ん、主人公とメインヒロインの恋愛は基本
「…その。せっかくだから、二人で夜更かししちゃわない?」
などとココアちゃんに言われてから、おそらく数分。
おそらくというのは何せ携帯電話を持ってきていないから時間の知りようがないからで…
まあ、とにかく体感で数分経っているであろうに、二人の間に言葉らしい言葉はなかった。
二人で夜更かしっていうから、色々話したりこっそり遊んだりとかそういうの…
と、ココアちゃんの様子が気になったのでちらりと隣を見…あれ、こっちも見られてるじゃないですか。
「っ!」
と思ったら目を逸らされました。
なんだって言うんですかもう。あとなんか心なしか顔が赤いような…下唇をちょっと噛みながら俯いているし。
…でも、こうして見るとココアちゃんってちゃんと可愛いんだよな。
ちょっと天然というか無邪気というか、底なしに明るくて元気で…でもこういう素顔はちゃんと美少女と呼ぶにふさわし…って!!
「また僕はそんなこと考えて!!!」バッシャアアアア
「リンネくん!?」
川に顔面を思い切り叩きつけた。
張り詰めた水面をぶち破った衝撃から遅れて数秒、ヒンヤリとした水が頭を冷やしていく。
ああもう僕はどうしたっていうんですか。夏のせいですかそうですか、暑くて頭がおかしくなってるんですか。
「どうしたのリンネくん、大丈夫…?」
「ご、ごめんなさい大丈夫です、大丈夫ですから…」
お願いだからその妙なものを見るかのような目で心配の言葉を投げかけるのは勘弁してください。色々苦しいんです。
もう一度水を手で掬って頭から被り、さながら犬のようにブルブルと頭を振る。
ちょっと緊張が抜けたのか、体育座りで固まっていたココアちゃんは先程よりも足を伸ばし手を膝にやっていた。
僕も手を体の後ろ側にやり、足を伸ばして座った。
「…そういえば、その」
「ん?」
「私たちが初めて会って、もう1年以上経つんだね」
「…そうだね」
あの時はお互い街に来たばかりで、なんならココアちゃんとは学校が一緒どころかお隣同士になることすら知らなくて。
そんな僕らが今こうして友人になって同じ学校に通って、果ては山でお泊りして隣で夜空を眺めて。
偶然にしてもちょっと出来すぎだ、なんて言われそうだな。
三文小説もいいとこかも。それでも…それは、僕たちにとって確かな現実なんだよね。
「私ね、正直あの時会ってからここまで仲良くなるなんて想像してなかったよ」
「…へえ」
ココアちゃんも同じことを考えてたとは。
でも以外だな、大概の人とはすぐに仲良くなれちゃうのに…
「あの時はまさか入った喫茶店が私の住むことになる場所なんて知らなかったし…リンネくんとも同い年ってだけで学校も違うと思ってたもん。
それに最初にあった時から思ってたけど、リンネくんってカッコいいから凄く女の子に人気出そうだなって…」
…そんな事言うんだったら、君だって十分可愛いんですけどね」
「………えっ」
「………えっ」
あれ、まさか。今の、声に出てたんですか。
つまり今、僕がココアちゃんを可愛いと思ってると言うことを本人に聞かれたわけで。
あ、やばい。また顔が熱くなってきた。冷やさなきゃ。
「リンネくんどこ行くの!?もう膝まで浸かってるよ!!?」
あーあー聞こえない聞こえない。なんか頭にとどまらず身体まで熱くなってきちゃったからちょうどいいや。しばらく浸かって頭を冷やし…
「リンネくんストップ!!」
「えっ」
嘘、ココアちゃんここまで来たの…!?
「あの、リンネくん、えっとね…うぅ〜……」
「えっと、あの、ココアさん?
僕が悪かったのでそろそろ戻って…」
「んんん!!今はそういうのじゃなくて…もう!
衛宮
「は、はい?」
「今から!すっっっっごく大事なことを言います!!
変にごまかしたり知らんぷりしないでちゃんと聞いて下さい!!良いですか!!」
「は、はい!」
「ちょ、ちょっと待ってね…すぅー、ふぅー…っ。よし。
…リンネくん!!」
「は、はい…」
あの、これもう3回目…
「好きです!」
「………」
「えっと、だから!私保登ココアは、リンネくんのことが…一人の男の子として好きで、だから…その…えっと…」
どんどん勢いが衰えて小声になっていく。
顔が赤くなってるのもなかなか見なくて可愛い…あーもうなんかそれでいいか。
…でも。
「…ココアちゃん」
「へっ?」
「その、僕を好きだって言ってくれたのは嬉しいよ、その…ありがとう。
でもさ、その…『好き』って…どういうところが『好き』なの?」
「…えっ、えっと」
我ながら面倒くさいとは思う。だけど、ちゃんとした理由もないのに『好き』なんてそんなのダメだと思ってしまってしょうがないのだ。
…何せ、僕自身のココアちゃんへの『好き』は明確な理由なんて無いのだから。
「…そん、なの」
「?」
「そんなの分かんないよ!!」
「えっ」
「理由なんて分かんないよ!!
好きだから好きなの!!」
「………好きだから、好き…?
…ふふっ」
「あー笑った!!真剣に言ったのに!
一世一代の告白を笑ったなー!!」
「ふふっ、いや、ごめん。その。
…そっか、深い理由なんていらないんだ」
…うん。改めてココアちゃんに向き直る。
いつの間にか、頭の熱も顔の熱さも引いていた。
「ココアさん」
「…はい」
「僕も、その…好き、です」
「……!!」
「えっと…だから、その。付き合ってください」
「…えっ、えっと。つ、付き合うっていうのは、その。
こ、恋人とかっ、カップルとか…」
「えっと…そういうつもりで言ったんですけど」
「…………や」
「や?」
「やったーーっ!!」
「わっ!?ちょ、ここ川…!?」
ココアさん、嬉しいのはこっちもそうですけどいきなり抱きつくのはっ!?…ざばーん。
えー、ものの見事にバランスを崩し2人仲良く川に倒れ込んだのでした。
「いっつつ…ココアちゃん、嬉しいのは分かるけど危ないでしょ…」
「えへへ、ごめん…その、リンネくん」
「…はい」
「大好きですっ!!」
「…僕も、大好きです」
我ながら甘ったるいにも程があるほどに愛の告白をぶつけ合って、こうして僕らは結ばれることとなったのでした。
…あ、ていうか僕らびしょ濡れになっちゃったじゃん。どうしよ。
「…あー、リンネくんも私もびしょ濡れだねぇ」
「今更ですか。このまま寝るわけにもいかないでしょ…ほら、早く戻ろう」
「…ねえ、リンネくん」
「ん?」
「ちょっと…二人で抜け出しちゃおっか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ん」
目が覚めた。昨日はキャンプファイヤーを囲んで盛り上がって…それで。ココアさんがなんだかんだ真っ先に寝ちゃったんでしたね。
そして、一番最初に寝た人は罰ゲーム…早速用意しましょう。ココアさんを起こさないように…あれ?
「…い、ない?」
隣りにあったのはからの寝袋だけ。
確かに隣で寝ていたはずのココアさんは姿も形もありません。
頭からさあっ、と全身が冷えていくのを感じる。
まさか、寝ぼけて山の中に…
「みんな!起きてくれ!」
「ジークさん!?」
まさかリンネさんも…!?
「ジークさん、ココアさんが…」
「ああ、朝起きたらテントに書き置きが…」
「…『事情により服が濡れてしまったのでコテージに避難します』?…どういうことなんでしょう」
「理由はわからないが…リンネたちはコテージで寝ているということだろう。
とにかく行ってみよう」
「…開いた」
「コテージの鍵、勝手に借りてきちゃいましたけど大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だ、シロウもリゼさんもちゃんと話せばわかってくれるはずだ。
…それよりも今はリンネとココアを…」
…あ、ココアさんの服が吊るしてあります。
隣には男物の服が…これはリンネさんのでしょうか?
「チノ、この扉が開いてるぞ。
ベッドにリンネの姿も見えた」
「!」
ということはココアさんも他の部屋に…
「いや、それが…一応ひと通り見てみたが、この部屋以外使われた形跡が残ってない。
他のベッドも整えられたままだった」
「………え」
それは。まさか。つまり。ということは。
「………」ドタドタドタ
「チノ!?」
リンネさんが眠っているベッドに駆け寄る。
不自然に浮かんでいるベッドの掛け布団をつかみ…力いっぱい奪い取った。
…探し人は、そこに…
「んん…ん〜。リンネくん、もぅ…
そんなのは、まだ、だめだよぉ…えへへ♡」
「……………」
「……まずい」
「…んぅ?はれ、チノちゃんおは」
「ふたりとも何やってるんですかーーーーっ!!!」
おそらく、今まで生きてきた中で一番の大声が出ました。
・ ・ ・ ・ ・
「さて、二人とも?」
「一体何がどうしてそうなっていたのか、説明してもらおうか?」
………どうしてこうなった。