爆発音がした時、戦闘が発生した事を確信する。
その前の補給作業中にヅダが二機、任務を投げ出して何処かへと飛んで行ったのを見ていた為、先程の二機が敵機と接触した事を察する。音のした方角的に敵機と接触したのは黒いヅダ、故に私は愛機のザクを持ち出して、赤いヅダの後を追いかけた。
何故、赤い方を追いかけるのか。
黒いヅダと敵機が接触したのは、任務を放り出した直後の話だ。という事は、あのパイロットはカナリアと似た能力を持っている可能性がある。黒いヅダは並列する艦艇二隻の側面に向かったのに対して、赤いヅダは艦艇二隻の真正面を目指して駆け出した。
という事は、黒いヅダと接触した敵機は、わざわざ側面に回ったと考えるのが自然だ。
結論、真正面を目指す赤いヅダの先に敵艦がある可能性が高い!
そこまで考えた私は、敵艦を叩く為に赤いヅダの後を追いかけた。そして、連邦の白いヤツを発見する。橙色のヤツは居ない。先行していた赤いヅダは頭上のミサイルに気を取られており、その隙を狙った白いヤツがビームサーベルで切り掛かろうとしていた。
フットペダルを踏み込んだ。強烈な圧力が全身に掛かり、揺れる視界の中で白いヤツを目掛けて蹴りを放った。ザクⅡの全備60トンを超えた質量による飛び蹴りだ。今まで私達が与えた打撃の中で最も威力の高い一撃、流石に衝撃を受け止めきれなかったのか白いヤツを大きく横に吹っ飛ばすことができた。
これで相手がザクやヅダなら間違いなく致命傷を与えることができている。しかし、
「……ええい、連邦軍のモビルスーツは化け物かッ!」
ほぼ無傷、打撃では撃墜できないようだ。
モビルスーツの性能の違いが戦力の決定的差ではないという事を教えてやりたかったが、こうも装甲に違いを見せつけられてしまえばそれも言えまい。兎に角、赤いヅダに自分が白いヤツを足止めする事を伝えて、ヤツの僚機であるガンタンクを先に倒すように赤いヅダに指示を送る。
その時だ、後方で大きな爆発音が聞こえた。
まだ白いヤツは立ち上がっている最中、背後を見ると丁度、私達が補給場所に選んだクレーターの内部から黒煙が上がっているのを見た。すぐ白いヤツに視線を戻す。右手にヒートホークを持ち替えて、構えを取る。
「そこの赤いヅダ、聞こえるか!?」
『あ、はい、聞こえます!』
「今すぐ後方に下がれ! この二機は私が食い止めるッ!」
手薄になったところを奇襲されたのか、もしくは黒いヅダが抜かれてしまったのか。
いずれにせよ、このまま攻撃を受け続ければ補給どころか帰る艦すら失い兼ねない。かといって敵の主力である角付きを放置する訳にもいかなかった。何故ならば、このモビルスーツが持っているビーム兵器は戦艦にも匹敵する威力、つまりは艦を破壊し兼ねないのだ。
とはいえ、二機相手だ。厳しい戦いになる。
「まあ、やってみるさ」
ビームサーベルを構え直す白いモビルスーツを睨み付けて、ジリジリと間合いを測る。
◆
補給中の艦艇を狙ったのは、連邦軍の新型戦闘機だった。
パプア級補給艦と改ムサイ級ファルメルを繋いだコンベアとパイプを的確に狙われた。
最初から儂がザクⅠを用いて搬入を急いだ為、補給の半分以上は終えてある。このままではいい的だ。パプア級が破壊される前に戦域を離れるように指示を送る。だが、満足に物資を渡してこそ補給部隊だ。コンテナを失っては搬入は出来ないが、せめてものと物資を詰め込んだコンテナを搬入口から外に放つように命令した。
儂の回収は後でいい。補給物資の中からモビルスーツ用のマシンガンを左手で掴み、右腕に抱えたザクⅡと共に搬入口から飛び降りた。
次の瞬間、頭上を閃光が明るく照らす。
それがメガ粒子砲だと認識した時には、自分の艦であるパプア級が連鎖する爆発と共に沈んでいく光景を目にした。ファルメルからパイロットスーツを着た男が一人で泳いでくる。その者にザクⅡを押し付けて、儂はマシンガンを片手に歯を食い縛る。もう堕ちるパプア級の周りを旋回し、攻撃を加える新型戦闘機の姿があった。
許せん。とマシンガンを斉射したが、高速で飛び回る戦闘機に当てる事は困難を極める。
「よくも儂の艦を! よくもォッ!」
新型戦闘機の片翼に一発当たる、それだけだ。黒煙を上げて自分の艦に戻っていく仇敵の背中に拳を握り締める。
『ガデム大尉! 嗚呼、パプア級が……ッ!』
赤いヅダから通信が入る。高濃度のミノフスキー粒子散布下であっても至近距離ならば通信は可能だ。
「ザクも、ミサイルも、食料もシャアに渡してやるんだ……補給部隊の面子に賭けてなッ!」
そうペッシェ准尉に指示を残し、儂はマシンガンを片手にブースターを吹かせる。
『ガデム大尉、何処に行くんですか!?』
「儂の艦をやられたんだぞ! にわか作りの連邦軍のモビルスーツなど一撃で倒してくれるわ!」
『旧ザクでは無理ですッ!』
赤い彗星の方は心配はないはずだ。なら、今、儂が向かうべきは黒いヅダの方だ。
せめて一矢でも報いらなければ、パプア級に乗っていた部下達の無念を晴らすことができん! 丘の向こう側に姿を晒した時、黒いヅダがモビルスーツ二機と戦闘機一機を相手に大立ち回りをしている所だった。こちらに来て正解だったと悟る。
早速、小高い丘の上からマシンガンを斉射しながら飛び降りた。
『旧ザクッ!? 御老体、何をしている!?』
「助太刀に来てやったぞ、ひよっこめッ!」
『援護するならば、わざわざ降りて来なくても良かったはずだ!』
「あれか! 連邦軍が作ったモビルスーツってのは!」
着地し、間髪を入れずにオレンジ色のモビルスーツに駆け出すべく僅かに姿勢を落とす。
「合わせろ小僧! 儂が先に行って囮になる!」
地面を蹴ろうとして──しかし黒いヅダが儂の前に出て阻まれてしまった。
『退くぞ、御老体ッ!』
「なにおう!? あれが新型だろう!? 二機あるのだ。倒せるのであれば今、倒しておくべきだ!」
『御老体の命を犠牲にしてまで拘る価値はないッ!!』
「もう艦もないのだ! 生き恥を晒すくらいならジオンの未来の礎になってくれるッ!」
『ジオンの未来を思えばこそ、御老体は死んではならんのだッ!!』
オレンジのヤツが儂達にビームライフルを向けてきた。
これは間に合わんか? と思った時、黒いヅダが体当たりの要領で儂の旧ザクを押し出す。
間一髪、ビームを回避。そのままヅダは儂をファルメルの方へと押し込んだ。
「ええい、何をするか! 戦場に生きて来たのだ、戦場で死ぬ事の何が悪い!」
『悪いに決まっているッ! 次世代を築くのが若者であれば、若者を教え導くのは御老体だッ! ジオンの未来を思えばこそ、良い老人には生きて貰わねばならんッ! 戦争では良い奴から先に死んでいくと言うが、良い奴が居なくなれば、誰がジオンの未来を担う若者に良い教えを残してくれるというのかッ!? 御身は生きているだけで価値があるということが何故わからんッ!!』
「普段は口煩いと思うとる癖にッ!」
『耳の痛い事を言われて、煩わしいと思わない者が何処に居るかッ!?』
小高い丘の上から援護射撃、赤いヅダと放出したばかりのザクⅡだ。
オレンジのヤツを中心とした小隊は、流石にモビルスーツが4機相手では不利を悟ったようだ。
モビルスーツ二機が牽制程度に弾を撃ちながら後退し、それを戦闘機が追尾する。
「ええい、仕留め損なったわッ!」
『ガデム大尉、貴方は此処で死ぬような御人ではない。楽に死なれては困るッ!』
「……放流した物資を集めるぞ。ここも安全ではないからな」
ザクⅡに乗ったパイロットには、儂と一緒に物資の収集を指示。ファルメルに乗ったドレン少尉には、何時でも全速で離脱できるようにファルメルのエンジンを温めさせる。
「ペッシェとニムバスのヅダ2機はシャアを連れ戻して来いッ!」
儂の命令にペッシェとニムバスは『はッ!』と威勢の良い声で応じた。
儂から死に場所を奪ったのだ。後で徹底的に扱いてくれる!
◆
「このォッ!」
先程までの赤いヅダも強かった。しかし今、僕が相手にする赤いザクは更に難敵だ。
金色のヅダや赤いヅダのように先読みされている感覚はない。だが、二機よりも全ての動きが速くて、二手、三手先を想定した動きに後手後手と回されている。ルナ・チタニウム合金を用いた装甲のおかげで持っているようなものだ。白兵戦の距離で機敏に動く赤いザク相手に翻弄されっぱなしだった。ガンタンクも、このまとわりつかれた距離では援護射撃を撃つ事もできずにいる。
くそぅ、ガンダムはザクとは比べ物にならない戦闘能力を持っているはずなのに!
手斧だけに注意を絞って攻撃を凌ぐこと数分間、敵艦の側面に回り込んでいたユウ少尉の小隊が引き返して来た。
『大丈夫か?』
「ユウさん! 手を貸してもらえますか!?」
『すまない』
「何がです!? そんな事よりも……!」
ユウ少尉達が戦闘に加わり、5対1。これならと思った瞬間、眼前まで手斧が迫っていた。
距離は取っていたはず、兎も角、盾で防いでみたが思ったよりも手応えがない。それが投擲だと察した時には、もう遅かった。赤いザクは両手にクラッカーを持っており、それを僕とユウ少尉の前に投げ付けた。咄嗟に距離を取れば、強い衝撃と爆発に敵機を見失ってしまった。右へ左へと視界を動かして、相手を探す。
遠くまで逃げてしまった赤いザクの姿を発見、母艦に戻る途中で赤と黒のヅダが合流するのを確認した。
『……ここまで、だな』
ブライト艦長代理の指示が出るよりも先にユウ少尉が武器を下ろす。
改造型ムサイ級が飛び立とうとしており、その格納庫に三機のモビルスーツが飛び込んでいた。
ビームライフルの射程距離外、流石にこの距離では威力が減衰して当てても倒し切れない。
仕方なしにビームライフルの銃口を下ろす。
パプア級を撃墜した。艦艇一隻の戦果、奇襲は成功したと言っても良い。
しかし肝心のファルメルは無傷であるし、モビルスーツは撃破できず、補充を許してしまった。
果たして奇襲の意味はあったのか?
兎も角、僕達も早くホワイトベースに戻り、相手が体勢を立て直す前に逃げ出さなきゃいけない。
これでルナツーまで辿り着けなければ、本当に戦った意味がない。
「ガンタンクとガンキャノン……結構、やられちゃいましたね」
『君のガンダムもだ』
ホワイトベースの格納庫に戻った後、ガンダム2号機を見ると確かに被弾が多かった。
ルナ・チタニウム合金も完全無欠という訳ではない。次にまた戦う事があれば、もっと考えて戦わなくてはいけない。
まあ僕がガンダムを預かるのはルナツーに辿り着くまでの間、次はもうないと思うけど。
そうしてホワイトベースは無事にルナツーまで辿り着いた。
そして僕達は連邦軍の拘束を受ける事になる。