零侍「………またここか。」
零侍は再び、あの白い部屋に来ていた。
気を失ったのだろう。だからここに来たーーー
「………違うだろ?」
零侍は少し細くした目で横を見る。
すると、やはりそこにはあの時の奴がいた。
「お前はそんな事でここに来たのではないだろう?」
零侍「………何が言いたいんだ?」
「………また、誤魔化すのか?嫌だと言って逃げるのか?」
零侍「………。」
僕は逃げて来たのだろう。
自分は怪物だ。周りとは一緒にはなれない。
そうやって『危険』から逃げようとしたのだろう。
けど、今そんな事を言ってる場合か?こんな怪物に優しく声をかけてくれた人がいるだろ?
その気持ちに応えないまま終わるつもりか?
零侍はそっと、鏡を触る。手の位置は中にいる奴の胸の部分である。
零侍「………あぁ、誤魔化すのかもしれない。ひょっとしたら僕は既に逃げてるのかもしれない。」
零侍は触れていた手を握りしめる。
零侍「生き物は怖い物から逃げるのは当然だ。己の身を守るにはそれが一番だからだ。だけど、僕は逃げて良い立場じゃ無い。力を持っている。………分かってる。自分の力の威力と恐ろしさは誰よりも知っている。だからこそ、守れる物がある。もう逃げる訳には行かない。」
「………なら、どうするんだ?このまま戦って無残に死ぬか?」
聞き返して来る鏡の中の奴………いや、そんな呼び方で言い訳が無いよな。
僕は笑みを浮かべる。
零侍「………今の『僕もどき』じゃ勝てない。本当の『僕』になって、初めて勝てる気がするんだ。だからーーー」
そう言うと握りしめていた拳で鏡を叩き割る。
すると、辺りにガラスが割れる様な音が鳴り響き、狭かった部屋の壁は消えて、何処までも広がる大地となる。
零侍「………もう一度、僕と共に戦ってくれ。『本当の僕』。」
零侍はそう言いながら目の前にいるもう一人の自分に手を伸ばす。
すると、もう一人の零侍は笑みを浮かべる。
「………勿論だ。いつか、お前が思い出してくれると信じてたぞ。」
二人は手を握り合う。
再び、自分の信念を貫く戦いの為に………。
▽△▽△○△▽△▽
椛「零侍!?しっかりして下さい!!」
椛が倒れている零侍にそう叫んだ次の瞬間、零侍を中心に光の爆発が起きる。
爆風が激しく、椛は腕を顔の前に出して防ぐ。
爆風が晴れ、椛が再び零侍のいた場所を見ると、そこには白と黒の羽が生えた人物が立っていた。
椛は、それが零侍であると気づくには時間がかかった。
いきなりの復活にアグニスも想定外らしく、戦闘体型を取る。
零侍「………待たせたな。もう、僕は失いはしないぞ。」
零侍がアグニスを睨む。
するとアグニスは両手を針に変え、襲いかかって来る。
だが、力を取り戻した零侍には焦る事では無かった。冷静に、『妖聖剣』を取り出す。
『妖聖剣』は色は純白であり、その姿は聖と正義を表している。
『ヴヴン!!』
アグニスは針にした手を思いっきり振り下ろす。しかし零侍は難なくそれをかわす。
目標を失ったアグニスの腕は地面に当たり、クレーターを作る。
零侍「………忌み嫌われ、それでも戦って来た僕の力を侮るな!」
そう言うと零侍は妖聖剣を振る。すると物凄い風が巻き起こり、アグニスの体は宙に浮く。
そして零侍が刀をアグニスの目の前で再び振る。するとアグニスは弾かれたかの様に吹き飛び、地面に衝突する。
すると、それと同時に今までグツグツと言っていた火山が大爆発を起こす。
椛「………!火山が!!」
大爆発をした火山を見ていた椛の横に、華扇の亡骸を抱いた零侍が降りて来る。
その姿はここではまるで、破壊を象徴するかの様な姿だった。
零侍「椛、華扇を………頼む。」
椛「え?あ、はい………って何を言ってるんですか!?」
零侍「え?」
椛「今火山が爆発したんですよ!?いくら貴方が火山弾を避けられたとしても、火砕流に巻き込まれれば終わりです!」
火山弾とは火山が噴火した際に火山灰と共に落ちて来る岩の事である。
零侍の今の力があれば当たる事は無いだろう。しかし、火砕流は火山が爆発した後に地面を這う様に流れてくる煙の様な物である。こう聞くと特に害は無さそうに聞こえるがこのガスの温度は100から700度はあり、巻き込まれたら一溜まりもない。
さらに、降りてくる時の移動速度は100km/時、高速道路で車が走っているスピードはある。
椛がそう言うと零侍は悲しそうに笑う。
零侍「逃げる訳にはいかないんだよ。僕のせいで華扇が命を落とした。だから、この落とし前は付けなければならない。」
椛「零侍さん………。」
そう言い終わると零侍は華扇を椛に預けると零侍はもう一人に声をかける。
零侍「僕は僕の犯した過ちを片付けに行く。邪魔をしないで欲しい。」
その人物は、鎌を持って零侍を観察していた夜行だった。
夜行は軽く鼻で笑う。
夜行「言っとくがな、悪者ってのはそんなちゃっちぃお願いを聞くと思ってるのか?」
夜行がそう言うと、零侍は夜行を睨む。
零侍「悪いけど、今の僕は復讐に駆られた『闇』かもしれないよ?」
零侍がそう言うとは思わなかったのか、しばらくポカンとした表情の夜行だったが、口元に笑みを浮かべたかと思うといきなり大声で笑い始める。
夜行「アハハハハハハハハハハハ!!自分が闇だって?自分をそう言う奴は久々だな!」
零侍「別に僕は正義のヒーローでも何でも無い。けどな、『自分が決めた事を今更やめる』事をしたく無いだけだ。」
夜行「………そうかい、行けよ優男。正義感満々なのはムカつくが、『男としての姿』は最高だ。」
いきなりの夜行の褒め言葉に若干驚きながらも、「ありがとう」と軽く笑うと羽を伸ばし、アグニスの方へと飛んで行く。
椛は華扇を抱きながら、夜行の事を睨む。すると夜行はため息を尽きながら喋り始める。
夜行「クソ狼、安心しろ。確かに悪だがお前らいきなり襲うほど腐っちゃいねぇよ。」
椛「………信じろと?」
椛がそう言うと夜行は肩に鎌である『死之國』を抱えながら椛をバカにする。
夜行「あの優男は男として俺の事を信じた、お前は生き物の『信念』を見抜けないアホなのか?」
その言葉に椛は顔を青くする。
私は生き物?
私は生きてるの………?
私は生き物と名乗って良いの?
こんなに………
『醜イ姿ヲシテイルノニ………?』
▽△▽△▽△○△▽△▽△▽
零侍「乱舞撃『乱れ桜』!」
零侍の刀から見惚れる程の美しさを誇る弾幕が飛んで行く。
しかしアグニスに感情不要、アグニスからは『光が違う攻撃』としか見えていない。
弾幕を避けるとガトリングにした片手を飛んでいる零侍に向ける。
零侍「その弾は遅いな!」
アグニスのガトリングは連射音を鳴らしながら銃弾をばら撒く。しかし零侍は軽々とそれを避けると再び弾幕を放つが、アグニスはそれをサイドステップで避けて行く。
零侍「もうパターン化したのか?厄介な学習能力………だ!」
零侍は片手を上に上げ、風符『天魔の横風』を発動する。
すると辺りには暴風が吹き荒れ始める。やがて小石を宙に浮かす程となり、ついには大岩までもが吹き飛び始める。
必死に踏ん張っていたアグニスだったがあまりの暴風に、体が宙に吹き飛ばされる。
『ヴン!?』
零侍「さぁ、いらっしゃい。僕の領域へ!真・迅速『見えない斬撃ー0・moment』!!」
零侍の姿が消えたかと思うと、別の所に姿を現す。
それと同時にアグニスの体が真っ二つになり、地面へ落下する。
夜行「………ん?終わったか?」
遠くから見物していた夜行が目を凝らす。
地面ではアグニスが衝突した時の土煙が立ち上っていた。しかし………。
零侍「………まだ、来る!」
土煙の上に浮いていた零侍は土煙の中からいきなり現れた無数の黒い触手の様な物から避ける。
だがその内の一本が零侍の足を捕まえる。
零侍「しまっ………ぐあぁ!!」
零侍はその触手に振り回された後、投げ捨てられ、地面に衝突する。
土煙が立ち上っている場所から無数の触手がうねうねしている状況だったが、土煙が晴れると、そこには体は元に戻り、その代わり斬られた切れ目から無数の触手を出していたアグニスが姿を現す。
零侍は立ち上がり、唾を吐く。
零侍「………二ラウンド目、行ってみるか!」
そう言うと零侍は刀を構え直し、地面を一蹴りでアグニスに近づくとそこから刀を思いっきり振り下ろす。
振り下ろされた刀は触手の一本に受け止められる。
零侍「らあああああああ!!」
零侍は何度も何度も、ありとあらゆる方法で斬りかかる。それを体に食らわまいと触手達が刀を弾いて行く。
そんな中、零侍は触手を弾き、体へのルートを見つけるとそこに容赦無く弾幕を撃ち込む。
『ヴオオオオオオオオ!!』
触手を出しまくっているアグニスはもはや怪物の様になっており、零侍の弾幕を食らうと苦しそうにそう吠える。
零侍はそこからかなりの距離を取る為に空へと登って行く。そしてある程度の高度に来ると、苦しんでいるアグニスを見下ろす形を取ると、刀を上に上げる。
すると周りから色とりどりの光が現れ始める。
零侍「これで………終わりだぁぁぁぁ!」
その言葉と同時に無数の光がビームとなりアグニスに降り注ぐ。
このビーム一つで魔理沙のマスタースパークの百倍、それが空を黒く染める程の雲を見せないかの様な数が降り注ぐ。
『ヴオオオオオオオオ!』
アグニスのいた場所は巨大な光のドームとなって爆発する。
その中でアグニスの体は溶けていった。
零侍「………やっと、終わった。」
零侍がそう言い、その場から立ち去ろうとした時、火山はさらなる大爆発を起こし、火砕流が降りてくる。
零侍「ヤバイ!そろそろ逃げるか。」
零侍がそう言い、その場から立ち去ろうとした時、零侍の足が止まる。そしてゆっくりと首だけ動かして後ろを向く。
零侍「……どうするつもりだ?」
零侍の背中には刀が突き立てられていた。
刀を突き立てていたのは白い犬耳の女子だった。
椛「何処へ逃げると言うのですか?」
零侍「何言ってるんだ椛?安全な所に逃げるに決まって……!」
そう言いかけて、零侍は目を見開く。
零侍の目に映っているのは犬走 椛だ。だが、彼は椛に向かってこう言った。
零侍「……お前、『誰だ』!?」
椛「そんな事はどうでもいい。ついて来い。」
零侍「…………。」
零侍は黙って手を上げた。
この時、零侍は新たな戦いにぶつかったのだ。
▽△▽△▽△○△▽△▽△▽
創夜「……零侍は、無事だよな?」
創夜は爆発した火山を見ながらそう言う。
凌「無事に決まってるだろ、アイツはこんな所でくたばる奴じゃ無い。それに、さっき椛から『大丈夫だ。』って連絡があっただろ。」
創夜「けど……。」
凌「……心配する気持ちは分かる。だけど悪いが、今の俺らにあの火山を相手出来る程の力は残っていない。」
先程の暗黒の使い、もとい闇の凌との戦いの後で、アリス達にかかった呪いを解きながらと力をかなり使っている。
そんな状態であの中に突っ込んで行けば無事では済まない。
凌は自分達のいた世界に帰る為の扉を出現させる。
凌「時には、他人を信じて任せる事も必要だ、創夜。」
闇の自分は自分では無いのか?
そんなことは無い、光だけで無く、闇があるから人は……いや、人に限らず全ての意思を持つ者は世界に存在する事が出来るのだ。
忘れてはならない。例え、自分が自分の闇を嫌おうと、見ないフリをしようと……その闇もあってこそ、自分がいると分かるのだ。
なら、どうすれば良いのか?それは……
また、先の世界で話をするとしましょう。
微妙かもしれませんが、これで〜風の希望の章〜は終わりです!
ここまで読んでくれた人、本当にありがとうございます!
誤字、脱字は連絡を( ´ ▽ ` )ノ