SE持ちカマキリ女に狙われる影浦隊長 作:ワートリファン
ボーダーに所属する正隊員。
アタッカーとして
彼女は現在、スナイパーとして訓練を積むべく専用の訓練場で通常狙撃訓練に励んでいた。
これは百メートル先にある
五発ごとに的が遠くなり、命中した箇所が中心に近いほど点数が高くなる。
この訓練の結果を見ると、間桐は100人以上いるスナイパーの中でも下から数えた方が早い順位だった。
的の大きさが直径五十センチほどとはいえ、五月末から一ヶ月も真面目に訓練したのに情けないと密かに落ち込んだ。
だが挫けている暇は無いと気合を入れ直し、フリーの射撃練習を行うことにした。
スナイパーの訓練に情熱を燃やす理由は、B級部隊の影浦隊長に勧められたからの一言に尽きる。
間桐にとって影浦雅人という先輩は、恩人であり初恋の相手でもある事を差し引いても優しくて面倒見の良い先輩だと認識している。
警戒区域で危ない真似をしていた自分を助け、作戦室に押しかけた自分に(無理難題を与えて断るためとはいえ)入隊条件まで設けてくれた。
さらには、彼女のサイドエフェクトを心配して、それに頼らない戦い方を教える為にスコーピオンの稽古をつけてくれている。
面倒見の鬼だと、さらに惚れ直した。
入隊条件である”スナイパーでマスタークラスに到達する”ことが優しさの証だ。
影浦曰く「トリオン量が多いならスナイパーが向いている」との事だが、それならガンナーやシューターなどの中距離戦闘員が適切なのだ。
第一次侵攻でネイバーに両親を殺された間桐を心配して、ネイバーに対し遠距離から攻撃できるスナイパーを選んだのではないか。
間桐はそのように考えていた。
また稽古にしても同様。
ダラダラしてると身体が鈍るから慣らすのにちょうど良いと言うが、手取り足取り指導してくれており、影浦の肩慣らしとは程遠い。
間桐がアタッカーに向いていないと判断したにも関わらずスコーピオンの扱いを教えてくれているのは、彼女のやる気を削がないように、やりたいようにさせてくれる優しさだろう。
「尊敬する影浦隊長を見習いたい」という、不純な気持ちに端を発する熱意だが、それでも月に何度も教えてくれるのは感謝しかない。
それ故に、間桐はスナイパーとして技量を高めてランク戦に参加したいと考えている。
しかしうまくいかず、最近は悩む回数が増えていた。
「邪魔してこめんね?ちょっといいかな?」
「は、はい……?」
そんな間桐に声をかける相手が現れた。
帽子を被り、特徴的なぴったりとした白い戦闘服を纏う女の子。
「えっと、日浦さんだよね?」
B級中位・那須隊のスナイパー、日浦茜が声をかけてきた。
おそらく初対面の相手に対して人見知り特有の貼り付けた笑顔を浮かべた間桐に、日浦は弁解するように話す。
「急にごめんね。スナイパー女子って珍しいから仲良くなりたいなーって思って」
「……はぁ」
「それで声かけるの狙ってたんだけど、一息ついてもいいタイミングだったから」
「……お気遣いありがとうございます」
「全然気にしないで!それに伸び悩んでるみたいだから、私で良ければアドバイスとか出来るかもしれないし」
その言葉に、間桐は衝撃を受けた。
上達するには独学よりも先人から指導を受けた方が伸びやすい。
間桐は影浦から指導を受けていたのに、その事実を忘れていた。
早く一人前のスナイパーになる為にも、助言してくれる相手は貴重だ。
しかも相手は歳の近い女子。心理的なハードルが低い。
「是非お願いします!」
「うわっ元気いっぱい……」
「あ、すみません……」
「ううん違う違う!間桐さんって静かなイメージあったから明るくて良いなーって!」
そのようなやり取りがあり、間桐は日浦からアドバイスを受けるようになった。
姿勢や呼吸などの基本的な事を教えてもらい、的に向かって狙撃を行った。
すると明らかに、弾は狙った場所の近くに着弾するようなった。
これに驚く間桐と、一緒に喜ぶ日浦。
二人はだんだんと話すようになった。
少女達が出会って一ヶ月、間桐がスナイパーの訓練を始めて約二ヶ月経つころには友達と呼べる間柄となっていた。
仲良くなれた一番の理由は、二人が同じ学校に通う同級生だったことが大きい。
共通点や共感できる話題があり、二人とも互いに好感を持っていたことから、仲良くなるのも早かった。
今まで面識のなかった事を不思議に思った日浦に、第一次侵攻やサイドエフェクトの件でストレスが溜まり保健室登校していたと話せるくらいには距離が縮まっていた。
「花ちゃんもすっかり上手になったねー。私が越されるのも時間の問題かなー」
「全然そんな事ないよ!茜ちゃんの方が成績良いし、まだまだ訓練が足りないし……」
「でも花ちゃんすっごく真面目に練習してるし、そんな人が上達しやすいって奈良坂先輩も言ってた!」
「奈良坂先輩?」
間桐は聞き覚えのない名前に首を傾げる。
すると日浦は、嬉しそうに奈良坂の話を始めた。
「奈良坂先輩は私の師匠!A級部隊の一員で、No. 2スナイパーでもある凄い人なの!」
「すっごい人だね……」
「でしょー!」
日浦が奈良坂を尊敬してるのが伝わってくる。
それを微笑ましく思いながら、間桐は日浦と会話を続ける。
「なら茜ちゃんが私の師匠だね」
「そんな事ないよー!私だってまだまだ未熟だし、もう教えられる事も無くなっちゃったから」
「まだまだ教えてほしいんだけどな……」
「じゃあ、花ちゃんの師匠になってくれる人を探してみようよ!」
「え……」
「奈良坂先輩にお願いしてみて、花ちゃんの師匠になってくれそうな人がいないか聞いてみるね!」
「……」
「心配だと思うけど、私の知ってるスナイパーの先輩はみんな優しいし、花ちゃんのためにもなると思う」
「あ、ううんそうじゃなくて、その……」
間桐は言葉に窮した。
彼女は日浦と楽しく訓練できる状況が気に入ってるのもあり、それが無くなりかねないことに寂しさを感じていた。
そして、師匠、という言葉に影浦を思い浮かべていた。
影浦がスコーピオンを指導してくれるようになってから二ヶ月。
その間に影浦隊のメンバーと仲良くなったが、弟子に稽古をつけるような関係は、間桐のほかに居ないと聞いていた。
(だいたいはソロランク戦で戦って腕を磨き合うことばかり、とのこと)
つまり間桐は、弟子を自称しても良い立場なのではと考えていた。
影浦が師匠。その言葉の響きに心が満たされるような甘い気持ちが湧き上がってきていた。
そして考えが飛躍し、こんなことを思うようになっている。
私は影浦隊長の唯一の弟子で、私の師匠は影浦隊長ただ一人だけ。
独占欲に近いドロドロした情念を心地よいものと感じてしまい、スナイパーとはいえ影浦以外に師事することを浮気と感じて罪悪感を覚えたのだ。
「……花ちゃん、良かったら私たちの作戦室に来ない?」
「え」
「というかその表情はちょっと凄いよ」
「え」
「何が嫌なのか絶対教えて貰うからね!」
「え」
間桐の浮かべた表情に、乙女が反応する何かを見たのだろうか。
日浦にガッチリと肩を掴まれ、間桐は那須隊の作戦室に連行されることとなった。
連行された先には、那須隊の他メンバーは居なかった。
那須隊の隊長は自宅。
アタッカーの熊谷は、友人である那須の家。
オペレーターの志岐は超インドア派のため、用事がない限り作戦室に居ない。
間桐と日浦以外、誰もいない。
それがハードルを下げる一因となり、間桐は日浦に突っ込まれて影浦との関係を洗いざらい話す羽目になり、場が盛り上がったという。