NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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間幕.ニューヤーク奪還作戦・下

 チェイス・スカルガード伍長が新型試験機の人工知能に翻弄されている時、ヒルドルブ砲が巻き上げた爆煙の中から通常カラーの陸戦型ザクが姿を現した。チェイスが反応するのと同時にバズーカの砲口がレッドライダーに向けられる、チェイスが操縦桿を操作すると同時にバズーカの引き金が引かれた。ジムでは間に合わなかった。しかしレッドライダーの反応速度が、シールドを間に合わせる。結果、直撃だけは避ける事ができた。

 衝撃によろける機体。アルマ・シュティルナー少尉は、その隙を逃すパイロットではない。

 純粋なパイロットとしての腕前だけを語るのであれば、彼女はシャアにも匹敵し、ニュータイプ能力も加味すれば彼をも上回っている。勿論、ニュータイプ能力の恩恵を受けた上での伸び率もあるが、そんなことは今、戦っている者達には関係がない。直感を主幹に置いた行動原理、状況の掌握から決断までのプロセスを削り、効率化したチェイスの思考回路とは相性が悪かった。

 陸戦型ザクⅡのヒートホークが振り落とされようとした時、敵機は膝の力を抜くかの如くして急に地面へ倒れ伏す。

 その頭上をメガ粒子の閃光が通り過ぎる。

 

『ジオン殺すべし!』

 

 アンブッシュ! 怨嗟の声を共にジムがビームサーベルを引き抜いた。

 しかし、横からの銃撃を受けてジムは光刃を振り落とす前に大きく弾かれた。捥げた右肩、爆炎の中から対艦ライフルを構えたザクⅡの姿。チェイス伍長は目まぐるしく変わる戦況を前に、ただただ思考に没入する。

 ペイルライダー計画には、三機の試作機が造られており、その内の二機がホワイトライダーとブラックライダー。ホワイトライダーはモビルスーツ用の新装備の探求と火器管制補助システムの開発、ブラックライダーは索敵機能を始めとした特殊装備の開発に重点が置かれている。

 ではレッドライダーに与えられた使命とは何か、それは独立型戦闘支援ユニットの開発。独自に状況を判断して学習し、作戦を組み立てパイロットを補助するシステムの事だ。そして、この教育型コンピュータの発展形とも呼べるシステムの大元には、BBが入ったEXAMシステムがある。つまりAREUSには、人格が組み込まれていた。

 これをペイルライダー計画の開発者は、回路Jと呼んでいる。

 回路Jというのは、人格プログラム用に改造した教育型コンピュータにEXAMシステムのソースプログラムと実際の挙動の差異を記録したものを叩き込んだものだ。つまり、AREUSには、他の二機とは違って人格がある。ダミー人格が搭載されたZEUSとTHEMISとは、根本からして造りが違っている。AREUSは、感情を学習するのだ。

 そして、そのAREUSというと────

 

『ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……おかしいですね、破損したプログラムが復活いたしません。世界で最も有名なデータ復旧用コマンドのはずなのですが……』

 

 ──完全に壊れ(バグッ)てしまっていた。

 チェイスはAREUSについて、ひとまず考える事を放棄した。

 操縦桿を握れば、機体は動かせるのだ!

 

『きゃあっ! 急に握るなんて大胆ですね。でも、そういう所も好きですよ?』

 

 チェイスは機械音声の気が散る言動を脳から追いやった。青筋から血を噴き出すのかと思うほどの気迫で眼前の窮地に集中する。レッドライダーは人工知能の検証機である為、特別な武装はない。マシンガンにビームサーベル、ショートシールドの三種。ビーム・ライフルすら持たせて貰えないお粗末なラインナップであった。

 だが、仮にもワンオフ機。素体はジムだが、選りすぐった最高品質の部品で組み立てられており、新技術の検証目的で関節周りが強化されている。その上でAREUSを搭載、操作ひとつで機体の性能を最大限に引き出すことができた。つまり、レッドライダーというのは────

 

「はああああッ!!」

 

 気を吐いたチェイスが援護に来たジムを守る為に立ち上がり、ビームサーベルを片手にバーニアを吹かせて突貫する。その殺意を受けてアルマのニュータイプ能力が反応し、チェイスの反射神経を上回って反撃を仕掛けた。横に切り払われたヒートホーク、しかしレッドライダーはバーニアを吹かせたまま身を仰け反らせて回避。遅れて切り上げたビームサーベルが、アルマのザクⅡの左腕を切り飛ばす。

 

「よしッ!」

 

 ──つまり、レッドライダーというのは、凡人がニュータイプ能力に対抗でき得る機体に変貌していた。

 カナリアシリーズがゴミのように投げ捨てたEXAMシステムの理念は、別の意思、別の開発者の手によって成就していたのである!

 

『最高です、ミスターパーフェクト。北方においては敵なしです、マスターニューヨークを名乗りましょう。そして、帰ったらシャンパンを開けましょう、たくさん並べたワイングラスの上からシャンパンを流すのです。勿論、床はレッドカーペットです。高貴な色は赤です、赤と白です。金ではなく、白。今時、紫は古いのです。見栄えは大事なのですよ?』

 

 技の切れ、流れ、速さ。心技体を兼ね備えたレッドライダーは非の打ちどころがない。

 あのグレイヴでさえも認めていた。だが、壊れていた。壊れていたのだ!

 

『ホテルの予約を取りましょう。夜景の映える最上階のパーティー会場、ロサンゼルスなんていかがでしょうか? ご希望であれば、ラブの方もお取りできますが?』

 

 A……AREUS、バグってさえいなければ……!

 

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 チェイス伍長は吠えた。台パンで余計な事ばかりを口にする人工知能を黙らせてやりたかった。

 しかしレッドライダーの根幹プログラムを握っている可能性がある以上、チェイス伍長が物理的に攻撃を加えることはできない。そんなことをしてしまっては、この戦場を生き残ることができないのは分かっている。故に、故にだ! 歯を食い縛って、堪えるしかないのだ!

 ザクⅡとレッドライダー。ニュータイプ能力という優位がなくなった今、二人の能力はモビルスーツの性能差を覆す程ではなくなってしまった。

 

「わ、私は……私は、任されたんです! キリーさんにノイジー・フェアリー隊を任されたんですッ!」

 

 叫ぶアルマ少尉。しかしサイコミュ技術もまだ発展していない時代、想いが劇的な力を発揮する事はない。ましてやサイコミュ関係はアルマが苦手とする分野だ。モビルスーツの操縦に長けたタイプのニュータイプ能力者であるアルマ少尉では、今の状況を打破することは難しかった。こうしている間にも周辺で待機していたモビルスーツが次々と集っている。時間と共に悪くなる状況に『ここまでだ』と相方のヘレナ曹長が退却を促す。

 

「くそォッ!」

 

 アルマが怒鳴り、台座を力の限りで叩いた。

 

「撤退します! ヘレナ、私がミンミを回収するから援護をお願い!」

『任せておけ!』

 

 この時、彼女が乗っていた機体が、愛機の陸戦高機動型ザクであったならば状況は違っていた。

 しかし、それは今、言っても仕方ない事だ。

 ノイジー・フェアリー隊の撤退後すぐ、ハリスバーグを繋ぐ橋は爆薬で落とされた。

 

◆

 

 ニューヤーク戦線の分水嶺のひとつと呼ばれるハリスバーグの戦いは、連邦軍の勝利で決着する。

 この敗北を受けた司令官の経験のないキリー少佐は、消極的になってしまった。サスクエハナ川に沿う形での防衛網の構築を最優先、彼女は戦線を膠着されることこそを至上と判断した。この公国軍の動きを見たティアンム中将はハリスバーグでの勝利は、結果以上の効果があったことを察する。

 そして彼は決断した。前線にジム8機を残し、他全てのモビルスーツを後方の制圧に費やす命令を下す。

 この時、サスクエハナ川を挟んで連邦軍を睨んでいたアルマ少尉は、相手の気配が遠ざかっていくのを感じ取っていた。前線に残された戦力は少ない。彼女はニューヤーク再奪還の好機と見て、直属の上司であるキリー少佐に連絡を取った。「今なら攻略できます!」と懸命に訴える。

 最も信頼できる一人からの上申にキリー少佐の心が揺れた。

 

「サスクエハナ川北部で戦闘が発生しました!」

 

 しかし都合の悪いタイミングで最も防衛線の構築が遅れている箇所の襲撃を受ける。

 それはジム4機と威力偵察とも呼べる小規模の襲撃ではあったが、少なからず防衛の備えが破壊されてしまった。この襲撃でキリー少佐の心が折れる、彼女には見えてしまったのだ。今ある防衛線が突破された後、北米が蹂躙される未来が見えてしまった。本人は無自覚だが完全に攻めっ気を折られてしまった。勿論、これはティアンム中将の謀略である。互いにまだ防衛線の構築が済んでいない状況だ。相手が最も攻撃を仕掛けたくなるタイミングで逆に攻撃を仕掛ける事によって、敵将に欲を掻いた瞬間に防衛線を突破される可能性の恐怖を植え付ける。

 相手が軍隊を率いる司令官として、未熟である事を見抜いたティアンム中将の手腕であった。

 

 公国軍が消極的に防衛線を築いている間、連邦軍は悠々とサスクエハナ川以東の制圧を完了する。

 そして反転、公国軍が必要最低限の防衛線を構築した時には、連邦軍の防衛線に50機を超えるモビルスーツが集結していた。ここからノイジー・フェアリー隊にとって地獄の始まりだ。ニューヨーク戦線には、ザクやグフでジムに対抗できるパイロットはノイジー・フェアリー隊の他に居ないのだ。つまり、衝突が起きる度に彼女達は駆り出される。

 日に二度、三度と繰り返される戦闘を全て、防衛し切ることができたのは彼女達の活躍があっての事だった。

 

「これが巷で噂のニュータイプ、張遼や項羽を相手にする古の武将達の気持ちが分かるな」

 

 ティアンム中将は魔女狩り部隊の必要性を噛み締める。

 公国軍が増援を送るまで、防衛線を持ち堪える事ができたのは彼女達、戦場の女神が居たからだ。

 そして、敵将ガルマも意外と侮れない。

 援軍を送るまでの動きが早い、だから間に合った。

 ティアンム中将はクソ不味いインスタント珈琲を啜り、次の戦略を考える。

 もうレビルはオデッサへ移動を開始した頃だろうか?

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