突然の新作劇場版発表に興奮した山崎五郎です。
原作でもovaでも残りの話はほぼありませんが、今作ではオリジナルも入れてちょっと長くなってます。
楽曲選択については完全に作者の趣味です。
また原作ではチノ達の学年全体の発表かのような発言がありましたが、展開の都合上そちらにも改変が入っています。
あらかじめご了承くださいませ。
音楽会当日。俺達よりも前のクラスの発表が終わり、いよいよ次は俺達の番だ。
アスカたちがカーテンの向こうの客席をコッソリと覗いている。
皆も緊張しているようで、各々励まし合ったり話し合ったりして緊張を誤魔化そうとしているのが見える。
「そーゆージークはあんま緊張してない感じ?」
「む…そんなことはないが。
やはり人前に立つと雰囲気が違うだろうからな…」
今までの練習通りにはいかずとも、せめてやってきたことが無駄にならないよう精一杯やるだけだ。
「まあ、それだけ心構えがしっかりしているなら大丈夫でしょう。 …そろそろ私たちも呼ばれそうですね」
シキの言葉の直後、アナウンスがかかった。
…いよいよ俺達の出番らしい。
ステージに出た。
…あんなことを言っておいてなんだが、やはりこれだけの人を前にすると緊張が勝る。
俺もチノのように緊張を吸収してもらったほうが良かったか。
「チノちゃ〜ん!」
「ジーク!」
――――!
声の聞こえた方には、見覚えのある皆…リンネたちが座っていた。シロウの姿もある。
店を休んでまで来てくれたのか……。
「皆さん来てくれたんですね」
「こりゃ頑張らないとね、ジーク!」
「…ああ」
「一曲目は、『木もれび青春譜』です」
…指揮者として先生が前に立った。
前奏のピアノが鳴る。
“青葉揺らす風が 胸をくすぐる”
“まだ知らない未来の 予感が 吹き抜けてく”
チノのソロパートから始まった歌が、全体に続く。
『澄み渡る空(見上げるたび)
光るメロディ(降り注ぐ)
希望 乗せて きみのもとへと』
『陽ざし浴びて(キラキラ揺れて)
流るる運河(反射してる)
ほら 笑顔が(笑顔が)
集まる場所で』
『木もれびの旋律 こころあずけて』
『慈しみ 育む この絆』
…一曲目が終わった。
来てくれた皆の方を見れば、ココアとティッピーが涙を流していた。
実際、俺も結構ぐっときている。
…次は、俺の出番だ。
「続きまして、二曲目。
曲は、『世界がひとつになるまで』です」
先生が一礼し、こちらを向く。
…二曲目が始まった。
“まぶしい陽ざしが 君の名前を呼ぶ”
“おんなじ気持ちで 空が見えるよ”
“つらいとき ひとりきりで 涙をこらえないで”
『世界がひとつになるまで ずっと手をつないでいよう
あたたかいほほえみで もうすぐ 夢がほんとうになるから』
・ ・ ・ ・ ・ ・
こちらは客席、ジークたちの合唱が続いている中。
シロウは目元を押さえうつむいている。
そこに隣に座っていた男性…チノの父であるタカヒロが、ハンカチを差し出した。
「…申し訳ない、情けないところを…」
「情けなくなどないさ。
子どもの成長を喜ぶのは、家族として当然のことだろう?
…だがせめて、その様子はちゃんと見届けてあげたほうがいい。
ほら」
「…失礼」
目元を拭い、ジークたちのほう再び見る。
気づけば曲は終盤だ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
『世界がひとつになるまで ずっと手をつないでいよう
あたたかいほほえみで もうすぐ 夢がほんとうになるから』
『世界がひとつになるまで ずっと手をつないでいよう
思い出のまぶしさに 負けない とても素敵な夢がある』
『世界がひとつになるまで ずっと手をつないでいよう
ときめきは宝物 いつでも 愛が明日を守るから』
…曲が終わると同時。
割れんばかりの拍手の音が会場を包む。
会場の方を見れば、リンネやシロウも同じように拍手をしてくれていた。
ピアノの音とともに、クラスの皆とともに一礼し退場。
…音楽会はこうして幕を閉じたのだった。
「ジーク〜っ!!」
「ぐふっ」
教室に戻る途中、突然アスカが飛びついてきた。
それによって
「凄いじゃん!
ソロパートちょーカッコよかったよ!」
「そ、そうだろうか…」
「そうだって!
あんだけ人いたのにハッキリ歌えてたじゃん!」
「もしかして特訓とかしてた!?」
すまないが正直な話、頭がほとんど真っ白で自分ではよくわからない。皆からも称賛の言葉がかかるが、生返事しか返せない。
「そ、そうだ。
チノのソロパートだって凄かったじゃないか」
「えっ、わ、私ですか…!?」
「うんうん!
曲のはじめのとこなんて一番緊張するとこでしょ!」
「堂々と歌えてて凄いって先生も言ってたよ!」
「あ、ありがとうございます…」
それによってクラスはさらに大騒ぎ。
それを聞きつけた隣のクラスの面々…白夜たちまでもが称賛の言葉を言うために駆けつけ、しばらく大変だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
帰り道。
アスカとシキ、そしてマヤとメグの二人と共にそれぞれ労をねぎらいながら帰路につく。
チノは何やら急いで帰りたい理由があったらしく、残念ながら不在だ。
「あ、そう言えばジーク。
ちょっと聞きたいことあったんだよね」
「む?」
マヤが突然そんな事を言ってきた。
「ジークってなんでソロパート引き受けたの?
ずっと気になっててさ〜」
「あ、それ私も気になる〜」
「…ああ、そういうことか」
先日のアスカとまったく同じことだが…何度聞かれても面白い答えなんて返せないぞ?
「チノがソロパートを引き受けると言ったから…かな。
それで、俺も頑張りたいと思ったんだ」
「…ふーん?
対抗意識ってやつ?」
「ん…言われてみればそうかのかもな」
俺自身は不確定としても、俺たちはそれぞれの店の跡継ぎみたいなものだからな。
俺があの時ソロパートを引き受けると言ったのは、チノへの対抗意識だったのかもしれない。
まあ、チノの方はそんな事思ってもいないのだろう。
対抗意識と言うならそれこそシロウあたりに意識が向くはずだ。
「でもそれにしたって勇気あるよね。
私だったら絶対断ってたし」
「えー?マヤちゃんならなんだかんだやってくれそうじゃない?
いつだって自信満々な感じだし」
「あなたがそれを言いますか…。
まあ確かに、今回のジークとチノさんの姿が格好良かったのは本当のことですが」
「うんうん!二人ともすごかったよ〜」
…チノは。
一体どうして、ソロパートを引き受けると言ったのだろう。
俺には知る由もないが、それは相当勇気のいる決心だったはずだ。俺のような対抗意識でもないのなら、それは…。
(…ん?)
……不思議だ。ここ数日ずっと、特訓のために共に過ごしていたからなのか。
それはまるで、何かに取り憑かれてしまったように。
いつの間にか
俺の心の中心にチノがいる。
―――この気持ちは、いったい何なのだろう。
その後、チノの歌に感動したココアたちが。
またしてもラビットハウスを特装状態にしていたというのが、今回の話のオチだ。
その気持ちに気づくのはだいぶ先の話です。(ネタバレ)
あと、これが今年最後の投稿になります。
また来年からもぼちぼちとやっていきますので、よろしくお願い致します。