NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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48.力不足。

 バズーカの弾頭が、角付きのコックピットを捉えるのを確かに見た。

 着弾点を覆い隠す黒煙が風に吹かれて消えるまでの数秒、周囲の砂の中に身を潜めていた計四機のザクが角付きを目掛けてバズーカを一斉射する。その中に俺が操縦するザクの姿もあった。黒煙で相手の姿が隠れてしまった為、憶測での射撃である。更なる砂煙と黒煙が周囲を覆い隠す。

 一機二発、計八発の射撃を終えた後、シュタイナー隊長が攻撃を止めた。

 シュタイナー隊長の乗るグフが周囲の援護を受けて、一歩、前に歩み出る。右手にはヒートサーベル、左手には小型の投擲銃。この投擲銃というのは、簡単に言ってしまえばグレネードランチャーの劣化版だ。小型の榴弾を発射する武器であり、その軌道は放物線を描く。相手に直接当てる事よりも、目眩ましの意味合いが強い武器。白兵仕様のグフで相手に攻撃を仕掛ける際、牽制できる武器が欲しいという理由で開発された代物であった。

 白兵戦を仕掛ける際にマシンガンやバズーカでは、重過ぎる。と感じていたパイロットに一定の評価を得ていた武器だが、小型化による継戦能力の低さからあまり量産されることのなかった装備でもある。

 今回、サイクロプス隊に配備されたのも在庫処分の意味合いが強い。

 

『……ッ! まだ生きている! 警戒を怠るなッ!』

 

 まだ黒煙も晴れていない中、シュタイナー隊長の声が通信機より発せられる。

 その数秒後に黒煙の中から角付きが飛び出した。片手に持った二挺のライフルが隊長の背後に控えていた二機のドムを狙い撃つ。直撃する事はなかった、しかしドムとの射線が砂煙によって遮られる。直前の反撃で放たれたジャイアント・バズも角付きの装甲を掠めるだけだった。

 隊長が前に飛び出した。

 投擲銃での牽制、しかし角付きは微動だにもしなかった。バズーカを地面に落とし、静かにビームサーベルを両手に握り締める。駄目だ、と思った。直感的な危険信号が意味を成す事はない。装弾数が、たった二発のザクバズーカ。既に撃ちきっており、援護をする為には装填する必要がある。

 それでは間に合わなかった。

 シュタイナー隊長が自ら生み出した黒煙の中に身を隠し、つい先程まで角付きが立っていた位置を狙ってヒートサーベルを薙ぎ払った。しかし、その先に敵機の姿はない。角付きは直前で大きく跳躍し、頭上からシュタイナー隊長のグフを狙っていた。

「上です!」と通信機に叫んだ。

 その言葉を受け取ってか、否か、隊長が頭上に向けてヒートサーベルを構える。

 しかし今一歩、遅く、隊長のグフがヒートサーベルを振り抜く前に、角付きのビームサーベルがグフの上半身を切断する。丁度、コックピットのある辺りが抉り取られた。呆気ない、その光景に隊長の最後を直感する。

 まさか、こんな簡単にあの人が死ぬっていうのか。

 

『隊長? そんな、隊長!?』

 

 取り乱す声と共に駆け出したのはガルシア軍曹だった。

 彼はヒートホークを片手に振り上げる。角付きのコックピットを守っていた装甲がガラガラと崩れ落ちた。

 瞬間、真正面に相対したガルシア軍曹のザクが動きを止める。

 

『こんな幼い子供まで居るなんて……報告にはなかったぞ!?』

 

 その隙が、そのまま勝敗を分ける。

 ザクの振り上げた片腕が、敵の援護射撃によるメガ粒子の閃光によって消し飛ばされた。ヒートホークと片腕の重量を失って、体勢を崩す相手の隙を逃さずに角付きで持っていたビームサーベルを振り被る。胴体部を狙うかに思われた一撃は、一瞬の躊躇いの後、ザクの両脚部を切断した。

 あれでは、もう逃げることは難しい。

 

『今、助けるッ!!』

 

 しかし、そんな中でドムが角付きに目掛けて突っ込んだ。

 ほとんど体当たりするような形、重量80トン超えの巨体がホバーの高速移動を以て吹っ飛ばす。『今だ!』と叫ぶミーシャ中尉に背後で控えていたドムがホバーを使わずに駆け寄った。ガルシア軍曹を助けるつもりか。だが彼は先程、隊長と角付きが戦った辺りで屈んだ。

 何をしているんだ?

 掬い上げるように片手を腹部に翳し、そしてコックピットのハッチが開かれた。

 何かを回収した? ハッチが閉じられた数秒後、通信が入る。

 

『隊長のシュタイナーだ、撤退する』

「……え? まだ、ガルシア軍曹は……」

『ハッチが開いていない。回収する時間もない』

 

 だが、とシュタイナー隊長は続ける。

 

『見捨てるつもりはない、南極条約もある。軍人なら、今は隊長の俺に従うんだ』

 

 既に仲間達が撤退を始めているのを見て、助けるのは不可能だと察する。

 歯を食い縛った。策は確かに成功した。しかし、まだ角付きを倒すには足りなかった。

 圧倒的に火力が足りていない。

 片腕と両脚を失ったザクに背を向けて、その場から離れる。

 納得した訳ではない。だが、理解はしている。

 重要なのは今、個人よりも部隊。残すべきはガルシア個人ではない。

 

「だけど……クソォッ!」

 

 理解をしているからといって仲間を見捨てる選択をした苦痛が紛れる事はない。

 自分一人が残ったところで意味はない。分かっている。

 だからといって、それが、仲間を見捨てる免罪符にはならなかった。

 拳で一度、機材を殴りつけた後、心を殺して、戦場から撤退した。

 

◆

 

 四肢の内、三肢を切断されたザクを鹵獲する。

 コックピットには黒色の肌をした成人男性が入っており、銃を突き付けられていた彼は両手を上げて大人しく投降した。将校ではない。まだ軍曹の男だったが、口が固い。自分の事を艦長には見えない、という理由で何を聞いても口を閉ざしたままだった。

 尋問をした後、とりあえず今は捕虜として営倉に放り込んでいる。

 

 問題なのは、ガンダム試作機2号に乗って出撃したシスの方だ。

 コックピットのハッチが破壊された姿で帰って来た彼女は、ノーマルスーツのヘルメットが破損しており、大きく額を切ってしまっていた。顔の半分を隠す程の大怪我であり、彼女の顔を見た俺は迅速に医務室への搬送を指示に出す。看護学校に留学していたセイラの話によると、見た目ほど酷い怪我ではないとの事だ。今は医務室のベッドで安静にさせている。

 遂に怪我人が出た、正規の軍人ではない民間人を怪我させてしまった。

 これから先、戦いは激化していく事になる。もっと多くの民間人に怪我を負わせる可能性が高い、怪我ならまだいい。死なせてしまう可能性すらあった。分かっていた事だ。戦わせるとは、そういう事だ。これは勝利する為に、そして生き残る為に必要な処置だった。

 胃の辺りが痛くなった。

 用を足すといって席を外す。そして便座に顔を近付けて、胃の中のものを吐いた。

 まだだ、まだ、倒れる訳にはいかないのだ。

 自分が倒れてしまった時、この艦は終わるのだ。と気合を入れ直す。

 幸いにもガンダムは無事だ。破損したのはコックピット周り、コア・ファイターを入れ替えれば、今すぐにも実戦に投入できる。そんな考えが出る自分に嫌気が差す。

 胃薬を飲み込んで、何食わぬ顔で艦橋に戻る。

 

「インドまで逃げ切れば、何か進展もあるはずだ!」

 

 怪我人が出た事で落ちた士気を「完全孤立の北米大陸からだって切り抜けたんだ。今回も上手く行く」と精一杯の虚勢を口にする。こんなのが気休めにもならない事は自分でもよくわかっていた。しかし、自分が言わなくて誰が言うんだ、と痛む胃を堪えて口にした。

 あの部隊が追撃を緩めるとも思えない。

 碌に対抗策も思いつかないまま、我ながら軽薄な艦長だと自嘲の意を込めて笑みを浮かべる。今まで、内心で見縊っていた無能な上官達の気持ちが今なら少し分かる気もする。

 結局のところ、艦長なんて偉そうに指示を飛ばし、椅子を温める程度の事しかできないのだ。

 

◆

 

 医務室のベッドで横になる少女。

 自分よりも小柄で幼い顔。額には包帯が巻かれており、少し血が滲んでしまっていた。

 ベッドの隣に置かれた椅子で俺、カイ・シデンは項垂れている。

 

 あの状況、特に何か出来たとは思えない。しかし自分の目の前で、自分よりも幼い女の子に怪我をさせてしまった事実が彼を苦しめている。こんなのは俺の柄じゃない。と思う事があっても、それで拭いきれるものでもなかった。

 

「シス!? 大丈夫なのっ!?」

 

 そんな折、赤髪の少女。カチュアが医務室に駆け込んだ。

 

「あ、なんだ。五体満足なんだね、良かった」

 

 しかしベッドで眠るシスの姿を見て、彼女は嬉しそうに綻ばせた。

 その彼女の態度を見て「何処が無事なんだ」とカイは自分でも驚くほどに低い声色で呟いた。

 はっとして僅かに顔を上げた時、赤髪の少女は首を傾げていた。

 

「今は戦時中でしょ? 骨も折れていなければ、後遺症も残らない怪我なんて軽傷も良いとこじゃん」

「いや、でもだなあ……もうちょい心配するもんじゃないのか?」

 

 あえて軽い調子で問い掛けてみれば、カチュアは悩むように俺の顔を見返した。

 場を、沈黙が支配する。その赤髪の少女の瞳は、まるで心の内側まで見通しているかのようで、少し薄気味悪く思えた。その時、カチュアが自嘲するように笑みを浮かべる。見た目の歳に似付かわしくない雰囲気は霧散し「そうだね、私がちょっと無神経だった」と、まるで全てが分かった風な口を利いた。

 その態度が少し苛立った。

 でもまあ殴ったりするのは俺の柄じゃない。

 何時ものように皮肉の一つや二つ、言ってやろうとすれば、

 

「彼女が倒れている間は、私がガンダムで出るよ」

 

 と先手を打って、聞き逃せない事を言って来やがった。

 

「……お前に、ガンダムが操縦できるかよ」

「動かすだけなら大丈夫だもん。あ、でもシスのようにガンガン前に出られないから、そこんとこはよろしくね」

「他に代わりが……」

「ジョブやセイラじゃガンダムを満足に動かせないでしょ。可能性があるのはカイだけど、たぶんホワイトライダーの方が合ってるよ」

「俺が……」

「代わりにガンダムに乗って前に出るって?」

 

 カチュアがカラカラと笑ってみせる。

 

「それだと誰が相手を倒すの? 私のAIMはクソだし、ジョブもガンキャノンを動かすだけで一杯一杯じゃん。世の中には適材箇所ってのがあるんだよ、おに~ちゃん?」

 

 彼女は、そう言うと踵を返した。

 ブライトに言ってくるよ。と俺の言葉なんて聞き入れず、有無も言わさずに医務室を出る。

 分かっている。戦争をやっている今、足の一本や二本、吹き飛んでもおかしくない。頭を切った程度の怪我なんて軽傷も良い所だ。それでも、やはり、自分よりも幼い子を戦場に立たせて、自分よりも過酷な役目を背負わせている自分自身に嫌気が差す。

 こんなのは俺の柄じゃないって事は分かっている。

 悪いのは俺じゃない。俺をこんな戦争に巻き込んだ軍人が悪けりゃ、戦争を起こしたジオン公国も悪い。戦争を起こすまで追い詰めた連邦政府も悪かった。誰も彼もが悪くって、誰も彼もが悪い訳じゃない。個人の意思なんて関係ない、こんな世の中が悪いのだ。

 だからって、何もしないってんじゃ。格好悪いままだ。

 

 俺は項垂れるのをやめて、医務室を出た。

 相棒を探す。どうせ、奴の事だ。今も愛しの彼女と一緒に違いない。

 格納庫にある青塗りのガンダムに足を運んだ。

 するとやっぱり、奴はコックピットで彼女と会話を楽しんでいた。

 

「よお、アムロ。ちょっと付き合ってくんねえかな?」

「……なんですか?」

 

 軽い調子の誘い文句にアムロが不信感たっぷりに睨み返してくる。

 こんな電子妖精の類に熱中し続けて、献身な幼馴染を袖に振り続けるなんて俺には理解できんね。

 フラウが何時までも自分を見続けているとでも思っているのかね?

 ま、俺には関係のないこった。

 

「戦闘シミュレーターだよ。あれもゲームみたいなもんだろ、一緒に遊んでくれよ?」

 

 アムロは少し俺を睨み付けた後、わかりました。と不服そうに告げる。

 相変わらず、可愛くないね。こいつ。

 

◆

 

 私は一人、捕虜のいる営倉まで足を運んでいた。

 誰にも見つからないよう身を潜めて、相手からは自分の姿が見えないように身を潜めながら扉をノックする。

「誰だ?」という声に対して「聞きたいことがある」と彼の言葉を無視して問い掛けた。

 

「カナリア、という少女について知っているでしょう?」

「……誰だ、そいつは?」

「モビルスーツパイロットよ。惚けなくても良いの、教えて頂戴」

 

 少しの間、扉の向こう側にいる公国兵の彼は答える。

 

「いや、知らんな。そんなパイロットの名前は聞いた事もない」

「……本当?」

「仮に知っていたとして、誰かも名乗らん貴様に教える義理はないな」

 

 どうやら本当に知らないようだ。そう、と呟いた後、次の質問に移った。

 

「ならランバ・ラルって人は御存知で?」

「……お前、公国の人間じゃないな?」

「あら、どうしてわかるのかしら?」

「そりゃあ……分かるだろ」

「死んだの?」

「どうして、そこまで気にする?」

「恩人なのよ」

「……青い巨星の名は、連邦でも有名だと思うんだがな」

 

 彼は罰が悪そうに情報を零してくれた。

 少なくとも彼が死んだって事はなさそうだ。

 そう、と出来るだけ無関心を装って告げた言葉は、少しだけ震えてしまった。

 生きている。事実だけでも胸の奥底から嬉しさが込み上げてくる。

 ザビ家から私達を守ってくれた彼の事は今でも鮮明に覚えていた。

 

「彼が今、なにをしているのか教えてくださらない?」

「公国兵でもない奴に、これ以上は教えられないな。……まあ、此処から逃がしてくれるなら教えてやれるが?」

「それは無理な相談ね」

 

 これ以上、彼から聞き出すことは難しそうだ。

 私は彼との会話を打ち切って、足早に営倉の前から離れる事にした。

 ダイクン派のランバ・ラルならば、カナリアを助ける力になってくれるかも知れない。

 しかし実直な軍人である彼に、公国軍を裏切る真似ができるとも思えない。

 ザビ家との仲が悪くとも、ドズルとの仲は良いはずだ。

 

「……やっぱり私も戦場に出られるようにしておかなくちゃいけないわ。いざという時に何も出来ないのでは話にならない」

 

 少なくとも、あのランバ・ラルならカナリアにとって最高の未来を選んでくれるはずである。

 彼女は、私に残された唯一の家族なのだ。

 妥協はできない。どうにか彼と連絡を取れないものかと一人、悶々と悩むことになるのだった。




Q.シュタイナーなんで生きてるの?
A.切断されたコックピットの上半分からターザンした。
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