NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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間幕.ニューヤーク奪還作戦・中

 ニューヤーク戦線での話だ。

 テントを張った簡易司令部にて、キリー・ギャレット少佐は多数の資料を前に頭を抱えている。

 ニューヤークの防衛を任されていた司令官は今、降伏をして、連邦軍の捕虜となっている。そして優秀な将兵は前線に駆り出されている為、ニューヤークに配置されていた将兵は、士官は最大でも尉官クラスの人間であった。つまり部隊の指揮を執れる存在がおらず、現場で最も階級の高いキリー少佐が指揮を押し付けられていた。

 そう、誰も引き継いでくれる者がいない状態で、まともな部下も与えられていない環境で戦線ひとつを任される事態に陥ってしまったのだ。この地獄のような状況に放り出されたキリー少佐は、全てを投げ出したい気持ちをぐっと堪えて、上官であるガルマ少将に救援を依頼する。

 バルバラ・ハハリ中尉を副官に、ノイジー・フェアリー隊の指揮はアルマ・シュティルナー少尉に一任する。

 

 公国軍の小隊は、モビルスーツ3機で1チームである。

 自分が抜けた穴には、ニューヤークから撤退した新米のモビルスーツパイロットが宛がわれた。元は戦闘機乗り、長期化した戦争にモビルスーツよりもパイロットの数が足りなくなってきた。モビルスーツパイロットとして、一度は適性がないと判断された彼女は今になり、改めてモビルスーツパイロットとしての訓練課程を受ける。

 彼女が穴埋めに選ばれた最大の理由は、彼女が女性である為だ。ノイジー・フェアリー隊は女性だけの部隊であり、まだ配属先の決まっていない彼女に白羽の矢が立てられる。

 乗っているモビルスーツも旧ザク。居ないよりはまし、とその程度の期待しか抱いていなかった。

 

「ミンミ・スミス伍長であります! 祖国の正義と平和の為、一層の奮励努力に努めてまいります!」

 

 物資不足により、旧世代の空軍パイロット用の戦闘服を着込んだ少女が公国軍が誇るエース部隊を前に胸を張った気持ちの良い敬礼を見せた。ノイジー・フェアリー隊の隊長を任されたアルマ少尉は、彼女の幼さは元より、彼女が持ち込んだ旧ザクを見上げて口元を引き攣らせる。とりあえず、前線に出しちゃ駄目な感じの子であった。

 

 その一方で、連邦軍は北米の魔女の戦闘力に舌を巻いていた。

 ザク3機でジム8機を相手に完勝、特に真正面から切り込んで来たザクⅡパイロットの突出した能力に戦局そのものを揺るがされ兼ねなかった。というよりも現状で既に影響を受けており、魔女の対策を練らなくてはならない始末だ。現時点で魔女狩り部隊の設立は既定路線となっていたが、それまで北米の魔女を放置し続ける訳にもいかなかった。

 適当な部隊では足止めにもならないが、かといってモビルスーツ戦闘のノウハウもない今、精鋭部隊を投入することもしたくはない。そんな状況下で白羽の矢が立てられたのは、アグレッサー部隊。公国からの逃亡兵で構成された当部隊を魔女の抑えとした。

 次戦の舞台はハリスバーグ周辺、サスクエハナ川を挟んだ都市群が戦場となる。

 

◆

 

 ハリスバーグ周辺は、コロニー落としの影響で廃墟化してしまった都市のひとつだ。

 それでもまだ建造物が多く残っている為、少しの手間で拠点に作り替える事ができる。サスクエハナ川に面した中で最も規模の大きな都市であるし、渡河地点を拠点として確保できる事はニューヤークを巡る今後の戦いで大きな意味を持っていた。まだ防衛線も構築できていない今、重要なのは速度。キリー少佐の現場で鍛えあげた嗅覚により、ハリスバーグの奪還をノイジー・フェアリー隊に命じる。

 対する連邦軍は北米の魔女に対する抑えとして、アグレッサー部隊を投入。連邦軍に対する忠義を示せ、とアグレッサー部隊を任されるダグラス・トランブル大尉を通じて亡命兵に死守命令が下された。

 

 ニューヤークで鹵獲したザクⅡが連邦軍仕様に染められる。

 白く塗装されたザクⅡを前にアグレッサー部隊のモビルスーツパイロットであるチェイス・スカルガード伍長は、ひとつ息を零す。白いザクⅡになんとなく自分を写し見た。誇りの為、矜持の為、恩師の為に祖国から亡命した今の自分を見せつけられてしまっているかのような気分だった。

 所属を連邦軍に移した今もまだ、自分が連邦軍の兵士として戦う事はない。魂はまだ宇宙にあった、自分の誇りは公国と共にある。それは忠義ではなく、思想でもない。自分の魂の故郷が公国に在り続けているということだ。

 まるで連邦軍に所属するジオンのパイロットという己の歪さを、形にしているかのようだ。

 チェイスは一度、目を閉じた後、物資の積み下ろしを手伝う為にザクⅡに乗り込んだ。

 

「あんな連中と一緒に戦うなんて冗談じゃない!」

 

 アグレッサー部隊から少し離れた場所にある駐屯地で、女性のモビルスーツパイロットが上官に怒鳴り散らす。

 公国軍の亡命者だけで構成されたアグレッサー部隊に反感を持つ者は多い。特に地球で生まれ育ち、家族を持っている者には恨みすら抱いている者がいる。特に今、青筋を立てながら壁に拳を叩き付ける女性は、先のコロニー落としで家族を失っていた。

 そんな彼女を目の前にモビルスーツ部隊のひとつを預けられたバリー・アボット大尉が溜息を零す。

 

「……敵と味方を履き違えるな」

「あんな奴ら、味方だと思ったことは一度もない!」

 

 その想いは彼女だけではない。

 地球を故郷とし、地球に家族を持つ者達の総意でもある。

 彼女の想いの丈を聞いた同僚は、口を挟みはしないが批判するつもりもないようだった。

 そして、その想いはアボット大尉も同じであった。

 だが、それは個人としての話である。

 

「戦争なんだ。気に食わない連中と戦うことなんざ幾らでもある」

 

 彼は部隊を任された身の上、即ち、それは部下の命を預かったも同然だ。その相手が自分よりもひと回り下の少女を相手となれば、私怨を飲み込む程度の分別が彼にはあった。

 

「信頼しろとまでは言わん。だが決して銃口だけは向けるな、彼らは仲間なんだ。誰かが仲間に銃口を向ける事があれば、俺達は何を信じて戦えというんだ?」

 

 まだ二十歳にも届かない十八の少女は、上官の言葉に拳を握り締めた。

 歯を砕く程の力で噛み締める。激怒と憎悪を込めた目からは血が流れてもおかしくはない。

 アボット大尉は再び、大きく溜息を零す。

 酒が飲みたかった。彼女がまだ理屈を理解できる頭があるだけに救いがない。

 かといって、ジオン公国という不特定多数に向けた復讐に身を費やすには、まだ若すぎる。

 そういうのはもっと後先のない年齢になってからで良いのだ。

 

◆

 

 キリー少佐から任された使命は、サスクエハナ川を渡った先の拠点を確保する事になる。

 その為には橋を渡る必要があるのだが、これが先のコロニー落としの衝撃でほとんどの橋が落ちてしまったのだ。ハリスバーグ周辺の橋で残されたのはジョン・ハリス橋だけであり、連邦軍の侵攻を遅らせる為に工兵が爆薬を仕掛けている最中であった。この攻略作戦に二度目はない。まだ土嚢を積み上げただけの防衛陣、今は入念な準備よりも速度が重視されている。

 そして橋を渡る以上、奇襲なんてものはあり得ない。

 正真正銘の真っ向勝負。陸戦型ザクⅡに乗るアルマ少尉は息を大きく吐いて、突撃する覚悟を決める。

 

「ヘレナ、覚悟は良い!?」

『ああ、何時でも良いよ!』

「ミンミ、援護は頼んだよ!」

『お任せであります!』

 

 目にゴーグルを下ろした姿のミンミ伍長の威勢の良い声、その彼女が駆るザクⅠの両腕には大型戦車の砲身が握られている。

 

「……えっと、ミンミ。それはなに?」

『はい! 大破状態にあったヒルドルブの砲身をパチッて来たであります!』

「……ヒルドルブって、あの?」

『はい! あの変形機構を取っ払った大型戦車に改修されたヒルドルブであります!』

 

 ミンミ・スミス伍長の素敵な笑顔にアルマ少尉は暫し言葉を失った。

 

『旧ザクの優れている点は汎用性の高さにあります。戦闘能力や出力はザクⅡや次世代機に劣りますが、戦闘として洗練された今の機体よりも重機としての色が残る旧ザクは意外と器用なんですよ。実際、次世代機に移行した後に重機として活用し続けることも考えられており、そのように運用されていることからも分かります。そして如何なる環境や状況でも運用できるようにザクⅡ以上に余裕を持たせた設計をしてあります!』

 

 だから、と旧ザクは両手をぶら下げる形でヒルドルブ砲を見せつけるように構え直した。

 

『マゼラトップ砲の前例だってあるのであります! マニピュレーターと射撃管制システムを少し弄ってやれば、この通り、ヒルドルブ砲の一発や二発なんて軽く撃ってやりますとも!』

 

 通信している間、彼女の背後からは警報音と共に『不明なユニットが接続されました』と機械音声が流され続けている。そのことを問い詰めれば『些細な問題です!』と気持ちの良い返事が返って来た。まあ最初から彼女は戦力として考えていない。突入前で勝手に大破でもしてくれれば、却って守る相手がいなくなるというものだ。

 アルマは気を引き締め直して「作戦を開始します」と皆に伝えた。

 3機のザクが橋を渡る。まだ明るい時間帯、姿を隠せるものでもなく、橋の向こう側に連邦軍の新型モビルスーツが集まり始めていた。力で押し通る。とアルマがペダルを踏み込もうとした時『射線からどいてください!』とミンミの声が聞こえた。途方もなく、嫌な予感がしたアルマはヘレナに橋の中心を開けるにように指示を出す。

 

『ヒルドルフの砲弾は、たったひとつでも大金がかかっているのであります』

 

 重量過多により、先行する二機のザクの遥か後方をのっしのっしと歩いていたザクⅠが自前の巨砲を腰だめに構える。

 

『即ち国の宝、絶対に命中させてみせるであります!』

 

 公国民の血税で作られた砲弾。その引き金を引いた瞬間、反動でザクⅠの身体が遥か後方に吹っ飛ばされる。

 後方にあった右腕は、半ば肩から捥げており、予想外の衝撃にコックピットに座る少女は目を回して気絶した。しかし、そんな有様に反して、砲弾は綺麗に水平線を放たれており、左右に分かれたアルマとヘレナのザクの中心を突き抜けていった。風を切り裂く血税砲、もしくは国宝弾が吸い込まれるように橋の向こう側の防衛陣に突き刺さった。

 ここでえげつないのは、ミンミがヒルドルブ砲に装填していたのは、榴弾である。

 爆炎と共に砂煙が舞い上がった。相手が築いた防衛陣を一息で粉砕して除けたのを見て、数秒、呆気に取られたアルマは慌てて突撃を再開した。今、この時がチャンスなのだ。

 こうしてアルマとヘレナは見事、無傷で橋を渡り切ったのである。

 ミンミ・スミス伍長、貴い犠牲であった。みんみ~。

 

◆

 

 敵機の姿を確認された時、真っ先に橋まで駆け付けたのはアグレッサー隊であった。

 真正面から突っ込んでくる2機のザクを迎え撃つ為にチェイス・スカルガード伍長はザクバズーカを構えていた。

 しかし敵機が急に左右に分かれたのを見て、嫌な予感がした。橋の中心を駆け抜ける極太な榴弾を確認した時には、もう全てが遅かった。防衛に着いていた将兵は爆炎と共に蒸発し、アグレッサー隊は半壊する。チェイス伍長は、モビルスーツに守られる形で運よく生き延びた。だが彼を守ったザクⅡは初撃で半壊となってしまった。

 チェイス伍長はコックピットから脱出し、まだ燃える防衛陣から味方を助ける為に駆け出す。

 

「……うっそ……でしょ?」

 

 榴弾の爆発によって舞い上がった瓦礫、そこに運悪く遭遇したひとつの部隊。ホバートラックに突き刺さった瓦礫は多くの人間が死んでしまったことを示唆していた。茫然とする女性士官、ホバートラックの横ではモビルスーツが寝かされていた。

 

「あれは動かせるのか?」

「……貴方は、誰?」

「アグレッサー隊のチェイス伍長だ。あれは動かせるのか?」

 

 彼女の名前はサノ・カオリ、階級は少尉。ジャブローの司令部から特命を受けた女性士官だ。

 特命というのは新型モビルスーツの試験運用、アナハイム社とは別に連邦軍が独自に開発を行って来た機体である。

 そして、その機体は今、無傷の状態で寝かされており、正規のパイロットは死亡してしまった。

 

「……動かせます!」

「なら俺をアレに乗せてくれ!」

「わかりました。あのままでは公国軍に無傷で鹵獲されるだけ、それだけは避けなくてはいけません!」

 

 思い切りの良い二人の話は驚くほどスムーズに進められた。

 この時は緊急事態であった為、まだ二人とも気付いていないが面識を持っていた。

 少なからず、その影響もあったのかも知れない。

 ともあれ、チェイス伍長は検証用の新型モビルスーツに乗り込んだ。

 だが、幸運なことばかりではない。不幸もあった。

 

「コックピットの造りが、ジムとは少し変わっているな?」

 

 これは連邦軍の自信作、最新の戦略的人工知能搭載モビルスーツ。またの名はペイルライダー計画の二番機、レッドライダー。地上最強、最先端の武装戦闘モビルスーツなのだ。チェイスが適当に弄ってシステムを起動すると手元のモニターにAREUSと赤い文字で浮かび上がる。

 

『あら貴方、誰なのかしら? 興味深いわね』

「お前、喋れるのか?」

『待って今、データベースにアクセスしてみるから……ピーガガガ、キュゥゥィィィィ……エラー、重要なエラー、深刻なエラー。重大な国家機密に関わります、ここから先は命の保証はありません。強化人士に関する研究の閲覧にはBクラス以上の職員の承認が必要です。あら、おかしいわね? 回路がショートしちゃっているみたい、これって恋なのかしら?』

「……おい、何を言っている?」

 

 困惑するチェイスを尻目に、まあ良いわ。と機械音声が素っ気なく告げる。

 

『鳴りやがりました、鳴りやがりましたのです。勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず、操縦者の技のみで決まらず、ただ結果のみが真実。ガンダムファイトのゴングが鳴りやがりましたわ』

「お前は、先程から何を言っているんだ……?」

『アイウッドライクイフアイメイテイクユー……オウ、失礼しました。もしよろしければ貴方様にこのガンダムファイトの説明を致しましょう。双方、魂の代償をリーブラに! 国際条約で頭部を、いや、アンテナを? 頭部を破壊してしまえば一緒です! 誤差ですよ、誤差!!』

 

 実の所、レッドライダーは無傷ではなかった。

 ヒルドルブ砲で舞い上がった瓦礫がレッドライダーの中枢システムのある頭部に当たってしまっていたのだ。

 これによってシステムは破損、ARESUは今、端的に言うとバグっていた。

 

『ねえ、貴方。えっと……まあいいわ、私と究極の夢を見てみない?』

 

 チェイス伍長は、理解の範疇を超える出来事を前に呆気に取られていた。言葉を失うこと2秒、状況を理解するのに更に2秒。何時もの倍の時間を掛けて、状況を飲み込んで今やるべき事だけに注視した。やるしかない、やるしかないのだ。与えられた状況を嘆いていても仕方ないのだ。

 

「俺はチェイス伍長だ」

『あら、裏切り者野郎だったのですね。失礼、これからの相棒に使う言葉ではなかったわ。……逃亡先で育む恋ってのもあるのかしら? ああでも、チェイス、どうしましょう? コックピットの中に居られると貴方を投げることができないわ』

「何故、投げる必要がある?」

『攻撃手段よ!』

 

 チェイス伍長は現実を直視する為に更に2秒の時間を必要とした。

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