NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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5.戦果報告。

 改ムサイ級軽巡洋艦ファルメル。

 ムサイ級というのは、モビルスーツの開発に合わせて再設計された軽巡洋艦だ。軽巡洋艦としての武装は勿論、モビルスーツの運用を前提としている為に最大4機のモビルスーツ。艦首下部に搭載したコムサイ含めると合計6機のモビルスーツを搭載可能とし、宇宙母艦としての役目も担っている。

 この軽巡洋艦に小型輸送艦とも呼べるコムサイを搭載する歪な設計は、元々ムサイ級にはモビルスーツを載せる予定がなかった事にある。開発と設計が完了して、さあ造船だ! と準備を進めた段階で、公国軍の主力をモビルスーツにする事が確定し、ムサイ級軽巡洋艦にモビルスーツを最低6機は搭載できるように再設計しろと御上からのお達しがあった。この急な仕様変更にムサイ級の開発に携わっていたMIP社はぶち切れた。しかし時勢を読めば、今後の戦争ではモビルスーツが重要な位置付けになる事は火を見るよりも明らかだ。それはそのままモビルスーツを搭載できない艦船の受注が激減する事を意味する。故にMIP社の上層部は涙を飲んで現場に仕様変更を要求した。そして涙を流したのは勿論、現場の人間であり、ムサイ級の開発と設計を担当した技術者は血涙を流す思いでモビルスーツ搭載艦として再設計する。実際、血尿は出た。事のついでに設計の変更により、既に確定していた部品の依頼と受注を担当していた営業の人間はトイレで吐いた。生産ラインまで整えていた工場長の頭は薄くなり、急な生産ラインの変更で休日を返上した現場の人間は妻子に白い目で見られる事になる。中には可愛い娘から「嘘吐き!」と罵られて心を抉られる者もいた。

 外付けのコムサイに大気圏突入能力が付いているのは、この歪な設計が許せなかった技術者が意地でコムサイを搭載する理由を後付けした怪我の功名に過ぎない。

 この技術は、後のモビルアーマーや水陸両用モビルスーツの開発に活かされる事になる。

 

 急な仕様変更は誰も幸せにしない。

 多くの人間の血と涙と吐瀉物の上にムサイ級軽巡洋艦は完成している。

 それも今は昔、宇宙世紀0075年の話。4年前の事になる。

 

 改ムサイ級軽巡洋艦ファルメルは、元々ドズルが自分の座乗艦にする為に新造した艦艇になる。

 その為、ファルメルは旗艦型軽巡洋艦とも呼ばれる性能を持っている。特徴的なのは艦橋部、通常のムサイ級が箱型をしているのに対して、ファルメルは兜を想起させる形となっている。これは味方に旗艦だと分かりやすくする為でもある。旗艦としての能力を十二分に満たす為、全面的に再設計された結果でもある。特に情報関連は大きく向上しており、従来型から新たに高性能なレドームとブレード・アンテナが取り付けられている。

 これをシャアに与える特別任務に合わせた仕様にする為、更に手を加えている。

 先ず、追跡能力を向上させる為に推進力を増強。任務の都合上、艦隊戦よりもモビルスーツ戦を行う機会の方が多いと考えた結果、弾薬庫を削り、モビルスーツの搭載数を増やす改装が施されている。その結果、通常のムサイ級の搭載数が最大6機なのに対し、計8機のモビルスーツが搭載可能となった。

 しかし、この設計が今、仇となっている。

 

「弾が尽きたか」

 

 仮面を被った不審者が配下の士官に声を掛ける。

 

「全くない。という訳ではないですが、一戦するには物足りないでしょうな」

「私のヅダも使えないし、動かせるモビルスーツも一機だけだよ」

 

 ドレン少尉が上司に応えた後、艦長席に座るヒヨコ頭の仮面娘が不機嫌に付け加える。

 

「修理はできないのか?」

「酷く壊しちゃったからね、この艦にある部品だけだと駄目みたい」

 

 ヅダ用の予備がない、とプロト・ゼロ少佐が告げる。仮面兄妹の兄の方が顎に手を添えて、少し考え込む仕草を見せた。

 

「……やはりヅダは欠陥兵器じゃないのか?」

「そんな事ないもん! 普段はこんな壊し方しないもん!」

「壊すことが前提なのは、どうなんだ?」

 

 むうっと頬を膨らませる義妹にシャアはドレンに向き直る。

 

「やはり、補給が必要か」

「それが妥当でしょうな」

 

 頷くドレンにシャアは決断する。

 

「よし、ドズル中将との通信を開け!」

 

 その指示に従って「はッ!」と通信手は手際よく通信機の操作を始めた。

 

 ドレン少尉は、シャア個人が最も信頼している配下の一人だ。

 実戦ではシャアがモビルスーツで出撃する事が多い為、その時にファルメルの指揮を任されるのがドレン少尉だった。ドレンは調子の良いことを口にすることが多い人物だが、その言葉の数々には不思議と嫌味が感じられない。人たらしとも呼べる才能に彼を慕う配下も多く、指揮能力に関しても良い筋をしている。戦場における判断も悪くない。

 シャアが自分の艦を任せるに当たり、信頼できる人物である事は確かだ。

 

「レーザー通信回線、開きました!」

 

 通信手の言葉にシャアとドレンがカメラの前に立って、敬礼した。

 ゼロはカメラの前に居ないのを良い事に大きく欠伸をする。

 まだ戦闘後でミノフスキー粒子の濃度が濃い宙域、映し出された映像には若干の歪みが生じていた。

 

『連絡が遅れたな、どうした?』

 

 2メートル超えの巨躯、ジオン公国の誰よりも大きな体格をした男。ドズル中将が単刀直入に問い掛ける。

 敬礼を取っていた二人が改めて佇まいを正した後、シャアは作戦の仔細を報告する。先ず地球連邦軍のV作戦の全貌を捉えた事から始まり、サイド7の工事区がモビルスーツ開発の為の秘密工場だった事を伝えた。既に新型モビルスーツの開発を終えており、事前に捉えていた艦艇は、補給艦を装った強襲揚陸艦であった事。

 大事なのは新型モビルスーツの性能だ。

 ザクマシンガンを弾く程の性能に加えて、ザク以上のパワーを持つ新型モビルスーツ。運動性もザクを優に超えており、機動力特化のヅダにも匹敵する程の代物だ。連邦のモビルスーツは化け物か、と思わず言いたくなる代物であった。

 それが二機もいれば、もうザク一機ではお手上げだった。

 

『……俺は冗談を聞きに来た訳じゃないんだが?』

「そう言いたくなるのも分かりますが事実です。恐らく、従来使われてきた資材とは違うものが装甲に使われているものと推測します」

『出来れば、装甲だけでも回収したかったな。サイド7には残っていなかったのか?』

「連邦も、そのような愚は犯さないでしょう。もう既に破棄されてしまったと考えるのが妥当です」

『……ふむ、その通りだ。レビルも関わっているだろうしな』

 

 苦い顔をするドズルにシャアは報告を続ける。

 

「更に戦艦の主砲並の威力を持つモビルスーツ用のビーム兵器も確認しています」

『それほどか、連邦のモビルスーツとは』

 

 ジオン公国では、まだビーム兵器の小型化に成功していなかった。

 MIP社がビーム兵器を搭載した突撃艇というコンセプトでMIP-X1を開発した事もあるが、小型化した戦艦といった代物であった。現在もモビルスーツに搭載するビーム兵器の開発を進めている。しかしまだビーム兵器を撃つ為の設計が必要とされている段階であり、携行武器としての開発には手も付けていない状態だ。

 ドズルは唸り声を上げて、考え込んだ。

 モビルスーツ開発においても、既にジオン公国は連邦軍の後塵を拝しているのかも知れない。しかし、そんな夢のようなモビルスーツは、それ相応のコストが掛かる為、そのまま量産化できるとは思っていない。だがジオン公国よりも高い技術で作られた量産機は勿論、ジオン公国の量産機よりも高性能になると考えるのが妥当だ。

 此処で破壊する意味は薄いかも知れない。しかし剥がれた装甲だけでも、ジオン公国にとっては有益な情報になる。

 よし、とドズルが方針を固めた時、シャアが暗い声で次の報告に移る。

 

「この情報を得る為に高い代償を支払ってしまった事を報告しなくてはなりません」

 

 二個小隊分のザクを全て失った事を告げた時、それまで静観を保っていたドズルも動揺せずにはいられなかった。

 

『ザクを6機もか!? 赤い彗星に魔女も居たのだぞ!?』

「相手の装甲を貫ける武器がなかったんだって! 実力なら勝ってたよ!」

 

 このドズルの怒声に反論をしたのはゼロ少佐。シャアは上官に対する言葉遣いに頭を抱えた後、口を開いた。

 

「彼女の言動はさておき──反撃をしても装甲に弾かれて、成す術もなくといったところであります」

 

 街道上の怪物と称された重戦車を相手にする軽戦車の気持ちが分かるような戦いだった。とシャアが告げる。

 

『……いや、お前達二人が居て駄目なら、誰にも達成できん』

 

 よく戻って来てくれた。とドズルは多大な損失に目を瞑り、やっとの思いで労いの言葉を掛ける。

 

「あと相手にも私と似たような能力を持っている奴が二人も居たよ」

 

 その言葉にシャアは勢いよく振り返り、ドズルが得心がいったように頷いた。

 

「片方はまだ無自覚っぽいけどね。もう一人は能力を使い熟してた感じかな?」

 

 私の敵じゃないけど、とゼロが得意げに答える。

 

「お前やララァ並の人間が、そう簡単に居て堪るか」

 

 嫌気が差した顔で答えるシャアに「無自覚な方は同等くらいあるかもね」とゼロは続けた。

 シャアは心底嫌そうに口元を引き締める。

 反面、ドズルはゼロの報告に難しい顔で考え込んでいた。

 

『連邦軍にニュータイプ能力持ちが居るのは厄介だな』

「だからニュータイプ能力なんて大層な名称を付けなきゃ良かったのに」

『命名したのは俺じゃない。所詮、ニュータイプ能力持ちも人の子だ』

 

 ドズルは溜息を零した後、シャア相手に向き直る。

 

『欲しいのは補給だな?』

「はッ! 補給物資の他、ザクを三機。そして火力の高い装備を届けさせてください」

 

 ドズルは、シャアの考えに同意する。

 連邦の新型モビルスーツの情報は、ジオン公国にとって必要なものだ。特にビーム兵器の技術は、今後の戦局を左右する事にも成り兼ねない。故にドズルは新型モビルスーツの鹵獲、その詳細データが搭載されている可能性を持つ強襲揚陸艦の鹵獲が必要だと考えた。破壊は二の次だ、破壊となれば優先順位は新型モビルスーツよりも強襲揚陸艦の方が高い。

 だが、長引く戦争にジオン公国の懐事情は徐々に寂しくなっている。地球上の通常兵器を開発するノウハウが足りておらず、なまじモビルスーツが通常兵器を兼任した働きを見せる為、安価に量産できる通常兵器は価値を低く見られていた。

 そして同コストの通常兵器同士による戦いでは、連邦軍が圧勝してしまうのだ。

 その為、ジオン公国はモビルスーツの量産を最優先で続ける他になく、その分だけ懐が寂しくなる悪循環にも陥っている。

 

『……ザク三機は難しいな、ヅダなら余っている』

「えー、なんで余ってるの!?」

 

 ゼロの不満にドズルが肩を竦めてみせる。

 

『扱える奴が少ないんだよ』

 

 経験の少ないパイロットでは、実戦ですぐに壊す。熟練のパイロットはザクを好む傾向にある。

 熟練パイロットがヅダを好まないのは、出力を上げ過ぎると簡単に壊れる為だ。しかし、これはザクよりも機体強度が低いという話ではない。むしろヅダの方が強度が高く設計されているのだが、ヅダは相手の攻撃を受けるよりも先に壊れる為、パイロットの間では壊れやすい機体として認識されてしまっている。そもそもヅダはザクよりも速度が出る為、事故が頻発する機体ではあった。

 実際問題。ザクとヅダの大きな違いは、ザクは機体が壊れる前に核融合炉が壊れるのに対して、ヅダは土星エンジンが壊れる前に機体が壊れてしまうのだ。モビルスーツ戦に限り、出力を抑えたヅダはザク並の戦闘力を発揮している。それを戦闘中に興奮したパイロットがエンジンをフルスロットルに入れてしまう為、ヅダが破損する事故が多発してしまっていた。

 パイロットの間では、これを“ヅダる”と呼んでいる。

 ヅダの整備性も決して悪くはない。しかし現場の整備士からはパイロットが直ぐに壊す機体なので評判が悪かった。ちなみにザクでの事故の場合は、大半が中破か大破以上となる為、パーツを丸ごと取り換えるか、整備士が直す必要がない状態になるのであまり気にされていなかった。「直せるなら直さなきゃならんのだから、壊す時はしっかり壊せ」これが整備士の口には出せない本心である、口に出すと経理がぶち切れる。またシャアのように腕のあるパイロットでも、一機だけヅダにするよりも全部ザクにした方が補給や管理が楽といった意味でザクを取り入れる者も多い。

 諸々の事情もあって、艦長も出来る限り艦載機はザクで統一したがる傾向にあった。

 

 よって現場人気は、ザクがヅダを圧倒的に上回っていた。

 この件にツィマット社は遺憾の意を示す。しかし現場の人間は誰も取り合ってはくれなかった。ただ腕のあるパイロットと設計を担当する技術者だけがヅダを認めており、実力と技術が高い人間ほどヅダを評価するという不思議な現象が起きていた。

 マ大佐もヅダを認めている事から“芸術品”と揶揄される事すらある。

 

「ヅダ、良いじゃん、ヅダ。だって速いんだよ? 赤い彗星よりもずっと速いんだよ!?」

『ヅダがザクと比べて、扱いにくいのは本当だろ』

「一般車で満足してる人間をスポーツカーに乗せるようなものだな」

「チャーチルやマチルダなんかよりもクルセイダーの方が良いに決まってるじゃん!」

 

 速さは武器だよ! という妙に反論し辛いゼロの訴えにドズルは告げる。

 

『まあ、深紅の稲妻は愛用してると聞いている』

「さっすがジョニー! 分かってるぅっ!」

『そのジョニーくらいしか満足に機体の性能を引き出せていないのが問題だがな』

「やっぱりヅダは凄いんだよ! だって、凄く速いんだよ! きっとジョニーも言ってるよ、ヅダは速いってね!」

 

 速い以外に取り柄はないのか。という反論をドズルとシャアは飲み込んだ。

 実際、ザクと比べると速い以外に取り柄はない。作業用機械としてはザクの方が圧倒的に上なのだ。地球上の戦線にザクが一機もいれば、塹壕を掘ることもできる。しかし戦闘時において、この速いというのが如何に重要なのかって事はシャアとドズルは正しく認識していた。

 だが、速ければ速いだけ、操縦が難しくなるのは仕方のない話。

 軽量二脚よりも重量二脚、機動力が欲しければ中量二脚。撃ち合いなら重量二脚よりもガチタン。何処ぞの傭兵ならば誰もが知っている真実だ。異世界転生したミアならきっと「ガチタン最高です!」と叫んで有澤社長の信奉者となり、AC世界のデメジエール少佐は爽やかな笑顔で親指を立ててくれるはずだ。

 さておき、ドズルは通達する。

 

『ザク一機、そしてヅダを二機。俺から出せるのは以上だ』

「はッ! しかし、我が艦には今、ヅダを乗りこなせるパイロットがおりません」

『パイロットも送ってやる。丁度、慣熟訓練を終えた者が二人いる』

「ありがとうございます!」

 

 シャアが敬礼し、ドズルは満足げに頷き返す。

 作戦の継続が決まった所でゼロが艦長席から立ち上がってシャアに告げる。

 

「私は一度、自分の艦に戻るよ」

「ヅダを修理する為か?」

「それもあるし、此処に居ても役に立たないしね」

 

 コムサイを借りてくよ。と告げるゼロの話を聞いたドズルが『それなら新型のコムサイも送ってやる』と付け加えた。

 

「新型?」

『モビルスーツを4機も搭載可能にした大型のコムサイだが、評判が悪くてな。くれてやる』

「在庫処分ですかな?」

『費用対効果が釣り合ってない、という話だ』

 

 艦首が重たくなりすぎる欠点もあるが、モビルスーツ戦を主体とする特殊任務中のシャアにとっては大きな問題にはならない。

 

『シャア少佐、ゼロ少佐。健闘を祈る』

 

 ドズルの言葉にシャアとゼロは敬礼で返した。

 三十分後、ゼロ少佐はミア技術士官と共にコムサイで黄金のヅダを輸送する。

 残されたシャアはガデム大尉と連絡を取り合って、合流地点を決めた。

 

 その頃、連邦軍のペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベースでは、敵艦に対する奇襲作戦が提案されるところであった。

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