まで死にたいと呟いていた少女は、

 生存本能に突き動かされていた。

 

◆

 

 ペイルライダー計画。開戦後、アナハイム・エレクトロニクス社に兵器開発の全てを握られる事を嫌った軍部の一部が暴走し、勝手に推し進めたモビルスーツ開発計画の事だ。この事は政府高官の一部の人間も危険視しており、AE社の目から逃れる為にムラサメ研究所で開発が進められる事となった。

 既に試作機の開発は3号機まで進められており、2号機ことレッドライダーは実地試験の為にムラサメ研究所から送り出されている。

 なおムラサメ研究所の存在が軍部に知られてしまったのは、ペイルライダー計画の責任者がレビル大将の強烈な信奉者である為だ。機密保持がガバガバである。そんな事なのでゼロ・ムラサメにペイルライダー試作機3号のブラックライダーを奪われてしまうのだ。

 

◆

 

 コックピットのシートで気絶する赤髪の少女を横に除けて、シートに腰を下ろした。

 操作確認をする。大丈夫、操縦系の規格はジムと大差ない。立ち上がる。額から流れる血を服の袖で拭い取り、研究所を破壊する為に暴れる漆黒の機体を睨み付けた。外に脱出した研究者の一人を踏みつけた。片手に握り締めたヒートナイフの切っ先を研究所に突き立て、まだ中に残る研究者を無残に殺し尽くす。そして、ゆっくりと漆黒の機体が私の方へと振り向いた。

 相手が手を差し伸べてきた、オープン回線で通信が入る。

 

『……お前が、どういう人間なのかは知らない』

 

 男の声だった。何度も聞いた事のある声だ。

 

『だが、この研究所に居たのなら連邦軍が何をしていたのか知っているはずだ。俺は、もう二度と研究を続けられないように此処を徹底的に破壊した後で公国軍に向かうつもりだ』

「……それで、どうするの?」

『お前……セカンドか? どうして……いや、そんな事は後で聞けば良い』

 

 俺と来い。と先程とは違って、言葉に力が込められた。

 

『俺は試作機を手土産に公国軍に降り、この研究所の情報と引き換えに強化人間の治療法を探して貰うつもりだ』

「……そんな都合よく行くとは思えない」

『ああ、そうかも知れない。だが、もう使い捨ての道具として扱われなくとも済む……俺は人になりたい。一人の人間として、ちゃんと扱われたいんだ』

 

 私は目を伏せる。大きく息を吸い込んだ後でから口を開いた。

 

「ゼロ、言ってたよね。空を落とした連中を許せないって……」

『……ああ、確かに言ったな』

 

 だが、と彼は言葉を続ける。

 

『俺は、もう耐え切れない。人でない事に耐え切れない。俺を人として認めて、扱ってくれる場所があるのであれば、もう、それで…………』

 

 声が震えていた。

 今にも消え得る声で呟かれる言葉を聞いて、その悲しみと辛さに同情する。

 まあ他に行く宛もないし、と流されそうになった時だった。

 

「ば~か」

 

 背後から誰かの声がした。

 

「人になりたい? たったそれだけの為に空を落とされて、故郷を焼いた連中に尻尾を振るのが貴方の生き方って事? 復讐するだけならいざ知らず、無抵抗な人間を嬲り殺して快楽を得ている貴方がどうやって人を名乗るって?」

『快楽だって?』

「声を聞けば分かるんだって、貴方は人を殺して喜んでいる。今、楽しくって仕方ないんでしょ?」

 

 通信機越しにギリッと歯を食い縛る音のした気がした。

 

『お前は、誰だ?』

「私はカチュア・リィス、ムラサメ研究所のニュータイプってやつみたいね」

『そうか、なら……俺達の苦しみが分かるはずもないッ!』

「うわっ、襲って来た!」

 

 癇癪を起したかのように漆黒の機体が迫って来た。

 とりあえず手に持っていた左腰に付けられたヒートレイピアを手に取る。

 煽ったのはカチュアという少女なのに何故、私が戦わなきゃいけないのか。

 とはいえ、このままだと死ぬだけなので対処しなくてはならない。

 自分よりも格上の相手に、生き残る事を最優先に考える。

 

「いっけー、やっちゃえー! ほらほらほら~! あぁーっ!!」

「……うるさい」

 

 この流れで死ぬなんて絶対に認められない。

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