喫茶『衛宮さんち』   作:山崎五郎

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第二十二羽です。

オリジナル回です。


Friends

桐間紗路です。

 

私には最近、悩みがあります。

それは…

 

「…あ、セント、チサト、おはよう」

 

「シャロちゃんおはよう」

 

「!!!」

 

…私を見た瞬間、セントルシア・クラウ…長いからセントで。

友人のセントが、私を見た瞬間駆け出して行ってしまった。

 

近頃、あからさまに避けられてしまっている。

 

…原因は…なんとなく分かっている。

 

 

 

 

 

 

「でもぉ!!あんな露骨に避けなくたって良いじゃんって思うんですよぉ!!

学校でも避けてるし、謝ろうとしてもどっか行っちゃうしぃ…そりゃ隠してた私も悪いですけどぉ…!

 

ねえ聞いてますぅ!?」

 

「うう、む…絡み酒、ならぬ、絡みコーヒー…」

 

喫茶衛宮さんち。

シャロちゃんがやって来てセントへの愚痴をこぼしながらシロウに相談?しております。

 

確かにセントのあの態度はちょっとなぁ…今日だってシャロちゃんの姿が見えるなり速攻で裏に下がって何処かに行っちゃうし…

 

…そう言えばセント、実家に居た頃…やってきたばかりの時は、そもそも僕たちと話すらまともにしようとしなかったんだっけ…

 

 

 

 

 

 

 

「…ん。やっぱり、もう黙ってる訳にはいかない」

 

チサトがふんす、と鼻息を荒げて出てきた。

妹だけになにか知ってるのかな…

 

 

 

 

「チサトぉ…私何かしちゃったのかなぁ…

庶民だって隠してたから怒ってるのかなぁ…どうしよぉ…」

 

「………シャロちゃん、違う。

お兄ちゃんがシャロちゃんを避けてるのは、お兄ちゃんがシャロちゃんに合わせる顔がないって、思ってるから」

 

「? どういうこと…」

 

「ちょっとした、昔話。

お兄ちゃんと私が、今の家(衛宮家)に来る前のこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むかしむかし。

 

お金持ちの夫婦の家に生まれた、男の子と女の子の双子の兄弟がいました。

 

二人のお父さんは日本人とフランス人のハーフで、その縁から日本に別荘を持っていました。

家族で度々日本にやってくるので、すっかり日本語も饒舌に。

 

そんなある日、男の子は言ったのです。

 

『父様!僕、日本の庶民の小学校に行ってみたい!』

 

お父さんは驚き、お母さんはもっと驚きました。

最初こそ反対していましたが、男の子の熱意に押し切られ通うことを許してくれました。

 

そうして、男の子と、妹の女の子は公立の小学校に通うこととなったのです。

最初こそ物珍しさに近寄ってくる人ばかりでした。

 

どうせ仲良くするつもりはないと、そう思っている人ばかりでした。

 

しかし男の子も女の子も、皆と仲良くなっていきました。

 

駄菓子屋さんに行って、たくさんお菓子を買いました。

休み時間のグラウンドで、ボール遊びをしたり鬼ごっこやかくれんぼで遊びました。

 

学校で勉強をたくさんしました。

 

お家に友だちを招いたり、逆に遊びに行ったりしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ある時事件は起こりました。

 

男の子が友達の一人に突き飛ばされたのです。

 

その友達は、何だか元気がありませんでした。

男の子は心配して声をかけます。

 

しかし、友達はそっけないです。

男の子はもっと心配になりました。

 

『なあ、何かあったなら話してくれよ。

僕たち友達だろ?』

 

その一言を聞いた友達…と思っていた子が、男の子を突き飛ばしたのです。

 

『何が…友達だよ

 

俺の気持ちなんて何もわかってないくせに』

 

その子は、いつも笑っている子でした。

何があっても気にしない、クラスのムードメイカー。

 

お家が貧乏で、男の子は特に気にしていた友達でした。

 

だけど、

 

『お前が金持ちか見せつけられて…それで俺がどんなに惨めだったか分かるのかよ?

お前の家に行って…それで自分の家に帰って、どうしてこんなんなんだって…そんな気持ちがわかんのかよ!!』

 

男の子は何も言えませんでした。

それは男の子も、他の皆も、誰も気づけていなかったその子の本音でした。

 

そして

 

 

 

『お前なんか友達でもなんでもない!!』

 

 

 

――――――男の子は泣きました。

 

声を上げるわけでもなく、掴みかかるわけでもなく、怒るわけでもなく。

ただただ涙をぽろぽろ、ぽろぽろ。

たくさん流して泣きました。

 

 

男の子は家に帰って、ようやく声を上げてたくさん泣きました。

 

 

…それを知った男の子のお母さんは、とてもとても怒りました。

 

お母さんは、謝りにきた友達だった子とそのお母さんを追い返してしまったのです。

 

男の子は追いかけようとしました。

でも、それはできませんでした。

 

また、自分が余計なことを言って怒らせてしまうかもしれない。

また、自分が余計なことをして悲しませてしまうかもしれない。

 

そう思ったら、動けなかったのです。

 

 

 

 

男の子と女の子は、結局その学校をやめて別の学校に行くことにしました。

 

お母さんが決めたことです。

それからもお母さんは、男の子と女の子の仲良くする人や、やることなすことをこわいぐらいに気にかけるようになりました。

 

それではいけないと、お父さんは男の子と女の子をお母さんから少し離れさせようとしました。

 

『かわいい子には旅をさせよ』、だそうです。

 

 

 

お母さんは当然、反対しました。

またあんな事になったらどうする、と、たくさんたくさん怒って反対しました。

 

 

お父さんはお母さんと、たくさんたくさん話しました。

 

そして、お母さんは泣きながら、男の子と女の子を送り出すことを決めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それが、セントの昔の話、なのね。

それとチサト、あんたも」

 

「うん。それで…私とお兄ちゃんは衛宮家に来た。

でも」

 

「来たばかりのセントは、それはそれは塞ぎ込んでいた。

私達とはろくに会話すらしようとせず、おや…父とすら必要最低限しか会話しなかった。

 

自分の殻にこもってしまっていたよ」

 

…それは、何だか心当たりがあった。

学校にいる時も、セントは何だかよそよそしさが何処かにあった。

 

それなりに話はする、でも深く踏み込みはしないしさせない。

 

「でも…それでも、まだマシな方、なのよね」

 

「うん。

衛宮家に来たばかりの頃のお兄ちゃんは、見てられなかった。

一緒に居ないとボロボロなのに、近づきたくないし近づいてほしくない。

 

自分で自分を痛めつけてる、ような」

 

「話してくれるようになったあとでも、何か距離を感じたね〜」

 

 

 

 

…でも。

 

それは。

 

「セントが、何もかも悪いわけじゃないのに…」

 

「それは…多分分かってるんだと思う。

あの時は言いすぎだって、その時の先生も言ってた。

 

だけど…お兄ちゃんは、『自分が相手の気持ちを汲み取れなかったから』って言って聞かなかった。

 

というか、多分、今でもずっとそう思ってる」

 

「…っ」

 

そう言われてしまったら。

もう何も言えなくなってしまった。

 

だって、そんな彼を、一体どうして助けるなどと言えるのだろう。

私は、まるっきり彼と違うのに。

 

むしろ、素性を隠して、彼を傷つけたのに。

 

「…シャロちゃん。

お兄ちゃんのところ、行ってあげて欲しい」

 

「…私に、何ができるって言うのよ。

庶民だって隠して…結果的にセントを裏切ってたのに…」

 

「方法は、ある。これ、見て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼け空が目に染みる。

 

ああ、痛い。痛いな、ちくしょー。

 

痛すぎて涙が出てくるよ。

 

何やってんでしょうね、私は。

 

お金持ちばっかの学校で、特待生なんて。

おまけにバイト三昧なんて、普通気づかない?

 

ホント、何やってんだ。

あれから周りを気遣うようにしたんじゃなかったのか?

 

…違うか。

気遣うあまり、そもそも関わろうとしなかったから。

だから分かんなくなってたんだ。

 

あーあ。やっちまったなぁ。

 

なにが『こんなのお互い安物みたいなもん』だよ。

あれでシャロをどれだけ突き放した?

 

結局何も変わってないじゃんか、私。

 

 

 

 

 

「――――――隣、いい?」

 

「――――――シャロ?」

 

 

 

 

 

 

 

「…夕日、綺麗ね」

 

「…そうだな。

眩しい。目が眩んでよく見えないけど、綺麗って分かるよ

 

その辺の感性は同じで安心した」

 

「………そうね。同じものをちゃんと見ることができてる。

なんにも変わんないのよ、私もアンタも」

 

「……………変わらなく、ないだろ」

 

「おんなじよ。私もアンタも根っこはおんなじ」

 

 

「同じなわけ無いだろ!!!」

 

 

「…びっくりした。

隣で突然大声出さないでよ」

 

「うるさい!!

私の気持ちなんてわからないのに、分かったふりなんてするなよ!!

 

私が、お前にどんな…あのティーカップを送っただけじゃない、それ以外にも普段からどれだけお前を傷つけてたかって…それを思ったら、どんなに、怖いか…!」

 

「分かんないわよ」

 

「――――――――は?」

 

「分かんないわよ。他人が何考えてるのか100%分かる人なんて、エスパーかなんかじゃなきゃ分かりゃしないわよ」

 

「――――なら…!」

 

「だからこうして話すんじゃない。

 

話して、喧嘩して、お互いの気持さらけ出し合って。

それで、仲直りして。

 

友達って、そういうもんでしょ」

 

「……………

 

話、聞いたのか」

 

「聞いた」

 

「ハハ、ハ…チサトのやつ、余計なことしやがって。

 

友達…か。それ、小学生の時に聞きたかったな」

 

…ぽつ、ぽつ。

石畳に、水が落ちて跡が付く。

 

「だったら…私にどうしろって言うんだ?

お前が気にしてなくても…もう取り返しのつかないことをしたんだよ。

 

もう…諦めたんだよ…もう、無理だよ。

許されちゃいけないんだよ…だから」

 

 

 

 

ぱちん。

 

シャロが、その声の主を平手打ちしていた。

 

「…?」

 

「嘘、つくんじゃ、無いわよ…

 

もう諦めた?許されちゃいけない?

 

 

 

…だったら、コレはなんだっての?」

 

「…え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…て、がみ?』

 

『うん。

僕たちに話しにくいことでも、顔も知らない、名前も知らない、赤の他人になら…話せることも、あるんじゃないかなって、思ったんだけど…』

 

『………』

 

見当違いもいいとこだ。

でも…それでも、私はペンを取って便箋に向かっていた。

 

なにかに縋りたかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「『私は友達にひどいことをしてしまいました。結局、仲直りもできませんでした。

でも、もしもう一度会えるなら…仲直りがしたいです』

 

…ちゃんと、「手紙」なら話せるんじゃない」

 

「…どうして」

 

「…偶然って、こわいわね」

 

取り出した便箋。

そこにある字は、セントのよく見覚えのある字で。

 

「…私の、書いた…それに、これ…」

 

『私はその人じゃありません。その人がどう思ってるのか分からないけど…もう一度、話せたら良いなって思います。

 

そして何より、あなたが自分を許せますように』

 

「……………!」

 

「セント。

 

私は、あなたを突き放した…その男の子じゃない。

その子がどういう境遇に居たのかは分からないし、もしかしたら私と全然違ったのかもしれない。

 

でも、でもさ…それを、アンタがずっと気にし続けて、そこに縛られるのは、違うんじゃないの?

 

確かにその時無意識に酷いことをしたのかもしれない。

でも…セントは、それを間違ったことだって…言われるまでは思ってなかったんでしょ?」

 

「…でも、それは…それでも、あいつを傷つけてたことには…」

 

「それでも心配してたのは本当でしょ!!?」

 

「………」

 

「友達だから心配して、一緒に遊んで、そんなの普通のことじゃない。

あなたが傷つけたかったわけじゃないでしょ!?」

 

「…それは…」

 

「――――――ねえ、セント。

 

さっきも言ったけど。もう自分で自分を傷つけなくたっていいじゃない。

お金持ちでも、庶民でもいいじゃない。

 

いい加減、自分を、ゆるして、あげなさい、よぉ…」

 

「…なんで、お前が泣いてるんだよ」

 

「うるさい、うるさい…知らない…」

 

 

 

 

 

 

「ひどい顔。きれいな顔が台無しじゃない」

 

「お互い様だろ」

 

…結局、お互いにボロボロ泣いて。

ひっどい顔だ。

 

「…ねえ、セント。

私たち、もう一回ちゃんと友だちになりましょうよ。

 

お金持ちとか、庶民とか…そんなこと関係なしに」

 

「…いいのか?また余計なことするかもだぞ?」

 

「そんなのでいちいち傷ついてたらあの学校でやっていけないっての」

 

「それもそうだな」

 

 

…そうして、何だかおかしくて、二人揃って笑って。

帰り道を歩き出した。

 

 

 

「…ありがとね」

 

「何が」

 

「手紙。

正直ね、中学の頃から色々不安なことだらけで…アレに結構助けられてたのよ?

 

高校入ってやめるのも…ちょっと躊躇ってたぐらいだし」

 

「結局やめてるじゃないか」

 

「でも本人と会えたでしょ?」

 

「結果論だろ」

 

 

…助けられたのは、私の方だよ。

 

あんな事があって、母さんにも辛い思いをさせて。

 

周りの人に、傷ついてほしくなくて、傷つきたくなくて、ずっと逃げ続けて。

 

そんな毎日を、変えてくれたのは。

 

 

 

 

 

「シャロ」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日

 

「おはようシャロ!今日もいい天気だな!」

 

ヒク…

 

駄目だ。笑顔で取り繕おうとすると身体が拒否反応を起こす。

だからって昨日の今日でどう話せば良いんだよ!!

 

「お兄ちゃん、いつも通りいつも通り」

 

「いつも通りって何?いつもってどんな話し方してた?

どんな顔だった?声のトーンは?」

 

「会ってみりゃ分かる。ごーごー。」

 

「ちょおま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。

 

時期シャロとの待ち合わせ場所だ。

結局どう話したらいいか分かんないし、思い出せないし、どうしようどうしようどうしようどうしよう。

 

 

 

 

「…セント、チサト!おはよう!」

 

 

 

 

…あ。なんだ。

 

簡単じゃないか。

 

「「おはよう!!」」

 

 

 

 

いつも通り挨拶して、いつも通りくだらない話をして、いつも通り食事をともにして、いつも通り帰る。

 

友達なんて、それでいいんだ。

 

 

「シャロ!」

 

「ん?」

 

「また明日!」

 

「…うん。また明日」

 

 




コレを期に、セントくんはシャロちゃん達と以前よりも話しやすくなったそうですよ。









おまけ


「おはようシャロ!」

「…おはよ」

近頃、友達の一人がよく笑うようになった。
前、ちょっと色々あったから安心した。

…安心、するんだけど…

何か回数が増えた気がする。
まあ、それがなんだって言われたら。

…何なのかしら。


「あーーーもう!!」

なんかムカムカして、路端の石をカツンと蹴飛ばした。





「シャロちゃん…乙女ね♪」

「ですねぇ~」

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