NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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45.紫覆面のあの御方。

 地球攻撃軍の総司令官は、ガルマ少将である。

 しかし実際には、地球の広大な土地を管理する為に指揮権は二分されており、地球の公国軍は北米方面軍と欧州方面軍に大別することができた。北米方面軍の指揮を執るのはガルマである。地球攻撃軍との繋がりが強く、ドズル派の人間が多く所属していた。対する欧州方面軍の指揮はマ・クベ大佐に一任されている。元はオデッサにある鉱山地帯の攻略、管理を任されている部隊であった。しかし一年戦争が長期化するにつれて、地球における資源拠点、生産拠点の両方を担っていたマ・クベの権限は徐々に肥大化する事になる。その結果、生まれたのが今の欧州方面軍である。

 キシリア少将率いる突撃機動隊の支援を受けていた事もあり、欧州方面軍にはキシリア派の人間が集まる事となった。北米方面軍と欧州方面軍の仲が良いとは決して言えない。しかしガルマとドズル、キシリアの仲が悪くはなかった為、良い感じの競走相手となっていて問題が表面化するところまではいかなかった。

 閑話休題、

 オデッサ周辺の鉱山地帯の管理は本来、キシリア少将の管轄であり、それを直属の部下であるマ・クベに託されているだけなのだ。

 故にキシリアにはオデッサ基地の監督責任がある。

 

 キシリアは視察の為、ザンジバル級機動巡洋艦で地球に降下した。

 オデッサ基地の指令室にて、キシリアはマ・クベから渡された書類に目を通す。採掘された資源の輸送先は重要度の高い国家機密、故に通信機器を用いた情報のやり取りは禁止されている。その為、オデッサ基地で採掘される資源の輸送先はマ・クベに一任されていた。実際、マ・クベは優秀な男である。少なくともキシリアが信任するに値する能力を持っている事は確かだ。実際、キシリアが資料を目に通した分に隠蔽もなければ、目立った問題もなかった。

 極めて厳正であり、公平な採決にキシリア自身が感嘆するほどだ。

 しかし、だからこそ解せない事もある。

 

「チベット基地に随分な量を送っているようだが?」

 

 許容できる範囲ではある、しかし明らかに優遇された扱いを見て、疑念のままに問い掛ける。するとマ・クベは少し気まずそうに窓から外を見上げた。

 

「あそこは、まあ、仕方ありません」

「仕方ないとは、どういう意味だ?」

「あそこには、ギニアスが居るので」

 

 ああ、とキシリアは何かを察したかのように呟くと諦観の籠った目で何処か遠くを眺める。

 ギニアス技術少将、英雄とは正しく彼の事を言うのだ。少なくとも彼が居なくては、早期での統合整備計画はなくなっていた。今も互換性のない部品を大量生産し、ただでさえ限界を超えている兵站線を更に圧迫する事になっていた事であろう。また奇抜な発想の水陸両用型モビルスーツの生産に「待った」を入れたのも彼の偉業であり、限られたリソースに少なからず余裕を保たせる事ができた。そのおかげでキシリアの抱えるニュータイプ研究所のサイコミュ開発も滞りなく進められており、ジオニック社やツィマット社にモビルスーツ開発に十分な資源を回すこともできている。彼が公国軍に与える影響は大きい。公国を牛耳るザビ家の人間であっても、彼を蔑ろにする事はできなくなっていた。

 その彼に優先して資源が回されている事実は、目くじらを立てる程の事ではない。

 

「しかし、解せんな」

 

 チベット基地では現在、モビルスーツの開発が行われていないはずだ。

 

「ギニアスめが開発しているのは、モビルスーツではありませんよ」

「ほう?」

「モビルアーマーです」

 

 ギニアス技術少将の輝かしい功績に埋もれることになり、結果的に水面下で進められる事になった特に秘密でもない研究、アプサラス計画。それは進められていたジャブロー攻撃用大型モビルアーマーの開発にある。

 

「ビグ・ザムの開発は差し止めた癖してな」

「アレは欠陥でしょう」

 

 マ・クベの身も蓋もない言葉にキシリアは押し黙る。

 ブリティッシュ作戦を失敗した後、ジャブロー攻略の代替案として提示されたのがビグ・ザム計画だ。簡単に言ってしまえば、モビルスーツ版の戦車である。圧倒的な攻撃力と防御力で行進を続けて、敵の防衛戦に穴を空ける。そして大型メガ粒子砲を以て、地下に籠るジャブローのモグラ共を地表ごと根絶やしにしてしまう計画だった。

 この計画をドヤ顔で提示したドズル中将を前にギニアスは「軍事の素人質問で申し訳ないのですが」という前置きから本計画を徹底的に叩きのめした。

 結果的にビグ・ザム計画は廃案となった。

 

「その男が自ら大火力大型モビルアーマーの開発を続けているとは──滑稽だと思わんか?」

 

 キシリアの問い掛けにマ・クベは部屋の中心に置かれていた壺を指で弾いた。甲高くも透き通った音が部屋に響き渡る。

 

「あれは、良いものです」

「ほお」

「ビグ・ザムは量産が前提でしたが、アプサラスは一機で作戦を遂行しようとしています」

 

 懐事情の寂しい我らの財布に優しいではありませんか。とマ・クベは自ら蒐集した骨董品の壺を眺める。

 

「お前の趣味は、懐に優しくないがな」

「これも良い壺ですよ。芸術とは、即ち人類が積み重ねてきた歴史であります。上流階級に位置する者が芸術を蔑ろにしては、世は廃れるばかりです」

「伝統が腐敗を生むと私は思っているのだがな?」

「古き良きをそのままに、時代にそぐわぬ悪習を淘汰するのが指導者の責務です」

 

 マ・クベは壺の角度を少しだけ変えて、満足げに頷いてみせる。

 

「それが国家の自浄作用というもの。国民主権の民主主義においては、国民こそが動かねばならんのですが……自分の家庭だけで手一杯な者ばかりなのが民主主義の弊害ですな」

 

 腹心を胡乱な目で見つめる上官に気付いたマ・クベは暫し、視線を泳がせる。

 短期的には独裁政治の方が良い。特に危急の時、一秒を惜しんで国をまとめ上げる時なんかは独裁の方がずっと良いはずだ。しかし国家単位で考えた時、長続きするのは民主主義である。今のザビ家は優秀な人間で揃えられているが、これが次の世代、次の次の世代まで同じように続くとは考え切れない。今のジオン公国も数多くの偶然が重なった上で成り立っており、誰か一人でも欠けていれば成立しなかった可能性は大いにある。

 そんな話をしに来た訳ではない。とキシリアは手に持っていた資料を机の上に放り投げた。

 

「今の公国軍に足りていないのは武器よりも人だ。此処を抑えている限り、兵数に対しての資源と生産力は足りている」

「はい、意外な事に。まあサイド3だけで国民を支えられるだけの生産力は整っていましたがね」

「地球には災害があるが、宇宙にはないからな。安定して、供給され続けている」

 

 少なくとも食料に困る事はない、とキシリアは続ける。

 輸送コストも月面のマスドライバーのおかげで意外と安上がりに済んでおり、無重力の宇宙は地球と比較して一度に多くの物資を運ぶこともできた。むしろ地球間で輸送する方がコストが掛かっている程だ。

 

「モビルスーツの高性能化、大いに結構。統合整備計画のおかげもあって生産ラインには余裕がある」

「共通規格のおかげで適当に部品を作っていても良いのは、助かります」

「生産力は、連邦軍には負けているのだがな」

「それはもう仕方ないかと」

 

 戦争は終始、公国軍の優勢で進められている。

 連戦連勝の報告に兄ギレンは、いずれ押し切る事ができる。と踏んでいる。

 だが、キシリアは嫌な予感を拭えずにいた。勝っている、公国軍は勝ち続けている。

 しかし公国軍は未だに勝利を掴み取ることができずにいた。

 本当に我々は戦争に勝っているのだろうか? 確かに領土は広がりつつある。

 それとは裏腹に、追い詰められているような感覚もあった。

 正体の分からぬ重苦しい空気。

 ドズルも感じているのか最近、ア・バオア・クーとソロモンの改修を始めている。

 今日もまた公国軍は勝利する。

 しかし、この戦争の勝利には決して届かなかった。

 まるで地球から見上げる星々のように、手が届くことがない。

 これだけ推してもまだ、国力では連邦軍に敵わない。

 何を以て、現状を優勢とするのか、キシリアには分からなくなっていた。

 

「気になるのでしたら、見に行かれては如何です?」

「……何処に?」

「チベット基地まで」

 

 何を勘違いしたのかマ・クベはアプサラス計画の視察を提案する。

 

「連邦軍のビーム兵器を入手した事で完成の目処が立ったようです」

「ふむ……そうか、確か、あのチビが奪ったのだったな」

 

 キシリアは暫し考え込んだ後、チベット基地の視察を決断する。

 その頃、チベット基地では公国軍にとっては画期的な装備の試作型が完成していた。

 それは戦争の命運を変える程の代物、即ちビームライフルである。

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