喫茶『衛宮さんち』   作:山崎五郎

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温かな、春の日に。








春はゆく

 

あの事件から、数日。

学校は春休みに入り、街はいつも通りの騒がしいながらも、穏やかな日々。

 

春を告げる桜の花が少しずつ、舞っている。

 

「タマキくん…」

 

今、この街にいない彼を想う。

私の膝の上に座る、我が家の看板うさぎもピクリと反応する。

 

「ふふっ。そうね、あんこ…

 

早く、帰ってこないかなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

遡ること数日。

 

木組みの街の病院にて。

 

 

 

 

 

 

 

「琥珀、その薬は…どうして…」

 

「………実は、とあるお方に譲り受けたんですよ。それも、つい先程!!

まさかここまで効くなんて驚きでしたけど…なにはともあれ、ということで!」

 

「それで済ませられるわけがないでしょう!?

どういうことが説明なさいな!!」

 

「―――――あくまでも、その方からの又聞きですが。

 

先程の薬の原料となっているのは、陸奥の山中にある清水とのことです」

 

「陸奥…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『鬼に限りなく近しい存在に霊薬を使って成った人間が、そこで肉体を清めて人間に戻った…って逸話があって。

先輩とかその他魔術に詳しい人達に協力してもらって出来たんだよ。その薬が。

 

 

効果はお墨付きだから、心配しないで大丈夫だと思う。

なんせ、真祖様の吸血衝動だって抑えられるほどなんだからさ』

 

 

 

 

 

 

 

「…なら、環は。

もう、心配することはないってことなのかしら」

 

「完全に、とは言い切れませんが。

少なくとも、これで吸血衝動は無くなっているはずです!!」

 

「……………」

 

はぁぁあ。と思わず大きなため息をついて壁にもたれかかった。

そんな薬があるのなら、今までの私の苦悩や苦痛は何だったというのだ。

 

「とはいえ。環様はまだ力が残っています。

その調整を行うため、やはり一度は帰ってきて頂く必要があるかと」

 

「………まあ、そりゃあそうだよね〜」

 

「…でも、今度はちゃんと、帰って来るんですよね?」

 

「はい!もうイジワル言ったりしませんよ!!」

 

息子と、その友人と、我が家の使用人二人は嬉しそうに言葉をかわす。

…せっかくだ、一つ聞いておこう。

 

「琥珀、翡翠。一つ良いかしら」

 

「はい、何でしょうか」

 

「その薬を渡してきたって人は誰なのかしら?

赤の他人が気まぐれに私達を助けたというわけなんて無いでしょう?」

 

「…まあ、秋葉さまなら何となく感づいておられるかもしれませんが。

我々のよく知るお方ですよ。

 

 

 

可愛い甥っ子(・・・・・・)のために急いで駆けつけた、だそうです」

 

「――――――――そう。

 

 

まったく、もう。

あの人は、本当に…勝手なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終業式を終えてすぐ。

あたしは帰郷のため車に乗り込み…

 

 

それから数時間かけ、久しぶりに遠野家(実家)に帰ってきたのであった。

家につくなり自分の部屋に飛び込む。

 

 

翡翠さんがちゃんとそのままにしておいてくれたらしい。

しかし手入れは万全のためベッドはフカフカだった。このまま一眠り…

 

「駄目ですよ〜環さま。なんのためにお家に帰ってらしたのですか?」

 

…デスヨネ〜。

名残惜しげにベッドから体を起こし、母さんの下へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり環!!我が弟!!

ようやっとオレに変わってこの家を継ぐ決心をしてくれたんだな!!」

 

…突然待ち構えていた兄に出迎えられた。

遠野(とおの) 円華(まどか)。あたしの兄ちゃん。

 

幼くして病床に臥せっていた母さんに変わって遠野家の後継ぎとなることを決心し、回復するまで家を守り抜いたすごい人…なんだけど。

当の本人は『母さんが治ったならもうオレが家の事する必要ないじゃんかー!!もうお仕事ヤダ!!遊ぶのー!!』

…という感じなのだ。あのときのかっこいい兄ちゃんはどこに行ったんですかねぇ。

 

「あたしは一時帰郷しただけだよ〜。

予定が済んだらすぐに帰るし、多分家に戻ってくることもないよ」

 

「そんな事言うなよ!!成績的にも能力的にも真の当主に相応しいのはおま「あなた?」ヒュッ」

 

…兄ちゃんの奥さま…要するにあたしの義姉様に当たる人が後ろから顔を出す。

顔は笑顔だけどめっちゃ怖い。

 

「まだお仕事の最中ですよ?早く戻ってもらわないと困ります」

 

「あ、いや、弟とこれからの話しをだネ…」

 

「そんなもの夕食のときにでもできますわ〜♪

環くんもご用事があるみたいですし、さ、お部屋に戻りましょうね〜」

 

「いィィィィィやァアァァァァァだァァァァァァァ」

 

…涙目で悲鳴を上げながらズルズルと引きずられていく兄上。

思わず手を合わせて俯いたのでした。南無。

 

「…環さま、行きましょうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、帰ってきた。

 

琥珀さんから念のため、と渡された薬と、久しぶりの故郷で過ごした土産話を抱えて。

 

 

「…本当に母さんたち帰っちゃうの?一緒に花見してこーよ」

 

「遠慮するわ。それはあなたが楽しむためのものよ。

親が出張ってくるのもおかしな話でしょう」

 

「そうかなぁ…」

 

「そうよ。ほら、早く行ってあげなさい。

あなたを待ってる人が居るんでしょう?」

 

「―――――――――ん。そうだね。

 

んじゃ…」

 

「環さま!」「環さま」

 

「………なに?琥珀さん、翡翠さん」

 

「いい報告を期待してますね!」

「よい報告をご期待します」

 

「「―――――――――――」」

 

「…はぁ。あなた達ねぇ…」

 

「ふふ。

…母さんも、ありがとう」

 

「え………」

 

「わざわざ街まで来てくれて。心配してくれて、ありがとう。

 

久しぶりに一緒に居られて、嬉しかったからさ」

 

「――――――――――っ」

 

 

 

抱きしめられた。

優しく、だけど、確かに力を込められて。

 

…母親の温もりなんて、久しぶりだなぁ。

 

 

「…また、いつでも、帰ってきていいからね。

待ってるから」

 

「………ん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ。環

 

 

今、幸せ?」

 

「――――――――うん。幸せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街を歩く。

 

春の予感に包まれた、この街。

 

そこから少し外れた、沢山の木々が並ぶ公園。

 

優しく散る花びらたちの中。

 

愛しいあの人が、手を振って―――――――――

 

 

 

 

 

 

約束の花を、見に行こう。

 






罪も愛も顧みず、春はゆく

輝きはただ空に眩しく

私を許さないで いてくれる

壊れたい 生まれたい

あなたの側で笑うよ

せめて側にいる大事な人達に

いつも『私は幸せでいる』と 優しい夢を届けて


あなたの側にいる

あなたを愛してる

あなたとここにいる

あなたの側に…



その日々は夢のように……





ED 『春はゆく』Aimer

エンドカード『手を繋ぎ、二人で扉を開いて桜の木々に歩いていくタマキと千夜』





まだ解決してない問題があるかと思われますが、まあそのへんはおいおいね。
この物語は彼ら彼女らの日常の物語なので。
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