喫茶『衛宮さんち』   作:山崎五郎

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略奪。


さくらのゆめ

翌日。

 

目を覚ます。

 

今日はまだ学校。

昨日休んでしまったし、今日はちゃんと行かないと。

 

 

 

そして登校の用意をしたところで、おばあちゃんから『今日は出席停止だよ』と言われた。

どうして?と思ったら『ニュースぐらい確認しときな』とテレビをつけられて…驚くようなニュースが。

 

先日から度々確認されていた低体温症で倒れた人が、近頃は街中で確認されているというのだ。

しかも、それに合わせて被害人数も軽く三桁に登るらしい。

 

 

一体何が起こっているの。

タマキくんの怪我のことといい、おかしなことが多すぎる。

 

やっぱり今このまちはあぶないんだわ。

はやくたまきくんのところにいかなきゃ。

 

それでずっとわたしのそばにおいておかないと。

そしたらなにも「千夜!!」ひゃっ!?」

 

 

「ぼけっと立ってないで部屋に戻りな。

この調子じゃお客も来るかどうかわかりゃしないんだから」

 

「あ…うん、ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、仕事もないので部屋で大人しく収まっていたものの、やはり落ち着かない。

時間つぶしも兼ねて予習復習をしたり、部屋の掃除をしてみたもののそれもすぐに片付いてしまった。

 

テレビを試しにつけてみても連日の低体温症事件の話ばかり。

 

もどかしい。

 

かといって、外に出るのも許して貰えそうにないし…

 

 

 

 

 

 

気まぐれにふらりと、店の方に出てみた。

 

…あんこが扉の前で座っている。

いつもなら台の上か、ごはんの時間になったら勝手にやってくるのに、今日はまるで動く気配がない。

 

 

「あんこ。

…待ってても今日はタマキくんは来ないわよ」

 

 

やっぱり動かない。

来るはずのないお客様をずっと待ってる。

 

この子も察しが良いのか悪いのか。

 

 

「ふふ…そんなにタマキくんのこと好きになったの?」

 

 

そっとあんこを抱きかかえて、席に移動する。

彼がよく座っていた席だ。

 

初めて店に来てそうそう、あんこに顔に飛びつかれて…

頭の上に乗ったり、膝の上で撫でたり。

 

注文した甘味を分けてあげたり。

 

タマキくんもなんだかんだ、あんこのこと気に入ってたのよね。

 

 

この席でよく談話もしてたっけ。

学校のこと、自分の家族のこと。

 

 

初めて会ったときはビックリした。

突然「あなたが、私の御主人様ですか?」なんて。

 

話してみたら、案外気の軽い…んん。

話しやすい人だった。

 

同じ学校だって分かってからは、よく通学のときにも話すようになって。

プライベートな時間にも、一緒の時間が増えて。

 

 

 

 

…ああ。なんだ、今更。

 

 

彼は、こんなにも、私の日常の大切な一つだったなんて。

 

 

こんな時に、気づくなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、また病院に来ていた。

あいも変わらず、人でごった返している。

 

もう一度、彼に面会できないか頼んでみた。

 

『現在、面会に来ているお方が…その方の次で良ければ、と』

 

…先に来た人?

シロウさんとかかしら。それともココアちゃんたちが先に?

 

『分かりました、じゃあ…『ただし』…はい?』

 

『そちらのうさぎさんはケージに入れるか、こちらに預けるかしてください。

衛生上の懸念がありますので』

 

…あらやだ。

連れてきちゃってたわ、あんこのこと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、タマキくんが入院してる病室までやって来た。

ガララ、とドアが開かれて、部屋の中から女性が一人出てきた。

 

…綺麗な人。

同性の私ですらうっかり目を奪われてしまうような、美人さんだった。

 

腰まで伸びた艷やかな黒髪に、水晶のような水色の瞳。

…タマキくんの部屋から出てきたってことは…彼の知り合い?

 

 

「…そちらのお嬢さん。

私になにかご用かしら」

 

「えっ?」

 

いけない。思わず見惚れてしまっていたみたいだ。

早くタマキくんのところに行かないと…

 

「ご、ごめんなさい!その…友人のお見舞いに来たんです。

変なこと考えてたわけじゃ…ええと、失礼しま「ちょっと待ってくださる?」…はい?」

 

「貴女。見覚えがあるわ。…タマキの手紙に書いてあった…」

 

「…手紙?あなたは…」

 

「そうね。自己紹介しておきましょうか。

 

私は遠野(とおの)秋葉(あきは)

タマキ…遠野環の母です」

 

………はい?

は、は?

 

つまり、その。

 

「タマキくんの…お母様、ですか?」

 

「そう申し上げたのですが、聞き違いでもなさったのかしら」

 

「そ、その…ええと」

 

「お嬢さん!お気持ちお察ししますよ!!」

 

「見た目とあるべき身体年齢像が噛み合わず困惑しているのですね。

理解できます」

 

と、秋葉さん、の後ろから赤い髪の女性が二人現れた。

…見た目がそっくり。双子かしら。

 

―――――――琥珀、翡翠。

余計なことは慎みなさいな。

 

それとも、来月の給与査定がそんなに楽しみなのかしら?」

 

「うっ!!そ、それはズルいですよ秋葉様!

パワハラ反対!!」

 

「主人を小馬鹿にして楽しむような使用人には妥当な躾でしょう。

そもそも給与とは真面目に働いた分出るものよ?」

 

「……………」

 

え、ええと。

めおと…じゃなくて、主従漫才?が始まってしまったわ。

 

「…秋葉様、姉さん。こちらのお嬢さんがお困りです。

そのあたりに」

 

「あら…失礼致しました。

わざわざ息子のお見舞いに来てくださるなんて、あの子も喜ぶわ」

 

「は、はい…」

 

そんな空返事しか返せない。

なんというか、眼の前の人たちが強烈過ぎて…これがタマキくんの家族…

 

「ふふ、こんな素敵なお方がお友達だなんて、環様もお幸せものですね!

もうすぐこちらに戻ってきてしまうとは言え、仲良くしてくださってありがとうございます!」

 

「い、いえこちらこそ…

 

 

 

 

 

 

 

はい?」

 

今、

―――――――――なんて?

 

戻ってきてしまう、って?

あの赤い髪の人、なにをいってるの?

 

「………姉さん」

 

「あら、そう言えばまだ教えてはいませんでしたね。

寝耳に水でしたか…申し訳ないです!」

 

「どういう、ことですか?」

 

「………あら?」

 

「………!」

 

「たまきくんがもどるって、どこに?

なんで、どうして?」

 

「……………タマキは幸せものね。

こんなに想ってくれるお方ができたなんて。

 

まあ、喜ばしい…と手放しには言えないのだろうけど」

 

「そんなことどうでもいいんです。

タマキくんがもどるってなんなんですか。

 

くわしく いますぐ せつめいしてください。

 

いま、わたしはれいせいさをかこうとしています」

 

「「……………」」

 

「――――――――――ふぅ

 

 

仕方がないわ。

琥珀、アレをこちらの方に」

 

「…秋葉様!姉さん…!」

 

「翡翠。

 

…もう躊躇っている余地はないの。

あなたもいい加減理解しなさいな」

 

「……………」

 

「まあまあ翡翠ちゃん。そんなに落ち込まないの。

さあこちらのメガネを掛けてくださいまし。

 

ええと…」

 

「千夜です。宇治松千夜。

それで、この眼鏡は…」

 

「まあまあ、掛けてみれば分かりますとも!!

さあどうぞ!」

 

と、赤い髪の…恐らく琥珀さん、がメガネを私の顔にかけた。

特になにか変わった様子はない。

 

先程と同じく、眼の前には赤い髪の人が3人…

 

 

 

 

 

 

 

さん、にん。

 

―――――――――3人。

 

 

違う。何かがおかしい。

たしかに自分の眼は、この赤い髪の3人の女性と現実を捉えている。

 

しかし、私の頭が、脳髄が、記憶がそれらを否定する。

…何がおかしいのだろう。記憶を…先程までの…

 

 

 

腰まで伸びた艷やかな黒髪に、水晶のような水色の瞳。

 

 

 

…そうだわ。

秋葉さんはタマキくんと同じ黒い髪だったはずよ。

 

なのに、どうして今は赤く。

 

「………その反応なら、問題はないのだろうけど…念のためお聞きするわ。

千夜さん。私の髪は(・・・・)何色に見えている(・・・・・・・・)かしら?

 

「………赤い。赤い色です」

 

「ええ、そうね。正解よ

 

 

 

…では、次はアレを見てもらいましょうか」

 

と。秋葉さんが扉をガラガラと開き…あ

 

 

 

 

 

タマキくんがいた。

ベッドの上ですうすうと寝息を立てて、眠っている。

 

安らかな寝顔には、赤い髪が…

 

 

 

 

赤い、髪。

黒いはずの、彼の髪は。

 

秋葉さんと同じように。

 

 

 

「その分なら、タマキの髪もやはり赤いようね。

まあ、私ならそんなもの使うまでもないのだけど」

 

「…それが、なんだっていうんですか」

 

秋葉さんの髪が赤かったら、タマキくんの髪が赤かったら。

どうしたっていうんですか。

 

「そうね。それだけでは理由にはならないでしょう。

なら、次はそのままコレを見てもらえるかしら」

 

…それは、恐らくこの街の監視カメラの映像。

夜の街を、赤い髪の人がふらふらと歩いている。

 

…タマキくんだ。

 

違う映像に切り替わった。

人の前に立っているタマキくんが、赤い髪を伸ばして…その人達に触れた。

 

髪が触れた人たちは倒れた。

そして…タマキくんはまたふらふらと歩きだした。

 

これは、

 

「…そういえば、少し前からこの街では低体温症で倒れる人が居たんだったかしら」

 

…それは。

だって、そんなの。

 

おかしい。

普通に考えてありえない。

 

でも、この映像を見た限りでは…

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――今までの倒れた人はタマキくんが原因だって。

 

そう、言いたいんですか」

 

「寧ろ、それ以外になにか理由になりうるものがあるというのかしら?」

 

「…ある、とは言えません。

でも、この映像が事実だと言い切れないのも本当じゃないんですか」

 

「あら、フェイク映像だとでも言うの?

断っておくけど、その映像は本物よ。この街のお偉方に協力してもらったの」

 

「………なら、なんでこんな事になってるって言うんですか。

あの赤い髪は…あなたとタマキくんに、何があるっていうんですか」

 

「………その眼鏡をかけたまま、こちらを見ていて」

 

 

 

秋葉さんが何か…水晶のようなものを取り出す。

手のひらの上に乗ったそれに、秋葉さんの赤い髪が伸びて…

 

触れた水晶が、少し時間を置いて燃え上がって…消失した。

 

 

 

「これが遠野家に伝わる力。

任意の対象から熱を奪い、果てはこの通り気化させる力です」

 

「………熱を、奪う」

 

「心当たりがあるかしら。というか、ここまで来て理解できていないほうが困るのだけれど」

 

「……………」

 

低体温症事件は、タマキくんが引き起こしていた。

その、熱を奪う力で、街の人達から熱を奪って。

 

果ては、こんな多くの人を…

 

「幸い、タマキの力はまだ未熟です。

おまけに、自覚もない。夢遊病のように彷徨って、不十分な熱を奪うだけ。

 

しかし、もしこのまま暴走を続ければ…先程の水晶玉のようになる人間が(・・・)出てくることでしょう」

 

「―――――――――」

 

「コレで分かっていただけたかしら。

これ以上タマキをこの街に置いておくわけには行かない理由が」

 

「―――――なんとか、出来るんですか?」

 

「ええ。力を完全になくす…とはいかないでしょうけど、コントロールする方法を教えることはできるわ。

ただ、一朝一夕に身に付くものではないから…」

 

だから、一度家に戻るしかないのね…

でも、それなら少し安心したわ。

 

その力をなんとかすれば、またこの街に

 

「しかし秋葉様。タマキ様はこの街に戻ってくることはできないのではないですか?」

 

は?

 

「だって、よくよく考えてみてください。

この街で倒れた人たちは、全部自分が原因なんですよ?

 

おまけに、その中には生死の境目を彷徨った人だって居ます。

 

――――――そんな人達を目の当たりにして、タマキ様が何も思わずにいられるんでしょうか」

 

 

 

―――――――――それ、は。

 

でも、そんなの。

 

 

 

「…まあ、それは後々様子を見て考えるとしましょう。

琥珀、翡翠。次は院長に手続きに行くわ」

 

「……………」

 

「…お別れなら、早めに済ませておいてくださいな。

戻ってくる保証はできないのだから」

 

そう言って、タマキくんを一瞥し。

秋葉さんと琥珀さん、翡翠さんは去っていった。

 

 








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