今回は某魔法使いの物語とは特に関係ありません。
「ココアちゃんって、リンネのこと、好きなの?」
「………えっ?」
山にやって来たココアたち一行。
その昼食後の一時の最中、チサトが突如そんな質問を投げかけました。
「…え、えっと。チサトちゃん?
それはその、どういう」
「どうもこうもない。ココアちゃんはリンネのこと、好き?」
「すっ…そ、それは、その、えっと…
そ、それは…だってリンネくんは大事な同級生で弟分で」
「そういうこと聞いてるんじゃ、ない。
私が聞いてるのは、ココアちゃんはリンネのこと、男の子として…」
「わっわー!わーわーわー!!!」
思わず大声で話を遮るココア。
しかしそんなに顔を赤くして慌てながらではかえって肯定しているようなものである。
「おいお前らさっきからどうしたんだ!?」
「ココアも真っ赤じゃないのよ。
はしゃぎすぎて疲れたの?」
「え、えとそういうのじゃ…あっ、き、聞いてよふたりとも!
チサトちゃんが」
「ん、ココアちゃんがリンネにホの字だって話してた」
「チサトちゃん!?」
ココアの話を遮りズバリと一言。
しかしそれを話されたとうの2人はというと。
「「あ〜………」」
「ええ!?何その態度!?」
「いや、だって…なあ?」
「そうですね。なんとなく分かりきってましたよね」
「ええ!?ち、違うよ!だって私そんなの…」
「前にリンネと近づいて写真撮ったら動悸がするって言ってたじゃないか*1」
「甘兎の制服姿を『可愛い』って言われてドキッとしてたりもしたわね♪*2」
「リンネが凛さんや桜さんと仲良くしてる時に嫉妬の視線を向けたりもしてたわよね*3」
「え、えと、あ、あうう……」
顔は真っ赤、口はふにゃふにゃでまともな言葉が出てこず。
両手の人差し指の指先と指先をあわせてもじもじしています。
「あ、あと千夜ちゃん。
前の、クラス替えの話*4のときも。」
「あ、そうだったわね♪
ココアちゃんったらリンネくんの『毎日一緒』ってところに…」
「わ、わーん!!もう!!
みんな嫌い!!」
とうとう恥ずかしさに耐えられなくなったのか、逃げ出してしまいました。
あそこまで狼狽えたココアを見ることはなかなかないからか、みんなちょっと唖然としてます。
「…あれは完全に、
「だな」「うん。」「そうね、ふふっ♪」
「はー、はー、ぜー…もう、みんなしてお姉ちゃんのことからかって…あれ、コテージまで戻ってきちゃった…」
『〜〜…〜!!』
『……!』
「あれ、話し声?誰かいるのかな…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから少し前のこと。
男性陣3名、リンネ、タマキ、セントはコテージでとある話のために集まっていたのでした。
「…」チュー
「……」ズズズズズ
互いにストローで水分補給中…なものの。
落ち着き払った様子のセントに対し、若干リンネには苛立ちが見えます。どうしたのでしょうか。
「…正直に答えろリンネ」
「…何を?」
「お前はココアのことが好きなのか?」
「ブフッ!!ゲホッ!!
ば、ばっ、馬鹿言ってるんじゃないよ、セントクンッ!げぼ、ウェ!」
あからさまにうろたえを見せるリンネ。
しかし容赦なしに追求は続きます。
「とぼけるな。
前々から見ていて怪しいと思っていたが、今回の旅行の始まり…あの手を引いてきたところを見てはっきりした」
「あの感じは意識してる女の子にしか出せないよね〜
前々から『可愛い』とかココアちゃんに言ってたし、無自覚なだけで好意はあったって感じ?」
「おまっ…ばっ、つまり2人はアレですか、僕が、ココアちゃんをその、異性として意識してるとかっ、そう言いたいんですか!!」
「そうだが?」「そうだけど?」
「冗談じゃないよ!!そりゃ、いや、たしかにココアちゃんが可愛いのはそうかもだけど、そんなに周知の事実だろうしっ、
べつに、言葉にしてないってだけでチノちゃんとか他のみんなだって可愛いし!?
無意識に言葉が出てきたとか言っても、それは別にただの正直な感想ですから!?変に意識してるとか、全然そんなのじゃないから!?」
((あからさまに狼狽えだしたな…))
「いや、それにさ。だいたい仮に僕がココアちゃんを好きだと前提にしたとしても向こうが僕をどう思ってるとかは「リンネくん?」来たあああっ!?!?」
ココアちゃんの話をしていたら本人がやって来ちゃいました。
が、態度を見るに今までの話を聞かれていたわけではなさそうです。良かったね!
「さっきから大声で話してるのが聞こえてたから、何かあったのかなって思ったんだけど…大丈夫?」
「………っ、っ………」
「リンネくん?」
明らかに目が泳いでいます。動揺が見て取れるとはこのことでしょうか。
「だ、大丈夫、なんでもないから。
そろそろ服も乾いてる頃じゃない?様子見に行こうか!」
「あ、リンネくん…?」
わざとらしくその場から離れ…ようとして、急停止したかと思えばタマキとセントの元に駆け寄り「無い!絶対にそんなんじゃない!!」と言ってから去っていきました。
「…ねえ2人とも、『そんなのじゃない』ってどういうこと?」
「ん~?なんだろうね〜あたしにゃわかんないかな〜?」
「そうだな。少なくともちゃんと答えを出せるのはリンネだけだろう。結局外野がどう言ったところで決めるのは本人だからな」
「???」
「なんなんだよもう、タマキもセントも…!
…だいたい、ちゃんとした理由もないのに『好き』なんて、そんなのダメだろ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間は経ちいつの間にやら夜。
山の夜空はいつもより星が輝いて見えるな。
「ここだと街の光に邪魔されることもありませんからね。
より一層光が届きやすい環境なわけです」
「それなりに山中だから標高も高めだしね。
昔お母さん達ともこういうところに遊びに来たけど、その時も空がきれいだったなぁ〜」
「こら〜男子組!和んでないで用意しろ!」
「そろそろチノちゃん起きそうだよ~」
…現在、チノは寝袋でぐっすりだ。
普段からああいう遊びはしないタイプだろうから、いつの間にか疲れて木陰で眠ってしまっていた。
それで、眠ったチノにドッキリを仕掛けてやろうということだが…
「本当にやるのか…?」
「まあ確かに、あまり気分の良いものではないことは確かですね」
「ジークもシキも硬いな〜。
こういう場面にはちょっとしたおふざけが必要不可欠だよ!
あ、チノちゃんが…」
「…あれ、ここは」
おっと、本当に目を覚ましたな。
ええと、それでドッキリはどういう…
「チノ!起きたか!」
「今大変なことになってるの!!」
…マヤもメグも迫真の演技だな。アスカもノリノリで「突然ゾンビが現れて…」と語っている。シキはシキで焦る演技をしているようだ。なんだかんだノリノリだな。
「うっ…」
「め、メグさん…!?」
「あれ、ボクもなんか…うぅ…」
「2人とも!?まさかさっきゾンビにやられた傷が…!?」
「くっ、「「喰っちまうぞ〜!!」」
「わぁああああっ!!?」
…寝袋のまま飛び出しっていってしまったぞ。
あの状態では逃げるに逃げられないだろう…
「チノさんすみません、さすがに悪ふざけが…チノさん!?
何故気絶してるんですか!?」
「…ココアの口元のケチャップを血と勘違いしたのか…
とはいえやりすぎたのも事実だな。すまないチノ…」
すっかり目が覚め夜の団らん中。
焚き火でマシュマロを焼きつつ寛いでいる。
「そういえば…どうして皆さんコテージを使ってないんですか?」
「あーそれがね〜。あたしらも昼にちょっと見に行ってたんだけど」
「電気はつかないしこの人数だと部屋もベッドも全然足りなかったのよね…」
「それでシロウさんが持ってきた分もあわせてテントと寝袋が足りてたからもうこっちで良いかなってなったの…」
特に俺たちの分はほとんどシロウが用意してくれていたものだったからな。頭が上がらないとはこのことだろう。
…ふとメグがあくびを一つ。時間をちゃんと見ていなかったが、そろそろ夜も良い時間か。
「そろそろみんな寝ましょうか?」
「待ってよ!寝るの早すぎ!」
「そーだよーこういうときこそ夜ふかししないと!」
「楽しい時間はこれからだぜ、べいびー。」
「マシュマロだってまだこんなに残ってるぞ!!」
思いの外みんなノリノリだな。
シロウも口にこそ出していないが、うんうんと頷いている。
「その通り!こういうときこそ夜を楽しまなくちゃね!」
ココアが持っているのは…コーヒーメーカーか?
忘れがちだが、眠りたくないときにはコーヒーはうってつけか。
淹れてくれたコーヒーを一口飲むと、覚えのある味が…
「これ、うちのコーヒーの味です」
「安心する味だな」
「一番先に寝ちゃった人には罰ゲームだよ〜」
「罰ゲーム!?楽しそう!!」
おお、コレが噂のシャロ…さんのカフェイン酔いか。
本当に凄まじいテンションだな。アスカやチサトの乗り具合に負けていないぞ。
「さあみんな!火を囲んで踊るわよ~!ヘイカモーン!!」
「いえーい!シャロちゃんのりのり!」
「チサトもノリノリ!セントもこっち来なさいよぉ~!!」
「いや、私たちはさすがに…なぁ?」
「あたしら野郎連中は微笑ましく見守ることにしますよ〜っと」
む、そうか。なら俺たちはおとなしく待つことに…あれ、回り始めたぞ。マイムマイムと言っていたがこんなのだったか…?
「いや踊り方知らないだけでしょ?」
「適当に回ってるだけですね」
「なんだかすっごく馬鹿っぽく見えませんか!?」
「それが良いんだよ〜!」
ココアの言う通りだな。こういう時は童心に帰って多少馬鹿っぽく遊ぶほうが………千夜さんの呼吸が荒くなってきてないか?
「千夜ちゃ〜ん大丈夫〜?」
「だ、大丈夫よ…みんなのためにもっ、この手は絶対離さないから…!!」
「すでに死にそうですよ!!」
「む…嫌な予感が…!
衛宮家一同!各々配置につけ!」
えっ。シロウ、突然そんなことを言われても困るんだが…?
「よーし、じゃあ私たちも一斉に手を離すよ!せーのっ!」
え。マヤ、ちょっと待…!
その後はまさに混沌といった様相だった。
シャロさんを受け止めたセントはチサトの追い討ちで木に激突、千夜さんをキャッチしようとしたタマキは受け止めきれず尻に敷かれる状態に。
メグはさすがバレエ経験者なだけあって見事にバランスを保ったまま回転していた。マヤも意外と無事だったな。
…おかげでアスカとシキは虚空に手を伸ばす状態になってしまったが。
「まったく無茶をするな…リゼ、無事か」
「あっああ…助かった…」
まともに受け止められたのは俺、シロウ、そしてリンネか。
俺とシロウはなんだかデジャブを感じるな…
「ん…でも、楽しかった。
シャロちゃんも、楽しかった、でしょ?」
「ふふっ…そうね。こんなに人目を気にせずはしゃげるなんて久しぶり。
最高の休日でした、リゼ先輩!」
「わっ私もです…!」
「リゼちゃんの企画のおかげね♪」
「ありがとー!」
「…よ、よかった…」
嬉し泣きが始まってしまった。まあ初っ端からトラブル発生で焦りはしたが、確かに楽しかったのは事実だからな。
「よくよく考えたらさ〜。私らが高校生組と一緒に遊べるって不思議な感じだよね、家族として暮らしてるジークたちはともかく」
「きっと私たちに色々と合わせてくれてるんだよ〜」
「二刀流マシュマロで最強モードだよ!」
「こっちは2倍刺しだぞ!」
「わっ、私は理想の焼き加減!」
「おっと私としたことが…こんな物を持ってきていたのを忘れていたな」
「シロウ、それは…チョコクッキー?」
「あースモアってやつ?昔琥珀さんに作ってもらったけど美味いよね、アレ」
「ん、それはそれとして、味の濃いものが食べたい。甘いものだけじゃなくて。」
「あらチサトちゃん、それならここに男爵の金脈が…」
「要するにじゃがバターだろそれ。
…おいチサト待て、スキレットでチーズフォンデュを始めようとするな!!」
「本当に年上なのかな~…」
「はしゃぎ過ぎです」
「まあ普段からきっちりしてる分楽しみたいんじゃない?」
「そんなところも慣れるよ〜」
「………なんだかこっちまでお腹が減ってきますね」
各々盛り上がっているな。
とはいえ少し疲れてふう、とため息がこぼれた。空を見上げると相変わらずの綺羅びやかな…あっ!
「今、流れ星が…」
「ホントだ!」
「おっ、お願い事…まっ、またみんなで遊べますように…!」
「「「「「……チノ((ちゃん))(さん)…!」」」」」
「えっあっ…あのっ、願い事言えたら叶うって本で読んだことが…」
「大丈夫だチノ、みんなそういうつもりで笑ってるわけじゃないぞ。俺は…」
「お姉ちゃんを越えられますように!」「甘兎庵世界進出!」「お腹いっぱいメロンパン!」「母さんに孫の顔を早めに見せられますように〜」「今後は少しでも平穏に暮らせますように…主に妹のことで」「これからも、楽しく暮らしたい。」
みんな何かしら願い事があったようだ。
チノは若干引いてるが…
「今回ハプニング仕掛けた犯人にちょっとバチが当たりますように…」
「根に持ってる!」
「ちょっと、と言うあたりにそこはかとない温情を感じるな」
「でもコテージにいたらこの星空は見られなかったよ?」
「…それもそっか。
でもそれはそれとしてちょっとひどい目に遭え!」
まあ、実際リゼさんはかなり焦っただろうからな。
俺も同じことを願っておくとしよう、可哀想な目に合わせた罰だ。
こうして夜は更けていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜。ふと目が覚めてしまった。
もう一度目を閉じて夢の世界へ…と思ったが、すっかり覚醒してしまった意識が夢への船出を許さず錨を上げさせてくれない。
こうなってはどうしようもないので、開き直って起きてやろう。
隣で寝息を立てているジークを起こさないようにこっそりと寝袋から抜け出し、テントから出た。
空にはまだ星が無数に輝き瞬いている。
煌々と焚かれていたキャンプファイヤーはすっかり姿を消し、目先は月星光に淡くか細く照らされているだけだった。
…このまま立ち止まっていてもどうしようもない。
顔でも洗おうと、近くの川まで歩き始めた。
暫し歩いて、目の前にあの清流が見えた。
昼間の太陽に眩しく乱反射していたそれらは、今は緩やかながら確かな光を反射させ美しく輝いていた。
石の河原に踏み入り、ひと一人居ない自分だけのその空間に…いや、誰か居た。
綺羅びやかに輝く川の畔に、腰掛ける少女が一人。
「ココアちゃん」
すっかり呼びなれたその名前を呼ぶと、彼女の肩がぴくり、と震えた。ゆっくりとこちらに振り向き、まるで確かめるかのように僕の名前を呼んだ。
「…リンネくん?」
「こんな時間に何してるの?」
「え、えっと…なんだか眠れなくなっちゃって」
「…そっか」
会話が途切れた。なんだか知らないが、妙に気まずい空気が流れる。川はとめどなく流れているくせに、僕と彼女の間の空気は障害物まみれのように詰まり気味のようだ。
「…あ、あの。リンネくんも眠れないの?」
「…んー、まあね。でもココアちゃんはさすがに危ないよ。
戻ったほうが良いんじゃないの?」
「………それは、そう、なんだけどね…」
「…まあ、どうしてもって言うなら止めないけどさ。
僕はちょっと顔洗いに来ただけだから、すぐに…」
「あっ…っ、ま、待ってリンネくん!」
「…え?」
突然呼び止められた。
思わず彼女の方を振り向くと、まるで何かを決めたような真っ直ぐな瞳で…
「…その。せっかくだから、二人で夜更かししちゃわない?」