喫茶『衛宮さんち』   作:山崎五郎

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反転衝動。


ちすいのきくか

「ん…ぁ…うう、さむさむ…」

 

衛宮タマキが目を覚ました。

この所冷え性に悩まされている彼は、目覚めと同時にとっさに布団にくるまる。

 

が、残念ながら時間は残酷だ。

 

「タマキ!学校の時間が迫っているぞ!

もう他のものも起きている!お前も起きるんだ!」

 

「そんな殺生な〜」

 

一家の長であるシロウに叩き起こされ、布団も剥ぎ取られた。

仕方なく渋々起き、制服に着替え家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春の陽気。

街の花は少しずつ蕾から花を開き始める。

 

しかして自分はこの通り。

あいも変わらず、冷え性に悩まされている。

 

 

せっかく友達や家族がいろいろ対策を講じてくれたというのに、まるで良い方向へと進む見込みがございません。

それどころか、日増しに悪くなってってるような…どうしろってのよ、もう!

 

「タマキくんの冷え性治んないね〜」

 

「本当どうしちゃったんですかね〜あたしの身体。

もう病院行かなきゃダメかなぁ…」

 

「この近くに冷え性を見てくれそうなところってあったかしら…」

 

と、朝から集まって話していると、なんだ何だとクラスメイトの皆さまが寄ってきました。

 

 

「なになにー。タマキくん、風邪引いたの?」

 

「風邪っていうか…冷え性?

色々やってみたんだけど、まるで治りそうにないんだよね〜」

 

「俺のカイロ使うか?

懐に入ってたからまだあったけーぞ!」

 

「なぜこの時期にまだカイロを…とは聞かないでおくとしよう」

 

それからクラスメイトの皆さまがあれやこれやと対策だったり温まるものだったりをおすそ分けしてくださいました。

もう1年も終わってクラス離れるかもってのに、皆優しいねぇ。

 

 

「あ…冷え性っていえば、だんだん増えてきてるよね、低体温症で倒れる人…」

 

「あーアレか。

なんか『赤い髪のやつに襲われたー!』とか言ってたやつだろ?」

 

「ニカワには信じがたいがな。

そもそもその赤い髪のものに襲われることと、低体温症が原因になることに関連性が…」

 

…あれれ。

街の怪奇現象のお話にシフトチェンジしちゃいましたヨ?

 

と、思ったら先生が入ってきた。

皆が蜘蛛の子を散らすように各々の席に戻っていく。

 

先生の話は、春休みが近いことや、進級のこと、そして勉学のこと。

それらに一喜一憂しつつ、また本日も学校は始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜。はー、今日も寒いや…」

 

「おかえり。その分ではまともに働くのも無理そうだな…おとなしく部屋で休んでいると良い。

…温まってな」

 

「そ〜するよ。ありがと〜…うぶぶぅ」

 

変わらぬ冷え性に悩まされながらも、階段をゆっくり登っていくのでした。

 

 

 

 

 

「…重症なようだな、タマキは」

 

「うん。学校でもよく症状が出てて…学校の皆にいろいろ助けてもらったよ」

 

「…明日にでも医者に連れて行ったほうが良さそうだ。

明日は学校を休ませるとしよう。

 

リンネ、その間のことを頼めるか?」

 

「うん、任せて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日はシロウちゃんが病院に連れて行ってくれるらしい。みんなに心配かけちゃったなぁ。

 

早く治して安心させてあげないと。

春休みまでには治して、皆でお花見がしたい。

 

とりあえず、今は寒いのをこらえて寝よう。

明日になれば、少しでもマシになるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆめをみる。

 

ふわふわとうかびながら、ゆっくりとじめんにおりた。

 

ふわふわのうさぎが、いっしょにいこうとてまねきする。

 

 

 

ひたひたとさんぽする。

 

 

 

 

 

 

ゆらゆらのあたまはからっぽで、

 

 

 

 

 

 

きちきちしたもくてきなんてうわのそら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くすくすとわらって、ごーごー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くすくすとわらって、ごーごー。

 

 

 

 

 

 

 

からからとにんぎょうたちが、ぱたぱたじめんにころがって、

ころころころところがっていく。 

 

 

 

 

 

ふわふわとぶのはきちんとおとなになってから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごうごう。

 

ごうごう。

 

ごうごう。

 

 

 

 

 

 

からからと、わらいごえ。

 

こわくしたおぼえは、ありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きんきんうるさくひびくので

 

 

 

 

 

 

くうくうおなかがなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

おにんぎょうさんのてから、おいしそうなみつが。

 

つかれたときにはあまいもの。

 

 

 

ちょっとわけてもらいましょう。あーん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「精が出るな、化け物。やはり早々に始末しておくべきだったな」

 

 

 

…化け物と呼ばれた赤い髪の少年は、その手に持っていたものをボタリ、と落とした。

 

それは、人形ではなく、人間の腕。

 

そして、垂れていたのは蜜ではなく…赤いもの。

 

 

「人死が出ていないのが奇跡だ。

手遅れになる前に、始末させてもらおう。

 

猶予は終わりだ」

 

声をかけた男は、懐から十字架を取り出す。

そこから剣のようなものが生えて。

 

「――きら―きら――――きれい―――――」

 

 

 

手を伸ばした少年の左腕が、切断された。

投げつけられた剣は、後ろの壁に突き刺さる。

 

吹き飛んだ腕が、ぽたりと落ちた。

 

「―――――――」

 

「せめてもの慈悲だ。ここで殺してやる…」

 

 

 

 

少年の身体に一本、二本、三本、次々剣が突き刺さる。

通りすぎる剣も、腹を、腕を、足を、頭を斬りつける。

 

ぼろぼろになった少年は、ばたんと横向きに倒れた。

見るも無惨な姿。全身から血を流した少年は…

 

 

「――――――――――あ、あ」

 

「…まだ息があるのか、化け物め」

 

男はまた一本剣を取り出し、少年に歩み寄る。が

 

 

 

 

「…あ?」

 

突然、地面に倒れた。

なにかに躓いたのか。それとも足がもつれたのか。

 

…違う。

足が動かない(・・・・・・)

 

なんだ、これは。

 

 

 

とっさに少年の方を見た。

いつの間にか赤い髪が伸び、…近くに倒れていた人の血を舐めていた(・・・・・・・)

 

 

「…ッ!!貴様!!」

 

倒れた状態でとっさに剣を投げつける。

…その剣は、少年に辿り着く前に気化した

 

 

 

「――――――は」

 

「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

千切れた腕がなにかに引っ張られるようにびゅん、と飛び、断面同士がくっついた。

そして、ぐねぐねと断面同士が蠢き…

 

腕がもとのとおりになった。

 

剣によってつけられた傷は次第に再生し、刺さった剣はなにかに押し出されるように身体から出て地面にがらん、と音を立てて落ちた。

 

 

 

 

「―――――貴様、

 

もう、そこまで」

 

 

 

 

男が赤いものに飲まれた。

ばたり、と倒れ伏し、更に赤いものは広がっていく。

 

半径5メートル、10メートル、20メートル。

…やがて、街中に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝。本日も春が近いことを予感させる温かい朝晴れだ。

しかし、現在冷え性に悩まされているタマキにとってはこの朝晴れも大して意味を成さないのだろう。

 

さっさと病院に連れて行かなくてはな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………は?

 

「タマキ…おい、タマキ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん…」

 

また朝が来た。

もうすぐ終業式。春も近い。

 

確か今日タマキくんは病院に行くから休みなのよね。

これで少しでも良くなる手立てがあれば良いんだけれど…

 

 

 

 

ブーッ!ブーッ!ブーッ!

 

…あら、ココアちゃんからだわ。

こんな朝にどうしたのかしら…

 

 

「もし『もしもし千夜ちゃん!?今タマキくんが、タマキくんが…!!』!?」

 

び、びっくりした…タマキくんがどうしたのかしら。

電話の向こうからは『ココアちゃん落ち着いて!』というリンネくんの声が…何だか騒がしいわ。

 

「もしもし?ココアちゃん?一体どうしたの?

タマキくんがどうかしたのかしら…」

 

『もしもし千夜ちゃん。単刀直入に言うよ。

 

 

 

 

今朝タマキが店先で倒れてた。今病院に運ばれたよ』

 

「………え」

 

ぴし、と。

 

手鏡にヒビが入った。

 





ED『花の唄』Aimer

エンドカード『彼岸花のブーケで口元を隠し、虚ろな目でこちらを見るタマキ』





混血。
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