オリジナル回です。
ここからしばらくの間オリジナル回が続きます。
なので更新も遅れるかと思われます。
夜。
日中は多くの人々や、様々な露店、そして街を元気に跳ね回るノラうさぎたちで賑わうこの木組みの街も、眠りにつく時間。
一部の夜でも空いている店も流石にその瞼を落し、その明かりを消している、そんな時間に、
「はぅう…さむさむ…春先とは言え夜中は寒いねぇ、もぉ…」
一人の老人警官は、パトロールをしていた。
平和の二文字を街の形にしたようなこの街でも、万が一という可能性はある。
当然、警官としての仕事はこなして然るべしものだ。
「とはいえ流石に厳しいなぁ…日が昇るもの早くなってくれりゃあ早めに切り上げられるんだけど…ん?」
…ひた、ひた。
……ひた、ひた、ひた。
ひた、ひた、ひた、ひた。
そんな音を立てながら。
一人の少年が歩いている。
裸足で、寝間着姿で、虚ろな目で、おぼつかない足取りで。
一人の少年が、歩いていた。
「ちょいちょいちょい…勘弁してくれよ、ったく…」
想定外の自体にぼやきつつも、職務を全うすべく少年に駆け寄る。
文句を言いつつも、根幹はしっかりとしているようだ。
「おい!そこの君!」
…少年は虚ろな目のまま、声のした方向に、ゆっくりと。
…朧げな顔つきで、目の焦点を合わせぬまま、向いた。
「何やってんだい、こんな時間に…しかも、こんな寒いのにパジャマに裸足…!
ったく、若気の至りにしても限度ってもんがあるよ?
ホラ、おじさんが付き添ってあげるから、帰りなさい。ね?」
少年は何も言わない。
なにか動きを見せるわけでもない。
ぼうっと、どこを見ているのか分からぬ瞳で、警官を眺めていた。
「…なあ君、本当に大丈夫なのかい?
どっか調子でも悪いんじゃ」
少年はあるく。
おぼろげなひょうじょうで、うつろなめで、はだしのあしで。
ひたひた。ひたひた。
ひた、ひた。
「チノちゃんおはよう!」
「…おはようございますココアさん。
珍しく朝から元気ですね」
「うん!でも春の陽気ですぐに眠く…ぐぅ」
「せっかく起きた意味ないじゃないですか!
立ったまま寝ないでください!」
「最近は結構暖かくなってきたね~」
「桜も咲き始めてきましたからね。
終業式も近いです」
「じゃあ春休み中に皆でお花見しようよ!
リゼちゃん千夜ちゃんシャロちゃん…マヤちゃんたちも誘って!
あ、もちろん
「…皆さんの予定が合えば、ですがね」
『…次のニュースです。
本日未明、街中で倒れていた警官の男性が、病院に搬送されたとのことです。
男性は中度の低体温症で、幸い一命を取り留めたとの…』
「…低体温症?」
「平熱よりも体温が低くなること、とは聞いたことが…
ですが、病院に搬送されるほどとは」
「行ってきまーす!」
「あ、ココアちゃん。おはよう」
「リンネくんおはよう!
タマキくんたちも元気そう…おや?」
ココアが何かに気づく。
それはリンネの次に話しかけた…
「タマキくん、結構厚着だね…」
「んん…ここんとこ何か冷える感じがして〜冷え性かしら?」
「今朝のニュースでも言ってましたね。
低体温症…私たちもタマキさんを見習って気をつけておいたほうが良いでしょうか」
「どうだろうね…少なくとも僕はなんともないよ?」
「まあこれはあたしの体質的な問題だし〜
そんな気にしすぎなくてもいいと思うよ?」
その後、学校へ。
「タマキくんそんなに冷え性なの?」
「うん。
実家に居たときにもこんなことなかったんだけどねぇ…」
「じゃあ最近になって突然症状が出てきたってことなのかな?
そういうことってあるの?」
「冷え性の原因は『筋肉が少ない(もしくはあまり使われない)』『ストレス』『生活習慣の乱れ』が挙げられるみたいだよ
この3つでいうと…」
「タマキくん細身に見えるけど筋肉はそれなりにあるよね」
「なんで知ってるのさココアちゃん。
ストレス…はタマキとは無縁そうだし、となると…」
「生活習慣の乱れ、かしら?」
「…あたし、これでも割と健康的な生活してるんですヨ?」
「まあ、一応ちゃんと風呂も入るし、寝る時間も確保してるし…
いや君の場合確保しすぎかも」
「え〜」
「え〜じゃないよ。
お仕事中に席に座って昼寝してる喫茶店員がどこに居るってのさ」
「えへへぇ…」
「居たよぉ…よりにもよってお隣りにいたよぉ…」
「うーん…そうなると、この例には当てはまらないのかしら。
でも冷え性にはなってるのよね…」
「生活習慣の乱れって、何も生活態度だけじゃないよ。
例えば…偏った食生活とか」
「…あたし食事に好き嫌いとかないんだけど」
「それは知ってるよ。問題は別のところ。これによると『糖質のとり過ぎによる血行不良』も冷え性の原因になりうるんだってさ。
…そういえば、このところ和食スイーツ目当てに毎日喫茶店に足繁く通ってる人が居たっけ?」
「「………」」
タマキと千夜が咄嗟に目をそらした。
何か心当たりがあるんだな。
「糖質…糖分…甘いもの…」
「別にそればっかりが原因とは言わないけど。
タマキは甘兎がお気に入りだし、普通のお客よりもずっと多く通ってるだろうし。
人に比べたらとりすぎの部類には入っちゃうんじゃないかな」
「そ、そんなバカな〜。
あたしがどんぐらい前から甘兎通い始めたか、リンネくんだって知らないわけじゃないでしょ〜に。
流石にそれが原因じゃ」
「無い。とも言い切れないんじゃない?
ね、千夜ちゃん」
「……………」
何も言えなくなってしまった。
無理もない。新作スイーツを作るたび、試食を頼んでいたし、お得意様として歓迎もしていたのだ。
その度自分の店の甘味に舌鼓を打つタマキの姿を、千夜は間違い中何度も見ているのだから。
「ま、それでなくともタマキは最近
しばらく様子見も兼ねて、甘兎通いはお休みにしよっか!」
「…え、ええ〜。
ちょっとそれは厳しすぎなんじゃないかな〜リンネくん。
そりゃ、糖質摂りすぎってんならちょっと自重したほうが良いかもしれないけどさ。
まだ原因がはっきりしたわけでもないんだしさ〜」
「でも、うちの仕事休みがちなのは事実だし。
可能性もないわけじゃないから、どの道しばらくは仕事に集中してもらうことなるよ」
「え〜」
「えーじゃありません!
これは決定事項だから!後でシロウにも連絡して見張ってもらうようにしないと…」
「あ~あ…しばらく甘兎行けないのか〜。
三色だんご…あんみつ…抹茶パフェ…うう…」
「…ねえタマキくん。放課後にうちに来ない?」
「ええ〜?
でも、リンネくんが禁止って…」
「私からも頼むわ。せめて今日だけ…って。
ね?」
「…そーゆーことなら、おじゃましよっかな〜」
で、甘兎庵。
出てきたのはいつもの温かい緑茶。
「流石にああいうことがあった手前、甘味は出せないけど…せめて温まるものを、と思って」
「成る程。
それでお店じゃなくてお家の方に呼んだのね〜」
「そういうこと。タマキくんうちのお茶いつも美味しそうに飲んでるし、コレが一番と思って…どうかしら?」
「いつも通り美味しいですよ~。
温まるし。ありがとね〜」
「ふふ、なら良かった♪」
「………でもさー。流石にちょっとこれはどうかと思うよ?」
「え?」
「同級生の男を家に連れ込んで〜なんて。
あたしが変なこと考えたらどうするつもりなの?」
「タマキくんはそんなこと考える人じゃないでしょ?
普段からみてるんだもの、よく分かってるわ」
「………ふ~ん…ふ~ん………」
面白くなさそうな顔をして明後日の方向を向くタマキ。
それを見て千夜は?と首を傾げた。
「まあ、このお茶はせめて最後までいただきますよ~っと。
ん…うまいねぇ、相変わらず」
「他にも身体を温めたいならショウガ湯とかも良いかもしれないわ。
明日はそれを出そうかしら?」
「って、あたし明日も来るの確定なワケ?
リンネくんに今日だけって言っちゃったじゃ〜ん」
「あら、そう言えばそうだったわ…事情を説明したら納得してもらえるかしら?」
「どうかな〜リンネくんアレで結構頑固なとこあるし〜」
「あら、そうなの?」
「うん。昔さ〜」
「んじゃね〜」
「またね〜♪」
日暮れも近くなった頃。
タマキはお家へ帰りました。
「なんだい。あの坊主、今日は客じゃなかったのかい」
「おばあちゃん。
タマキくん最近冷え性みたいで、糖質対策だって…」
「ふん、何を偉そうなことを。
若いもんが先のことばかり気にかけてどうするってんだい
好きなもんも食えないで何が楽しいんだが」
「おばあちゃん…」
「あんたもあんただよ、千夜。
せっかくいつも来てるあの坊主を眺めるのが日課になってたってのにねえ」
「………え?」
「ふん、無自覚かい。
知らぬは本人ばかりなり、とはよく言ったもんだね」
「………え、え?」
ひた、ひた、ひた。
音を立てて、あるく。
さむい。さむい。
とてもさむい。
あたたかいものが、ほしい。
ふとんにくるまっても、のみものをのんでも、さむい。
あついものが、ほしい。
あついもの、みつけた。
あかいものをのばす。
あかいのが、あついのにふれた。
あたたかくなった。
あつかったものは、つめたくなって、たおれた。
はやくかえろう。
あしたもがっこうだ。
このあついのがつめたくなるまえに、かえろう。
ひた、ひた、ひた。
『次のニュースです。
本日未明、またしても中度の低体温症となって倒れた人が発見され、数名が病院に搬送されたとのことです。
証言によりますと、倒れたうちのひとりは、赤いものを見たあと、気を失ったと証言しており、警察が捜査を…』
反転衝動。