NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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42.ミアは私の母になってくれるかもしれない女?

 カナリアはさみしんぼさんである。

 朝早くに起きると彼女は何時も私の懐に収まっていた。

 幼い体躯、初潮もまだだと聞いている。そんな彼女が私の胸の合間に顔を埋めて、うりうりと額を押し付けてくる様は、なんというか、母性が擽られるとでも言いますか。頭を撫でてあげると擽ったそうに身を捩らせる仕草が可愛くって仕方ない。思わず、口元が緩んでしまう可愛さだ。

 産みなおして、私の娘にしてあげたい。

 

 カナリアとは幼馴染だ、友達以上の絆を感じている。親友と呼べる程の仲ではある。

 でも、それが恋愛感情に直結するかといえば、微妙な気がする。私には、まだ同性愛というものがよく分かっていなかった。同性だから肌を見せ合うことに抵抗はない。だけど、それで興奮するかといえば、それは別の話。カナリアも私の裸を見ることに性的興奮を覚えている訳でもなさそうだった。そもそもだ。初めて私の唇を奪ったあの時も彼女は私に恋慕を抱いていなかったはずだ。私を他の誰かに奪われない為の咄嗟の行動に過ぎず、周りに対する牽制の意味も込めて、私達の仲を見せつけているだけに過ぎない。

 それがどういう訳か、近頃の彼女は異常なまでに私を欲するようになっている。

 

 カナリアは寂しがり屋だ。

 私を失う事を必要以上に恐れている。

 

 彼女は、その特別な能力で私に離れる意思がないと知っているはずなのに、彼女は親友以上の絆で私を繋ぎとめようとしていた。既成事実の数々が私を引き留める楔となる。そんな事をしなくても良いのに、といじらしい彼女の想いに笑みを浮かべる。まだ眠たげな彼女の顔を両手で挟み込んで、両手の親指で頬のぷにっとした部分の感触を堪能する。

 

 ひとつ確かな事があるとすれば、

 私とカナリアは互いに互いを大切に想い合っているという事だ。

 壊したくないし、壊れて欲しくない。度重なる命を賭けた戦闘に彼女の精神は摩耗している。その疲れ切った心が安らぎを求めて、彼女を倒錯的な想いに誘っていた。心は移ろい揺らぐものだから、彼女は懸命に私との毎日を繋ぎとめようとしているのかも知れない。彼女が束の間の安寧を得られるのであれば、私は、何度だって彼女に身を捧げても良いと思っている。初めてなんて些細なものだ。まだ破られてはいないけど、その覚悟は疾うの昔に決めていた。

 実際に、彼女と身体を重ねるのは嫌いじゃない。気持ちが良いというよりも擽ったい、でも心地良かった。もし時間が許すのであれば、四六時中、彼女が満足するまで抱き締め合っていても良かった。それで彼女の心を守れるのであれば、安いものだ。見返りはいらない。ただ彼女の為にしてあげたい、それだけだ。

 恋慕ではないかも知れない。だけど、それは愛のひとつの形だと思っている。

 

 私には、まだ同性に性的興奮を覚える感覚が備わっていない。

 だからメイ・カーウィンが私達を、そういう目で見ていると知った時は本気で引いてしまった。

 私よりも性に寛容なカナリアが居なければ、

 もしかすると私は、二度と彼女と顔を合わせる事もなかったかも知れなかった程だ。

 

 余談だけど、私にはカナリアのパイロットスーツを着ることができない。

 胸がつっかえてしまう為だ。だから、ちょっと、お仕置きを受けた時、彼女のスーツを着ることができた彼女が羨ましく思えてしまった。妬ましい。しかもあのスーツはサイド3で木馬と出会った時から一度も、ちゃんと洗った事がなかったはずだ。

 ……後で、ちゃんと洗っておこうと思う。

 私以外の誰かの臭いが付いたスーツをカナリアに着せるのは、なんか嫌だった。

 

 閑話休題、

 私がドム・トロピカルテストタイプを欲したのは、その機体がツィマット社製であった事がひとつの理由。でも、それ以上にカナリアが手元にメイを置いておこうとしたことにあった。私は嫉妬している。カナリアが彼女の嗜好を壊し、精神に深い傷を刻んでまでして隷属させたのは、メイ・カーウィンのメカニックとしての能力に魅力を感じた為だ。

 カナリアが私を捨てる事はない。

 そう信じていても、悔しく思う気持ちはある。私だけでは、まだ彼女を満足させる事が出来ない。戦場で彼女が無茶をする機会も増えた。大気圏に突入した時、ロサンゼルスで一騎打ちをした時。無茶を繰り返す彼女の事を、指を咥えて見ているしかない自分の無力感に打ち拉がれていた。何度と肌を重ねるのも、彼女には、無事に戻って来て欲しかったからかも知れない。身体を許す程度の事で、彼女が戦場から帰って来てくれるのであれば、安いものだ。

 でも彼女は無茶をする。自ら進んで死地に飛び込むのだ。

 もう見ているだけは嫌だ。メカニックとしてだけでは駄目だ、戦場でも傍に居なくちゃいけない。

 誰かが彼女を死地から引っ張り戻せる人間が必用だ。

 

 だから、私が、僚機として、彼女を支援する。

 

「……でも、やっぱり、浮気は許せません」

 

 部屋に大人用のパイロットスーツを持ち込んだ。

 太っている人向けの大きなサイズであり、細身で小柄な女性なら二人一緒に入れそうだった。

 実際、入れた。引き攣った笑みを浮かべるカナリアを笑顔で脅し、ギチギチのギュウギュウに詰め込んだ。私が袖に手を通し、スーツの中ではカナリアが私の背中に手を回して抱き締めている。足は互いに絡める形、カナリアの足は私よりも短くて、靴まで届かなかったので、それで大丈夫だった。首回りは流石に二人分の余裕がなかったので、カナリアの頭はスーツの中にスッポリと収まっている。丁度、私の胸元に顔を埋める形だ。胸元からはカナリアの金色の頭頂部が覗いている。

 ヘルメットを被ると、中は完全に密閉された空間になる。

 耐Gとしての役割も持つスーツは、ボタンひとつで全身をピッチリと圧迫する機能が付いていた。特に下半身の圧迫感は強い。脳に十分な酸素供給をする為に下半身を圧迫する必要があるのだ。首元のボタンを押す。「ふぎゅっ!?」と蛙が潰れたような声がした。そのまま全身が圧迫され続ける。カナリアの肢体が私の身体に沈み込むかのような感覚。思っていた以上に苦しかったけど、慣れてくると、まるで二人の肉体が同化しているかの錯覚に陥った。カナリアの心臓の音が聞こえる、彼女が呼吸しているのが分かる。スーツの中に収まった、彼女の頭を撫でると可愛く身動ぎした。ピッタリと吸い付いたスーツに手足が動かせないようだ。背中を撫でる、ひとつの肉体に命の鼓動がふたつ。私の音と、カナリアの音。パイロットスーツという拡張された肉体の中にカナリアという命が収まっていた。

 まるで私の中にカナリアを孕んでいるかのようだ。

 なんだか、ちょっと幸せに感じる。可愛い子に育つんですよ、と彼女の背中を優しく撫でる。

 そうするのが楽しかった。

 何時までも、こうしていられる気がした。

 

 気が付けば、カナリアはピクリとも動かなくなっていた。

 不思議に思って圧迫を解除し、ヘルメットを外す。パイロットスーツを脱ぐ為に前チャックを開けば、蛹から孵る蝶のように、ぐっしょりと体液塗れになったカナリアが私のお腹から産まれた。

 青褪めた顔をしていた、酸欠だった。

 慌てて彼女の気道を確保し、人工呼吸を施した。

 辛うじて、息を吹き返したカナリアは、うっとりとした顔で一言だけ口にする。

 

「……また、やろ?」

 

 次がある時は、ちゃんと呼吸ができるように工夫しようと思った。

 

◆

 

 ミアに殺されかけた。

 途中から意識が朦朧としていたので覚えていないけど、とても良かった事だけは覚えている。

 あの日から変な癖が付いた。

 ベッドで寝る時に仰向けになった私の上からミアに俯せで乗って貰うのだ。

 顔は丁度、胸元の合間に挟まれる形。

 ミアの柔らかい肉付きもあり、上から押し潰される圧迫感が癖になった。

 本当に、変な癖を植え付けられた気がする。

 

◆

 

 久しぶりに顔を合わせた娘は、少しやつれているようだった。

 元々が華奢な身体。体重が減り続けているという話は看過できるものではなかったが、彼女個人が保有する戦闘力を鑑みれば、戦い続けざる得ないのも理解できてしまうのが問題だった。他の子供と比べて、肉体の成長が遅いのは、彼女が持つ特別な能力が関係しているという話を医者から聞いたことがある。幼く小柄な肉体だ。筋肉を付けても、あまり体力は増えなかった。

 笑っている。その瞳に曇りはない。図太い娘だ、精神的に無理をしている訳ではない。

 しかし持ち前の明るい性格に、身体の方が追いついていなかった。

 

 だから彼女の笑顔には翳りがある。

 娘の頭を撫でる。よくやっているのは報告で聞いている、と言ってやれば、愛娘は嬉しそうに頬を緩ませた。

 儂は親馬鹿と言われても構わん。

 親として、国の大事よりも優先すべき事がある。

 今は戦時中、親が子に戦場へ向かわせる命令を出す事もあるかも知れない。 

 だが、少しなら、親の情を与えても良いだろう。

 

「高が小娘一人に、戦の勝敗を委ねる方がおかしいのだ」

 

 カナリアには休息を取らせる。木馬は、儂らでなんとかしてみせる。

 ゼロ・ムラサメと名乗る男が持ち込んできたブラックライダーをチベット秘密基地まで届ける任務を与えても良かった。ちなみにゼロ自身は近々、香港の宇宙港よりサイド3に送られる事が決定している。

 ……だが看過できない情報を、愛娘から受け取っている。

 

「アルテイシア様が、木馬に居るとはな……」

 

 もう、あの時から十年近くの年月が過ぎている。

 おぼろげに思い出す二人の遺児。ザビ家の魔の手から逃がす為、二人を地球に送り出した日の事を今も忘れていない。キャスバルは死んだ、と話に聞いている。事故とのことだ。そんな話は信じられなかったので、ドズルに直接、問い詰めてやった。何も知らぬというから調べさせた。するとキシリア機関の者が殺したという話ではないか。カナリアが居なければ、公国に見切りを付けたところであった。

 ドズル自身、悔やんでいたので一発、殴るだけで済ませたが、儂もあの日の事を悔やんでいる。

 アルテイシアまで殺す訳にはいかない。ジオン・ズム・ダイクンが残す最後の血縁者というのも勿論ある。しかし、それ以上に私個人としてアルテイシアを殺したくないし、カナリアに残された家族という意味でも生かしておきたい。

 少なくともカナリア自身の手で殺させる訳にはいかなかった。

 

「……儂が、行かねばならんだろうな」

 

 仕事を、早く終わらせる必要がある。

 儂が処理しなくてはならない仕事を終わらせて、アルテイシアを保護する必要がある。

 連邦軍の艦艇に乗っている意味を、彼女は分かっているはずだ。

 ダイクンの遺児が、連邦軍の艦艇に乗る意味を。

 ……もしかするとキャスバルの死因に勘付いているかもしれないな。

 その場合、彼女を確保する事がぐっと難しくなる。

 

「今はまだサイクロプス隊に情報開示をしない方が良いのだろうな」

 

 ダイクンの遺児が生きていると知った時、

 公国はザビ派とダイクン派で二分する可能性がある。

 戦時中の今、それを許すことはできない。

 政治闘争なんぞ、もっと平和な時にやるものだ。

 

「出世なんてするもんじゃない」

 

 考える事が多過ぎる。

 儘ならぬ立場に頭を抱える。

 頭髪が少し、薄くなった気がした。

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