SE持ちカマキリ女に狙われる影浦隊長   作:ワートリファン

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※本作の独自解釈タグに当たる箇所の説明です。
長いので良ければ読み飛ばしてください。


・ユズルは入隊して一年ほど(BBF)
・雨取兄の失踪が5月(10巻くらいのオサム回想)
・鳩原失踪の懲罰として二宮隊が降格(二宮帰った後のレイジさんの言)
・165の根付さんに177のカゲがアッパーした(激昂したなら打ち下ろしやストレートが普通なのに身長低い相手に当てにくいアッパー?)

これらの件を踏まえて

・鳩原失踪、二宮隊降格、影浦隊降格は原作一話より半年近く前の5月に連鎖で起こった
・根付さんアッパー事件は鳩原クビによるユズルを心配した影浦が起因
・ユズルが鳩原弁護のため直談判した(ユズルが心配なので影浦隊全員付き添う)
・その際に鳩原を悪く言ったとも捉えられる言動をした根付さんを、カゲさんがしばいた
・ショックを受けたユズルが普段通りの活躍が出来ないことやそれでスランプに陥る危険を見越して、敢えてB級落ちする行動をとった
・ゾエさんや光ちゃんは納得承知してるし、B級降格も気にしてない。
・ユズルは気にしたが三人からフォローされてるので自分がB級落ちの間接的要因だと自責してないし周りがさせない

本作では、そのような独自解釈を設定に組み込んでます


激動と共に始まった春のこと

影浦雅人。

 

ボーダーに所属する正隊員。

懲罰降格によりB級となった、影浦隊を率いる隊長である。

 

影浦は最近苛立つことが多くなった。

A級からB級へ降格したことにより、いらぬ注目を浴びるようになったからだ。

 

同時期、同じくA級部隊の一つである二宮隊もB級に降格している。

だが所属隊員の隊務規定違反によるクビと共に責任をもって降格した二宮隊と違い、ボーダー上層部の人間を殴った事での懲罰降格だ。

 

暴力沙汰による降格のためだろう。

影浦自身を誹謗するような視線を多く受けるようになった。

 

感情受信体質のサイドエフェクトをもつ影浦にとって現在のボーダー本部は居心地が悪い。

そのためソロランク戦をする以外は自身の作戦室でダラダラと待機することが多い。

 

ボーダーは早番、昼番、夜晩の三交代制によるシフト制である。

影浦は早番の防衛任務が終わり昼番と交代して一時間ほど経った現在、自室の作戦室に篭っていた。

一緒に帰ろうとメンバーが誘ったが、用事があると嘯いて先に帰している。

噂の影浦と一緒に歩いてはメンバーも不要な注目を浴びるかもしれないと、無意識に気を使っての対応だった。

 

交代で帰宅する隊員と働く隊員とで混雑する時間を避けるため、作戦室で時間を潰している。

端末をいじっていたが飽きたため、顔は端末に向かっていても思考は別のことを考えていた。

 

 

影浦隊が降格した悪目立ちしてメンバーに迷惑を与えてしまった。

そんな中で(影浦は認めないが)救いとなったのは影浦隊のチームメンバーや友人・知り合い達と同じく、間桐の態度が変わらず居たことだ。

 

 

間桐がB級に上がってすぐに再会して以降、彼女は道ですれ違っても会釈するに留まり、不特定多数の人がいる中で影浦と一対一で話しかけることはしない。

 

知り合いに対しては普通とも言える対応だが、紛いなりにも告白して断られた相手に女子学生が取る対応ではない。

これは間桐が頭を回して、知り合いとしてでも影浦と適切な距離を保ちたいという意識の現れだろう。

 

また影浦がA級部隊(今は懲罰降格したB級部隊)の隊長かつ、ボーダーのアタッカーランキング4位にもなった有名人であることも関係している。

 

「新人が有名人に話しかけることの弊害を避ける保身」ではない。

「新人に話しかける有名人を悪目立ちさせたくない配慮」だ、と。

 

影浦はサイドエフェクトで知るまでもなく分かっている。

 

B級降格してからも、(心配の感情こそ増えたが)態度は変わらず、間桐は影浦に接してきていた。

サイドエフェクトや来歴に関係なく、彼女は()()()()()()()()希有な人間であると認めざるを得ないだろう。

 

私服姿の影浦は()()()()()()考えに耽っていたが、そろそろいいだろうと作戦室を出た。

 

下手に人混みのある中で帰ると、他者の感情が肌をチクチクと刺すような不快感に晒されるため、それを回避したかった。

 

混雑は過ぎ去った筈だが、なぜか通路から騒がしい声が聞こえてくる。

 

声の方向を考えるに任務後の隊員がソロランク戦でもしているかもしれないと思いつつ、自分に関係ないことだと無視して基地の出口へ向かった。

 

 

暫く歩くと、その先に私服姿の間桐がいた。

 

顔見知りを無視するのも変だと思い、一声かけようとする。

歩幅が違うので自然と二人の距離は短くなるが、間桐は気づいてないようだ。

 

首まで伸ばした髪を纏めてポニーテールにした頭が近づくにつれ、影浦はそこに違和感を覚える。

 

 

間桐はボーダー内の隊員の中で、()()()接近を一番早く気づける人間だ。

普段からサイドエフェクトを発動させているのか、影浦の足音が聞こえると壁越しや物陰に関係なしに影浦に向けて特大の感情をぶつけてくる。

視界内だと、蟻にしか見えないほど離れた距離ですら影浦だと特定して感情を放つことも可能である。

 

普段の控えめな態度に反して、彼女の影浦に対する感情は大きく生温くて気持ち悪いので、本人だと識別しやすい。

レーダーで捕捉しているかのように影浦を見つけられる。

その技能をスナイパーとして敵や的にも発揮できれば、捕捉訓練等で一位を獲れるだろう。

 

 

(余談だが、彼女のサイドエフェクト発動条件を知ってる影浦は、一度作戦室に呼び出して『急速思考』の発動条件である『死を想起させる危険な体験』をしていないか長袖を捲って確かめたことがある。

 

そこには酷い傷痕はあれど新しい傷痕は無く、別の場所を自傷したかと邪推したが本人が真っ赤になってアワアワしながら否定していたので、自傷行為はしてないと一応信用した。

 

問い詰めようとしたが一部始終を隊のメンバーに見れてしまい、オペレーターに怒られガンナーに窘められ、スナイパーがジト目で見つめてきて面倒な事態に発展した)

 

 

そんな彼女が、挨拶できるほど近い距離にいる影浦に気づいていない。

影浦のサイドエフェクトが反応しないことからも、気づかないフリでは無い。

 

「……おいどうした?」

 

「……か、影浦隊長⁉︎ お疲れ様です!」

 

間桐は傍目からもわかるくらいびくりと身体を震わせて驚いた。

そして影浦に視線が向いたことで、いつも感じるソレとは別の不快な感情が伝わってくる。

 

 

後ろめたい気持ちを隠した「後悔」と立ち去りたいという「拒否」の感情。それと申し訳なさ。

 

 

影浦にとって都合の悪いことをしていて、それを見つかって誤魔化そうとする人間の感情の動きに似ていた。

 

 

おおかた影浦隊B級降格と8000点没収されてアタッカーランキングから外れた件に絡んだものだろうと予想がつく。

落ち目ともいうべき影浦隊を以前から嫉妬していたメンツから影浦と話していた姿を見咎められて、害を避けるために話を合わせて陰口をしたとか、その辺りだろう。

 

評判の悪い人間と付き合って損するのを厭うのは仕方がない。

そのくらいの分別はつけられる。

 

柄の悪い自分が話しかけては宜しくないと思い、影浦は短い挨拶をして通り過ぎようとした。

 

「じゃあな」

 

「あの、違うんです!誤解です!」

 

だが彼女は、通り過ぎようとする影浦の腕を掴んだ。

そして影浦の背に、先とは別種の「後悔」、「焦り」など釈明したいと言いたげな感情が纏わりついた。

 

影浦が声をかけてから間桐が驚いた後、すぐに彼女のサイドエフェクトが発動したのか。

影浦の無表情から何かを読み取り、自身の感情と影浦のサイドエフェクトを振り返って、()()()()()と考えたのか。

 

顔だけ間桐に向けるが、しどろもどろになった彼女は顔を合わせられず、もごもごと喋っている。

 

「いや、えっと、その……」

 

「……」

 

気まずい沈黙が両者の間に流れ始めようとする中、謎の騒がしい声が近づいてくるのが聞こえた。

騒音の元はC級ソロランク戦用のブースに繋がる通路からだ。

 

「……さっきのヤバくないか?アレ懲罰の対象になったりしない?」

 

といった会話が聞こえてくる。

 

それに間桐が大きく反応したのを感じ取り、何か面倒なことになったと内心嘆息する。

影浦は彼女に、一緒に作戦室にくるよう促す。

音の主達とかち合わないよう通路を選んで進み、影浦隊の作戦室に到着した。

 

 

影浦と間桐のほかは誰もいない。

珍しく影浦が、缶飲料とはいえ飲み物を用意して会話の場を整える。

 

彼女が普段と違う態度だった原因は、別のところから判明した。

 

作戦室に向かう途中、影浦の通信端末が友人からのメッセージを受信したのだ。

 

間桐がC級隊員を晒し上げるようにソロランク戦で叩きのめしていたが、悩みがあるようなら後輩(まとう)に何か声をかけてやってくれ、と。

 

自分が知り合いなら間桐に声をかけただろうが、影浦の友人である荒船と間桐の関係は”知り合いの知り合い”でしかない。

この伝言は、影浦と間桐が会話するのを間近で目撃した荒船という男だからこその気配りである。

 

テーブル越しに対面した二人。

影浦が端末に表示された文言をそのまま見せると、黙っていてもいずれバレると思ったか正直に告白した。

 

事件の始まりは、C級ブースでソロランク戦の相手となるB級隊員を探していた間桐が、そこでC級隊員数名が影浦隊について憶測混じりの陰口や誹謗中傷しているのを目撃したことから始まった。

それを聞いた間桐はブチギレて制裁を下そうと、手始めに取引を持ちかけたという。

 

 

もし私に一発でも当てれたら一人500点差し出す。二発なら1000点。

 

そのかわり私が20本やって20本無傷で勝てたら500点を貰う。

 

間桐はC級に合わせて、その場のC級隊員から借りたスコーピオンだけで戦う。

 

それを聞いたC級隊員は取引を承諾したようだ。

相手はB級かつ、一度は自分を降した強敵。

だが相手はスコーピオンのみで、なおかつ一撃でも擦ればこちらが1000点も貰える。

B級隊員とは言え、少し前までは同じC級相手だったのだから一撃くらいは与えられるだろう。

しかも、この場の三人と三連戦を行うという。

三者交代で計60本の試合。

疲労もあれば被弾の一発もありうる。

 

影浦の陰口を言っていたC級隊員は、有利な戦いだと考えて承諾した。

 

だが結果はC級隊員たちの惨敗。

一撃与えることも掠らせることも出来なかった。

 

ランク戦に参加したC級から500点を三人分奪い取る結果に終わった。

 

そこで正隊員が訓練生を潰す真似は違反じゃ無いかと騒ぎが大きくなり、間桐は職員達に呼ばれてC級から巻き上げた1500点は無効かつ1000点の減点する処分を受けたのだという。

職員達は彼女の言を信じ周囲から証拠を集めて判断した。

B級上がりたての相手に一撃も与えられない未熟さを鍛え直す意味や懲罰の意味も込めて、騒ぎの元となったC級隊員たちのポイントを間桐とのソロランク戦前の点数に戻した上で500点ずつ減点したそうだ。

 

間桐としては、相手が損をすれば最上の結果。

失敗しても、突飛な行動で悪目立ち出来れば影浦隊への噂を上書き、ないし薄めることが目的だったという。

 

結果は喧嘩両成敗といったところだろう。

だが影浦はC級隊員など興味なければ、影浦のいないところで言われた陰口など、どうでもよい。

(影浦のいる前で陰口を言うなど失礼な態度を取り、それに気づいて注意したにも関わらず舐めた態度をとった相手なら分からせるだろうが)

 

 

そんなことより彼女が自らを軽く考える行動をとったことを咎めた。

 

 

「その場にいた訳でもない俺への陰口なんざ聞き流しとけ」

 

「そんな訳には行きません!影浦隊長に失礼な態度をとった人は、私がボコボコにしてやります」

 

「……それより、俺が8000点没収されたの知ってんだろーが、お前も面倒起こせばポイント剥奪されるって知ってんだろ」

 

「影浦隊長にご迷惑かけたことは謝ります。けど、影浦隊長は凄い人なのに馬鹿にされるのは許せないです」

 

「その度にポイント没収されてっと、隊に入れるもんも入れねえぞ」

 

「……それでも私は、影浦隊長が嫌な思いしそうなのに()めないなんて、出来ません」

 

間桐の頑固さに、影浦は閉口しそうになる。

これは彼女の優しさゆえの行動なのだと分かるだけに、言葉を選ぶ。

 

前から薄々感じていたが、間桐(まとう) (はな)は愛情深い性格なのだろう。

 

両親が大好きだからこそ、第一次侵攻で何も出来なかった自分を過剰に責めた。

影浦に好意を寄せているからこそ、好きな人を馬鹿にされエスカレートするなら止めることも辞さない。

 

影浦のためを思って動いてくれたのは理解できる。

だが、彼は自身のために顔見知りが被害を被る真似をするのは許せない。

 

間桐は短気で視野が狭いところもある。

彼女がこれから辛い思いをしないためにも、自分のために怒ってくれたことは承知の上で影浦は釘を差した。

 

 

影浦の気持ちに配慮して、間桐は渋々納得する。

頭が冷えたのか、今度は迷惑をかけて申し訳ないとばかりに肩を落としながら作戦室を出ようとする。

 

その時、影浦は呼び止めた。

振り返った彼女に、影浦は珍しく提案をした。

 

近接の稽古をしてやる、と。

 

 

落ち込んだ気配を残しつつも、間桐は喜んで稽古に参加するようだ。

彼女からの「好意」を全身に浴びながら、影浦は作戦室に設けられたトレーニングルームを準備する。

 

暇になって一度、影浦は間桐のソロランク戦を見たことがある。

そこで至らない所が多々あると感じていた。

それを教えるのは、口には出さないが自分が迷惑をかけたことへの詫びを含んでいる。

 

「じゃあ影浦隊長直伝でマンティス教えて貰えるんですね!」

 

「いや、まずはスコーピオンの使い方からだ」

 

「いやいや、流石にスコーピオンくらいは一応使えますよ」

 

「なら見してみろ。俺に一つでも傷を付けれたらマンティスを教えてやる」

 

「……」

 

「俺のサイドエフェクト気にしてんなら、俺はスコーピオンだけで戦う。それでもお前に負ける気はしねえ」

 

「言いましたね!その言葉、撤回させてあげます!」

 

そんなやりとりを経て。

広いトレーニングルームの中、十五メートル近く距離をとって試合を始める。

 

この距離はスタンダードな片刃のスコーピオンの間合いの外であり、マンティスの間合いの内だった。

 

戦闘体に換装した二人が向き合う。

 

一見無手に見える間桐と、両手に片刃のスコーピオンを起動した影浦。

 

始めるぞ、という影浦の言葉を皮切りに試合が始まった。

 

普段より歩幅を狭くして、ゆっくりと歩いてくる影浦。

それをマンティスを振り回して攻め立てる間桐。

 

だが彼女の攻撃は影浦に掠るどころか、スコーピオンに阻まれ一定なリズムの歩みを乱すことすら出来ない。

 

影浦のサイドエフェクトは『感情受信体質』。

戦闘において、攻撃を実行する前に相手が自分の身体のどこを狙っているか把握できる。

 

間桐のサイドエフェクトは『急速思考』。

条件を満たせば、相手の動きがスローモーションに見える。

 

互いに攻撃を事前に察知する防御的な効果をもち、間桐に至っては相手の隙を十分に見極めて突く攻撃的な効果もある。

 

それでも影浦は最小限の動きで、フルアタックに相応しい攻撃力をもつマンティスを片刃のスコーピオンで防いでいた。

 

そうして一メートルほどまで距離が詰められ、マンティスを振り回していた間桐は影浦に切られて負けた。

 

以降は、何十本と戦ったが全て影浦の勝ちだった。

視界の狭まった屋内でも勝てず、影浦のスコーピオンの間合いに入る直前に距離を離して仕切り直しても好転せずに追い詰められて負ける。

 

 

影浦は間桐の戦い方が、例えるなら「動物」じみた戦い方だと感じていた。

 

サイドエフェクトにより五感が冴えている為、それに任せて力任せ速さ一辺倒で武器を振るう。

 

そのため影浦のような格上相手だと、自分から先手を取っているのに、常に後手に回っているような動きをとってしまう。

自分の力が通じず、相手の動きに誘導されていることにも気づかず負け続けている。

 

運動能力が高い人間ならともかく、間桐はそうではない。

ならば理詰めの動きを、戦闘論理に沿った戦い方を覚えなければ上には上がれない。

 

また、間桐は頭が固い。

スコーピオンを、伸び縮みする剣ぐらいの扱い方をしている。

型に嵌まらない柔軟さが売りのスコーピオンを扱うには、どんな使い方が出来るかを見せた方が良いだろう。

 

間桐はアタッカーに向いていない。

運動が得意でないだろうに紛いなりにもマンティスを再現できた真面目さ、地道に鍛錬したであろう勤勉さはスナイパーこそ適している。

 

サイドエフェクトのおかげでアタッカーとしてB級に上がれたが、発動に危険が伴うサイドエフェクトが前提の時点で論外なのだ。

トレーニングルームでトリガーを起動させた時まで、『急速思考』の発動条件である「命の危険を感じる状況」には陥ってない。

だがサイドエフェクトは都合の良いものではなく本人に負担がかかるのを、影浦が一番よく知っている。

サイドエフェクトありきのアタッカーは進めたくない。

 

だが本人がやる気なのだから、まずはサイドエフェクトなしでアタッカーとして一人前になれるよう導いてやる。

 

そうして影浦は、自分が手本を見せて間桐に真似をさせ、組手のような形で使い方を教えていく。

 

 

間桐の都合を聞いた上で二時間ほど手取り足取り教えた影浦は、肉体的にはともかく精神的に疲労していた。

 

 

稽古の最中、間桐がずっと好意を浴びせてくるのだ。

まるでスライムがのし掛かっているような感触に襲われ続けていた。

 

休憩を挟み、騒ぎが治まったことを確認して、普通の会社では定時退勤時刻というべき時間に二人は帰ることにした。

 

人影のない通路を並んで歩く。

その中で影浦は一つの提案をした。

 

サイドエフェクト発動が前提のソロランク戦を禁止すること。

自傷なしでサイドエフェクトを発動できる条件を教えること。

 

この二つを条件に、影浦は間桐に稽古をつけると約束する。

 

影浦は、自分との稽古がご褒美や上等なものだとはカケラも思っていない。

柄にもないと自覚しながらも、間桐を慮っての言葉だった。

 

一つ目の条件は、彼女が勢いで言ったとはいえ「影浦隊への入隊条件」であるマスターランク到達が遠のく選択だ。

それもあってか、なぜか顔を少し赤らめながらも間桐は悩んでいたが最後は了承した。

 

「つーことで、まずはお前のサイドエフェクトの発動条件を話せ」

 

「え⁉︎」

 

「当たり前だろ、好き勝手に発動できんなら自分でも分かってる筈だろが。早く教えろ」

 

聞き出した内容から彼女の負担がかからないよう注意し手助けしようという、殊勝な考えだった。

 

だが彼女は俯き、答えようとしない。

 

真っ赤な耳しか見えない中、影浦は辛抱強く待っていた。

またしてもモゴモゴと聞き取りづらい声量で話すため、お前人に聞こえる声で話せと言わんばかりの語気の強さで影浦は催促した。

 

「早く、聞こえる声で言え」

 

「……その、影浦隊長のことを考えるとサイドエフェクトが発動するんです」

 

「はあ?」

 

「これ以上女の子に言わせるとかデリカシーがない朴念仁ですね!最低です!」

 

そう怒鳴り返すと、間桐は怒って影浦から距離を取って、足早に出口へ去っていった。

 

残された影浦は、サイドエフェクトで間桐の感情に晒された疲労感で投げやりになり、意味がわからん面倒くさいという思いに脳内が侵されたまま一人で帰路についた。

 

帰り際に間桐からは「怒り」よりも「恥ずかしさ」の方が大きかったことから、怒ってないのなら稽古以外では放置していいだろうと雑に考えながら帰っていく。

普段は影浦に対し敵意など持たない間桐が、初めて影浦に怒りをぶつけたことは遥か彼方へと忘却された。

 

 

もし間桐と同性である影浦隊オペレーターがいれば、彼女の気持ちに一定の理解を示すだろう。

 

だが影浦には「好きな人のことを考えると頭が沸騰しそうになって心臓がドキドキする」のいった表現は漫画の世界にあるフィクションであり、仮に真相が分かったとしても好意や愛情が昂りすぎて命の危険を感じるほど身体に影響が生じる人間が存在するというのは異常すぎて理解が及ばないに違いない。

 

影浦雅人が、想像の範囲外にあるカマキリ女(間桐 花)を弟子にしたのは、懲罰降格したB級部隊としてのランク戦が始まる前。

五月のとある日のことだった。

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