NTロリ娘、避難所   作:にゃあたいぷ。

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7.揃いも揃って言葉足らず。

 ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベース、モビルスーツハンガーにて。

 ガンダム試作機1号のメンテナンスを施す。とは言っても実際にモビルスーツを弄るのはパイロット訓練課程以来の話、やらないよりはマシといった程度の代物だ。整備士すらもまともな人間が残っていない。せめて、テム技術主任が居てくれれば良かったのだが、彼もまた公国軍の襲撃によって行方不明となってしまった。今はアムロ君から借りたマニュアルと格闘している。

 ……アムロ君も辛いだろう。まだ死んだと決まった訳ではないが、生存は絶望的だ。その上で戦闘に参加させられている。ただの民間人、それも15歳の子供がだ。彼もまた守られるべき民間人だ。それを状況が彼に殺し合いをさせている。

 軍人である俺には、彼に掛けられる言葉はなかった。

 兎に角、今は残ったパイロット候補生の二人。リュウ曹長、ジョブ伍長を鍛えるしかない。人の手も足りず、満足に艦も動かせない今、民間人に力を借りるのも仕方ない。と割り切る事もある。だが、モビルスーツで前線に立って戦うのは軍人だ。これは軍人を志した自分の譲れない一線でもあった。

 他にガンダムを扱えるパイロットが居ない以上、必然的に2号機にはアムロ君が乗る事になる。

 ホワイトベースに搭載されているモビルスーツは全6機、ガンダム試作機1号にガンダム試作機2号。ガンキャノンが2機、ガンタンクが2機。加えて、戦闘機のコア・ブースターが2機。パイロットに空きがある以上、パイロット適性の高い人間がモビルスーツに乗り込まざる得なくなる可能性があった。それもこれも全て、生き残る為だ。生き残る為という理由で全てが正当化される。

 だから俺が──リュウとジョブを加えた三人でホワイトベースを守る。

 青臭い? 知った事か。

 それが軍人だ、そういう青臭い事を言う為に軍人になったんだ。

 

「……それにしても整備士が足りていないのは、厳しいな」

 

 一通り終えた後に、コックピットのモニターに触れる。

 

『おはようございます。戦闘行動を開始します』

「いや、するな」

『ジョークです。最近のAIは冗談も言えるようになりました』

「……それは凄い進歩だな」

『自己診断システムを起動します』

 

 数秒後、ガンダム1号機の全身から駆動音が鳴り始めた。

 それが数分程度、続いた後で『オールグリーン、戦闘行動に問題のない数値です』という声が響き渡る。

 とりあえず、これでルナツーまでは持たせられるはずだ。

 

 そんな折、不意に艦長代理を務めるブライト少尉から館内放送で呼び出しが掛かる。

 ホワイトベースの運用に関係する全ての乗組員が第二艦橋のオペレーションルームに集められた。ブライトの話を聞くに、赤い彗星の搭乗艦である改造型ムサイ級軽巡洋艦とパプア級補給艦が接触を図ろうとしているのをキャッチしたとの話だ。

 それだけの話をする為に? と考えた時、ブライトは多数決の話を切り出す。

 このまま手を拱いているか、それとも先手を打って奇襲を仕掛けるか。

 

「今なら勝てます! 敵にはシャア専用のモビルスーツが1台しかないんです!」

 

 民間人の女性が、随分と好戦的な事を言う。

 ……この多数決に民間人を巻き込んだのは、民間人の不満を減らす為か。

 民間人に納得して戦って貰う為に、多数決を取るのか。

 俺は黙して、ブライトを睨み付けた。

 

「少尉、この作戦に不満でも?」

「艦長、敷いては艦長代理の命令であれば戦います」

「……そうか」

 

 ブライトが俺から目を逸らす。その横で大人しそうな顔で好戦的な彼女が俺に訴える。

 

「今、叩かなければ補給が終わってしまいます!」

「……民間人を降ろしてからでも遅くはない」

 

 戦うのは軍人の役目だ。

 軍人だけであれば、後の脅威を退ける為に今、奇襲をする事も納得できる。

 しかし今は護るべき民間人を生存させる為に、民間人に協力を仰いでいる現状だ。今、叩いておかなければ結果的に民間人を脅威に晒す事に繋がるというのであれば、百歩譲る事もある。だが、赤い彗星が補給をしている間にルナツーに逃げ込む事もできる状況。今、民間人を巻き込んでいる以上、戦闘目的も民間人の生存のみに絞られるべきだ。軍人の都合で、民間人に武器を持たせるなんて、以ての外。銃を握り締めた、その瞬間に民間人は文民として扱われなくなる。

 だが、赤い彗星に旧型艦のパプア級。素早く補給をされた時は、追いつかれてしまうかも知れない。

 距離的には……微妙か。いや、俺が囮になれば良いだけの話だ。

 

「ブライト艦長代理、パオロ艦長に指示を仰ぐべきだ」

「パオロ艦長は今、昏睡状態にあります」

 

 答えたのはセイラ・マスと名乗った民間人の女性だ。

 確か、医学の心得があるのだったか。そういえば、軍医も亡くなっていたのだったな。

 軍人は、守るのが仕事だ。

 ……しかし、この場では、俺の想いが通る事はなかった。

 思っていた以上に賛同者が多い。特に艦橋に引き入れた民間人の士気が高かった。先ほどの戦闘では2機のガンダムで敵機を5機も倒した、それがいけなかったのかも知れない。俺の隣に立っていたリュウも手を挙げようとしたので、無言で足を踏んで止めさせる。前線で戦う軍人が民間人の手を借りる案に乗るな。という意味を込めた。

 多数決を取り終えた後、ブライトは民間人の中からモビルスーツパイロットを募った。今のホワイトベースには、艦を動かすのに最低限の人数しか居ない状態ではある。ガンダム2号機にアムロ・レイ、ガンタンクにカイ・シデンとハヤト・コバヤシが乗る事に決まった。彼の決断に俺は眉を顰める。

 作戦も決まった後、俺はハンガーでリュウ曹長とジョブ伍長を呼び止めた。

 

「ホワイトベースだけじゃない。あの三人も俺達で守るんだ」

 

 俺が拳を突き出せば、二人もまた強く頷いて拳を突き出し返してくれた。

 リュウ曹長はコア・ブースター、ジョブ伍長はガンキャノンだ。

 二人と別れた後、俺はガンダムに乗り込んでモニターに手を触れる。

 

『おはようございます。戦闘行動を開始します』

「ああ、頼む」

『今回は正しかったようですね。作戦を教えてください』

 

 機械音声の言葉を耳に、俺は力強く操縦桿を握り締めた。

 

◆

 

 これは計算の結果だ。

 連邦軍の平均的な補給時間で考えた時、ホワイトベースは相手の追撃を受ける前にルナツーに辿り着くことができる。

 この時、相手の速度は、通常のムサイ級と仮定しての話だ。赤い彗星が乗る改造型ムサイ級が、通常のムサイ級と同じ速度だとは思えない。同じザクでも通常の三倍の速度で近付いて来る相手、同じムサイ級を扱ったとしても通常の速度で満足するはずがなかった。であれば、シャアが乗っている改造型ムサイ級もまた通常の三倍の速度で距離を詰めると想定しておいた方が良い。

 それに赤い彗星ほどの人物であれば、補給も通常よりも早いと考えておくべきだ。

 ルナツーまで間に合うか微妙な距離。であれば、必ず間に合わせてくる。こういう機を逃さないから、エースはエースと呼ばれるのだ。確実に逃げ切る為には一戦しておかねばならず、戦うには民間人の協力が必要不可欠だった。最悪なのは、戦力を立て直した赤い彗星がホワイトベースの背後を取る事。ルナツーが見えている状態であれば、民間人は戦うよりも逃げる選択を取る。

 民間人を逃がさない為、戦わせる為に俺は今、奇襲を仕掛ける決断をする。

 少しでも士気を維持する為に多数決を取った。

 どうするかは決めた上での判断だ。

 

◆

 

 最後まで手は上げなかった。

 挙手を拒否したからって、戦わない訳ではない。どうせ僕が出撃しなくちゃいけなくなる事は分かっている。だって他に人が居ないのだ。

 僕とユウ少尉だけが、ガンダムを動かせる。

 

 そのユウ少尉が手を挙げなかった、だから僕も手を挙げなかった。

 戦いたくない。だって怖いじゃないか。フラウは僕に空気を読めっていうけども、僕が戦って死ぬかも知れないって事を彼女は分かってくれなかった。皆が一致団結して戦おうとしている。戦わなければ皆、死ぬかもしれない。そんな事は分かっている、だから僕だって戦うんだ。皆の為に、自分の為に、生き延びる為に。だけど、だからといって、僕自身がモビルスーツに乗って戦う事に納得した訳じゃない。分かっている、分かってはいるんだ。今は戦わなきゃいけない時だって事くらいは分かっている。

 でも、どうして僕なんだ。昨日まで、僕は銃も握った事もない民間人だ、まだ学生だ。

 どうして、この想いを、誰も分かってくれないんだ。

 苛立ちを抑えて、ガンダムのコックピットに座る。皆、簡単に手を挙げやがって、ハヤトは良い。自分で戦うんだ、そういう意味ではカイも一緒だ。でも僕が戦うのは当然、みたいな空気になるのは嫌だった。

 人殺しをしているんだぞ。皆、僕が何も感じないと思っているのか?

 僕は、そんな安っぽい人間ですか!?

 

『アムロ君、準備はできてるな?』

 

 ブライトから通信機越しに声を掛けられる。

 あの金色のモビルスーツと戦った後、ブライトは僕を叱責した。プロトタイプには、余分なパーツは用意されていない等と勝手な事を言って、甘ったれるな。と上から目線でモノをいう。ガンダムを任されたからなんだって言うんだ。この艦を護る義務があるのは、僕じゃなくてブライトの方じゃないか。事情は分かる。でも僕を戦わせたいのであれば、頼み方ってものがあるはずだ。軍人の自尊心? 周囲への示し? そんなものは民間人の僕に戦わせている時点でないも等しいじゃないか!

 憎んでくれていいよ。とすまし顔で告げる彼の事が僕は大嫌いだ。

 

「できてますよ」

『それなら良い』

「ブライトさん」

 

 手短に通信を切ろうとする彼を呼び止める。一言、言ってやらなきゃ気が済まない。

 

「憎まれるだけで済むと思ってるなんて案外、軍人の責任ってのは軽いもんですね」

『……貴様ッ!』

「軍人は僕達を守ってくれるから偉そうにしても許されるんだ。でも、こうやって戦わせられているのに偉そうにされるのは違うんじゃないですか?」

『俺だってなあ……!』

 

 ブライトは、そこまで言って口を噤んだ。歯を食い縛り、改めて口を開いた。

 

『……今はそういう事を言っている場合じゃない事が分からんのか!?』

「分かりませんよ、僕は軍人ではありませんから!」

『分からないのであれば、黙って言う事を聞くんだ!』

「それが軍人のやり方ですか? 上から押さえつけるだけが貴方のやり方なら最初から多数決なんてみっともない真似はやめてくださいよ!」

『貴様ッ! 軍法会議に掛ける事だってできるんだぞ!?』

「そうですね。貴方達が守ってくれないから僕は立派な戦争犯罪者だ!」

『………………ッ!!』

 

 通信画面に映るブライトは肩で息をしていた。

 僕も熱くなりすぎてしまった。まあ、ここでいくら言っても仕方ない。

 もうなるようになるしかない段階にまで至っている。

 

「……ブライトさん。僕が今、戦っているのは貴方の決断だという事を忘れないでください」

 

 僕が死んだら貴方の責任だ。そう言って、一方的に通信を切った。

 やりますなんて言わない。やれるかどうか分からないんだ。結局、やるしかない。

 勝手にガンダムに乗り込んだのが全ての始まりだけど、

 この程度の事は言っても許されるはずだ。

 

『アムロ君、聞こえるか?』

 

 この声は、ユウ少尉のものだった。

 

『君とカイ君、ハヤト君は後方支援だ』

「……僕が役に立たないからですか?」

『違う、君が民間人だからだ。俺達が盾になってでも君達を守る』

「……カイとハヤトは知りませんが、僕は一緒に戦います」

 

 だって死にたくありませんから。

 その僕の言葉に、ユウ少尉はただ一言「そうか」と悲しい顔をして言った。

 

◆

 

 ……俺は、艦長に向いていないのかも知れない。

 誰かを殺したい訳ではない。むしろ今、ホワイトベースに乗船した全員を生かす為の最善の手を打っているつもりだ。それが最善と判断したのであれば、指示を出すのが艦長の役目であるはずだ。作戦を決めた今、後は戦えと命じるだけで良い。一言、二言で済む話だ。たったそれだけの事で胃を痛めつけている。

 何も、間違っている事はしていない。していない、はずなのだ。

 

「……民間人の子供に殺し合いを強制している時点で、地獄に落ちるのは確定だな」

 

 誰にも聞こえない声量でポツリと零す。

 弱音を口にすると、魂が何処までも落ちていくかのようだった。

 此処までやったのだ。勝たなくて、どうする?

 しっかりするんだ、ブライト・ノア。

 お前が、今の艦長だ。

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