喫茶『衛宮さんち』   作:山崎五郎

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第七羽です。


わ・れ・も・の注意…を忘れたときほど割っちゃいます

ご機嫌麗しゅう皆様、私の名前はセントルシア・クラウディオ・アニムスフィア。

つい先日(と言ってもそこそこ経ったが)この街に越してきた者だ。

 

そんな私は現在…妹のチサトに連れられ様々な食器を販売している店までやって来ている。

…いや、正確に言えば、連れてこられたのは私だけでなく。

 

 

「シャロちゃん、この食器とかどうかな…」

 

「いや、だからなんで私に聞くのよ…アンタの買い物なんだからアンタが決めなさい」

 

 

…私達のクラスメイトの一人、シャロも一緒だ。

事の発端は入学当初。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式当日。

 

特待生として入学生代表のスピーチをしていたのがシャロだった。

そして、同時にチサトがヘタなナンパをしていたのも、そのシャロさんだったのだ。

 

正直私も驚いた。

 

で、まあ案の定というべきかチサトは入学生が終わるや否やシャロの元へ突撃。

またヘタなナンパを始めたので黙らせた。

 

それからというものチサトがあれやこれやとシャロをナンパする→私が黙らせて謝る

を繰り返していた結果。

 

半ば腐れ縁のような、友人のような。

そんな関係になっていた。

 

…いつの間にかお互い、敬語で話すのもやめていた。

 

 

 

話を戻そう。

 

本日の昼、チサトが『シャロちゃん、今日学校が終わったら一緒に買い物してほしい…』と頼んだ。

 

『買い物?…うーん、何を買うの…?』

 

シャロの顔があからさまに険しくなった。

まあ、こんなのが買うようなものなど怪しむのも無理はないな。

 

『そんなに怪しいものじゃない。

…買いに行くのは、食器』

 

『…食器?』

 

『うん。私達の家が喫茶店なのは、シャロちゃんにも話した、でしょ?』

 

『あ〜…そう言えば』

 

『それで、コイツが先日皿を一枚バリン、とね。

それで買い物に付き合ってほしいんだろう』

 

『…でも、何で私?

買い物ならそれこそお兄様(セント)に付き添ってもらえば』

 

『んん、それじゃ駄目。

シャロちゃんのお眼鏡にかなう物がいい』

 

『なんでよ…』

 

『シャロちゃん、食器には並々ならぬこだわりを感じる。

お昼のティータイム、カップへの、情熱的な視線を見逃す私ではない。ぶい』

 

『んにゃーっ!?』

 

…シャロは陶器フェチらしい。

特にカップ系。

 

本当に我が妹はどうしてそういうことにはよく気づくのか。

もう少し普段の行動とそれによる周囲の機微にも気づいてほしいもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喫茶店で使うとなると…やっぱり真っ白なのが良いのかしら?」

 

「柄ありのも一応使ってる。

でも、そっち系は店主の並々ならぬこだわり、あり。

 

買うのは無地の方が良さそう」

 

「そう…なら、これとか?

喫茶店の軽食系ならこのぐらいのサイズが収まりが良いわよ」

 

「ん…前のやつはもう少し大きかったぞ。

…ちょうどコレか」

 

「…!コレ、ベストサイズ!流石お兄ちゃん!」

 

と、ウッキウキで目を輝かせレジに走っていくチサト。

これで転びでもしたら笑い話にもならな「あっ。」………はい?

 

宙を舞う白く平たい円盤。

まずい、それが床と触れ合う前にキャッチ…しなくてはと思うより先に、シャロがその皿をキャッチしていた。

 

これが陶器好きの本気か…!!

 

「おぉ…」パチパチパチパチ…

 

「ったく、油断も隙もありゃしないんだから…アンタもしっかりしてよね」

 

「いや、今のシャロが速すぎるだけじゃないのか…?」

 

「……………私への助け、ナシ?」

 

 

 

 

 

 

 

食器を無事購入した後、『お礼になにか一つプレゼントしたい…』というチサトの提案から、もう暫し買い物を続行することとなった。

 

「カップにも千差万別だな。

 

こっちはコーヒー…これは紅茶に良さそうだ」

 

「へえ…あなた達の店ってコーヒーだけじゃなくて紅茶も置いてるの?」

 

「まあ、現店主が紅茶を淹れるのが得意で、第一号店主がコーヒーの方が好みだった名残だな。

…シャロ的にオススメの物とかあるのか?」

 

「ん…そうね、柄ありでもいいなら…あ。」

 

と、何やら少し高めの位置のカップに目をつけ、それに手を伸ばし…

 

 

 

 

「「これなんていいかも…」」

 

 

 

「あ」

 

ちょうど他の女生徒と同じものに手を伸ばした。

…あの制服は、リンネとタマキの高校の…

 

少し離れた位置から「こんなシチュエーション漫画で見たことあります」「よく恋愛に発展するよな」と話し声が聴こえてきた。

 

…で、シャロと同じカップに手を伸ばしてた女生徒は、何やらモジモジしている。

 

 

 

 

「あ、リゼ先輩だ。やっぴ〜」

 

「えっと、チサト…だよな?それにセントにシャロじゃないか」

 

「うぇ!!り、リゼ先輩!?どどどどどうしてここに…っていうかチサト!?アンタリゼ先輩と知り合いなの!?」

 

「………まあ、お前とだいたい同じ理由で知り合ったんだよ…その説はどうも失礼しました…」

 

「あ、あはは…まさか始業式早々新入生にナンパされるとは思わなかった。

しかも二度三度…そうして会ううちに名前も覚えたんだ」

 

「………ち、さ、と?」

 

ギギギギギギ…と音が聞こえてきそうな首の動かし方。

錆びたブリキの人形かな?

 

「アンタ、私にはともかく、よりによってリゼ先輩にまでちょっかいを…」

 

「何事も挑戦は大事。

駄目で元々、人生はギャンブル」

 

 

 

 

「…そちらの方々、リゼさんの知り合いですか?」

 

「私の学校の後輩だよ。

ココア達と同い年」

 

「そっか、私達と………あれ?

 

そういえばリゼちゃんって年上だったんだ」

 

…気づいてなかったのか。あの人。

 

「それで、先輩と…そちらの方々は?」

 

「二人は私のバイト仲間だ。

あとそこに住んでる」

 

「ココアだよ!」「チノです」

 

「初めまして。私はセントルシア・クラウ………いや、長いのでセントで。

あっちでストレッチプラム食らってるのが双子の妹でチサト。

 

で、技かけてる方がシャロ」

 

「よろしく〜」

 

技をかけられながらも器用に挨拶しこちらに手まで振る不肖の妹。

その根気をナンパ以外にも存分に活かしてくれればなぁ。

 

「この店にいるということは…先輩たちも食器を買いに?」

 

「食器っていうよりカップだな。

店で使うやつ買いに来たんだよ

 

3人はなにか欲しいものあった?」

 

「そういうものには疎くて…」

 

「割った皿を買った」

 

「私は見てるだけで十分なので…

この白くすべらかなフォルム…はぁ〜〜〜」

 

本当に陶器フェチだったのか…

カップ一つでアレだけとは…

 

「それは変わった趣味ですなー」

 

「えっお前が言う…?」

 

 

 

 

 

 

「セントさんチサトさんと知り合った経緯はは分かりましたが…シャロさんとリゼさんはどうやって知り合ったんですか?」

 

ん。そう言えばそうだな。

 

シャロはチサトと違ってグイグイ他人に構おうとしないし、積極的に他人と話そうともしない。

二人が知り合いそうな共通の話題も…

 

「私が暴漢に襲われそうになった所を助けてもらったの…」

 

…暴漢?

平和が服を着て二足歩行しているようなこの街に?

 

マジで?

そしてそれを撃退できるリゼ先輩…そんな武闘派?

 

「先輩、こう見えてかなりパワーはある。

ちょっと腕を触らせてもらったとき、かなり「あっあーあーあーあーあー!!」………やっぱりなんでも無い」

 

良い判断だ妹よ。

私はなにも聞いてないぞ。

 

ついでにお前の後ろに立って恨めしそうな顔をしているシャロとかも一切見えてない。

 

「ちがうちがう本当はな――――――」

 

「あっ言っちゃダメです!!」

 

 

 

 

 

…その話の真実はこうだ。

 

暴漢→不良っぽい感じの野良うさぎ

 

襲われそうになった→道を塞がれてた(うさぎが怖くてどうしようもなかった)

 

リゼ先輩に助けてもらったの→うさぎをどけてくれた

 

とのこと。

 

…にしてもシャロ、野良うさぎが魅力の一つであるこの街で、よりにもよってうさぎが苦手って…

 

「「「「…………」」」」じ~

 

「うっうさぎが怖くて、わっ悪い!?」

 

 

 

 

 

 

 

話はカップ選びへ。

 

ついでなのでうちの店でも使えそうなものがないか引き続き探すことにした。

 

シャロはシャロでリゼ先輩達のバイト先(ラビットハウス)のカップ選びを、持ち前の知識を活かして手伝っている。

…と思ったら、何やらショックを受けている。

 

シャロが解説していたのは紅茶用のカップで、ラビットハウスでは使えないとのことらしい。

 

「コーヒー用の物なら向こうに置いてありますよ」

 

「そうじゃなくてぇ…リゼ先輩のバイト先行ってみたかったのに…」

 

「…?普通に行けばいいじゃないか」

 

「もしかしてコーヒー苦手?砂糖とミルクいっぱい入れれば美味しいよ」

 

「にっ苦いのが嫌いなわけじゃないわよ!

 

…カフェインを摂りすぎると異常なテンションになるらしいの

自分じゃよくわからないんだけど」

 

「コーヒー酔い!?」

 

特異体質か何かか?

…と思ったら、一応カフェイン酔い自体はあるらしい。

 

日本人はカフェインに強いらしいが…シャロもハーフか何かだろうか。

 

「お兄ちゃん。このカップかなりビッグサイズ。

うちで使えるかもしれない」

 

「なにに使うってんだそんなもん。

チャレンジメニューでもはじめる気か?」

 

「あ。そういえばこの前このぐらいのやつにうさぎが入ってる写真を見たよ。可愛かったな〜」

 

へえ、そんなのあるのか。

鍋に収まるネコ…に近いのか?

 

「ティッピーも入ったらきっと可愛くて注目度アップだよ!お店の宣伝にもなるかも!」

 

「でもティッピーが入るほど大きなカップは流石に…」

 

「ありました」「あった」

 

((あるのか…))

 

…で、肝心のカップに収まったティッピー(チノちゃんの頭の上に乗っていたうさぎ)だが。

本人のフッワフワの毛と佇まいから、『茶碗に盛られたご飯にしか見えない』という感想を頂いたのでした。

 

「あ!あのカップ何だかオシャレだよ!

…と思ったら凄く高い!!」

 

「5万円…」

 

「アンティーク物はそのくらいするわよ」

 

「うん。あれだけの代物、職人の気概がひしひしと伝わってくる」

 

「………これ、昔的にして撃ち抜いたやつじゃん」

 

「「「「!?」」」」

 

「ん…リゼ先輩、軍人の娘さんだったっけ」

 

 

 

 

「チノちゃんせっかくだからお揃いのマグカップ買おうよ!」

 

「私達は私物を見に来たんじゃないんですよ…」

 

…あ。そう言えば私達はシャロにプレゼントするんだった。

完全に忘れてた…

 

「あ、あの!このカップなんて色違いでかわいくないですか!?

ちょうど2つセットのやつですし先輩良かったら片方…」

 

…それ、カップル用のやつなんですがそれは。

と思ったらチサトも「リゼ先輩私ともおソロの買おう」とグイグイ。

懲りない奴め。

 

「………シャロ。この店で今一番欲しいと思ったカップはあるか?」

 

「え?ええっと…強いて言うならアレ、とか…」

 

「そうか。すいません、あれ買います。

箱詰めをお願いできますか」

 

「えっ!?ちょ、良いわよそんな高いの!!」

 

「遠慮するな。

どうせこんなのお互い安物みたいなものだろ?

 

チサトに一日付き合わせたお礼だよ。

これで貸し借りはなしだ」

 

「「「「…………」」」」

 

…しまった。

言葉が少し強くなっていたか?それとも余計なことを…

 

「ん。お兄ちゃん、ツンデレ」

 

「は?」

 

「シャロちゃんに似合いそうだからプレゼントしたいのに、わざわざもっともらしい理由までつけて」

 

「あーのーなー。そもそもお前が原因でこの店に来たの分かってるのかー!!」

 

「んみゅ、いひゃいいひゃい」

 

 

「あれもツンデレってやつなのかな?」

 

「多分違うと思うわよ…」

 

 

 

「にしても、3人とも高いカップにも詳しいし御曹司とかお嬢様って言葉が似合うね〜」

 

「その制服の学校には才人才女にお金持ちの御曹司やお嬢様が多いと聞きます」

 

「おまけに3人とも美男美女なんて非の打ち所がないね!!」

 

「それリゼ先輩に言いなさいよ…」

 

まあ、確かにあの人はあまりお嬢様らしさを感じないがな。

親しみやすいと言えば聞こえは良いんだろうが…

 

「さっきセントも言ってたけど…シャロ達からすればこんなカップも小物同然だろうな」

 

さっきそれ以上のものを的にして撃ち抜いてたって言ってた人がそれを言うのか。

職人が知ったら憤死案件だぞ。

 

「どれもこれも末代まで家宝にしますけど!?」

 

「お嬢様らしいポーズ!」

 

 

 

 

 

「何だか3人ともカップを持つ仕草に気品を感じるよね」

 

「髪もカールしていて風格があります」

 

シャロのあれは手入れしていると言うより地毛のように見えるんだが…

チサトが急に自分の髪を手でファサッ…とはためかせた。

なにしてんの?

 

「どう?お嬢様っぽい?」

 

「お嬢様っぽかった!」

 

自分も言われたかっただけか。

 

「あの…やっぱり高級な食材とか食べるんですか?キャビアとか」

 

「う、うーん…私はそういうの詳しくなくて…リゼ先輩とかセント達に聞いたほうが良いと思うわ」

 

「私もリゼ先輩の食事事情は気になるな」

 

「私か?

んー…よく食べるものって言うと…ジャンクフード?あとレーションのサンプルとか?

 

即席で食べられるものって良いよな」

 

「分かります!卵かけご飯とか美味しいですよね!」

 

「ん。私も卵かけご飯を初めて食べた時の感動…忘れられない」

 

…庶民風?グルメトークが始まってしまった。

あとココアさんが後ろで『卵ってきっとキャビアのことだよ』とか言ってるが、それ多分マズイぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました〜!」

 

買い物を終え、店を出た我々一同。

帰り道が違うのでそのままシャロとは別れることとなった。

 

「…セント。これ、ありがとう」

 

「気にするなって言ってるのに。

そんなの買おうと思えばいつでも買えるだろ?」

 

「ん。お兄ちゃん、そうじゃない。

シャロちゃんは友達としてお礼を言ってるだけ。

 

友達からのプレゼントは嬉しいものだから」

 

「………気持ちの押しつけになってないことを祈るよ」

 

「アンタね…こっちは真っ当に喜んでるし感謝もしてるんですけど?

そっちがそんな態度じゃスッキリしないわよ」

 

「もう染み付いた性分みたいなもんだよ。今更どうしようもない

ま、精々親しみを込めて使ってくれよ。じゃ」

 

「シャロちゃん、また明日」

 

「………ん。また明日」

 

 

 

そうして、シャロと別れ、途中でリゼ先輩とも別れ帰宅した。

…ココアさん達と家が隣同士だと判明し、またしてもひと悶着あったのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は、新しいカップが2つも手に入った。

一つは、憧れの先輩とお揃いのマグカップ。

 

もう一つは、友達からのプレゼント(本人は『貸し借り無しのため』と言ってたけど)。

 

…あの学校に入る時には、友達なんてできっこないと思ってたのに。

いつの間にかあの二人は私の日々の中に割り込んでて、そして今日は…

 

「………ふふ」

 

「あら、シャロちゃんお帰りなさい。

何だか嬉しそうね?」

 

「ん…千夜。あのね…」

 




帰ったあとセントくんは『また金持ちアピールしちゃった』と悶々としたとのこと。
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