NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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49.灼熱のアプサラスⅡ

 オデッサ基地からチベット基地への移動は、ザンジバル級機動巡洋艦を用いた。

 航路に使うロシア周辺の地域は公国軍の支配下にある為、速度を緩める必要はないし、チベット秘密基地は前線から離れた場所にある為、着艦する際に少し周囲を警戒するだけで良かった。基地に辿り着いた私を出迎えてくれたのは、頭が少し寂しい強面で屈強な男、ノリス・パッカード大佐であった。彼は部下達と共に背筋を伸ばした綺麗な姿勢での敬礼を以て、私を基地を迎え入れてくれる。

 周囲を見渡す、肝心の男の姿が見えなかった。

 

「ギニアスはどうした?」

 

 問うとノリスは罰が悪そうに口を開いた。

 

「キシリア閣下、ギニアス技術少将は今、新型モビルアーマーのテストを行う為の準備を整えています」

「ほう?」

「来て頂いて早々に御足労を頂く事になりますが、アプサラス計画をお見せすることができます」

「随分と準備が良いようだが?」

「元々、予定に組み込まれていたことです」

 

 ノリスが片手を挙げる。すると黒塗りの高級車が二人を迎えに来た。

 彼は率先してドアを開けるとキシリアに対し、丁重な仕草で中に入るように促す。キシリアは側近の一人である褐色肌の少女から先に車に入れたその後で自らも車内に足を踏み入れた。何か特別な仕掛けとかはないようだ。ノリスは扉を閉めた後、自分は助手席の方に入って腰を下ろした。

 黒塗りの高級車が、もう随分と整備されていない車道を走る。

 

 アプサラス計画というのは、ジャブロー攻略用決戦兵器の開発計画の事だ。

 同じ目的で立案されたビグ・ザムと同様に、大火力を以てジャブロー基地の防衛設備を焼き払う事で無力化し、モビルスーツ部隊を少ない被害でジャブロー基地の地下へ送り込む事を目的に開発されている。ビグ・ザムと違うのは、砲台を空に浮かせている事にある。地上を歩いて防衛設備を破壊して回るより、空から潰して回る方が手っ取り早い。とはいえだ、敵の防衛設備を焼き払うほどの高火力。砲台も、それ相応に重くなるのが常である。ビグ・ザムの二本足で歩く設計も、現行技術との兼ね合いによる現実的な計画であった。

 しかし、その常識もミノフスキー・クラフトと呼ばれる新技術が立証される前の話だ。

 ミノフスキー・クラフトとは、簡単に言ってしまえば、ミノフスキー粒子を良い感じに作用させることで物質を浮かせることができる技術の事である。しかし、原理的に浮遊しかできない為、移動や姿勢制御には別の手段が必要とされている。

 そして、ギニアス技術少将は、この技術の応用でビグ・ザムを空に浮かせる事が可能だという計算結果を弾き出した。

 

 勿論、まだ実証もされていない新技術に反対する者も多かった。

「下手に冒険するよりも地に足を付けた開発をした方が良い」と口にする者も居れば「あんなものを浮かべて喜ぶか、変態が!」と憤る者も居た。「所詮は机上の空論だ」と詰る者共をギニアスは一笑に付す。「アプサラス計画が上手く行かなかった時は、そのままアプサラスの砲身をビグ・ザムに流用すれば宜しい。今更、二足歩行なんて難しい問題でもないだろう」とビグ・ザム用に彼が引いた図面を提示したのだ。彼らが抱えていた設計図よりも高い完成度に、反対派の技術者達は押し黙る他になかった。

 彼らもまた浪漫に属する者達である。「精々、やれるだけやってみせたらよろしい!」とか「貴様の力を見せて貰おうか」とか「後で泣きを入れても知らんからな!」等と負け犬は負け犬らしく負け犬の遠吠えを吐き捨てた後、怨敵が提示した計算の粗探しをする為に自らミノフスキー・クラフトと呼ばれる新技術の勉強に励むのである。

 そしてギニアスの完璧な計算にハンカチを噛んで悔しがるところまでがセットだ。

 今は英雄ギニアス少将の後塵に排する脇役に過ぎない者達。何時の日か、特定分野の第一人者となり、主役に成り上がる日を夢見て、彼らは今日も今日とて最新技術を頭に詰め込んで最先端の研究に励むのだ。

 何時か「こんな事もあろうかと」と言える日が来ると信じて!

 

 というのが事前に機関の者からキシリアが聞かされた情報である。

 現時点でアプサラスⅠによるミノフスキー・クラフトの実証試験を終えているとの事だ。そのアプサラスⅠは既に解体されている。更なる予算増額を要求する為にギニアスが、アプサラス計画の片手間で開発したミノフスキー・クラフトを用いた新兵器を開発するのに使ったのだ。

 それが試験場まで案内されたキシリアが乗せられた奇妙な機体、アッザム級防空攻撃機である。

 操縦桿を握るギニアス技術少将の隣にキシリア少将が腰を下ろすシュールな光景。目の前にはアプサラスⅡの巨大な機体が、ふらふらと少し危なげに空を飛んでいた。アッザムはギニアスに言わせると欠陥機である。ミノフスキー・クラフトとメガ粒子砲の両立を実証する為だけに開発された本機は、技術的問題が解消されないまま製造される事と相成った。その為、メガ粒子砲の発射回数が制限されている等、問題点は多く残っている。

 ちなみに機体底部に付いているアッザム・リーダーと呼ばれる兵装は対モビルスーツ用に備えたものではない。建物に立て籠る連邦兵を一網打尽にする為の兵器だ。破棄された連邦軍の防衛拠点で効果を試してみると、余りにも非人道的な兵器であることは判明する。

 中に入れていた人形が、軒並み身体の内側から焼かれていた。

 生物相手に使う兵器ではない。

 

「まだ姿勢制御など細かい部分に問題が多く残っていますが、完成の目途は立っています」

 

 ギニアスが得意げに告げる。

 確かに、これは戦局を変え得るかも知れない。現在、地球戦線は徐々に停滞しつつある。時間は敵だ、攻略に時間を掛け過ぎると連邦軍が息を吹き返すのは目に見えている。しかし、このアプサラスがあれば、ジャブローの攻略のみならず、地球上に抱えている戦線にも突破口にも成り得る可能性を秘めていた。

 量産は出来ない。しかし、これ一機の戦術的価値は計り知れない。

 

『御兄様……いえ、ギニアス技術少将』

 

 その時、通信機に声が入る。アプサラスⅡのパイロットからのようだ。

 

『レーダーに敵影があります』

「……此処は公国領の奥地だ、見間違いじゃないのか?」

『いいえ。機材にエラーでもない限り、確かに敵影を捉えています』

 

 ふむ。とギニアスは考え込んだ後、チラリと私を見た。

 

「放っておく訳にもいかんだろう」

「では」

 

 操縦桿を握る彼が通信機に手を伸ばす。

 解説して貰う為とはいえ、軍人でもない人間と相乗りするものではない。真っ当な軍人であれば、機密保持の為に即時離脱。もしくは近場の適当な部隊に報告を入れて、引き継ぐまで一定の距離を保ったまま監視し続ける。

 これくらいの事は言われずとも、やって欲しいものだ。

 

「アイナ候補生、メガ粒子砲で撃墜しろ」

『はい』

「……おい。今、なんと言った?」

 

 問い質す間もなくアプサラスⅡの主砲が発射される。

 まるで空気を切り裂くかのようなメガ粒子の閃光が空を駆けた。まさか、地上でこれほどの威力を持ったメガ粒子を相見える事になろうとは、地平線の彼方。着弾点が大きく爆ぜる。先ずはモニターを焼き尽くす程の光が覆い尽くし、次いで音が聞こえた。そして最後に衝撃がアッザムの巨体を大きく揺らす。

 振動に身体が前後左右に揺らされる。衝撃が落ち着くまでの数秒、何も考える事ができなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 機体の制御が回復して少しした後、ギニアスが小さく息を零して問い掛ける。

 

「ふふ……ふはは、これは……これは、確かに素晴らしいな……」

 

 目の当たりにした神の雷に思わず、笑いが込みあがってきた。

 平和な砂漠に突如貫く、不可避の新兵器。破壊か、殲滅か。人類空前の超兵器。殺戮兵器の登場、アプサラスⅡ。ミノフスキー粒子の秘密を追う、チベット秘密基地。撃て、今だ! この威力ッ!! これでまだ未完成である。完全版のアプサラスを量産した暁には、連邦軍など鎧袖一触で蹴散らせるではないかッ! ジャブローの陥落も夢物語ではないッ!! 

 世界に誇るジオン脅威のメカニズムである!!

 

『は、外しました!』

「なんだと?」

 

 通信機から入った声にキシリアは正気を取り戻す。

 私は今、何を考えていた。現実的に考えてアプサラスの量産なんて不可能だ。

 ドズルの脳筋でも移ったか、と舌打ちを零す。

 いや、そんな事よりも今、外した。と言わなかったか?

 

『高度が落ちています! 姿勢の制御が上手くできません!』

「先程の衝撃か!? 自分で放った主砲の反動で墜落とは、冗談にもならんな!」

『回収は!? クソッ! アッザムだけでは無理だッ!!』

 

 機密を奪われる訳には、と呟くギニアスの頬を引っ叩いた。

 

「な……なにを?」

「先ずはチベット基地の責任者に報告!」

「責任者は私だが……」

「ならばノリス大佐に報告すればよろしい!」

 

 近場の基地にも応援要請を忘れるな! と彼には余計な事を考える前に手と口を動かす事を叩き込んだ。

 彼が手早く連絡する横で、キシリアは敵影の正体について考えを巡らせる。

 単独で、こんな敵地の奥深くまで潜り込む部隊。先ず真っ先に思い浮かぶのは木馬である。

 しかし木馬は北米大陸を脱出したばかりである。

 今頃、ジャブロー辺りに回収されているはずだ。

 

『あとミノフスキー粒子の影響で分からなかったのですが敵影は今、私達、公国軍と交戦しているようです!』

 

 自分が思っている以上に、状況は混迷しているようだった。

 

◆

 

 キシリア少将がアッザムでギニアス技術少将と共に遊覧飛行へと旅立った直後の話になる。

 先にチベット基地に来ていたヒヨコ頭の少女は今、恋人の尻に敷かれている。物理的に、ひと仕事を終えたミアが部屋で蒸れた作業着を脱いだ時の事、同じくヅダのテストを終えたばかりのカナリアが猫撫で声でおねだりをしたのである。せめて、お風呂に入ってから、と逃げるミアに頼み込んで踏んで貰ってるのである。わざわざスカートを付けた上で、仰向けになるカナリアの顔に汗で蒸れる臀部を押し付けた。何時もオムツをしている訳じゃない、今日は普通の布パンツである。カナリアが深呼吸しているのが感覚で伝わってくる。日に日に変態趣味に走る恋人に、ミアは頬を赤く染めつつも彼女の期待に応えたいと全体重を乗せた。

 今、ミアとカナリアは作業中、別行動を取ることが多くなっていた。

 ミアは与えられたドム・トロピカルテストタイプを長距離支援用に改造をしている真っ只中であり、カナリアはビーム兵器を携行したヅダの扱いに慣れている最中だ。ついでにいうとメイは正体不明機の解析に手が取られている為、三人揃って姦しい少女達は今、別々の任務に従事している事になる。

 そのせいか、カナリアは任務を終えた後、執拗にミアを求めるようになっていた。

 前々から、その傾向はあったのだが、今は更に強くなっている。

 

 最初は慣れなかった、でも今は小さな幼馴染を虐げるのが少し癖になりつつある。

 戦時中という異常な状況が、自分達の関係を狂わせた。

 明日、死ぬかもしれない。

 そういった想いが普段は隠す本性を暴き出す。

 

「吊り橋効果って、こういう事を言うのでしょうか?」

 

 幼馴染の顔を圧し潰しながら、ぼんやりとそんな事を考える。

 カナリアは徐々におかしくなりつつある。そして自分もまた彼女の影響を受けてか壊れつつある。

 もう前と同じ関係に戻る事は難しいかも知れない。

 過去の思い出に想いを馳せつつも、カナリアを見放すことなんてできなかった。

 友達として、彼女の事が大好きなのだ。その想いは本物だ。

 彼女と離れ離れになるくらいであれば、例え真似事であっても彼女の恋人で在り続ける。

 その為なら、貞操のひとつやふたつ、安いものである。

 そう覚悟を決めた。

 

 好きの種類は分からないけど、

 私はきっと、どうしようもなく貴女の事が好きなのだ。

 だから見捨てない、見放さない。

 自分が死にたくないと思うのと同じように、

 貴女には死んで欲しくないと思うから、

 簡単に自分の命を投げ売るような友人だから、

 貴女を繋ぎとめる鎖で在る為に、全力で恋人を演じるのだ。

 結局、私が力を求めるのも、そういう事なのだ。

 守りたい存在が居るから、力を欲する。

 自分の為だけじゃない。見返りなんて必要ない。

 守りたいから守る。捧げたいから捧げる。

 ノーミーデスは、その為の力だ。

 隣に立って戦う事ができなくても、貴女の背中を支えます。

 勝手気ままな貴女のように。

 無償の愛(エゴ)を振りかざす。

 だからきっとノーミーデスは、愛の力で設計されていた。

 

 ちょっと心の整理が付けられた気がします。

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