NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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38.再会、母よ…

 女の子を二人も侍らせて、暫く車を走らせると町が見えてきた。

 幼い時、父に連れられて宇宙に出た時以来の故郷であり、所々で変わっていても土地の雰囲気は残り続けている。これで彼女の一人でも連れていたならば、最高の里帰りになったのかも知れないが、残念な事に僕の傍に二人の少女は彼女と言い張るには幼過ぎた。通り過ぎる景色に目を輝かせる二人の横顔を見やる。満更でもない想いと簡単には認めたくない気持ちが入り混じった結果、僕は不機嫌に口先を尖らせた。

 程なくして、実家に辿り着いた。

 意気揚々と車を降りる僕の手を赤髪の少女、カチュアが握り締める。何かを訴えるような瞳、家を見た。中から複数の男の声が聞こえてきた。もしかして今、家に強盗が入っているのかも知れない。今は戦争の最中、そういう事があるという話は聞いている。もしかすると母が乱暴されている可能性だってあった。

 だから理屈じゃなかった。彼女の手を振り切って、拳銃を片手に自分の家へ駆け込んだ。

 中は、酷い有様だった。

 連邦軍の制服を着た酒臭い男達が僕の家に女を連れ込んでいた。

 そこに母の姿は見当たらない。

 

「なんだこいつ?」

 

 女を腰に抱えた連邦兵の一人が睨みつける。

 

「ここは……僕の家です。出て行ってください!」

「なんだとぉ?」

 

 男の一人に凄まれたが何度か死線を超えてきた身の上、僕もまた退かずに睨み返す。

 そのまま言い争いになりそうな所で「待て」とリーダー格と思われる男が口を開いた。

 

「宇宙軍か?」

「…………」

 

 まだ正式には軍隊に所属している訳ではない。

 しかし、あえて言う事もないと思って、押し黙る。

 命を張って、戦っているのは事実なのだ。

 何もかもが嘘である訳でもない。

 悪いのはブライトを始めとした、ホワイトベース隊の正規兵だ。

 リーダー格の男は、僕から視線を逸らした。

 

「……君の家だったとは、失礼した。誰も居なかったものでね」

「誰も、いない?」

「そお接収させて貰った」

「家の中を、見させて貰います」

「それは良いが、銃はしまえよ」

 

 指摘され、わかってます。と拳銃を腰のホルスターに戻す。

 部屋の中を改めた。あの連中は随分と前から此処を使っているようだ。

 家具は、そのまま置かれていた。しかし貴重品といった類のものは置かれておらず、少なからず荷造りをした後があった。

 そうして僕の部屋からは、母が持ち出したものは見当たらない。

 母は、別れる時、地球を離れるのが嫌だと言った。家族との生活よりも地球での暮らしを選んだ。

 あの時は気づかなかったかも知れないけど、あの仕事人間の父だ。

 両親の仲は、よくなかったのかも知れない。

 

「行こう、アムロ」

 

 服の裾を引っ張られた。振り返れば、赤髪の少女が悲しい目で僕を見ていた。

 

「……そうだな」

 

 僕はカチュアの言われるがまま、もう帰る場所ではなくなった部屋を後にする。途中で連邦兵の一人に絡まれていたシスが、その男の手首を無言で捻り上げていた事もあり、茶化される事なく穏便に家を出ることができた。

 

「まあ、そんなもんだよ。私の家は、コロニー落としで跡形もなくなってるから……」

 

 カチュアの慰めにもなっていない言葉に押し黙った。

 形が残っているだけましかも知れない。

 ただ僕にはもう帰るべき場所がなくなった事を思い知らされた気分だ。

 それはきっと彼女達も同じ事だ。

 絶対に揺るがないと思っていた地面が、急にベニア板のように脆く思える。

 帰る場所が、ない。という事が、これ程まで不安に思える、なんて、

 涙が、一滴だけ零れる。

 一人だったら泣き喚いていた。彼女達が居たから堪える事ができた。

 無言で歩みを進める。

 

「そんな事を言わないで、ちゃんと払ってくださいな」

 

 果物を売っている中年程の女性が居た。

 二人の連邦兵の男が、代金を払っているのを渋っているようだ。

 うるさいな。と男の一人が、地面に小銭を放り投げる。

 腰を屈めて拾おうとする女性。

 それを見て、気が立っていた僕は、つい、口を挟んでしまった。

 

「拾っちゃ駄目だ! そいつらに払わせて、ちゃんと手渡しして貰うんだ!」

「なんだあ? この小僧、もおいっぺん言ってみろ!」

「拾えと言ったんだよ。軍人が、二度、命令を聞き直すってなってないんじゃない?」

 

 僕の代わりに、前に出たのはカチュアだった。

 彼女は地面放り投げられた小銭を拾い上げると、相手の額を狙って、親指で小銭を弾いた。

 あいた! という声がして「にしし」と肩を揺らす。

 

「この民間人の糞ガキャあッ!」

 

 そういって振り上げられた拳を見て、カチュアは臆せず、身を屈めながら一歩斜め前に踏み込んだ。振り下ろされた拳は空振り、相手の捕まえようとする軽やかなステップで回避する。最後は足を引っ掛けて、相手を地面に転ばせた。地面に倒れる連邦兵の一人を見下したカチュアは、心の底からくだらなさそうに告げる。

 

「やっぱり正規で訓練を受けた兵士とは違うよね。これじゃ、チンピラと変わらなくない?」

「それは言い過ぎだ、嬢ちゃん」

 

 地面に転がる彼とは別の、サングラスを掛けた男が不機嫌に口を挟んだ。

 

「俺達が居なければ、こんな町なんて疾うの昔にジオンの手の内さ」

「あらそう? でも命賭けてるって意味なら彼も一緒なんだけど?」

 

 パイロットだし、と彼女が告げる。モビルスーツの、とまでは言わなかった。

 サングラスの男が訝しげに僕を眺める。階級章のない襟を見て、僅かに目尻を下げた。

 何度か肩を優しく叩かれた後に「帰るぞ」と床に倒れたままの連邦兵に伝える。

 

「え、でも、このままやられっぱなしじゃ……」

「良いから帰るんだよ!」

 

 サングラスの男が背を向けたので、もう一人の男も僕達に凄んだ後で大人しく引き下がった。

 

「ああ、そうだ!」

 

 今度は連邦兵にバカにされていた中年の女性が声を上げる。

 

「アムロ、カマリアんとこのアムロじゃないか! 大きくなったねえ!」

 

 おばさんは豪快な笑い声を上げながら、両手でバンバンと僕の身体を叩いた。

 少し痛かったけど、その反応で此処が僕の知っている場所だって事が認識できた。

 そして、やっぱり、故郷に僕の居場所が失われてしまったようだ。

 

 おばさんに開戦後の話を聞かせて貰った。

 隣県では戦争が激化しており、おばさんはこの町まで避難して来たとの事だ。幼馴染の友達が一人、空襲に巻き込まれて死んでしまった事を聞かされる。それ以上に津波や地震の被害も大きく、その上、公国軍まで攻め寄せてくるもんだからと苦労話を聞かされた。今の世界情勢、何処も似たようなもんだ。

 僕が家に母が居なかった時の話をすると、おばさんが母の居場所を教えてくれた。

 近くのキャンプ地でボランティアをしているようだ。

 僕は早速、先に車に戻っていたカチュア達と合流し、車を走らせた。

 そして、その先で母と会う事ができた。

 

◆

 

 パオロ艦長が艦を降りてからも使っている士官用の個室。

 その寝台で横になっていた所、警報機のけたたましい音に叩き起こされた。

 

『各員艦内に戻れ、艦内に戻れ。敵機発見、対空戦闘急げ!』

 

 オペレーターの声が艦内に響き渡る。

 士官服の上着を手早く羽織り、慌ただしくなった艦内を掻き分けた。

 エレベーターを上がって、艦橋に足を踏み入れる。

 総舵手にミライ、通信席にセイラ。他のメンバーも既に揃っていた。

 俺は艦長席に腰を下ろして「敵か?」と皆に問うた。

 

「はい。味方の識別信号を出していません、海上10キロをこちらに向かっています」

 

 今、ホワイトベースは物資調達の為に停泊している。

 とりあえず何時でも発進できるように準備はさせているとの事だ。

 念の為、リュウ曹長、ジョブ伍長にはコクピットで待機するように言いつける。

 敵は数機、敵影からしてルッグン戦術偵察機だ。

 

「ホワイトベースを発進させます?」

 

 そのミライからの提案に「いや」と首を横に振る。

 

「かえって発見させやすくするだけだ」

「そうね」とミライが返す。

 

 まだアムロは外出中、すぐ戻らせる為に通信回線を開くように指示を出した。

 

「いいえ、駄目です」

 

 オペレーターが告げる。

 

「どうした?」

「報告にあった場所よりも更に奥地に進んでいます」

「このままではジオンの占領地に入っちゃいますよ」

「駄目だ、すぐに呼び戻せ!」

「ここから交信したんじゃすぐ敵にキャッチされますよ」

 

 こんな御時世、外出の許可なんか出すんじゃなかった。と頭を抱える。

 

「カイに呼ばせましょう」

「カイを?」

「前に聞いたことあるけども彼、コンボイレーサーらしいわよ?」

「コンボイ……レーサー……?」

 

 走り屋かなんかだったのだろうか。

 

「……逃げないかな?」

「助手席に適当な誰かを乗せておけばいいのよ」

 

 それに彼、意外と仲間想いよ。というセイラの言葉に首を傾げつつも指示を出す。

 此処にアムロを置いていくことはできない。かといって偵察機を放置しても見つかるのは時間の問題だ。

 敵本隊に連絡をされては面倒になる。よし、と方針を固めて命令する。

 

「先手を取って叩き落とす。リュウ曹長にコア・ファイターで出撃させるんだ」

 

 決断した、指示も出した。後は結果が出るのを待つだけだ。

 恐怖はある、自分自身の選択が良かったかどうかなんて分かるものか。

 しかし周りが抱える不安は自分以上だって事も分かっている。

 だから俺は周りが怯えないように艦長席に腰を落ち着けて、黙して報告が来るのを待った。

 焦りは伝搬する。急かして良い事なんて何もなかった。

 

◆

 

 格納庫からコア・ファイターが発進していくのを横目に眺める。

 自分は今、間抜けにも公国軍の占領地に足を踏み入れた同僚を助けに行く為に装甲車を出している所だ。アムロとは仲が良かった訳ではない、サイド7に居た時はオタク趣味の引きこもり野郎だと思っていた。何処かすかした感じがしたので、揶揄ってやったことも一度や二度ではない。有り体にいえば、虐め染みたこともやっていた。兎に角、俺は此奴の事が気に入らなかったのだ。

 それでも公国軍にサイド7を襲撃されてからは同じ境遇にあり、何度も死線を潜り抜けて来た事で少なからず仲間意識も持っていた。まあ尤も過去に虐めていた事もあって、素直に接する事もできなかった訳なんだが──しかし、俺は今、苛立っている。握り締めたハンドルを人差し指でトントンと叩いた。

 アムロは外出許可を取って親に会いに行った。

 その事実だけなら気にする程ではない、今までのように弄りの種にしてやるだけの話だ。問題なのは、奴には地球に帰るべき家があるってことだ。つまりはエリート族だったって事である。ミライのような優等生は「地球に住んでいる人がみんなエリートじゃない」と言ったりもするが重要なのはそこじゃない。

 地球に家があるってだけで、宇宙に追い出された俺達からすればエリートも同然だ。

 それがくだらない劣等感だとしても、裏切られた。という気持ちが消えず、蟠りとして胸につっかえている。

 

「まあ、だからといって見捨てよう。なんて考えないけどさ!」

「……何を言ってるんですか」

 

 助手席にハヤトが腰を下ろす。

 なんでもねえよ。とペダルをベタ踏みし、我らがエリート様を救出する為にアクセル全開で突っ走る。

 ああ、全然。気が乗らないねえ。

 

「そういえばアムロの他に女の子も一緒に出掛けているみたいですよ」

「女だって!? カァーッ! あいつもやることやってやがんなあ!」

 

 女連れで親に会いに行くとか許せるもんじゃねえ。

 

「それで誰だよ、フラウか?」

「違います。二人だって聞いてますよ」

「二人も!? いやあ、エース様ってのはモテるもんだねえ!」

 

 もうこのまま見捨てて帰っても良いんじゃねえかな。そんな事を考えた時に「何か勘違いしてません?」とハヤトがジトッとした目で俺を睨んだ。

 

「女の子は女の子ですよ。10歳超えたくらいの」

「はあっ!? なんだよ、それ! まだ子供じゃねえか!?」

「そうですよ。勝手に紛れ込んでしまったらしいですよ」

「あぁあぁ、そういうことね。ま、それじゃあ、御姫様を助けに行きますかぁ」

 

 故郷に帰るのに子守り付き、ね。

 少し気の毒なアムロに溜飲を下げた俺は、しっかりとハンドルを握り締め直す。

 今のホワイトベースには、アムロが必要だって事は俺にだって分かっている。

 それでも、まだ、素直になれない気持ちはあったので、

 子供を助けに行くおまけでアムロも助けてやるのだと自分に言い聞かせて装甲車を走らせた。

 

◆

 

「まあ感動の再会って感じで良いんじゃないの?」

 

 とあるキャンプ地、

 車の中から母と再会したアムロが涙を流しながら抱き合う光景を眺める。

 実はこの辺り、公国軍の支配圏に足を踏み入れていたりする。おかげでシスは腰の拳銃に手を添えて、ずっと周囲の警戒を続けていた。

 私は助手席のシートベルトを外し、操縦席へと移動する。

「運転、大丈夫?」とシスが心配そうに私を見つめたので、私は親指を立てて応じてやった。エンジンを掛ける。彼女の目に疑念が混じるのを無視し、アクセルペダルを踏み込んだ。モビルスーツの操縦に比べたら車の運転なんて訳がない。

 アムロから見えるように手を振り、車を隠す為に舗装されていない道を走らせる。

 

「ねえねえ、ミーちゃんって家族の事を覚えてる?」

「ミー……ちゃん……?」

 

 問うと隣で拳銃の動作確認をする彼女が手を止める、少し考え込む素振りを見せた。

 

「朧げに、なら。そういう存在が居た事は感覚として残っている」

「……そうなんだ」

 

 近場の茂みに車を隠し、先に自分から車に降りる。

 そして助手席側から降りようとする彼女の前に先回りして、手を差し伸べた。

 

「私が一緒に、忘れられない思い出をたくさん作ってあげる」

 

 彼女は私の手を受け取ってくれなかった。

 ポカンとした顔を浮かべた後、私を押し退けるように車を降りた。

 でも、その時、確かに彼女は、くすり、と小さく笑ったのだ。

 気恥ずかし気に、はにかむように、少し困ったもの見るような目で私を一瞥した。

 それが私の見た初めての彼女の笑顔だった。

 

 程なくしてキャンプ地に戻る。

 銃声が鳴り響いた、目の前の建物から公国軍の兵士が逃げ出すのを見た。

 すぐ後をアムロが追いかけて拳銃を構えたので、私はシスに一言、指示を出す。

 撃って良いよ、と。瞬間、シスは腰から銃を引き抜いた。

 二発分の乾いた音が鳴る。僅か一秒足らず、公国軍の装甲車に逃げ込もうとしていた公国兵の胸元に穴が二つ、赤い液体を流して地面に倒れてしまった。

 私は周囲の感情を読み取る。

 殺意ははない、明確な敵意は感じられなかった。

 目に付く範囲で敵はいないようだ。

 呆然と私達を見るアムロを呼び掛けて「早くこの場から離れるよ!」と車を隠した位置まで走らせる。

 

「なんて情けない子なんだろォォ!!」

 

 アムロの母らしき女の悲痛な声が聞こえた。

 まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるんだけどね。

 戦争なんだ。明日よりも今日を生きる方が余程、大事。

 先ずは生きる事が何よりも大事なんだ。

 と私は、追手から逃れる為に全力でかっ飛ばした。

 

「凄い飛ばすな、何処で運転を習ったんだ?」

「さっきアムロのを見て覚えたのよ」

 

 成り行きでシスを膝の上に乗せたアムロが顔を引きつらせた。

 ついでにシスも目を見開いて私を見てた。

 そして、ゆっくりと視線を前に戻す。あ、二度見した。

 あの兵士を、ちゃんと撃ち殺したおかげか、すぐには追手が来なかった。

 

◆

 

 ホワイトベースから発進したコア・ファイターが偵察機を撃墜する為に空を飛んでいる。

 そうして遠くを飛んでいるルッグンを発見し、そのままパイロットのリュウ曹長は命令通りに奇襲攻撃を仕掛けようとした。だが、その時、視界の端に巨大な緑色の人影を捉える。ザクⅡと旧ザクが、行進をしている所だった。それを見たリュウ曹長は一瞬、操縦の手を止めてしまった。

 一機は撃墜した。しかし二機目は墜とせなかった。攻撃を掠らせはしたが、自分の方も翼に反撃を受けてしまった。黒煙が上がる。公国軍のモビルスーツを相手にする事もできない為、ホワイトベースの居場所がバレるのも承知の上で撤退を開始する。恐らく、既に敵軍は自分達の存在を察知している。

 リュウはブライトにガンキャノンの出撃を上申し、なんとか母艦までコア・ファイターを持たせようと操縦桿を握り締めた。

 

「私がガンダムで出るわ」

 

 一方、ホワイトベースではセイラが出撃を名乗り出ていた。

 ブライトは頭を抱えて「行けるのか?」と問い掛ける。

 シミュレーターでセイラもモビルスーツでの戦闘訓練を受けていたのは知っている。

 だが、しかし。それは、果たして実戦に通用するレベルなのか?

 行けます。セイラは自信を持って答える。

 

「だけどガンダムは2号機ではなく1号機でお願いするわね」




ブライト「それで塩はどうなったんだ?」
タムラ「へえ、いの一番に買いましたさあ!」
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